挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
スタイリッシュ武器屋 作者:弘松 涼
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

37/145

37 激突 善悪のタクティクス・ファイナル ~ひのきの棒に貫けぬものなど無い~

 巨大化したゴンザは背をそらし大胸筋を躍動させると、大きく飛び上がった。
 太陽を背に咆哮を上げ、一直線に突撃してくる。

 両翼から放たれる風で、監獄の壁が剥されていく。

 飛び散るレンガ。
 このままでは檻の中にいた人たちは、巻き添えを食らってしまう。
 あの中には、あたしにエルフのマントをくれた魔女のルーシェルさんもいるのです。

 あたしの心配そうな視線に気付いたのでしょうか、伊藤さんはあたしの斜め後ろにやってきて口早に告げました。

「ノエル様。
 あなたのお気持ちはよく分かります。
 だから現状をお伝えします。
 このラクライナの牢獄。
 最大収容人数485名。
 平均稼働率135%。
 うち17%の者が無実の罪で捕まっていました。
 夜な夜な牢から抜け出して、徹底調査致しましたので、100%間違っていないはずです。
 見張りの兵士は眠らせて、一人を除き隔離しています」


 一人?

 収容所の門の近くに重装兵長ラドンの姿があった。
 壁に背を預け、眠っているようです。
 あいつはお母さんを殺した男です。
 てっきりもう、ゴンザに吸収されているとばかり思っていました。
 何とも言えない複雑な心境に襲われるけど、今はあんな奴を相手にしている余裕はない。
 更に強大な悪が、宙を旋回しながら襲い掛かってきている。


 伊藤さんは続けます。

「そのついでに無実の者をすべて解放しております。長期間の獄中生活で栄養が偏っていましたので、専門の医師とアテンドを付け、豪華温泉旅行にご案内しています。
 その費用はこの牢獄を管轄している重装兵団の財布から勝手に頂戴しました。
 現在檻に残っている者は、多大な罪を犯している者ばかりです。逃がすとまた悪事をしそうなので、判断に困り放置してしまいました。
 氏名、経歴、罪名すべて把握しております。
 もしお知り合いで助けたい者がいたら、遠慮なくおっしゃってください。
 責任を持ってわたくしがこれから救出してきますから。
 名前は――
 通り魔のアデル様、
 辻斬りのカイエン様
 快適勇者ライフのカノ――」


 こんな場所に、知っている人なんていないと思う。
 それにこれ以上、迷惑をかけられないよ。
 だってこれはあたしの聖戦なのだから。


「伊藤さん。ありがとう。
 大丈夫。
 伊藤さんの判断は間違っていないと信じているから。
 だから心置きなく戦います」


「承知しました」


 ゴンザは更に強烈に翼を羽ばたかせる。
 その瞬間、収容所は音を立てて崩れていく。


 ゴンザは低空飛行を続けながら、口を開け、その中から黒い光弾を放ってくる。
 さっきまではゴンザの動きに反応すらできなかったのに、完全に見切ることができた。
 狙っているつもりなんだろうけど、目的物に視線を合わせようとしてくるから飛んでくる軌道が丸分かりよ。
 地上を走りながら、ジャンプするタイミングを見計らった。

 ゴンザの放つ光弾は、地面と激突すると、炸裂音と共に派手に爆発する。
 ボコボコとクレーターができていくが、幸いにもこの周辺に民家はない。

 ゴンザが一瞬動きを止め、次の攻撃の為に大きく息を吸い込んだ。


 今だ。


 あたしは力強く舞い上がった。

 いつの間にか、背中にはお母さんのように白い翼がある。
 風を切り、ゴンザ目掛けて一直線に急上昇した。



 右手に握っているひのきの棒には、爆裂魔法剣――バーニングエクスプロージョンを付加している。
 これはついさっき覚えたMPを600も消耗する超大技です。
 バーニングエクスプロージョンの威力は500。


(457(あたしの攻撃力) + 500(バーニングエクスプロージョン) + 1(ひのきの棒)) ×2(クリティカル)= 1916ダメージ


 そしてあたしが握っているのは、例によって45分割したひのきの棒。
 このまま45連発の連鎖が入る。


 更にあたしの左手にはもう一本のひのきの棒がある。


 そう、伝説のソードマスターの力があたしに宿り覚醒したスキル。
 それが魔法剣二刀流。


 左手のひのきの棒にはもうひとつの新奥義、究極魔法剣――ファイナルディスティネーションを付加させている。
 これは残り全MPを一瞬にして消耗する最終奥義。

(457(あたしの攻撃力) + 1000(ファイナルディスティネーション) + 1(ひのきの棒)) ×2(クリティカル)= 2616ダメージ


 左右のひのきの棒は紅蓮と青碧へと染まる。
 これから全エネルギーを賭けた90コンボが、ゴンザの頭上に炸裂するだろう。 
 勝負はこの一瞬。

 絶対に回避不能な至近距離まで接近し、ひのきの棒を投げつけた。
 狙いはゴンザの眉間。

 鋭い閃光の刃となったひのきの棒は、太い眉根の中心に食い込む。連鎖は始まった。先頭から連続爆破していく。

 交互にバーニングエクスプロージョンとファイナルディスティネーションが、ゴンザの脳天で火を噴く。



1回目1,916
2回目5,798
3回目9,257
4回目14,608
5回目19,829
6回目27,294
7回目35,052
8回目45,561
9回目56,973
10回目71,866
11回目88,539
12回目109,746
13回目133,994
14回目164,292
15回目199,450


 中 略


85回目74,738,382,455
86回目89,686,062,446
87回目107,623,277,234
88回目129,147,936,180
89回目154,977,525,715
90回目185,973,034,358



 トータルダメージ1859億強。



 強烈な光と爆音と突風が宙を駆け抜け天で炸裂した。

 爆風が収まり、そこにはゴンザの肉片すら無かった。




 全パワーを使い果たしたあたしは、そのまま地面に落下していく。
 ようやく永い戦いは終わりました。

 見ていてくれましたか?
 お母さん。

 さよなら、ゴンザ。
 あたしはあなたが居たからお母さんに出会えた。
 あなたが憎かったから、ここまで頑張れた……



 でも……
 今では感謝している……



 ドサリと土の上に落ちた。
 あたしをマジマジと見おろしている者がいる。


 もしかして伊藤さん?


「へへへ、感謝してくれて、どーも」


 あたしに凍りつくような戦慄を覚えさせた。
 まさしくその声はゴンザ。


 ど、どうして?


「痛かったぞ。
 マジで痛かったぞ。
 死ぬかと思ったぞ。
 ククク。だが、残念だったな。
 HP残量10分の1のとこで何とか間に合った」


 あたしはゴンザを見上げた。
 ゴンザではない。
 あたしのお母さんを殺したアイツだ。
 分厚い鉄のフルメイルを全身にまとった、坊主頭の巨漢。
 重装兵長ラドン。


「他力本願の勾玉の力は、何も能力吸収だけではない。
 肉体の入れ替え機能も備わっているのだ。
 今、俺はラドンの肉体に憑依した。
 こういうこともあろうかと思って、ラドンを生かしておいて良かったぜ。
 つまり死んだのは、俺の肉体に強制送還されたラドンの魂って訳だ。
 ククク。
 ノエルよ、どうやらキサマはすべての力を使い果たしたようだな。
 キサマはもはや敵ではない。
 そんな哀れなキサマに、とっておきの嬉しい情報を教えてやる。
 俺は、姿こそラドンに成っちまっているが、能力はそのままだ。
 最強最悪の魔神ゴンザ様の究極完全体のパワーをそのままこの肉体に移植している。
 どうやらこれで、チェックメイトってやつだな。
 キサマがどんなに頑張ろうが、どんなに足掻こうが、どんなに踏ん張ろうが、最後の最後に笑うのは悪である俺。
 この世は常に悪が勝つのだ。
 これぞ、宇宙の法則。
 伊藤よ。
 悔しいだろ?
 悲しいだろ?
 お前の愛弟子はこれから処刑されるのだ。
 あと一歩まで俺様を追い詰めて、だが、結局負ける。
 これが悪と正義の違いよ。
 お前らは誰かを守ることがすげぇとかのたまう。
 だから無茶苦茶弱い。クソみてぇに弱い。
 何が友情だ! 何が正義だ!
 そんなお題目、鼻くそを取る為の鼻紙に書くのも勿体ないわ。
 俺は、俺以外のすべての者を不幸にしても一向に構わない。
 むしろ快感。そうだ、お前らの不幸は俺の快感なのだ!
 だから弱点など皆無!」



 伊藤さん。
 ごめんなさい。
 折角、あたしを導いてくれたのに……
 なのに……
 あたし……


「伊藤。
 悔しくて何も言えないのか?」


「あなたが哀れ過ぎて、言葉を失いました。
 あなたは誰かを守ることを無意味だと言いましたね。
 あなたは友情を軽視しました。正義を愚弄しました。
 その報いをこれから味わうことになります。
 ほら、あなたの後ろをごらんなさい」


「あん?
 何を負け惜しみを……
 ……キ、キサマ!? ど、どうして?
 キサマは石になって死んだハズ」


「忘れたのか?
 俺は地獄の果てまで追いかけるストーカー。
 言ったはずだ。
 俺から逃げたら最後。死ぬまで背中に気を付けなってな」


 あの人だ。
 あの人は生きていた。
 白く染まった髪は、まるで銀狼のように美しくなびいている。
 全身に包帯を巻いて、左手を吊るしている。だけどクールな眼光でシャープに言い放ち、右手をすっと前に向けた。


 ゴンザは背後を取られたというのに、ニカニカ笑っている。


「正真正銘のバカだな、おめぇ。
 大人しく寝んねしていりゃ、死なずに済んだものを。
 俺のステータスは更に急成長を遂げた。
 瀕死のキサマの貧弱な魔法など、春の優しいそよ風以下よ」


「バカはてめぇよ。
 魔法防御関係なしにぶっ放せる呪文を知らねぇのか?
 いいだろう。リクエストに応えてやる。
 高等防御魔法ミスリルガードォォォ!!」


 ゴンザの体が硬質化していく。


「う、動けん!
 だがその魔法は、確か防御力・魔法防御共に最強になるってやつだろ?
 これで俺の動きを封じたつもりだろうが、なんというノミの脳みそ以下の浅はかな悪知恵よ。俺が動けるようになったと同時に、地上全土を焦土と化してやればいいだけの話」



「それは無理ってもんだぜ。
 お前はそのまま消滅することになるんだぜ?
 知らねぇのか?
 ひのきの棒に貫けぬものなど無いってことを!」


 シュバルツァーさんはあたしに人差し指を向けた。

 あたしの体が螺旋状の白い光に包まれていく。

 どうしたんだろう?
 力がみなぎってくる。


 もしかしてシュバルツァーさんは回復魔法も自在に使えるようになったの?



 そういえば伊藤さんは言っていた。
 黒の魔道士は、白銀の大賢者にプロモーションしたって。


「あんたが伊藤先生か? スーツにシャープなメガネ。俺がイメージしていた通りのお人だ」

「お初にお目にかかります。
 どうやら闇に生きる暗黒魔道士ストーカーは、白銀の追跡者(シルバーシャドー)になれたみたいですね」

「ふ、俺はそんなんじゃねぇよ。ただのストーカーで結構。狙うは悪のみ。それが俺の生き方さ。
 さぁ、ノエルよ。
 そろそろHP・MPが全快しただろ?
 もう一発、ドでかいのをかましてやれ!」



 あたしのすぐ傍に、いつの間にかダンさんもいた。

「ノエルちゃん、約束は守ったぜ。そんでもって、ようやく俺も活躍できる! 馬鹿力なら任せておけ。フィニッシュはあんたのもんだ!」

 ダンさんが硬質化したゴンザを抱きかかえて、「うおおおお」という掛け声と同時に力任せに空高く投げ飛ばした。


 あたしは上空を見上げた。
 そして翼を広げ、二本のひのきの棒を取り出す。

 ――魔法剣二刀流!

 ひのきの棒が赤くうなる。それは突撃の合図。あたしの心臓音がドクンと高鳴る。それは終焉へのカウントダウンだ。あたしは地を蹴りぬき、一直線に突撃していく。


 標的はミスリルとなった諸悪の権化。
 あいつは、もはや微塵も動けない。
 狙いを外す訳がない。

 シュバルツァーさんの思惑は分かっているつもりよ。
 だから渾身の力を込めて、両手にあるひのきの棒を投げつけた。

 接触直前。

 パチンと指を鳴らす音が聞こえた。
 音を立てたのは、きっとシュバルツァーさんだ。
 同時にミスリル化したゴンザの表面に亀裂が入る。
 これで防御力無視の貫通攻撃がゴンザへ向けて火を噴く。



 ――ゴンザ。
 あなたは不幸よ。
 前代未聞のこの奥義を、もう一回食らわなくてはならないんだもん。

 いえ。
 違うわ。

 もはや、そんな生易しいものではない。

 あたしは、あなたを一度倒している。
 例え偽物といえど、悪魔を倒したことには違いない。
 あたしは大きくレベルアップを遂げている。
 だからもはや1859億のダメージなんて遥かに凌駕してしまうの。
 おそらくその5倍……。いえ、10倍以上のダメージがあなたを貫くでしょう。


 計り知れない超絶なる苦痛が、ひのきの棒を通じて再びゴンザを貫く。


「ぎゃわあああああ。
 いでぇ、いでぇ、無茶苦茶いでぇよおおお!
 ノエル。
 許して。
 俺が間違っていた」



 そんな言葉であたしが手を緩めると思っているの?
 あなたはそうやって、今まで多くの人達を騙してきた。


 四散していくゴンザを見つめ、あたしは祈った。


 これからあなたは償うの。
 伊藤さんは地獄すら生ぬるいって言っていたけど、あたしは許してあげる。
 だから地獄という名の監獄でたっぷり反省して、いい子になれるように頑張りなさい。


 だって……


 あなたがいたから、あたし達は頑張れた。
 あなたを倒す為に、辛い日々でも耐えてきた。
 そしてあたしにはたくさんの仲間ができた。

 伊藤さんに人の温もりを教えてもらった。
 魔女ルーシェルさんに、誰かに頼られる喜びを教えてもらった。
 ダンさんに愛する者を失う辛さを教えてもらった。
 シュバルツァーさんに本当のカッコよさを教えてもらった。

 そして。
 あなたの娘。
 カトリーヌに真の勇気を教えてもらった。


 ありがとう、ゴンザ。
 さようなら。



 凄まじい閃光と共に真っ赤な爆炎が舞い上がり、大量の砂塵が辺りに散った。
 この霧が消えたとき、きっと今日の終わりを告げる美しい夕焼けが祝福の赤い光であたし達を迎えてくれることでしょう。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ