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スタイリッシュ武器屋 作者:弘松 涼
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30 戦術指南上級編 魔神アモンをひのきの棒で倒せ3

 魔道士のお兄さんこと、シュバルツァーさんには、かなりの知識と実力、そして経験があるような気がします。
 言葉の節々でストーカーが云々とか言わなければ、かなりかっこいいと思います。
 だからわりと損をしていると思いますし、これからも他人に変な人だと思われるような気がします。

 そんなお兄さんがどういう過去を歩んできたのか気になっていたので、聞いてみることにしました。
 できることならお兄さんの過去を知って、違うタクティクス名を命名してあげられたらな、と思いつつ。



 お兄さんは、「確かにこうやって一番盛り上がっている野郎が何者か分からないと不安なのは分かる。軽く自己紹介をしておく」と言って、どこか遠い空を見つめて昔話を始めました。
 そんなつもりで聞いたのではないのですが、これでお兄さんの過去をちょっぴり知ることができます。
 ストーカー以外のカッコいいタクティクス名を考えるため、あたしはお兄さんの話に集中しました。





「……俺は小さい頃、親に捨てられた。
 俺を育ててくれたのは、鍛冶屋の親父だった。
 朝から晩までこき使われてきた。

 家が貧乏だったから仕方ない。
 そう自分に言い聞かせて、鍛冶屋の手伝いをしていた。

 俺は魔道士になりたかった。
 自由にどこへでも転移できるすげぇ魔道士に。
 あの時の俺は魔道士に憧れていた。

 俺が7歳だったころか。
 この日は、親父の機嫌がよく、俺に3ゴールドをくれた。
 喜び勇んだ俺は、古本屋に行き、その金で一冊の魔道書を購入した。

 何が書いてあるかチンプンカンプンだったが、必死に読もうと努力した。

 鍛冶屋の親父は笑いながら、「ははは。何バカな物を買ってきたんだよ! 質屋で安く叩き売りされている魔道書なんざ、ろくな商品じゃねえぞ。難しい古代文字で基本的な魔法が書かれてあるだけだ。まぁ可哀そうだから、俺の辞書をやろう。まぁ俺も、昔、古代文字で書かれた魔道書を読みたくて、おめぇと同じミスをしたことがあるから気持ちは分かる。結局挫折したけどな」と言って、俺に分厚い辞書を49冊くれた。

 その日から俺は、仕事が終わると、月明かりを頼りに、意地で魔道書を読もうとした。
 まったく読めなかった魔道書も、なんとか読めるようになっていった。
 結局その本で覚えた魔法は、小さな火を起こす方法だけだったが、おかげで俺は古代文字を習得できた。

 16歳になった俺は、鍛冶屋の店を出て、王宮図書館で翻訳の仕事に従事することとなった。仕事上、古代文字で書かれた難しい魔道書をタダで読むことができる。

 これで俺は世の中に出回っていない呪殺系の古代魔法まで習得することができたって訳だ。

 俺を捨てた両親のおかげで、俺は鍛冶屋の親父と出会えた。鍛冶屋の親父が俺を派手にこき使ってくれたから、俺は自由を欲し、魔道士を目指した。そして負けまいと思い、必死に古代文字を勉強してきた。

 俺は、親や鍛冶屋の親父には感謝している。

 そんな親はまだ健在だった。
 俺にコンタクトをとってきたんだ。

 両親もあれから頑張って商売を始めたらしく、少しばかりの財産もできたらしい。
 そして俺を必死に探していたと教えてくれた。
 あの時は済まなかった。できることなら、もう一度、やり直したいと涙ながらに言ってくれたんだ。

 別にいいさ。
 あの時、捨ててくれたおかげで、今の俺がある。

 もう恨んではいないよ。

 三人で手を取り合った。
 ここから俺の新しい人生が始まるんだ。
 その時の俺はそう思っていた。

 そんな俺に、一人の女が近づいてきた。

 その女はひた向きな俺に惚れたと言ってくれた。
 そんなことを言われたのは、生まれて初めてだった。
 俺たちはすぐに恋に落ちた。



 だが……



 恋は人を馬鹿にしてしまう。
 俺は彼女に夢中になった。
 俺は騙されていた。


 そのことに薄々気づきはしていても、俺は彼女を信じたかった。


 こんなことがあった。
 彼女はとある僧侶を殺して欲しいと頼み込んできた。
 生意気な元彼で意地悪をされたと言ってきたんだ。


 怒りに打ち震えた俺は、致死魔法で殺そうと思った。
 寺に忍び込んで、野郎を観察した。

 僧侶は、可哀そうな子供にパンを配っていた。
 俺の眼には、とてもそいつが悪者には見えなかった。
 そいつからは、俺と同じ苦労人のにおいがする。

 だから俺は、思い切ってその僧侶の前に現れて、彼女に謝ってくれと頼んでみたんだ。

 
 するとその僧侶は妙なことを言った。

『ボクはその昔、カノンさんがモンスターに襲われていたのを助けたことがあります。その時、カノンさんに付き合ってください、とっても気持ちの良いことを教えてあげるわ、と言われたことがあります。
 ボクはその前にあなたにお教えしたいことがあります、とっても気持ちがよくなることをして差し上げます、と言って、お寺に呼び出したんです。
 カノンさんは、あなた、見かけによらず、積極的なのね、と言ってボクについてきてくれました。
 カノンさんを仏様の前で座禅をさせて、こう言いました。
 あなたを助けようと飛び出していったのは、あなたが散々バカにしたあの人です。
 その人にまず謝るべきです。
 感謝の気持ちを相手に伝える。これほど気持ちの良いことはありません。
 そうしたら彼女は、何よ! 足がしびれちゃったじゃないの! バーカ! 死ねー! と、ひょこひょこと去っていかれました」


 
 俺は唖然としたが、それを彼女にそのまま伝えた。

 
 そうしたら彼女は、『ごめんなさい。私、あなたを試しただけなの。だってあなたは致死魔法が得意な上級魔道士。見境なく人を殺す人かどうしても知りたくて。本当にごめんなさい。でも、あなたは本当に素敵です。それほどの力を持ちながら、優しさも兼ね備えています。本当に大好きよ』と言って俺の手を取った。

 
 今思えば、スタイリッシュにかわされただけなのに、あの時の俺は、彼女の言葉を鵜呑みにしてしまった。


 だがそんな日々も長くは続かなかった。
 1000万ゴールド搾り取られ、あの女は消えた。


 そして見つけた。
 勇者お嬢様学園で。


 もちろん怒りに打ち震えたさ。
 だがもう一つ別の感情が芽生えかけていた。


 尊敬の眼差しで彼女を見つめる一人の少女が気になっていた。
 その少女は九九もまともに言えない。
 まだ勉強をやり始めたばかりなのだろう。
 そんな子が、「私、カノン先生のようになりたい」と言っているのだ。


 俺の怒りが頂点に達した。
 まだ九九の言えない善悪の分別すらつかない少女を、あの女は……


 このまま殺すのは簡単だ。
 だがそれだけではダメだ。


 カノンの弟子たちにも教えてやらねばならない。
 悪いことをすれば、いつかその報いを受けなければならないことを。


 カノンを沈めた日。
 カノンは俺に言った。


『ふん。
 誰かと思ったら、あなただったの?
 これで私に勝ったつもり?
 私には快適勇者タクティクスがある。
 見張りの連中をスタイリッシュに誑かして、いつでも逃げることが可能よ。
 そうしたら、またチンケなストーキングでも続ける気?
 キモいクソストーカーさん』


 何を負け惜しみを……

 その時の俺はその程度にくらしか思っていなかった。

 これでやっと俺の人生を完結できる。
 ただ一つ思い残すことがあるとすれば、あの少女がどうなったか心配だった。
 幸せになってくれればいいのだが……
 金を工面してくれた親には迷惑をかけちまうが、もはや俺の心は真っ白に燃え尽きていた。ハングリーさを完全に失っていた。


 俺はやり遂げたんだ。
 これで終わることができる。



 だが俺は終わっていなかった。
 ノエルの先生の存在を知り、新たなる使命に目覚めた。
 借金だって返さなければならないが、なんとしてもやり遂げてみせるさ。


 だから今ならハッキリと言えるぜ。
 ノエルの先生のように、この力を正義の為に使う、と。



 今の俺だったら、あの時のカノンにこう言ってやるだろう。


『そうさ。
 俺は地獄の果てまで追いかけるプロのストーカーだ。
 もしてめぇが脱獄して再び悪さを始めたら、ストーカーの意地にかけて、てめぇを探し出してやる。
 お前には、分からないのか?
 九九すらできない可哀そうな子が、お前を慕い、この後、どのような人生を歩んでいくのかが。
 お前一人が不幸になるのなら、別に構わない。
 だがお前は、お前を慕うすべての者を不幸にしようとしている』


 カノンの事だ。
 こう応えるに決まっている。


『は?
 何、一人で盛り上がってんの?
 私以外がどうなろうが、知ったことじゃないわよ。
 だって世の中のすべては、私が快適に生きるためにあるのですから。
 じゃあね。キモいストーカーさん』


 だから俺は最後にこう告げてやる。

 ストーカーで結構。
 これが俺の生き方なのだから」




 そこでシュバルツァーさんの話は終わりました。


 紛れもなくあなたはストーカーさんです。
 誰よりもカッコいいストーカー。


 ストーカータクティクスよりかっこいい名前なんて思いつきません。



 だって、カトリーヌの心はシュバルツァーさんが救ったのですから。

 カトリーヌは、悪いことをしたらいけないことを知った。
 そしてあたしを助けてくれた。


 今、あたしがここに立っていられるのは、カトリーヌが必死にゴンザを引き留めてくれていたから。


 だから言ってあげました。

「ストーカータクティクスが、二人の女の子を助けてくれました」


「え?
 それは誰だ?」


「一人は内緒。
 もう一人はあたしの友達」
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