挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
スタイリッシュ武器屋 作者:弘松 涼
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

27/145

27 戦術指南初級編 炎の魔人・イフリートをひのきの棒で倒せ2

 ここは妖魔のおじいさんに案内されたお部屋。
 落ち着いたシックなインテリアに思わずため息がでました。
 年季の入った掛け時計や食器棚が飾られていますが、なんとも趣があって古さを感じさせません。伊藤さんのお店とは異なった完成されたオーラみたいなものを放っています。

 だけどそんなに悠長にしている時間はありません。
 あたしの順番は最後から2番目。

 イフリートには一戦おきに10分のインターバルを取らせるらしいです。
 その間、イフリートのHPを回復させたりコンディションを整えたりしているのだと思います。
 あたしは42番目。
 最短で進んでも7時間はあります。
 それまでに倒されちゃったらお開きになってしまいますが、おじいさん曰く、復活初日で倒されたことはないそうです。


 とにかくあたしは、この間に工作をしておかなくてはなりません。

 テーブルの上にひのきの棒を置くと、きゅうりの輪切りのようにナイフで切断していきます。
 ゴリゴリやるのですが、あたしの器用さと腕力だと、この作業はわりと難しい。


 その時でした。
 部屋がコンコンとノックされました。

「おい、お嬢ちゃん、俺だ。戦士のダンだ」

「どうしたんですか?」

 部屋を開けて首を傾げるあたしに、「なぁに、自殺を止めるつもりで来たんじゃねぇよ。十分考えて決断したことなんだろうからよ」


 またその話題ですか?
 あたし、死ぬ気はさらさらないのですよ?


「嬢ちゃんを見てると、娘を思い出してな……。だからコレをやろうと思って」


 おじさんの手には木製のオルゴールがありました。
 おじさんが箱を開けると、綺麗な音が流れ出します。


「こんな大切な物、受け取れません。お嬢様にあげて下さい」

「……いや、いいんだ。それよか、何をやっているんだい?」

「ひのきの棒の輪切り」

「どうしてそんなことをしているんだ? リーチが短くなったら不利じゃねぇか。
 あ。
 なるほど。
 考えたな。
 その発想はすげぇぜ」


「あたしがどう使うか分かったんですか?」


「あぁ。
 面白い着眼点だ。
 和風シーフの、えーと忍者だっけか、彼らが使う手裏剣のように投げて戦う気なんだろ?
 大抵の武器はバラしたら威力は半減しちまうが、ひのきの棒は既に最低の攻撃力だ。いくら分解しても1未満にはならねぇ。
 安く弾数を揃えることができるしリーチも伸びて有利になる。
 だけどイフリートは速いらしいぞ。
 当たるのか?」


 ちょっと違うかな?
 まぁいっか。


 だから「うん」と頷いておきました。



「まぁ俺だったらもっと強力な飛び道具を揃えるけど、そのやり方だと半端になく金がかかる。俺も手伝ってやるぜ」


 さすが戦士さん。
 こういった作業には慣れているのでしょう。
 ダガーを使って手際よくひのきの棒を切断していきます。
 ダンさんが工作を手伝ってくれたおかげで、すんなりと作業が終わりました。


「ありがとうございました。助かりました」

「頑張れよ」


 にっこりと笑って自分の部屋に戻っていくダンさん。

 だけどダンさんに貰ったオルゴールから流れてくるメロディーは、何故か悲しい曲に聞こえました。



 *


「ノエル様。そろそろお時間です」

 そう言って部屋をノックしているのは、館主のおじいさん。

 あたしはおじいさんの後をついて、大きな扉の前までやってきました。

 壁側に椅子が並べられており、ストーカーがどうとかおっしゃっていた魔道士さんのお兄さんが、何やら難しい顔をしてブツブツ言いながら座っています。


 おそらく次は彼の順番。
 その次はあたし。
 イフリートと戦う作戦でも考えているのでしょうか。


「……このまま生涯をまっとうしても良いのだろうか……
 俺はストーカータクティクスを極めた。
 誰にも負けねぇ最強のストーカーだ。
 もしかしてこの力を使えば、何か道が開ける気がする」


 そうですかね?
 よく分かりませんが。


「俺はあの女の快適勇者ライフタクティクスを破ったんだ。
 あの女は塾の講師クラス。
 つまりあいつのタクティクスは金になるレベルってことだ。
 俺はあいつより勝る。
 もしかして俺のタクティクスも金になるかもしれない」
 ――あ、君は?」

「ノエルだよ」

「君も死ぬためにここに来たんだろ?」

「いえ、そのつもりはまったくありません」

「そうか。分かるぜ。この世は腐っているもんな。俺もこの世に未来など感じない」


 この魔道士さん、あたしの話を全然聞いていません。


「なぁノエル。
 そんなナリでよく頑張ったな。
 お前を苛めてきた奴がいるんだろ?
 そいつがさぞかし憎いだろう。
 俺には分かるぜ。
 お前を苦しめてきた奴は、俺を苦しめてきた奴と同じにおいがする。
 なんなら順番が来るまで、俺が極めたストーカータクティクスのさわりだけでも教えてやろうか?」


「いえ、遠慮しておきます。
 あたしは営業妨害タクティクスひのきの棒編を勉強中ですから」


「なに!?
 営業妨害タクティクスだと。
 俺のストーカータクティクスと同じにおいがするぞ。
 勉強中と言ったな。
 ということは、つまり営業妨害を教えている野郎がいるってことか?」


「え、まぁ、そういうことになります」


「やはりそうだったか。
 なぁ、ノエル。
 そいつはボランティアで教えてくれているのか? それともビジネスでやっているのか?」

「え? え?
 えーと、ボランティアのような気もしますが、職業は商人ですし、とりあえず教材費は支払いました。親切心で教えてくれたのだと思いますが、一応、本人はビジネスだと言っています」

「そっか、やっぱりそっか!
 営業妨害タクティクスの講師は、プロのビジネスマンだったのか。
 俺も生徒を見つけ、ストーカーに必要なアイテムを売れば商売は成立するってことか。
 なぁ、ノエル、そいつは金持ちなのか?」

「え? よく分かりませんが、お客様はすごい方ばかりです。
 きっとお金持ちだと思います」

「おおおおおお!!
 先駆者である営業妨害タクティクスの講師は、成功して大金持ちになっている。
 つまり似た路線で突き進んでいる俺も、金持ちになるチャンスがあるってことか。
 ノエル、教えてくれ。
 授業料はいくらだった?」

「授業料?
 タダだよ。
 教材費も、先にお金をくれて、その中で払っただけだから。実質あたしは1ゴールドも払っていないよ。それどころか50ゴールドのおつりまで貰っちゃった」


「なんだと!?
 それで商売が成立するのか?
 授業料ビジネスではないのか?
 どういうカラクリなんだ?」


 妖魔のおじいさんが「シュバルツァー様、そろそろご準備の方を」と声をかけてきましたが、魔導士のお兄さんは「うるせぇ! 俺は今、それどころじゃねぇんだよ! もしかして俺の極めたストーカースキルが大化けするかもしれねぇってのに!」と無茶苦茶言っています。


「あ、あのぉ。
 規則により途中リタイヤはできませんが」

「誰も試合しねぇって言ってねぇだろ!
 もうちょっと待てや。
 おい、ノエル。
 教えてくれ。
 そいつはどこから金をふんだくっているんだ?
 収入源はなんだ?」


「え?
 え?
 ひのきの棒を売って……」


「なんだと!?
 それが営業妨害グッツなのか?
 まぁそれはいい。
 だが、それではたいした儲けにならんだろ!?
 あ、分かった。
 この手があったか!
 恨みの対象者から金をもぎ取るんだろ? そしてふんだくった慰謝料なり口止め料なりの何割かを成果報酬として貰っているんだな?
 なるほど。
 それは儲かりそうだ」


「いえ、違います」


「じゃぁなんだ。
 もっといい手があるのか?
 弱い者の代わりに悪い奴をこらしめて金を貰っているんじゃないのか?
 だってそこにはビックチャンスがありそうじゃねぇか。
 教えてくれ。
 そいつは正義か、悪か?」


「完全なる正義です」


「先駆者は正義の営業妨害タクティクス使い。
 なら俺も正義のストーカータクティクス使いになれば儲かるってことか。
 そういうことなのか!?
 って、正義のストーカーってなんだ!?
 くそったれ!
 全然分からねぇ。
 この謎を解かないと、死んでも死にきれない。
 おい、ノエル。
 順番を変われ!
 その間、俺は考える」


 なんか無茶苦茶言われました。
 妖魔のおじいさんも弱っています。
 仕方ないので、あたしは先に行く事にしました。


 扉に手をかけます。
 心臓がドクンドクンと高鳴り、何とか落ち着こうとしても勝手に指は震えます。

 この先にイフリートがいる。



 *



 霧のかかった大理石の空間。
 中央には魔法陣が描かれた、大きな円状の門があります。

 今、イフリートは休憩に入っています。

 壁にある火時計の針が真上を指せば、この門が開くとのことです。
 バトルまであと5分あります。


 3分をきったところで、あたしは取り出していたひのきの棒を組み立てていきます。


 えーと、順序が大切でした。


 90センチタイプのひのきの棒をを2センチ間隔に輪切りにしたものを手に取り、剣先から柄の方に向かってジョイントさせていきます。


 そして「魔法剣。アイスソード!」と詠唱します。

 ひのきの棒はカチコチに氷結していきます。
 それを足元にある鉄の門に向かって垂直方向にかかげ、完全静止させます。


 そして時は来ました。


 時空の門は回転しながら開かれていく。

 あれがイフリート!?
 獰猛な牛の顔をした化け物が、灼熱の業火をひっさげ物凄い勢いで上昇してきます。


 三分経過したので、剣先からパラパラと剥がれていきます。





 伊藤さんの戦略指南書にはこう書かれていました。

 魔法剣とは、ソードタイプの武器に魔法属性を与えることができる奥義です。

 イフリートの弱点は氷。
 この度は打撃による攻撃ではありませんのでノエル様の腕力は加算されませんが、貫通攻撃扱いで更にクリティカルが加算されます。

【1回の攻撃力】
 1(ひのきの棒の破壊力) × 2(クリティカルヒット) = 2(ダメージになります)

 ひのきの棒はジョイントすれば一本の武器になるので、一回の魔法剣の詠唱で氷結属性を付加することができます。

 剣先から組み立てることにより、下から時間差でバラバラになります。
 90cmタイプを2cm間隔に刻んでいるのですから、一人連携攻撃が45回転することになります。


【方程式】 
 2(1回の攻撃力) + 連携ボーナス(全体ダメージ × 0.2)

1回目2
2回目5
3回目9
4回目13
5回目18
6回目24
7回目31
8回目40
9回目50
10回目62
11回目77
12回目95
13回目116

 中略


30回目2,837
31回目3,406
32回目4,090
33回目4,910
34回目5,895
35回目7,076
36回目8,494
37回目10,195
38回目12,236
39回目14,686
40回目17,625
41回目21,153
42回目25,386
43回目30,465
44回目36,561
45回目43,875


 ひのきの棒ボムによるダメージは43,875です。
 イフリートなど瞬殺です。


 あたしは開かれた門を覗いてみた。
 イフリートは全身から煙を上げながら落下している。



 あ。
 勝っちゃった。



 経験値ブーストにより、指南書に書かれていた通り、あたしのレベルは51まで急上昇しました。



 魔法陣の部屋から出ると、戦士のダンさんと、ストーカータクティクスで悩む魔道士のお兄さんが、目を丸くしていた。

 魔道士さんはガタガタと震えながら、あたしを指差して、

「お、おい。ノエル。
 もしかしてキャンセルしたのか?
 そうだよな、キャンセルだよな。
 てか途中キャンセルできるのか?
 俺はダメだと言われたぞ」


「えーとね、勝ったよ」


「え……
 え……
 ええええええ!!!
 なんだと。
 おめぇ、イフリートに勝ったのか!!
 ……なんということなんだ」

 しばらくワナワナと震えていた魔道士さんでしたが、何か思いついたのでしょうか。静かに口を開きました。

「……
 俺にはひとつ分かったことがある。
 俺のストーカータクティクスはまだまだ未熟ってことが。
 だって……
 すげぇ。
 すげぇよ。マジですげぇよ。
 そうとしか考えられない。
 俺の直感がそう言っているんだ
 アホのようなことを聞くんだが、ノエルよ、お前は営業妨害タクティクスを駆使してイフリートを倒したんだろ?」

「うん」

「やっぱそうか!
 たったレベル2でイフリートに挑んで勝利するなんて、戦略なくして成し遂げられる訳がない。
 お前は営業妨害タクティクスを勉強中って言っていた。
 つまり営業妨害タクティクスは、モンスターにも通用するのか!?
 営業妨害タクティクスは、戦闘にも利用できる。
 そして凄まじい破壊力を秘めている。
 そうなのか?」


「ううん。
 営業妨害タクティクスじゃぁダメ。
 あたしが使ったのは、営業妨害タクティクスひのきの棒編だよ」


「何だ、それ?
 もしかして営業妨害タクティクスには何段階も覚醒バージョンがあるのか?」

「うん。
 初級編、中級編、上級編ってのがあって、その上がひのきの棒編だよ」

「俺のタクティクスには粘着編しかない。
 この粘着編を使っても、イフリートには絶対に勝てない。
 つまり俺はまだまだ未熟ってことが分かった。
 でも俺は分かったんだ。
 営業妨害タクティクスのように、ストーカータクティクスにもまだまだ上があるってことが!
 ノエルの先生のように俺もタクティクスを昇華させていけば、もしかしたらイフリートにも勝てるようになるかもしれない。
 やけっぱちになっていた俺にも目標ができたぞ!
 だから俺は誓うぜ。
 俺は正義のストーカーになる。
 ノエル、教えてくれ。
 お前の先生の名前を」


「伊藤さん」


「そうか、伊藤っていうのか。
 正義の営業妨害タクティクス使い、伊藤……
 おい、伊藤先生よ!
 俺もお前のような最強タクティクスを編み出してやるぜ。
 お前は営業妨害の世界でナンバーワンなんだろう? だったら俺はストーカーの世界でナンバーワンを目指してやる。
 ノエル、伊藤先生によろしく伝えてくれ。
 世界のどっかでお前のようになりたくて、頑張っている熱いバカがいっるって事をな!」



「……う、うん」




 お兄さんの名前は、黒の魔道士シュバルツァー。
 その名前にぴったりのシャープな顔つきをしていて容姿はわりとイケているような気もするのですが、なんだかすごく残念な気もします。


 ただ……
 伊藤さんのタクティクスがまたひとり迷える人を救ったことだけは、紛れもない事実なのだと思います。


 そんなことよりも次は、中級編をすっ飛ばしていきなり上級編なのです。
 戦術指南書には、難易度は飛躍的に上昇すると書かれてありました。
 さらに伊藤さんらしからず、結構アバウトなんです。
 あたしはシュバルツァーさんの訳の分からない戯言よりも、上級編の事ばかりが気になっていました。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ