挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
スタイリッシュ武器屋 作者:弘松 涼
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

68/145

68 間話 『ひだまりの武器屋で』

 いつもの事だが、伊藤の店は暇だ。
 されど伊藤は気にすることなく、店内の掃除をしていた。

 ショーケースをピカピカに磨き終えた伊藤は、ショーケースから少し距離を置き、親指と人差し指でLの字を作り、左右を組み合わせて四角いレンズに見立て、その中から覗き込んだ。
 もちろん指で作った長方形は、美しいまでの完璧なる黄金比だ。

 ショーケースには一遍の曇りすらないことを確認した伊藤は、窓際のテーブルに座り、先ほど届いた夕刊に視線を落とした。

 伊藤の口元が少しほころぶ。


「伊藤さん!」

 元気よく戸をあけて、あの子達がやってきた。
 ノエルとカトリーヌだ。
 ノエルの持つバスケットにはたくさんの果物が入っている。
 魔法ショップで働いている二人だが、店が早く終わる日にはこうしてやってくる。

「伊藤さん! 伊藤さん! 熱心に何を読んでいるんですか?」と言うノエルに、カトリーヌは「伊藤さんは新聞なんて一瞬で読めちゃうのよ。だから読んでいるんじゃないわ。眺めているのよ。きっと嬉しい記事があったに違いないわ」

 カトリーヌの洞察力はなかなかである。
 伊藤は少し笑った。

 当たったことを大喜びしているカトリーヌに、友人に先を越されてちょっぴり頬をふくらましてムクれるノエル。

 だけどノエルは気を取りなおして、伊藤の手の中にある新聞をのぞきこんだ。

 見出しにはこのように書かれてある。

『謎の二大ヒーロー軍団現る!? 彼らは、人知れずアイゼンハードに巣食う悪を斬る!』

 腕利きのパパラッチが、そのヒーローとやらの影を写真に収めていたのである。
 わずか後姿だけ。
 だけどノエルには一目瞭然だった。

「あ、シュバルツァーさんだ!」

 白い長髪をなびかせて魔法を詠唱している勇姿を、彼女が見間違える訳がない。その後ろには弟子らしき少年の姿もある。

 もうひとつのヒーローは?

 ノエルの視線の先には、二人の少年が映っていた。

 伊藤は新聞から視線を上げると、
「彼はニード。世の中に必要とされる存在です。もうお一人は、次世代の勇者となられたお方です」


 ストーカーとニート。
 社会の裏側を生きるタクティクスを持つ二人は、それぞれの道で悪と戦っている。
 そしてエリックは、かつて自分を馬鹿にしたフロイダと熱い友情を結び、そのバックには強力な協力者――魔王までいるのだ。

 もはや彼らに敵など存在しないだろう。
 それが例え無法改造しまくったチート大王とて問題などない。



 だが伊藤は気になっていた。


 それはカノンのことだ。

 あのカイルだって改心したというのに、あれだけの感動を手にしたはずのカノンは好き勝手やってきた。
 だが、感動というものは感じる方の感性によるものだ。
 それでとやかく言うのは、気持ちの押し売りでしかない。俺が感動した本だから読め、お前もきっと感動するだろうと押し切られても、感じ方は人それぞれである。

 まぁそのしっぺ返しといえばそうなのだが、カノンは自分の肉体に戻り、レベルは3まで落ちている。もちろん勇者という職業でもない。あれは世を欺くための経歴詐称。
 これから彼女には、哀れな末路が待っていると、大抵の者は思うだろう。

 彼女がああなった生い立ちを伊藤は知っていた。
 別に調べるつもりなどなかったが、日にたくさんの相談を受けているのだ。いろいろな情報が目まぐるしく伊藤の目や耳に入ってくる。だから、たまたま知り得ただけだった。それはあまりにも悲劇なる物語であった。


 伊藤は悲しそうにうつむいた。
 白く曇るシャープなメガネは、まるで今の心境を投影しているかのようだった。


 だが――
 どんなに辛い過去があろうとも、悪事をして良い法なんて存在しない。
 その結果、悪徳武器商人のゴンザのような最期を遂げるのが世の常。


 だがカノンはゴンザのように強いわけではない。


 今の彼女は、何もない。
 全身には囚人たちを守ってできた傷跡がある。
 更に目まで見えない。

 なのに社会的弱者や罪人を従えて義勇軍を立ち上げ、闇の凶悪集団チートに戦いを挑んでしまっている。すべて魔王の行動で起きた結果なのだが、あまりにも過酷な未来が彼女の肩に重圧としてのしかかっている。

 逃げようにも、彼女を慕って集まった義勇軍の目がある。
 盲目の彼女に果たして逃げ延びることができるだろうか。

 カノンはどうするのだろうか。
 また今までのように傍若無人を振るうのだろうか。

 
 それとも――

 
 カノンはただの悪ではない。
 信念のある悪だ。
 利用できるものはすべて利用して、のし上がろうとする。
 そのために道化を演じることはもちろん、バカを装うことすらいとわない。
 もし私利私欲の為だけに悪をやっていると、いざというときに芯がぶれる。
 それが見当たらない。
 まるで悪と正義が戦えば、必ず悪が勝つと信じて疑わなかったゴンザのようである。
 いや、あのゴンザをも超える凶悪な一面だって持っている。
 大抵の悪は、心が弱い。
 だから、状況が悪くなったらすぐに逃げる。
 だが正真正銘の悪は、己のタクティクスをかけてその道を貫こうとする。
 あのゴンザが最後まで勝利を諦めず、愛娘を手にかけ、仲間だったラドンの肉体をも奪って完全体へと進化したように。

 
 そして、その結果――

 
「どうしたの? 伊藤さん」

「あ、いえ。ノエル様、カトリーヌ様、ひとつご質問をさせてください」

「あ、はい」

「人は変われると思いますか?」

 一瞬きょとんと首を傾げたノエルは、にっこり笑って、
「伊藤さんらしくない質問ですね。伊藤さんのおかげであたしもカトリーヌも変われたんだよ」

 カトリーヌも強く頷いた。

 父――ゴンザを失ったカトリーヌ。
 けれど伊藤やノエル、その仲間を恨みはしなかった。

 今度は母を変えてみせると言って、今、懸命にもがいているところだ。


 伊藤はショーケースを見つめた。
 その中には美しく磨かれたひのきの棒が眠っている。

 それは多くの冒険者に夢と勇気と希望を与えてきた、己の最高傑作である。



 ――カノン様。あなたがこれからどのように生きられるのか、これ以上わたくしの詮索することではございません。
 ただ……
 人は変われる。
 己の強い心次第で……


 to be continued...
 次回予告。

 次のストーリを熱く沸かしてくれるのは、悲劇なる悪女カノンです。
 完全無欠となったニートタクティクスのエリックは、コロアを救出すべく全力でぶつかってきます。更に白銀の追跡者こと、ストーカータクティクスのシュヴァルツァーも悪を根絶やしにするために容赦しません。

 このアイゼンハードを守る二大ヒーロー。

 対するカノンは盲目で全身傷だらけ。そしてレベルは3。
 更には闇の権力者チート大王にも命を狙われている。
 まさに絶体絶命の四面楚歌。


 だが、カノンはきっとこう言うだろう。


 私は決して正義になどには屈しない。
 知っている?
 勝てない悪は、悪って呼ばないの。
 人は何故、悪いことをするのか?
 それは勝つためよ。
 負ける悪なんて、ただの間抜け。
 私はカノン。誇り高き悪女。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ