挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
スタイリッシュ武器屋 作者:弘松 涼
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

7/145

7 ひのきの棒の強度

 マキシムの馬車にひのきの棒を詰め込んだ伊藤氏は、こちらに向かって一礼した。

「ヴァルナ様。大変お待たせしました。それでは参りましょうか」

 伊藤氏は店をクローズさせると、スーツ姿のまま、腰にひのきの棒をぶら下げて歩きだした。
 私と珍念は彼の後を続いた。

「街を出たら、まっすぐ南下し、アルビレオの丘を目指します。
 道中、スライム、ワイルドウルフやゴブリン、オークといった、超絶雑魚モンスターがでてきますが、ひのきの棒が勿体ないので無視してください」

「雑魚って……。
 スライムはわりと弱ぇが、オークはかなり手ごわいぞ」

 珍念は、「え、ボク、スライムにすら勝てないよ」


「大丈夫です。
 珍念様は戦いのコツを知らないだけです。
 とにかくワイバーン以外の雑魚モンスターはすべて全力で走って逃げてください。超絶雑魚モンスターとの格闘といえども、最低1ターンかかります。一回でも攻撃すればその分、武器が傷みます。そのようなこと、時間と労力の無駄ですから。
 ひのきの棒は全部で41本あります。
 うまく戦えれば、ワイバーン10体くらいは殲滅できると思います」


 いつものポーカーフェイスで、とんでもないことを言っている。


 でも、言われるままゴブリンやオークから逃げまくっていた。
 その間、改めて珍念は戦闘経験ゼロだと知ることとなった。
 すぐに息があがり、ひぃひぃはぁはぁ言いながら、全身汗でびしょびしょ。

 
 どこともなく笑い声が聞こえてきた。


 シーフのカイルに、勇者カノンだ。
 あいつらパーティを組んで、冒険を始めていたのか。
 カイルは、性格は悪いが鼻筋が通っており、わりとイケメン。
 カノンはツンとした態度が様になるお嬢様系。胸は大きいが性格はこれまた最悪。

 カイルは皮のベストに、銀の短刀。
 銀の短刀はかなりの高額商品だ。
 たしか1200ゴールドだったか。

 カノンは皮の鎧に、シルバーレイピア。
 1500ゴールドの、これまた高額商品。
 カイルに買ってもらったのだろうか。

 二人はこちらを見て大笑いしている。

「あははは! だせぇ! ヴァルナの奴、珍念のような乞食坊主とパーティを組んで、雑魚モンスターから逃げ回ってやんの。それになんだよ。ひのきの棒なんて装備してら。超貧乏!」

「クスクス。
 よかったですわ。
 私、あのような低俗な者とパーティを組まなくて」

「それよかなぁ、ヴァルナ。ここは俺らの狩場だ。お前らのようなクズパーティがいたら集中できん。どこかよそへ行ってくれ」


 ムッときた私は、
「あぁ、こんなところにいるつもりはない。
 それに逃げているんじゃない。雑魚を無視しているだけだ。
 私たちはワイバーンを倒すためにアルビレオの丘を目指しているんだからな!」


 カイルとカノンは顔を見合わせて、プゥと噴き出した。

「こ……こいつらバカだ。
 行き詰って自殺志願してやんの」

「ヴァルナさん。ごめんなさい。
 私、あなたのお葬式に行ってあげられないわ。せめて死後は天国に行けるようにお祈りしてあげたいんだけど、そんなところで死なれたら死体を回収できそうもないし」

「カノン、大丈夫だよ。
 だからヴァルナは珍念を連れているんだよ」

「あ、そっか。
 死んだらすぐにその場でお葬式あげられるもんね。
 素敵な発想ね。お葬式も安くつくし、てか、セルフ葬式できちゃぅ。ヴァルナさん、あったまいい~」


 こいつら。
 超ムカつく。

 いつもクールな伊藤氏だったが、どういう訳か、カイル達の方に近づいて行った。


「な、なんだよ!?」

「悪いことは言いません。
 早く帰られた方がいいです。
 あと3時間後、あなた方は全滅することになります」

「あ、てめぇ。
 知ってるぞ。
 ひのきの棒しか売っていない、クズい武器屋だ。
 見ろよ。
 俺たちは、高価な武器を持っているんだ」

 二人はにやにや笑いながら、銀の短刀と、シルバーレイピアを見せつけてくる。

「カイルはね、
 すごく買い物上手なんだよ。
 武器屋のおじさまに交渉して、300ゴールドも値切ったのよ!」


「なるほど。
 だからそれほどまでに粗悪品を……」


「てめぇ! 貧乏武器屋のくせになんだよ、その態度。
 気にいらねぇ!」


 この二人の衝突を、私はドキドキしながら見守っていた。
 カイルはレベル8もある。
 私から見れば、かなりの達人だ。
 だが伊藤氏はきっと強い。
 だから伊藤氏の実力が見れるものだとわくわくしていた。
 それと同時に、ひのきの棒にも注目していた。
 きっとあの武器には何かがある。
 ただのひのきの棒でワイバーンやレッドドラゴンに勝てるわけがない。さらにはクラーケンやオクトパスキングといった海の凶悪な魔物に太刀打ちなんてできるはずがない。

 だからあれはきっと魔剣の類だ。

 戦闘時には、姿を変え、光の刃が現れるんだろ?
 この時の私は、そのような幻想を描いていた。


 またたく間に、カイルは伊藤氏の懐に潜り込んだ。
 物凄いスピードだ。
 私の目ではとらえきれない。

 カイルは突風を背に、鋭い一撃を繰り出す。


 それを伊藤氏は難なく迎撃するんだろ?


 てか。
 お、おい。
 伊藤氏。
 どうしたってんだよ!?
 まったく反応できていない。
 あまりの気迫に半歩のけぞる。

 次の瞬間。
 バキンという音がした。
 ひのきの棒が真っ二つに折れたのだ。

 伊藤氏は身動きひとつとらない。
 静止したままだ。

「ククク。あははは。
 どうだ。見たか。
 これが実力の違いってやつだ。
 おっと。お前の大切な武器を折っちまってすまない。
 ほら、金だ。恵んでやるよ、貧乏武器屋。
 拾え」


 嫌味たらしい笑みを浮かべたまま、カイルはくさむらに5ゴールドを落とした。


 そして伊藤氏はその5ゴールドを拾った。

 見たくなかった。あんたのそんな姿は。
 あんたはクールにかっこいい、私は勝手にそんな妄想を描いていた。
 それが木端微塵に打ち砕かれたのだ。


 伊藤氏は折れた棒っきれをカイルに手渡そうとする。

「なんだよ!
 なんのつもりなんだよ!
 こんな小汚ねぇ棒キレいらねぇよ!」

 カイルはひのきの棒を受け取ると、投げ捨てた。

「カイル様、でしたね。
 余計な事とは思いましたが、あなたはヴァルナ様とお知り合いのようです。もしあなたが死ねば、ヴァルナ様は少なからず心を痛まれると思い、忠告しております。
 あなたはシーフ。
 人を見る目がないことにとやかく言うつもりはありません。
 ですが、せめてもう少し冷静に物事を観察する目を養うべきだと思います」

 そう言うと、拾った5ゴールドをカイルに向けた。

「お、おい。どうしたってんだ? これは恵んでやった金だ」

「せっかくのお心遣いですが、私は心無いお金は受け取らない主義です。あなたはシーフ。お金を貯めることが得意なご職業。だったらお金に愛されるようにふるまうべきだと思います。確かにお金は便利な道具です。
 ですが自己顕示欲の道具ではございません」


「いらねぇよ。やるよ。5ゴールドもあれば、お前らの仲間のクズの貧乏小僧が喜ぶぞ」

「珍念様のことをおっしゃっているのですか?
 彼はいずれ大僧侶になると思っておりますが?」

「だははは!
 くそ笑える。
 こいつら、ゴミ同士が褒め称えて傷をなめあっているぜ」

「あなたの心に満足という感情が生まれたのでしたら、それはなによりです。
 お金はお返しします」

「気持ち悪い奴だな。
 貧乏のくせに見栄を張ってもしかたねぇぞ。そうやってくだらないプライドがお前の死期を早めるだけだ。分かったよ。貰ってやるわ」

「では、わたくし達は先を急ぎますので、これで失礼します」


 伊藤氏は丁寧に頭をさげ、こちらに戻ってきた。

 私は声を荒げた。

「お、おい。
 伊藤氏。
 どうしたってんだよ!
 あんな奴、あんたなら軽く捻れるんだろ?」


「どうしてわたくしが、カイル様を捻らなくてはならないのですか?」

「え? だってそりゃぁ……」と頬を膨らませる私だったが、続けざまに「つーか、このひのきの棒って魔剣のように化けたりするんだろ?」と質問をした。


「いいえ。
 木から作っているだけですので、そのような細工はございません」


「だぁああああ! マジか。
 とにかく伊藤氏よ。なんで、カイルに負けたんだ!」

「負けたも何も、わたくしが忠告したのにカイル様はご納得して頂けないので、もう少し突っ込んで具体的にお教えしようと行動しただけです」


「は?」


「カイル様は武器を値切って買われた。
 おそらく武器屋のマスターは、それ相応の粗悪品を売ったのでしょう。
 刃こぼれこそしていませんが、剣身はかなり疲れています。
 ですから試してみました。
 本日は晴天。
 風もあまりない。
 ですが先ほど強い風が吹き、一瞬ですがカノン様の長髪が持ち上げられました。
 その突風が追い風になるように、半歩さがり、ひのきの棒を垂直にかかげてみました。
 カイル様の足の速さは、112.5 km/h。
 動物でいうなれば、チーターくらいですね。
 それに加え、風速11m/sの気象表記ではやや強い風という言い回しをされる追い風を帯びています。
 武器は本日購入された銀の短刀。
 なのに、ひのきの棒は、バキンと鳴った。
 この状況でしたら、豆腐を切るようにスパンといくべきでしょう。
 これは刃が弱っている証拠です。
 ですから切断された表面を見せてさしあげたんですが、どうやら気付いてはくださらなかったようです」

 あっけらかんとしていた私だったが、

「あはは。
 なんだ。
 そうだったのか」


 妙なうれしさがこみ上げてきたが、もうひとつの疑問を問うた。


「なんでわざわざ金を拾って返そうとしたんだ? 私だったらあんなむかつく金なんて拾わないけどな」


「私はヴァルナ様ではありません」


「なんだよ!
 私以外の奴だって拾わないわ! なぁ珍念」

「ボク、貰っちゃうかも」

「お、おい!」


 伊藤氏はいつものポーカーフェイスで続けた。

「わたくしは武器職人。道具を生み出し、その道具で誰かのお役に立つことが生業です。ですから道具を粗末にすることは許せません。
 わたくしが拾わなければ、あのお金はくさむらで寂しい最期を迎えることになるでしょう」

「で、でも。
 だったら何も返さなくても」


「わたくしは心無いお金は受け取りません」


「……あの……。私だって値切ろうとしたけど……」

「それはなけなしの大切な10ゴールド。
 つまりヴァルナ様の最後の命のともしびとも言える大切なお金。
 可能な限り交渉するのは当然の心得です。そしてその最後の大切なお金で、わたくしのひのきのぼうを購入することを選択されました。
 この上ない光栄なことです。
 次は珍念様の努力が生み出した心のこもったお金だから受け取りました。
 他の店に行くという選択肢もあったはずなのに、私を信用してくださったので、戦術指南もしようと思いました。
 お金とは、感謝の気持ちをゴールドに変えて相手に贈るもの。
 それができないなんて、カイル様はなんとも寂しいお人です」


 ひのきの棒しか扱わない謎の武器商人、伊藤氏。
 いつの間にか私は、彼が魅力的な人間に思えてきた。


 だけど。
 要するに――
 私が購入したひのきの棒は、ただのひのきの棒だったのか。

 銀の短刀に力負けするこんな棒っきれなんかで、ワイバーンに勝てるのか!?
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ