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スタイリッシュ武器屋 作者:弘松 涼
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24 営業妨害タクティクス ひのきの棒編4

 伊藤さんの読みは当たっていました。
 ゴンザは、他人のスキルを略奪できる『他力本願の勾玉』という謎のアイテムを持っていたのです。
 その脅威を伝えに、ラクライナの牢獄に急ぎました。
 陽が明けたと同時に出てきた門番のおじさんに、おにぎりの差し入れを見せて中へ入れてもらいます。


 伊藤さんは熱心に写経をしていました。

「ノエル様、おはようございます」

「のんきにそんなことをしている場合ではないんです! 実はですね――」


 あたしの話を聞き終わると、いつもの落ち着いた物腰のまま静かに口を開きます。


「なるほど。やはりそうでしたか。
 他力本願の勾玉は、闇の神器とも言われる非常に危険なアイテムです。使いようによっては爆発的な力を発揮します。もしかしてゴンザ氏は、わたくしをストーカーしている三流魔王に最も近づく存在になるやもしれませんね」


 え?
 え?
 それってそうとうやばいのではないのですか!?



「さてと、ようやく書き終わりました。
 珍念様はこの修行を毎日しているのですね。
 感心します。
 これはゴンザ氏に差し上げる経本です。
 このまま互いが手を進めていけば、ゴンザ氏は確実に死ぬことになります。
 彼は死後、天国はもちろんですが、今のままでは地獄にすら拒絶されます。せめて地獄・餓鬼・畜生界のいずれかに受けいれてもらえるように、心を込めて書きしたためました。彼が読めるように振り仮名入りで。
 そこのお方。
 申し訳ございませんが、この経本をゴンザ氏に届けてあげてくれませんか?」


 見張りのおじさんはぷっくり頬を膨らませ、今にも噴き出しそうな顔で経本を受け取ると、向こうへ行って仲間たちと「斬首まであと4日だ。伊藤はついに発狂したぜ。ダハハハ!」と大笑いをしている。

「え、え、え、伊藤さん!? なにをのんきに……。あいつ、魔王クラスになっちゃうかもしれないのに、あたしが倒せるの? それにゴンザはスキルの略奪ができちゃうんだよ! ってことは、あたしが身に付けたスキルだって奪われてしまう可能性だってあるんだよね?」

「ゼロではありません。
 でも心配はいりません。
 敵が強大であればあるほど、ノエル様は強くなれるのですから。
 ゴンザ氏の能力は所詮借り物。
 ノエル様には、鋼の忍耐力があります。
 それは如何なる者にも奪うことのできない、ノエル様の財産です。
 バネは軽く押さえたくらいではそれほど反発しませんが、限界まで押さえつけられたバネは大きく飛び上がります。
 さて、本日より強化合宿を始めましょう。
 指定した場所は分かりますね?」


「うん」


「本日倒していただくモンスターはイフリートです」


 宝箱に同封されていた合宿ツアーのパンフレットには、イベントの中にイフリートを倒す旨も記されていました。『がおー』という吹き出し入りのイラストまで。

 もちろんあたしは何を悪い冗談を? と思っていましたよ。

 だって――
 武器屋に訪れたお客様のお話で幾度か聞いたことがありますが、イフリートは全身が炎に包まれた巨大な悪魔だそうです。
 レベル60以上の熟練冒険者パーティだって勝てるかどうか分からない化け物です。
 あたしなんかが倒せるわけがない。

「ご安心ください。イフリートは弱いです」

「え? 強いよ! 物凄く強いよ! あたしなんかが勝てる訳がないよ」

「いえ、魔王よりはるかに弱いです」

「比べる相手が、そもそもおかしいよ」

「ゴンザ氏は、魔王と肩を並べる力を持つ可能性を秘めています。ですがご心配は不要です。戦闘指南書もパンフレットの裏におつけしておりますので、戦闘前に熟読してください。あまり知られていませんが、ひのきの棒は最強です。イフリートなど瞬殺できます。魔王も秒殺」


 ひのきの棒は、攻撃力たったの1。


 まったく意味が分かりません。
 そういえば、パンフレットの裏になんか書いてあったような気がします。
 バカみたいな手が。


 そうはいっても刻々と時は流れていくのです。こんなところでゆっくりしている場合ではありません。とにかく冒険を進めなくてはと思い、おにぎりセットを鉄格子越しに渡そうとしました。


「これはあの方に差し上げてください」

 あの方――きっと魔女さんのことだ。
 で、でも――

「伊藤さん。ちゃんとご飯食べている!?」

「普段の仕事から解放されてこのような場所でくつろげるのですから、折角のこのチャンスを活かして断食をしてみようと思っています。
 断食とは僧侶にとっては修行ですが、我々凡夫にも効果があります。
 体内にたまった余分なものをいったんすべて出すことにより、腸内を綺麗にする効果、肌の調子を整える効果、ガン予防、更にはアンチエイジングまで期待できます。
 こういう場所にでもいないと、なかなかできません。
 日常だと誘惑に負けてしまいますから。
 わたくしのことは気になさらず」


 監禁されてからおそらく何も口にしていないと思います。
 それなのに、なんというかわし方なんでしょう……

 でも確かに魔女のルーシェルさんのことも気になります。
 ルーシェルさんは長期間ここに閉じ込められて、完全に気力を失っていました。
 おにぎりを持って、ルーシェルさんの前までやってきました。


「ルーシェルさん」

「……ノエルちゃん。また来てくれたの?」

「あの、おにぎりです」

「……ありがとう。昨日は美味しかったわ。ちょっとこっちへ来てくれない?」

 鉄格子ギリギリまで近づいたあたし。うつろな目だったルーシェルさんは突如立ち上がり、あたしのシャツに何かを押し込みました。


 そしてあたしに耳打ちしました。

「これ……。
 エルフのマント。
 姿を消すことができる」


 え!?
 どうしてあたしに、魔法のアイテムをくれたの。
 それに姿を消せるってことは、うまく使えば、ここから脱出できそうな気すらします。

「……これを使うには相当の忍耐力が必要。
 自分を石だと思い込み、心をじっと殺す必要がある。
 ただボーとするのとは違う。
 心を殺し、静かに気をうかがう。まるで獲物を見つけた獰猛なハンターのように。
 今の私にはとても使いこなせないアイテム。
 だからあなたが使って。お願い」


「どうしてそんな大切なものをあたしに?」


 今は使えないにしても、これはここから脱出するための切り札だったんでしょ?
 だから肌身離さず隠し持っていたような気がします。


「ノエルちゃんは約束したわよね?
 私がお店をオープンさせたら最初に来てくれるって。
 だから私はここでお店をオープンした。
 そしてあなたは最初に来てくれて、私からマントを買ってくれた。
 お代は、このおにぎり。
 あなたが何をしようとしているのか、私にはさっぱり分からない。
 だけどあなたは私に勇気をくれた。
 だからあなたに賭けてみようと思った。
 ただそれだけ。
 さっ、見つからないうちに早く」



 ルーシェルさんは、右唇をやや上げて、あたしにひとつ頷いた。
 昨日まで完全に正気を失っていた切れ長の青い瞳は、力強い光を取り戻していた。
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