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スタイリッシュ武器屋 作者:弘松 涼
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42 ニートタクティクス 働いたら死ぬが、それでも職を探せ編3

 俺は試験内容を聞き、耳を疑った。


「カルディア社長、もう一度言ってください」




 社長の言う快適勇者ライフタクティクス初級編――
 それはあまりにも卑劣な内容だった。


「もしかして、できないのかしら?」

「……申し訳ございません……。お、俺には人の弱みを踏みにじることなんて……」


 カルディア社長は、まず困っている女性を探すように言った。
 さすが勇者だと思った。
 困っている女性を助けるのですねと聞く俺に、「あなた、おバカ? 困っている人ってのは大抵隙だらけなのよ。金に困っているのなら、提携しているこのビルの貸金屋に連れて行けばいい。寂しがり屋ならもってこいよ。グッドなカモ。あなたが恋人を演じて、心をいやしてあげればいい。信用させて、根こそぎ奪いなさい。大抵の女は勇者の看板に弱い。ほら、これ、うちの制服。胸にある丸勇の印で引っかかるバカな子くらいがあなた向きね。制服のレンタル料は一日10ゴールドだからね。給料日に天引きするから」


「……俺にはできません。それにこんなこと、真の勇者はしないと思います」


「へぇ。
 あなた、ニートなのに変なことを言うのね?
 あなたは世間が憎くないの?
 世間様はニートというだけでバカにしているのよ。
 税金を払っていないニートをクズ呼ばわりしているのよ。
 私から言わせれば税金を払う方がおバカなんだけどさ。
 まぁそれは置いといて、あなた、勇者になりたかったんでしょ?
 だからうちに来たんでしょ?」


 大柄な社長に見下ろされ、お腹が破裂するほど痛い。
 だけど俺はカノンさんのようになると誓ったんだ。

 だから声を張り上げた。


「確かにそうです。
 俺は力のないニートです。
 ……でも……それでも誰かを守れる人になりたいと思っていました。俺は母に迷惑をかけまくってきました。
 だから今度は俺が母さんを救う番なんです。
 だけどこんな汚いお金なんかではない!
 例え母さんを助けることができても、たくさんの不幸の上に作ったお金になんの意味があるんだよ!
 そんなんじゃぁ……
 母さんが悲しむ……」



 突如ニートの腕輪がきつく締まっていく。

「やめなよ! エリック。
 ほら、社長の顔を見て!
 もうカンカンだよ。
 早く泣いて謝りなよ。
 大丈夫、おいらはエリックの神経に直通している。
 おいらがエリックを泣かしてあげるから、早くごめんなさいって言って。
 そうしたら許してくれるから」



 突然俺の目頭が熱くなり、涙腺が壊れたかのようにとめどなく涙が流れてきた。


 さっきまでカンカンだった社長は、ニヤリと口角を上げた。


「なんだ。
 エリック君。
 オーライ、オーライ。分かった、分かった。
 君はまだ真の勇者とは何かを知らない子供なんだ。
 おい、フロイダ君。
 真の勇者とは何かを教えてあげてよ」


 長い金髪をしたフロイダと呼ばれた青年が、俺を見てニカニカ笑っている。手には大きな赤い宝石があり、それをお手玉のようにくるくる回している。
 さっき社長が言っていた、王宮騎士以上の高額給与を叩き出した入社一カ月の社員が彼か。


「見て分かるように僕の武器はこのハニーフェイス。
 だからバカな王女をたぶらかして、そいつに自宅の蔵にある財宝を盗ませた。
 なんだ、その目。
 王女だって幸せだったんだぞ。
 いつの時代も王女ってのは、勇者と付き合いたいと夢見ている。
 だが実際の勇者は、筋肉質のムキムキマッチョや、冗談すら通じない寡黙な男だったり、全身傷だらけの触れるとやけどする鋼の野郎だったりする。大抵の王女はバカだから、勇者を白馬の王子様のような線の細いチャラ男と勘違いしている。これが夢と現実の違いってやつさ。
 そんなおバカな王女が俺のような美男子勇者と一カ月間も付き合えたんだ。
 その報酬がたったの家宝なんだぜ。
 超安いお買いものだろ?
 王女は俺のようなイケメン(偽)勇者に褒めちぎられ、かわいがってもらえた。
 世界一の幸せ者だ。
 両親に会わせたいとか言うので、そろそろ潮時かと思ってこの家宝の宝石を引っ張ってこさせた。
 そして社長に教わった快適勇者ライフタクティクス、実は僕はモンスターだったんですぅ人間になるための手術代が欲しかっただけなんです編を使ってスタイリッシュに死んだふりをして別れたのさ」


 社長はフロイダから宝石を受け取ると、「これは私が得意とする上級タクティクス。フロイダ君は才能があるわ」



 ……
 俺はニート。
 何一つ力を持たない社会の底辺だ。

 だけど、どうしたというのだろう。
 今、俺の中で何かが弾けようとしている。


『ダメだよ、エリック! 感情を抑えて。お前はニートなんだよ。相手は勇者集団。例え偽物でも、勝てっこないよ』 


 ニートの腕輪が俺の心に話しかけてくる。

 うるせぇ。
 俺は……
 俺は……

 こんな悪党に力を貸すために、生まれ変わろうとしたんじゃねぇ!



 社長は俺の襟元を掴んだ。
 俺の体が持ち上げられ、足が地面から離れた。


「何だ、その目は!?
 こいつ、生意気。
 おい、だれか、こいつを縛りな。
 逃がすと面倒な役人どもに垂れこむだろうから、痛めつけて川にでも沈めろ」


 社長の鋭い声で、隣の部屋にいた社員たちが出てきた。

 総勢12名。
 顔こそホストのように整っているが、どいつもこいつも悪党面。

 手下に囲まれた俺はコテンパンに殴られ、椅子に縛られた。
 フロイダが木の棒を握って、にやにやと笑っている。


「うれしいな! 僕、人を殺す経験をしてみたかったんだ」



 フロイダが棒を高く掲げたその時だった。
 戸が開かれ、一人の少女が入ってきた。
 肩の辺りでカールの入ったゴールドの髪に、とても庶民とは思えないシルクのドレスを着こんでいる。
 目を赤く染め、フロイダを見つめている。

「やっとお会いできました。勇者様。死んだはずのあなたを見つけ、どうしても我慢できずに後を追ってしまいました。あなたは勇気を出して秘密を明かされて……そのまま自決をされましたが、私は何度も何度も神様に祈りました。どうしても心優しき勇者様に蘇ってもらいたくて。
 神様は私の祈りを叶えてくださいました」


 流れから察するに、さっきの話に出てきた王女なのだろう。
 涙ながらに訴え続ける王女に、フロイダは頭をゴリゴリかきながら「社長、すいません。タクティクスには失敗したようです。エリックと一緒にこいつも沈めましょう」


 カルディア社長は口角を上げたまま、首を縦に振った。


 奴の次の言葉で俺は完全にぶち切れた。


「そうだなクズはバカな妄想を信じている。
 私たちはバカに少しばかり幸せを与え、その代償として少しばかりのお金を頂戴している善良な団体。
 ただこうやって度が過ぎて勘違いをしている奴は、何かと犯罪者に成り下がる可能性を秘めている。以前、私を追っかけてストーカーにまでなった奴もいるくらいだしな。
 社会の為、このゴミたちを神に変わって始末してやれ」


 フロイダは王女に醜悪な笑みをちらつかせる。


「分かったかい。
 リディス王女。
 君はそのニートのカスと仲良く心中することになるんだよ。
 理由?
 俺に迷惑をかけたってことで」

「え……
 今、なんておっしゃいました?」


「君はもう用無しなんだよ。
 俺の興味は君の家にある財宝だけ。
 もう財宝は手にしたし、君の魅力はもはや何もないの。
 だからもう死んじゃってよ。
 そう言ってあげたんだ」


 フロイダは残酷なセリフを爽やかな笑顔のまま言い切った。

 リディス王女は、ようやく騙されていたということに気づいたのか。大粒の涙を流し、その場に泣き崩れた。


 ……カルディア……
 そしてフロイダ……


 てめぇらは力、金、容姿、世間様でいうすべてを持っているのかもしれん。

 そうさ。
 俺はクソニートだ。
 力も金も姿恰好も情けない。
 誰よりも非力ってことはよく分かっている。

 コミュニケーション能力だって皆無。
 こうやって人と話すだけで胃がきしみ、心臓が飛び出そうだ。
 世間で生活なんてできるわけもない。
 だからまともなスキルなんてねぇ。

 社会の底辺で蔑まされてきた存在。
 だからこそ弱い者の気持ちは痛いほど分かる。

 そんな俺の唯一の武器。
 それがニートタクティクスだ。


 今まで忘れていたが、天下一ニート選手権で、俺はこのタクティクスを駆使して勝ち抜いてきた。
 記憶の断片から、わずかな思い出が蘇った。

 俺にはプロのニートとして培ってきた能力がある。
 ニートスキルを戦闘用にまで昇華した奥義があるのだ。


 それが有名なニート奥義、床ドンだ。



 床ドン――
 これはプロのニートが親を呼び出すための所為である。
 俺も他のニート同様、毎日のように床ドンをしていた。


 だが俺の親は、俺の為に必死に働いているのだ。
 俺の放つ床ドンにいちいち応える余裕なんてなかった。


 それでも俺は床ドンを繰り返していた。


 ドン、ドンと蹴るが、返事なんてなかった。


 俺は寂しかった。
 ニートである俺には、人とのコミュニケーションは苦手である。
 だから毎日のように壁や床、天井、最後には空気にまで話しかけていた。


 そんな俺は目覚めたのだ。


 微生物の声を聴く能力に。
 この空間には9000種類以上の細菌が存在する。
 俺には奴らの声が聞こえる。
 弱きニートだからこそ、最弱さいきんの心が分かる。



『エリック。やめるんだ! お前はただのニートでいい』

 ニートの腕輪よ。なぜ止めようとする。


 分かるぞ。
 てめぇ、今、また俺の涙腺をぶっ壊しただろ。
 そして胃袋に痙攣を起こしている。

 更に鳥肌まで起こしやがったか。


 俺を見て、悪党共は笑っている。


 いいさ。
 俺には9000の味方がいる。
 お前たちには見えないだろう。


 ニートという孤独を貫いた俺には、ハッキリと見ることができるぞ。


 奴らは弱き者の心を踏みにじる悪党だ。
 遠慮なくやってしまえ。



 俺は靴で床を大きく鳴らす。
 奥義、床ドン。
 9000の軍勢は、俺の声に耳を傾けてくれた。



 悪党どもの口や鼻から飛び込んで、気管を荒らしていく。

「な、なんだ。くしゅん、くしゅん!」
「目がかゆい! 鼻水が止まらない!」


 俺は腐食スキルを持った微生物に、声をかけた。


 ――頼む、この手を縛っている縄を腐らせてくれ!


 縄が腐敗していく。
 ありがとう、通りすがりのバクテリア。


 カルディアたちが咳込んでいる隙に、リディス王女の手をとって走った。


 カルディアの悔しそうな声が聞こえてくる。


「ま、待て! ニートにクソガキ!」


 天下一ニート選手権――
 あの時の記憶はほとんどない。
 だけどあの日もこう言った。
 真っ赤に染まった俺が審査員どもに叫んだ台詞を、悪党どもにぶちまけてやった。


「俺はニートの中のニート、キングオブニートだ! てめぇら、ニートを舐めるな!」
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