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スタイリッシュ武器屋 作者:弘松 涼
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46 ニートタクティクス ひのきの棒編1

「伊藤さんが言わんとすることは何となく分りますが……。でも、俺は底辺のクソニートだったし、そんな俺が人を雇うなんて大それたことなんてできっこありませんよ」


「エリック様。
 ご存知でしょうか?
 ひのきの棒が最強の武器であり、且つ、勝利を呼ぶ便利なアイテムであることを。
 ひのきの棒は如何なるシーンにおいても、有効活用できます。
 あ、よろしければケーキもどうぞ」


 なんだよ、それ?

 ひのきの棒っていえば、史上最低の武器だ。
 その昔、ここのひのきの棒を孫の手代わりに母さんに買ってあげたことがある。その程度にしか思っていないけど、みんなだってそうだろう。
 まだニートの腕輪の方が役に立つ。お小遣いをくれるし。


 そんな俺は、伊藤さんに勧められてケーキを口にした。


「う、うまい! スプーンが止まらない!」


 お姫様も夢中になってパクパク食べている。

「私はありとあらゆる最高級のケーキを食べてきたけど、こんなおいしいのは初めてよ。口に入れた瞬間、ふわっとした生地の食感。それを包み込むまろやかなクリーム。そして、これは何? もしかして大胆にも栗が入っているの? で、なんで栗がこんなにやわらかいのよ。あなた、どこで買ったのか、教えなさい」

「わたくしが作りました」

 俺もだけど、口の肥えているお姫様は目を丸くした。

「我が家には料理スキル87の専属のシェフがいるのよ。その腕を遥かに凌駕しているわ。あなたの料理スキルはいくらなの?」

「わたくしは商人。料理人ではございません。料理スキルは人並みです。ですが料理は化学です。舌に与える印象を的確に分析すれば、いわゆる世間で言われている美味しいという食感を作ることなど至極容易なことです。
 ひのきの棒も同様。
 闇雲に行動しているうちはダメです。
 考えることを放棄した者がやることです。勝利とは常に勝つべき道を模索した者に訪れます」


「伊藤さんがスゲーのは分かったけど、俺はクソニートで、こっちの姫はなんつーか……」

 言葉を選ばないと泣かれてしまう。
 お姫様は、なんか顔をおさえて、「あー」まで言いかけているし。次はやっぱ『ん、あーん』と続くのだろうか。顔をおさえている指と指の間から、チラって俺を見ているし。


「エリック様。
 あなたは勝利者の条件を既に三つもお持ちです」


「はぃ? なんですか、それは?」


「わたくしの口からは言えません。
 勝利者の条件は、誰かから教えてもらって理解できるものではございません。
 自らが悟り、自覚するのです。
 それをわたくしは覚醒と呼んでいます。
 あなたがニートと言う名のしがらみを自らの手で断ち切った時、あなたは如何なる邪悪をも打ち破るスーパービジネスマンへと覚醒するでしょう」



『――ニートと言う名のしがらみを自らの手で断ち切る?』


 なに、それ?
 もしかして脱ニートのこと?


 でも脱ニートしたら、ニートタクティクスを持つ俺は弱体化するんじゃねぇのか?
 まったく意味が分からん。


 それよか俺の興味は別にあった。
 俺は勝利者の条件を三つも兼ね備えているのか!?
 それって、マジなのか?


 きっとウソだろう。
 そうやって俺を有頂天にさせようとしるだけなのだろう。
 大人がよく使う手だ。

 だけど伊藤さんと話しているうちに、なんだか心の底から熱くなってきた。今まで俺をすごいと言ってくれる大人なんていなかった。
 みんなニートの俺をバカにしてきた。
 だけど伊藤さんは、まじめな顔で俺に才能があるって言ってくれたんだ。

 それだけで十分だ。
 やる気が超でてきた。
 そうやってバカになって頑張るから、道は開かれるって偉い人は言っていたような気がする。


「分かったよ。伊藤さん。
 俺、がむしゃらに頑張ってみるよ!」


「一つ条件を付けてもいいですか?」


「え? あ、はい」


「ひのきの棒2000本購入に必要な1万ゴールドを、5日以内に稼ぎ出してください。それ以降は大量注文が入っているため、お売りすることができません」


「な、なんですと! いくらなんでも無茶ですよ! なー、リディス王女」

「は? なんで無理なのよ」

 お姫様はケーキをぱくぱく食べながら、平然と言いやがった。
 さすが金持ち。
 1万ゴールドの価値がよく分かっていない。


 頭をゴリゴリかいている俺に、紅茶をズズズとすすり終ったお姫様は一息ついて言葉を続けた。


「だってあんた、私の雇用主になるんでしょ? 嫌よ、私。そんなしょぼい経営者の下で働くなんて!」


 そりゃ、お姫様の家は金持ちだろうからそんな感覚になるんだろうけど……



 いや……
 そうではない。



 お姫様のくせに正論を言った。
 俺はさっき誓ったばかりだ。
 がむしゃらに頑張ると。

 何も体に汗をかくことばかりが仕事ではない。
 もっとがむしゃらになって、頭にいっぱい汗をかかなくてはならない。


「分かったよ。リディス王女。
 そうだよな。あんたを雇う以上、俺は最強の経営者を目指すしかないもんな」



 *



 伊藤さんの店から出ると、俺たちは民間の職業紹介所を目指した。

 ハロワに行きたかったけど、今はもう19時を過ぎている。さすがにこの時間は開いていないだろう。だから民間版のハロワを目指したって訳だ。
 別に就職先を探すつもりではない。
 この国でどういった職があるのか、どういった景気状況なのか、リサーチするつもりである。
 単純な方法ではあるが、いい労働条件を出してたくさんの人を募集しているところはそれなにり成長していると考えた。
 だったらその業界に足を踏み込むか、その業種に関わる方が得策だろう。

 それに民間版のハロワは、企業側にとってリスクがある。無料ではないのだ。高額な紹介手数料がかかる。
 それでも求人を出す業種は、かなりの業績なのだろう。



 オフィス街の隅に、まだ明かりをつけて営業している会社を見つけた。



 入り口に吊るされている看板には、こう書いてある。
 弱者の味方☆正義の人材派遣会社『ヴィスブリッジ』



 名前からして怪しい。
 自ら正義って名乗る組織ほど、裏で何をやっているのか分かったもんじゃない。
 昼間行ったロッポンギ・タクティクスヒルズ内にあった、ロリっ子タクティクスのオフィスの方が、まだ健全に思える。

 慎重に外から窓越しに観察した。
 中には超怪しいおっさんがいる。
 外見で判断してはいけないのだろうが、どうみても悪役である。

 ズバリ言うと、剥げた豚。

 胸に付けてある名札を見た。

 『しげる』

 怪しいおっさん、ブサメンのしげる氏。



 隣には清楚な黒い髪がよく似合う、まるで有名な絵画から飛び出してきたような綺麗な女の子が座っている。

 名札には『聖華』と書かれてある。

 ブサメンガチオヤジと美人OLか。
 おっさんは、とても社員とは思えないだらしないシャツにジーパン。まるでヤクザのようだ。それに引き替え、美女は紺のレディーススーツでびっしり決めている。
 美女で派遣スタッフを釣って、ブサメンのおっさんがどこか怖いところへ連れ込んでいるのだろうか。どうしてもそんな古典的な絵図が思い浮かぶ。


 まぁいいか。
 ここにはリサーチできただけだから。



 中に入ろうとした俺だったが、入り口で足を止めた。
 事務所内に、あいつがいたからだ。


 快適勇者ライフタクティクスの代表取締役カルディアと、イケメン偽勇者のフロイダ。

 チラリとお姫様を見た。
 お姫様は窓越しに中の様子をうかがっている。


「フロイダ様……」と小さく漏らした。

「いいな!
 今、出るなよ。分かっているとは思うが、まだフロイダは洗脳されたままだ。今のあんたのヒロイン力だと、フロイダの心を取り戻すことはできないぞ」と強引に納得させておく。


 お姫様は、コクリと頷いてくれた。


 それよか、カルディアは悪徳業者。
 ほっておくわけにはいかない。

 カルディアとフロイダが去った後、この派遣会社に奴らが裏で悪いことをしていることを垂れこんでやる。もしここも悪徳業種だったら、役人へちくってやる。
 カノンさんが変えた収容所の役人なら、絶対に俺の話に耳を傾けてくれるはずだ。



 だから俺は勇気を出して、中の声に耳を傾けた。



「社長。こんなところで求人する気ですか? うちには便利なタクティクスがあるから、ほっておいても次から次へ人はやってきますよ?」

「私とて、こんなブ男に用はない。
 私はイケメンが好きだ」


 やっぱ、この人、そっち系か。


「私が今日来た理由は、ここにニートが来なかったか聞きたかっただけだ」


 聖華氏が答える。


「ニートだった方はたくさん来られていますよ。ここではどんなお悩みを持った方でも、みなさん活躍できますから」

 まるで天使のような表情でそう言った。



「ほぉ。うちもそうだ。
 ニートだった者ばかりが来るが、皆、一人前になっていく。
 横にいるフロイダ君もそうだ。
 まさか私と同じように清き志を持った者に出会えるなんて、この上ない感動を覚えたよ。弊社も今度、お願いしようかな」


 どの口が言うか!
 てめぇらは弱者を地獄に叩き落とす極悪人だ。
 こんな純心な姫さんだって、てめぇらのせいで……


 叫びたくなるのをグッと堪え、聞き耳を立てた。


 カルディアは悠々と話を続ける。


「まぁ、今回はそういった用ではないの。
 クソニートとバカ王女が来なかったかと聞いているの」


 フロイダは「社長、これで12件目ですよ。どうしてそこまで必死になって奴らを追っているのですか?」

「君には分からないの?
 ニートと王女がピンチになったとき、私たちが咳き込んだ。あの二人はその隙に逃げた。
 どう考えても、あいつらが仕出かしたとしか考えられないでしょ? おそらく魔法の中でも高難易度を誇る細菌系魔法バイオマジックが使える」


「……さっきから言っていますが、その可能性はありませんよ!
 だってニートはすぐに泣く根性なしでした。もしそんな力を持っていたのならどうしてあんなに泣くんですか?」


 あの時は、ニートの腕輪に涙腺を思い切りぶっ壊されたからな。


 カルディアは「ふ、そうね。あのニートには無理か。小物のオーラがでまくっていたし。なら王女が怪しい」


「だからそれもありませんって。
 だってリディス王女は超おバカですよ?
 クルクルパーってのは、あいつの為にあるような言葉です。
 俺を真の勇者だと盲信して、毎日、俺に貢いでくれたんだ。
 俺の話術が凄いのもあるけど、あいつ、マジでバカだよ。
 それにですね」

「なに?」

「あんだけひどいことを言った俺が、リディスの前にひょこり現れて、俺……洗脳されていただけなんだ! 本当はお前が好きなんだ! お前だけを見ている! って言ったら絶対に信じますよ。泣きながら、また、いっぱい貢いでくれるに違いありません。
 それくらいおつむがお花畑なんですよ」

「なるほど……
 我々が咳き込んだのは、君が言っているように昼食にみんなで食べたマッシュルーム入りピザのせいなのかもしれないね」


「やっと信じてくれましたか、社長ぉ~」


「ごめんね。
 昔、ストーカーに足元をすくわれた経験があってね」


「その慎重なところも社長の魅力の一つです。
 それにあのニート、妙な考えを起こさなければ、社長のタクティクスを学べて、今頃ガバガバ儲けることができたのに。あいつもバカですよね」

「あんなクソニートにそんな才能はないわよ。所詮、社会に相手にされないゴミ。まぁちょっぴりくらい利用しようと思っただけよ。行きましょう、フロイダ君」

「はい、俺、どこまでもついていきますから! それよりか、社長、教えてください。一度酷いことを言った相手を、いかにスタイリッシュにもてあそべるかを」


「超簡単よ。死ぬほど、あ、い、し、て、る、と耳元でささやけばいいだけ。
 いっぱい貢いで死ぬのは自分なのにね。あはははは」


 カルディアとフロイダが派遣会社を後にしようとしたので、俺たちは路地裏へと身を隠した。


 お姫様は突然しゃがみこむと、身を縮めて丸くした背中を震わせている。


「……フロイダの奴……
 洗脳されているだけだから……」


 小さくなって震えているお姫様を見て、俺は気休めを言って励ますしか思いつかなかった。


 だけど、しばらくしてリディス王女が顔を上げた。


「よかったわ。
 あなたのところに就職できて」


 彼女は真っ赤に染まった目で、力強くそう言った。
 涙の奥でメラメラと燃えているその目で分かった。

『全部聞いたわよ!』と叫んでフロイダの前に現れ、怒りをすべて撒き散らすこともできただろう。

 だが、それをしなかった。
 王女はしたたかに、小さく言っただけだ。

 
 フロイダをふっ切った。
 いや、フロイダを超えた。
 王女はあんな小物なんかではない。
 俺の大切な味方ビジネスパートナーだ。


 だから俺も答えた。


「君を雇用できてマジで良かったよ。
 俺、圧倒的に勝つから。
 みんなを幸せになれる超面白いビジネスをガチで作るから!」




 その時だった。
 ニートの腕輪からメシッと音がした。
 小さなヒビが入っている。
 どうしたのだろう。
 この時の俺は、この現象を気にも留めなかった。
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