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スタイリッシュ武器屋 作者:弘松 涼
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52 ニートタクティクスは不死鳥のごとく1

 俺が自宅に帰ったのは正午前だった。
 いつもは熟睡している時間帯である。
 ニートは太陽に弱い。空から降り注ぐ強烈な光で、溶かされてしまいそうだ。

 ところが今日は妙な気分だ。
 通常なら眠気はピークに達しているのだろうが、目はギンギンに冴えている。
 きっとレベルが75まで上がり、素敵な彼女までできたからだ。
 このまま眠ってしまうのが怖い。
 全部夢だったらどうしよう。

 何度もそんな気持ちが俺の中に生まれる。
 その度に頬をつねってみた。しっかりと痛みを感じる。


「おい、エリック」

「なんだよ、ニートの腕輪」

「お前、分かっているのか?
 お前の職業は、ニートなんだぞ。
 働いたら負けな種族なんだぞ。
 いいのかよ、このまま進むとお前は終わっちまうぞ」

「ざけんな。
 俺にはニートタクティクス、孫子の兵法編がある。
 俺は働かずして勝てる!」


「バカか!
 そんな都合のいい話があるもんか!
 お前は伊藤に騙されている。
 それにカノンだっけ?
 もし彼女とこれ以上関係が進んだらどうするつもりなんだ?」

「え? え?
 そりゃぁ……お付き合いをして、その後、いい関係になって……もちろん、けけけけ結婚とか……」


「その後、子作りとかもするつもりなのか?」


 ……え!?
 そりゃ、まぁ……
 そういうことも往々にあるかもしれません。


「やめとけ!
 お前はニートなんだぞ。
 嫁だけでも大変だと言うのに、どうやって子どもを養うつもりなんだ?
 あの子は牢獄在住の国賊なんだぞ。
 そんなのを嫁にしたら、生活保護なんてもらえんぞ!
 それに、おいらだってお前を面倒みきれなくなる。
 忘れたのか?
 ニートは働いたら負けなんだぞ。
 負け犬の人生を送るつもりなのか?
 お前は天下一ニート選手権ぶっちぎりの優勝者だ。ニートの中のニート、キングオブニート。ニートの頂点に立つ者だ。
 そんなお前はニート規定にのっとり、ニートの見本となれる存在にならなくてはダメだ。全国のニートがお前を憧れている。
 お前は毎日、おいらからお小遣いが貰え、カジノで遊べるんだ。
 それを放棄するつもりなのか!?
 伊藤に騙されるな。
 お前は必要な存在なんかじゃないよ。
 ニードになったら大変だ。
 弱者の為に頑張らなくてはならないんだよ?
 つまりちょっと前までのお前のような底辺の為に頑張るんだよ?
 無駄だろ?
 そんな奴、助けてやっても恩すら感じてくれないぞ」


「黙れ!
 いつもいつもお前はどうして俺が頑張ろうとすることの邪魔ばかりするんだよ!」


「怒らないで。
 おいらはエリックが好きなんだ。
 誰よりも一番、エリックの事を分かっている。
 伊藤は詐欺師だ。
 お前の事を何も知らず、やる気を出さして戦場へと駆り立てている。
 その後、お前が苦労しようが、涙を流そうが、最後には無残に死のうが、もはや関係ない。お前がタダの客だからだ。お前を育てて一本でも多く、ひのきの棒を売りつけることしか考えていない。伊藤はそれしか考えていない」

 
「黙れ!
 伊藤さんはなぁ! 俺なんかの為に!」

 
「そうさ。
 エリックのような弱者は育て甲斐があるからね。
 そしてすぐに盲信する。
 今のエリックのように。
 そしてカノン。
 あの子は危ないよ」

 
「どうして!?」

 
「やっぱりエリックは伊藤に騙されておかしくなっているよ。
 よく聞いていなかったの?
 カノンは戦争しようとしているよ」

 
「え? ど、どうして?
 確かにカノンさんは弱い人達のために立ち上がるって言っていたけど」

 
「それが戦争だよ。
 弱者をまとめて強者と戦う?
 バカだろ、あの子?
 団長はレベル3でかつ盲目で、相手は国家だろ?
 死ぬよ。100%」

 

 ……

 
「悪い事は言わない。
 もうやめようよ。
 逃げればいいんだ。
 誰もエリックを責めない。
 それがニートの特権なんだよ。
 ニートは勇者じゃないんだ。
 勇者がみんなの期待に背いた時は大変だろう。
 もはや勇者として生きていけない。
 だけどニートはみんなを裏切ってもニートとして生きていけるんだ。
 誰も期待していないから。
 やっぱりエリックはニートなんだ、ダメ人間なんだ、と思われるだけで済むんだよ。
 ニートがいいよ。
 もう頑張るのはやめようよ。
 エリックのことをちゃんと考えているのは、おいらだけだよ」

 
 俺は持っていた水筒をニートの腕輪にぶっかけた。

 
「冷たいじゃないか!
 何するんだよ」

 
「黙れよ……
 頼むから、黙ってくれよ……」

 
「……おいらはエリックがどんなに変わろうとも、絶対に見捨てないから。
 ……ひとつだけいいかい?」

 
 ……

 
「このまま帰宅しない方がいいよ」

 
「どうして?」

 
「エリックの家に、招かざる客が来ているよ。かなりの人数だ」

 
 それはどういうことだ!?

 
「例の借金の取り立て屋。
 長屋の連中をリアルタイムで苛めている。
 行っちゃだめだ」

 
 奴等は返済を一年間待ってくれると言ってくれた。

 なのに、どうして?

 

「駄目だよ。
 エリック。
 お前はニートなんだよ!
 負け犬なんだよ!
 誰からも必要とされていない。
 それでいいじゃないか!
 行くな!」

 

「ざけんな!
 俺は夢と希望を取り戻して、ニードになるんだ!」

 
 まただ。
 ニートの腕輪が、俺の腹部に刺激を与えてきた。
 それでも俺は、腹に手を抑えながら懸命に走った。

 
 長屋の前には黒服の男達が総勢12名もいる。
 長屋にいたみんなが捕まっている。
 みんなの手には鎖がつけられており、馬車の荷台に押し込まれていた。
 まるで囚人のような扱いだ。

 母さんにも手枷がしてあり、そして馬車へと連行されている。

 
「か、母さん! これは一体どういうことなんだ!?」

 
「エ、エリック!?
 は、早く逃げなさい!」

 
 サングラスをした一人が俺をみて笑った。

 
「エリックか。
 探していたぜ。
 お前、二千万ゴールドの借金があるだろ?
 全部、チャラにしてやるぞ。
 だからくるんだ」

 
「てめぇ、俺達をどこかに売るつもりなのか?
 一年待つと約束したじゃないか。
 どうして破るんだ!?」

 
「どうしてって?
 どうせ返済なんて無理だろ?
 だからおいしい仕事を与えてやろうとしているんだ。
 どうやらこの国の地下にいる犯罪者共が水面下で徒党を組んで、国家とぶつかろうとしているんだ。笑ってしまうことに、その棟梁がたったのレベル3。だけどどうも人望があるようで、かなりの人数が動いているとの話だ。
 だからその情報をキャッチしたアチコチの将軍様達が、鎮圧の準備を始めているって訳でさ。だから今、超人手不足ってわけ。
 相手は地下に潜むネズミ。
 お前達だって、役に立つかもしれん。全身に爆弾を隠し持って、奴等のアジトに潜入することくらいできるだろ?」


「つまり、みんなに死ねと言っているのか?」


「いんや。
 命を買うと言っている。
 お前と母親に二千万ゴールドなんて高値なんてついていないが、まぁ、何も回収できないよりマシだしな」


「そもそもうちの借金が二千万ゴールドって本当なのか?」


「お、どうした?
 この前はあんなに泣いていたのに、今日はなんとも強気じゃねぇか?」


「答えろ!?
 母さんがお前達から借りた金は一体いくらだったんだ?」


「あ? いくらだっけ? 確か1000ゴールドくらいだったか?」
「違うよ、兄貴。100ゴールドでっせ」


 黒服達は顔を見合わせて笑っている。


「たったの100ゴールド……
 キサマら、それだけの借金で母さんをこれ程までに苦しめてきたのか!?」


「何を言っているんだ?
 借金には金利ってものが乗るんだぜ。
 それには俺達の時給や飲み代や遊び代、その他、えーとお前らのような弱者を苛める代金だって含まれているんだ。
 そうやってバカを騙して、バカからエキスを吸い取り俺たちは生きてきた。
 それの何が悪い。当然だろうが、バカか! お前達は俺達強者の餌なんだよ。分かったか、このクソニート」


「……よく分かったよ。
 確かに俺は底辺のニートだ。
 だから弱い者の気持ちが良く分かる。
 お前達は聞こえないのか?
 お前達に騙されてきた者たちの悲痛の叫びが」


「あん?
 そういや、バカはいつも泣いて叫んでるわな。
 助けて、何でもしますって言いながら。
 俺達にとってそれは快感なんだよ。
 だから言ってやるのさ。
 何でもするって言ったな。
 じゃぁ惨めに死ねや、と。
 ククク、アハハハ!」


「俺はお前達を葬るのに、一切の罪悪感を覚える事はないだろう。
 俺の中に眠るニートタクティクスは、孫子の兵法より形成されている。
 それは13篇からなる兵法書だ。
 序章には如何なる戦いであろうとも避けるように書かれてある。
 戦えば傷つき、悲しみしか生まれない。
 まさにニートと同じだ。
 孫子は戦を、ニートは働くことを回避してきた。
 そして第二章にはこう書かれてある。
 ――兵は勝つことを貴び、久しきを貴ばず。
 例え勝ったとしても、国の財政、国力の低下をともなうのが戦だ。
 戦えば傷つき、働けば腹が減る。
 そうさ、戦争も仕事も空しいものだ。
 だが、第三章――
 戦いを決意した以上、勝たなければならない。
 お前達が殺し合いを望むのなら、俺は躊躇なく、お前達の脳天にひのきの棒を叩き落す。
 断言してやる。
 お前達の力では、俺に勝つことなどできない。
 この戦いの勝敗は、すでに決まっている。
 逃げるなら、今だ」



「な、なんだ!
 このクソニート。
 トチ狂いやがって!
 野郎共。ぶっ殺してやれ!」


 リーダー格の男の合図で、黒服達が俺を取り囲んできた。


「どうせ殺すんだ。
 いいことを教えてやるよ。
 俺達は魂を悪魔に売って、人間を超越した。
 そうすることにより圧倒的存在になったんだ。
 どうだ、嬉しいだろ?
 お前、感動して泣くぞ。
 あまりにも感動して、狂ったように泣くぞ」



 肩と胸の筋肉が膨張したと同時に、黒いスーツがビリビリに破け、背中から闇の翼が現れた。片手にはカマを持っている。

 レベル30のモンスター、アークデーモン。

 こいつらは人間をやめちまったのか。
 それが総勢、12匹。
 黒い図体が、ズラリと俺を覆う。


 馬車の中から見ていた長屋のみんなは、「エリック! もういい! 逃げてぇぇ!」と叫んでいる。母さんも隣のあばら家に住んでいたカミル姉も俺を心配して必死に叫んでいる。


 アークデーモンは、ギザギザの歯を見せて醜悪な笑みを浮かべている。

「小僧、どんな気持ちだ? 圧倒的に勝ち目がなくなって、もはや笑うしかないだろ?」

「あぁ、そうだな。
 笑うしかないな。
 俺は嬉しい。
 お前達を葬るのに躊躇う理由がまたひとつ消えて」


「恐怖で頭がおかしくなったのか?」


「俺から言わせれば、イカれているのはお前らの方だが……
 ひとつ聞いてみる。
 お前達は龍族最強のシューティングスターをひのきの棒で倒せるのか?」


「バ、バカ言え!
 何を言い出すんだ。こいつ、妄想癖でもあるのか?
 あんな化け物に戦いを挑む時点で、イカれているとしか思えんわ!」


「じゃぁ、言ってやるよ。
 俺に戦いを挑む時点で、お前達は完全にイカれている、と」


 まただ。
 またあの現象が起きた。
 ニートの腕輪に亀裂が入っていく。

「やめて、エリック。
 痛いよ」
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