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スタイリッシュ武器屋 作者:弘松 涼
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66 天才とまで呼ばれたニートの過去

 俺の攻撃力は1000億を超えた。
 このまま回転の手を緩めず、魔王のHPを削り続ければ勝てる。

 木片の霧に包まれている魔王は、無我夢中でデタラメに剣を振っているだけ。

「あー、何よ! どこにいるのよ!」

 このような単調な素振り、命中する訳ない。

 竜巻と化した俺は、縦横無尽に移動を繰り返し、魔王のHPをはぎ取る。


 遂に魔王が片膝を落とす。


 ――いける!

 勝機を確信した、その時だった。
 魔王は妙な行動に出た。
 ひとみを閉じやがったのだ。

 まさか音で俺の位置を確認するつもりか?

 だがそのような芸当、戦闘経験の浅い魔王にできる訳がない。
 心眼とは、たくさんの経験を積んだベテランの闘士にのみ許される奥義である。
 一朝一夕にできるわけがない。

「精々、音を聞き取るんが精いっぱいだ。折角俺の場所を把握しても、次のターンには別の場所にいるぞ」


 なのに魔王は口角に笑みを浮かべているだけだ。


 次の瞬間。

 魔王の真意がわかった。
 魔王の目的――
 それは標的を切り替えることだった。

 
 魔王の手のひらが俺とは全く逆の――三時の方角をさした。
 その先には、フロイダとリディス王女がいる。


「ま、待て!」

「ニート君。残念だったわね。彼らを殺させてもらうわ。そうすればあなたに精神的ダメージを与え、再び戦闘能力が激減する」


「やめろ!」


「うるさい! 死ね! 外野のゴミ共!」


 魔王の手のひらから、強烈な紫の光線が放たれた。



 ど、どうしたらいい!?

 とにかくあの魔法弾をとめなくては。

 俺は手に持っていた、まったく読めやしないが東洋の難しい文字で『他力本願』と記された宝石を、光弾目掛けて投げつけた。
 少しでも威力が弱まるかと思い。


 宝石は、光弾に激突すると、ジュゥと音を立てて蒸発した。


 どういう訳か、魔王は苦しんでいる。
 だが放たれた光弾は更に肥大化し、二人に襲い掛かる。


『エリック。力を解放する時がきたね』


 え?

 ニートの腕輪は何を……


『エリック。
 もう後悔なんてしたくないんだろ。
 だったら今こそ、力を解放するんだ!
 エリックは夢を取り戻した。
 残りは希望だけ』


 希望……


『簡単さ。
 あの二人はエリックを信じて戦っているんだろ。
 あの二人にとってエリックはまさしく希望なんだよ。
 希望を取り戻すには――あの二人の想いに応えようとすればいいだけ』


 あの二人……


 どうしようもなかったフロイダ。
 だけど奴はこの戦いで、真の勇者に目覚めつつある。
 そしてリディス王女。
 彼女はわき役なんかではない。
 フロイダの心を取り戻した、真のヒロインだ!


 そうさ。
 俺が絶対に救ってみせる。



 その時だった。
 ニートの腕輪は粉々に砕け散った。


 え?
 コロア!?


『行け! エリック。今のお前を止められる奴は誰もいない。
 今までありがとう……』



 コ、コロア!!!


 とにかく全力で走った。
 ひとつ地を蹴っただけで魔王の放った高速魔弾の真横までやってきた。
 俺は力の限りの掌底を繰り出した。
 それだけで魔王が渾身の力で放った紫の弾が消し飛んだ。





 俺はすべて思い出した。
 とめどなく涙が流れおちている。





 かつて俺はニートだった。
 父は勇敢なエルフ族を救うために尽力し、そして無実の罪で殺されたことを知っていた。
 だから俺は、父の汚名を晴らすため、厳しい修行をしていた。


 それがニート道。


 ニートとは恐ろしい修練方法である。
 それはまさに、目を閉じて剣を奮う剣士の修練方法を連想させる。
 敢えて視界を奪うことで、聴力をはじめとする五感だけでなく、第六感をも研ぎ澄ませ、些細な音や敵の鼓動で360度すべての状況を的確に把握する、まさに心眼を手にするかのごとく。

 生活の基本である働くという行為を封じることで、ニートならではの心眼を手に入れようとしていた。


 母は働けと泣き、カミル姉は俺に人生を諭そうとする。
 辛かったが、俺には父の仇を取るという目的がある。
 そのために、俺は死に物狂いでニートの修行を積んでいた。


 そんな時だった。
 コロアと名乗る小柄な少女が、俺を訪ねてきた。
 俺はニート。
 ニートは滅多なことでは訪問者と会わない。
 もちろんニート故、常日頃から籠城の訓練をしているのもあるが。
 俺に会うことは、平の飛び込み営業マンが上場企業の社長に面会を挑む以上に難しい。
 されどコロアは、簡単に俺に会うことが出来たのだ。
 ニートのもっとも苦手な時間。
 7時25分。
 この日も俺は反射的に押入れに隠れた。
 これがのちにつながる、奥義風林火山になろうとは、もちろんこの時の俺に知る由もなかったが。とにかくニートタクティクスの極意は逃げること。よって俺は逃げることで戦闘能力を高めていた。


 そんな俺の押入れの中に、コロアは忍び込んでいたのだ。


「やぁ」

「お、お前は誰だ!?」

「おいらはコロア」


 俺はすぐにわかった。
 彼女はニート。
 ニートゆえ、ニートの逃げ場を容易に察知できる。

 彼女はニカリと笑うと、何やらパンフレットを見せてきた。

「実は天才ニートのエリックをスカウトしにきたんだ」

 スカウト?
 俺はニートタクティクスを極める為に、ニートとしての修行を積んでいる。
 仕事なんてできないぞ。


「天下一ニート選手権に出場するんだ! 天才ニートのエリックならぶっちぎりで優勝できるよ!」

「なんだ、それ! 断る」

「これを聞いても断れる? 実はこの大会は建前。こうやって強力なニート属性を持った者達をおびき寄せることが魂胆」


 俺はビクンと聞き耳を立てた。


 コロアは言ったのだ。
 ニート属性のあるもの……と。


 すなわち自らニートを志す者ってことか?
 ニートを志す理由はひとつだ。
 働かずして勝てる最強の兵法である、ニートタクティクスを手にすることだ。それは強力な何かと戦うため。


「この大会の主催者は、ニートの力を恐れる闇の集団チート。自らを魔改造して戦闘力を増幅させるインチキ集団。だけどそれゆえかなり手ごわい。
 彼らはニートの撲滅を考えている」


 これが最強と呼ばれるニートタッグが生まれた瞬間だった。


 天下一ニート選手権――
 表向きはどうしようもないニートを更生させる大会だと認識されているが、その正体は違う。あまり知られてはいないが、ニートとは最強の兵法術を使える予備軍。闇の集団チートは、ニートの潜在能力を恐れていた。
 だからニートを無人島に集め、島ごと爆破する計画を立てた。
 それが天下一ニート選手権の実態だった。

 俺とコロアは次々にチートの罠を打ち砕いて行った。


 働かずして、だ。


 だが俺は、まだ戦闘経験が乏しかった。
 奇抜なニートタクティクスで切り抜けられたのは、序盤だけだった。
 だんだんと未熟さが露呈していき、俺達は生け捕りにされた。

 
 チート大王は言った。


「エリックとコロア。
 死にたくないだろ?」


 情けないことに、その言葉に首を縦にガクガク振ってしまった。
 俺にはまだやらなければならないことがある。
 それは父の仇討。

 だけど、あの時の俺にとって、そのことはただの大義名分だけだったのかもしれない。
 正直、このまま死んでしまうことが怖かった。


「ククク、喜べ。
 反逆者のお前たちだが、お前たちのどちらかを優勝者にしてやる。
 まぁ、他のニート共はすべて全滅したから手頃な候補がいないのもあるがな。さすがに優勝者を出さなければ、次回エントリーしてくるバカニートがいなくなる。
 ただし条件がある。
 どちらかが腕輪となり、もう片方を監視せよ。もし背徳行為を犯せば、腕輪は粉々に粉砕されるからな。
 さらに優勝者には記憶の一部を消させてもらう。
 ニートはおとなしくしていれば無害だ。
 そんな無害なクソニートに成り下がるのなら、生かしてやってもいい」


「え、腕輪になんてなりたくないよ」


「エリック。心配しないで。おいらが腕輪になるから。この戦いに誘ったのはおいらだし……」


 そ、そんな。
 ダメだよ。コロア。
 だけどあまりの恐怖で声すらでなかった。


 俺は卑怯者だ。
 自分が助かりたい為だけに、コロアを見捨ててしまった。


 コロア。


『エリック。泣かないで。
 エリックとずっと一緒にいたかったから、黙っていたんだ。
 今まで言えなくてゴメン……
 楽しかったよ……』



 コ、コロアアアアアアアアーー!!


 何故か魔王は、こちらを静観しているだけだった。
 ……てめぇのせいだ。
 てめぇのせいで、コロアが!

 俺はニートを超えたニート。
 全身に金色のオーラをまとっている。
 感じる。
 働くことを封印してきた俺が、その力を解放したのだ。
 例えるなら視界を隠していた心眼使いの剣豪が、ひとみを開けたのと同様。
 今の俺に弱点などない。

 
 行くぞ、魔王。


 だが魔王の様子は妙だった。
 今起きてまだ寝ぼけている者のように、辺りをきょろきょろしているだけ。


「予は……。どうしたのだ……。
 なぜこのような場所にいる……。
 それに目まで見える……。
 予は夢でも見ていたのか……。
 これから全軍を率いて、この世界を不幸と絶望へと変える地獄の改造軍団チートへ進撃をしようとしていたのだが……」
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