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スタイリッシュ武器屋 作者:弘松 涼
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5 ひのきの棒

 伊藤氏からひのきの棒を一本だけ購入してやった。

 こんなガラクタいらないんだけど、珍念に隠れた才能があることを教えてくれた礼として。

 でもまぁ……

 私は改めて珍念をみた。
 原色が何色だったか分からないくしゃくしゃの袈裟衣に、足は裸足。頭にはずいぶんとくたびれた菅笠(すげがさ)が乗っているみすぼらしい僧侶。
 私だけでなくギルドのみんなも小馬鹿にしていたのにすごいよな。

 ナムナム唱えれば、ゴールドがもらえるんだもん。

 この武器屋がなければ珍念に話しかけなかっただろうし、この先もなかった。だからこの5ゴールドは、ささやかな礼のつもりだった。

 まぁ伊藤氏にしてみれば、この後大量のひのきの棒を売りつけたいだけなのだろうが、その手には乗るか。

 195ゴールド集まっても、おそらく伊藤氏の武器屋には行かないだろう。
 もうちょっとマシな武器屋に行って、私は鉄の剣、珍念には鉄の錫杖買うつもりだ。


 その時の私は、そのくらいにしか思っていなかった。


 珍念とパーティ申請をして、ひのきの棒を手渡した。


 珍念は托鉢を始めた。
 お茶碗を片手に、ナムナム唱えながら軒並み回っていく。


「珍念。ごめんな。私はお経なんて分からんから、後ろを付いていくことしかできん」

「何をおっしゃっているんですか、ヴァルナさん。あなたは生まれて初めてパーティを組んでくださった大切な仲間です。それもボクよりもはるかにレベルが高いのに、こんな弱小なボクなんかと。
 ボク、むちゃくちゃ感謝しています。
 だから休んでいてください。戦闘ではきっとご迷惑をおかけしますし」


 珍念はいい奴だった。
 腹黒い自分が恥ずかしい。
 でもまぁ、やることがなかったので、しばらくの間、托鉢の様子を観察していた。

「ナムナム~」と一軒ずつ回っていく珍念。

 20ゴールドちゃりーん。

 次は失敗。

 18ゴールド。

 20ゴールド。

 失敗。


 伊藤氏の言った通りだ。
 平均19ゴールド。
 成功率1/2

 伊藤氏の異常なまでの洞察力と計算能力に少しばかり驚いていた。


 そして丁度一時間後。
 珍念のお茶碗にはコインの山ができていた。
 小銭ばかりだが、数えると丁度195ゴールドある。


「なぁ、珍念。やっぱ、これでひのきの棒を買うか?」

「そのつもりだったのでは?」

「……いや。鉄の剣を買おうと思っていた……。
 なんつーか。きっと騙されると思うんだけど、ひのきの棒を39本買ったら、何かがあるような気がして……。
 いや、分かっているさ。絶対に詐欺に決まっている。
 お前の努力をみすみすドブに捨てるようなことだけはしたくないんだが……」

「そもさん」

「?? なんだ?」

「ボクが問題を出すので、答えてください」


 お、おぅ。
 こいつのスキル、とんちとかいうやつね。


「汝に問う。
 詐欺とは騙す方にメリットがないとしません。
 もし伊藤さんが詐欺師だとして、ボク達を騙していいことがありますか?」


「え、
 そりゃぁ、だってよ、大量にひのきの棒が売れるだろ?」

「はい。
 ですが、ボクなんかが一時間くらいで手にしたお金を、あの方が欲しがるでしょうか? お店を開いて、それなりの固定費も払っているのですよ」

「言われてみたらそうかもしれんな。騙すとしても、もうちょっと引っ張るか」

「はい。
 仮に伊藤さんが詐欺師だとしても、まだもう少し引っ張らなくては採算が取れないような気がします」

 珍念の野郎。
 以外にも頭いいな。

「それに……」

「それに何だ?」

「ヴァルナさんとパーティを組めるようにしてくれた伊藤さんを悪く思いたくないんです。何か考えがあると思います」

「そっか。まぁ珍念がそこまで言うのなら、もう一回行ってみるか。まぁ、珍念の稼いだ金だしな」



 195ゴールド手にした珍念と私は、結局あの奇妙な武器屋へ行くことにした。



 *



「お待ちしておりました。一時間も回られてお疲れになったでしょう。紅茶とケーキをご用意しております」

 まぁ大量にひのきの棒を仕入れてやるんだ。
 これくらいのサービス当然だな。

 私は遠慮なく丸テーブルに腰を掛けて、イチゴケーキをいただくことにした。

 食い終わって、話を切りだした。

「まぁ買ってやるよ。買えるだけ全部。
 で、ひのきの棒で戦える強敵ってどいつのことだ?」


「はい。
 レッドドラゴン……と言いたいところですが、珍念様にはまだ戦闘経験がございません。今日のところは無理でしょう」


「は? 明日だって無理に決まっているだろ! んな化け物、レベル60クラスの勇者パーティだって危ういわ」


「そうでしょうか?」

「レッドドラゴンは灼熱の炎を吐き散らかすんだぞ!」

「あの程度を灼熱とは言いません。レッドドラゴンは1400℃~1450℃のなんとも生ぬるい青白い炎を吐きます。純鉄の融解温度は1530℃です」

「ふつうに死ぬわ!」

「いえ、ひのきの棒を装備した冒険者の敵ではありません。ただレッドドラゴンは比較的装甲が固く、また超大型モンスターのため、珍念様が戦闘中混乱されると思いますので、本日はやめたほうがいいです」

「珍念でなくとも、誰だってビビるわ! こんなホラ話に付き合っていられるか! いくぞ、珍念。て、おい、珍念。おかわりもらうな」


 伊藤氏はにっこり笑って、紅茶を注いでいる。
 珍念がおかわりをもらったので、仕方なくもうちょっとこのホラ話を聞くことにした。


「今日のところはワイバーンあたりがよろしいかと思います」

 と、怪獣図鑑を開いて見せてくれた。

「お、おい。ドラゴンとあんま変わらないじゃないか」

「はい。ワイバーンとは、ドラゴンの頭、コウモリの翼、一対のワシの脚、ヘビの尾に、尾の先端には矢尻のようなトゲを備えた空を飛ぶ竜です。炎は吐きませんが、高速での移動が可能です。時速にして200キロは軽く超えることができるでしょう」

「おい、殺す気か?」

「よその店で武器を購入された冒険者たちは、わりとよく殺されているみたいですが、当店のひのきの棒を装備した冒険者の皆様は誰ひとり死んではおりません」

「まぁいいさ。
 そうやってホラを吹いても。
 伊藤氏はひのきの棒を売りたいだけ。だからそんな絵空事を言っているんだ。
 分かった、分かった。気持ちよく買ってやるからさ。そして戦って勝ったと報告しにきてやる。実際は戦わねぇけど、店の看板になるだろう」


「ヴァルナ様。
 まとめて30本以上ご購入された方には、戦術指南をさせてもらっていますが如何ですか?
 もしよろしければワイバーンの住む丘まで、ご一緒しますが」


「は、やめとけよ。
 あんた、レベルいくらあるのか知らねぇけど、マジで死んでしまうぞ」

「どうしたのですか?
 あなたは強い冒険者を目指されているのではないのですか?
 それでしたらレッドドラゴンやワイバーンを倒したくはないのですか?」

「倒したいけど、それは村人が王様になりてぇとか、ゴブリンが大魔王になりてぇとか、分別のつかないガキが根拠ないバカを言っている次元と変わりない。私たちには到底無理なんだよ」

「だからわたくしが戦術指南をしてさしあげると言っているのです。ハッキリ言って、ワイバーンなんて雑魚です。わりと弱いので、ひのきの棒初心者の皆様にはおすすめしております。
 よその店で武器を購入した者が、どうしてワイバーンに勝てないのか。それは敵の本質を知り尽くして武器を考案していないからです。わたくしが生み出したひのきの棒は最強です。攻撃力1しかございませんが、ワイバーンやレッドドラゴンといった雑魚モンスターなど1もあれば十分過ぎます。おそらく大魔王も私のひのきの棒で瞬殺できますが、それをされると私を含めた武器商人全員が困ります。だから大魔王の倒し方だけは秘密ですが」

 そう言うと伊藤氏は椅子から立ち上がり、ショーケースからひのきの棒を取り出した。

 よく磨かれているけどただの棒っきれだ。
 攻撃力1、そして5ゴールド。
 誰が見たって地上最弱の武器のはず。

 なのに。
 伊藤氏のシャープなメガネがキラリと光った。

 おい、マジで言っているのか、伊藤氏よ。
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