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スタイリッシュ武器屋 作者:弘松 涼
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43 ニートタクティクス 働いたら死ぬが、それでも職を探せ編4

「――と、止まって」

 リディス王女の声でようやく俺は我に返ることができた。
 ロッポンギ・タクティクスヒルズから飛び出して随分走ったようだ。

 いつの間にか郊外までやってきていた。
 俺は彼女の手を放した。
 高いヒールで、こんなところまで走らせてしまった。

「ごめん」

「……いえ……」


 リディス王女は、塗装のされていない道べりに座り込んでしまった。
 ドレスが汚れてしまう……といらない心配をしてしまう。


「……勇者フロイダ様……
 あんなにやさしかったあなたがどうして……
 もしかして、人間として生まれ変わった時に、記憶の一部を無くされたんだわ……
 きっとそうよ!
 そうとしか考えられない……」


 まだ、あんな奴に未練があるのか。


 俺はカノンさんに差し入れしようと思っていた茶菓子の箱を、アイテムボックスから取り出した。

 さすがにお腹も空いただろう。
 これは8ゴールドもする高級品だ。
 だけど腹が膨らめば、バカな妄想から目を覚ますことができるだろうとも思い、箱を開いて差し出した。

「あの、これ食べて」
「……なんですか? これは」

「和風スイーツでおまんじゅうと言います」
「……私は庶民の食べ物は口にできません」


 きっぱりと言われた。


「あはは、そうなの」と返すしかなかった。


「俺、行くところあるから。なんなら馬車を呼んでおこうか? 帰りはその人にお願いしてよ」

「私、お金ない」

「……君はお姫様なんだろ? だったらその旨を伝えたら、みんな快く引き受けてくれると思うけど」

「私、家出してきたから無理。
 てか、私、勇者様と駆け落ちする気だったのに、あんたに邪魔されたの!
 どうしてくれるのよ!」



 はっ!?



 現実を直視できず、そんでもって逆ギレですか!?


「おいおい、俺があの時、君を連れ出さなければどうなっていたと思う?」

「きっと私はあの事務所の人達に縛られていたでしょう」

「そうだと思うよ」

「そして私は、勇者フロイダ様、どうしてそのような酷い事を言うのですか? と涙ながらに訴えるの」

「うん、多分そうなる」

「そうしたらフロイダ様は、頭を抱えて……う、うぅ、僕は……僕は……と苦しみ出すの。
 私は言うわ。
 椅子に縛られて、恐ろしい目に遭っているけど、勇気を振り絞って叫ぶわ。
 フロイダ様! 頑張って! と。
 そうしたら空が蒼く輝き、金色の光が私達を囲み、東の方角からペガサスがやってくるの。フロイダ様はそのペガサスにまたがり、私に向かってこう言うわ。
 すまない、リディス王女。
 僕は長い眠りについていたようだ。
 魔王は僕のこの強大な力を恐れている。
 だから記憶ごと封印した。
 だけど君の愛の力で、僕は覚醒することができた。
 さぁ、行こう!

 ――そう言うと、その辺にいた小悪党の連中を軽く蹴散らして私をさらっていくの。
 フロイダ様は、『僕の旅は長く険しい。君を連れてなどいけぬ』と言うけど私は黙って首を横に振るの。

 そうよ!
 きっとそうなった筈よ!
 どうしてくれるのよ!!
 私をあのビルまで送っていきなさい」



 そう来たか。
 突っ込みどころ満載で色々思いもするが、すごい妄想力だ。
 あまりの身勝手な意見に苛立ちすら通り越して、呆れて物も言えない。

 さすが箱入り娘の王女だ。
 俺も身勝手なことばかり考えて来たから分からなくもない。だってニートは暇だ。妄想力はデタラメに高い。姫もある意味、究極のニートだもんな。


 おっと。
 感心している場合じゃない。
 この哀れな姫に自分の置かれた状況を教えてやらねば。


「折角生き延びたのに、また死ににいくのか?」


「は? どうしてそうなるのよ? 勇者フロイダ様が覚醒して私を助けてくださるわ」


 やっぱ、そうくるか。
 仕方ねぇ。
 妄想には妄想で返すか。
 俺はニートタクティクス、妄想編を発動させた。


「知らねぇのか?
 大抵主人公が覚醒するタイミングってのは、ラストシーンなんだぜ?
 万が一、まだラストシーンでなかったら、あんたは助からない。
 そして第二の姫役がひょっこり現れて、おいしい仕事を奪ってしまうんだ」


「は?
 何、それ?」


「俺はニートだ。
 ニートってのは、漫画が大好きであまりある時間の殆どを漫画購読に注ぎこんでいる。
 俺は人気漫画ばかり読んでいた。
 人気漫画には人生のセオリーが詰め込まれている」

「私も少女漫画を読んでいたから分かるわ。
 パパやママは漫画ばかり読んでいると怒るけど、そうよ、漫画とは人生よ!
 あんた、分かるじゃない」


 よし、王女がのってきたぞ。


「俺には分かる。
 このままいけば、あんたはサブサブヒロインまで降格してしまうってことが。
 だって主人公がメインヒロインを助けるのは終盤なんだぜ?
 それまでサブヒロインやサブサブヒロインあたりが、悪役キャラに殺されて話を盛り上げるようになっている。
 このまま行けばスタートダッシュを急いだあんたは、サブサブヒロインに成り下がり、あっけなく殺され、その後現れた用意周到な第二の姫と勇者が、かませキャラにされたあんたの墓に花を添えてエンディングロールが流れるだろう。
 それでいいのかよ!?」


「ダメに決まっているでしょ!
 私はどうしたらいいの!?」



 ……どうしたらいいんだろ、この子。
 やっぱ世間を知ることから始めた方がいいのかな?


「簡単さ。
 あんたが確固たるメインヒロインの地位を築けばいい」


「なによ、それ? どうやるのよ?」


「まずはヒロイン力を伸ばせばいい。仮に既にメインヒロインが存在しても、あんたの人気が上がれば何とでもなる。メインとサブの交代なんてよくある話だ」


「そうなの?」


「そうさ。
 それに今のあんたはおそらく脇役クラスだ。きっとかませ役に使われる。主人公の前に立ちはだかるたくさんある壁のうちのたった一つを突破する為だけに使われる数ある起爆剤のその1になってしまうだろう」


「な!? なんて失礼な。どうして王女である私が脇役断定なのよ!」


「仕方ない。
 だって主人公である俺に嫌な思いばかりさせていたら、立場がどんどん悪くなるよ。あんたの株は今最悪だ。このままだとかませ役に使われるよ」

「は?
 なんであんたが主人公設定なのよ! 意味が分からない」

「まぁ主人公は、フロイダでもいいけど、とにかく箱入り娘のあんたが幸せになってもあんまり盛り上がらないの。
 だからわりと苦労してナンバーワンヒロインの椅子を勝ち取らなくては、ストーリーををハラハラドキドキさせる役に使われて殺されちゃうよ」


「よく分からないけど、不思議な説得力があるわ。
 どうすれば私にそのヒロイン力が身につくのか教えなさい」


「就職してそれなりに苦労すれば、注目されて人気が上がるよ」


「なるほど……。就職か。考えてもみなかったわ。就職するにはどうすればいいの?」


「ハロワに行けばいいんだけど……。ところで王女は働いたことがあるのか?」


「あるわ。バカにしないでくれる」


「何をしたんだ?」


「ペットのネコちゃんに餌をあげたことがあるわ。あと散らかっていた私の勉強机の上を片付けたことがある。本を本棚に返したの。
 床をドンと足で鳴らせば大抵、誰かくるから。
 どう? すごいスキルでしょ?」


 王女にも、奥義床ドンがある。
 やっぱニートだったか。




 さすがに世間を知れば、重度のシンデレラシンドローム――騙した男が記憶喪失の白馬の王子に思えてしまう病から目を覚ますことができるだろうと思い、俺はリディス王女に就職を勧めてみることにした。

 いや、こっちこそ脱ニートを目指して頑張らなければならないってのに、何をしているんだろ、俺。
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