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スタイリッシュ武器屋 作者:弘松 涼
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20 営業妨害タクティクス 上級編

 まだ腕がちょっと痺れます。
 昨日、ご主人様を怒らせて棒で殴られました。
 伊藤さんは包帯をしてくれたけど、ご主人様にこのことがばれたら大変です。
 ご主人様に会う前に、包帯をとって隠しました。
 こんな毎日ですが、辛くはありません。

 この日も伊藤さんのお店で勉強を教わり、その後、お店の掃除やお手伝いをします。できることは少ないけど、ちょっとでも伊藤さんのお役にたとうと必死に床を磨きました。帰り際にプリンをごちそうになりました。



 * 



 ご主人様の武器屋では――

 今夜もご主人様は、お酒を飲んで上機嫌です。
 リビングで真っ赤になったご主人様が、女将さんに向かって得意げに話しています。

「ククク。伊藤の店はそろそろ潰れるぜ」

「ほんとうかい? お前さん」

「ノエルが頑張って伊藤のところで難癖をつけてくれているからな。ノイローゼになっちまったんだろ。そろそろ奴は疑心暗鬼にかかり、来る客すべてがクレーマーに思うだろうよ。いわゆるお客様恐怖症ってやつだ。今日偵察してみたら客はほとんどいねぇ。ボチボチ終わるな」

 ご主人様はちゃんと調べているのでしょうか?
 伊藤さんは、新規の方を3名までしか受け付けないですし、リピーターのお客様はほとんどが高レベルの使い手なので、時々やってきて一度にまとめ買いされるだけです。


「ところでノエル。お前、楽しそうだな」

「あ……。はい、
 えーと。
 ご主人様のお役に立ててうれしいです」

「な、言ったとおりだろ。
【方程式】営業妨害タクティクス = ノエルの喜び は、ほぼ証明できたってことだ」


「あ、はい」

「いよいよ最後の詰だ。ちょっと来い。営業妨害タクティクス上級編を伝授してやる」



 あたしはご主人様に連れられて、店の武器庫に入りました。

 斧や剣が並ぶ薄暗い倉庫。
 ギラギラした刃がちょっぴり怖いです。
 今にも動き出しそうな鎧兜も不気味に思えます。
 気のせいでしょうか。
 少しだけ動いた気がします。

 そんな薄気味悪い場所で、ろうそくに火をともしたご主人様は、突然眉間にしわを寄せて怖い顔をしました。


「お前、伊藤と仲良くしているだろ!」

「え!? 何を証拠にそのようなことをおっしゃられているんですか?」


「言ったはずだ。
 俺の推理眼は伊藤以上だと。
 暗かったお前の目は、日を追うごとに輝いていった」


「そ、それは、ご主人様の営業妨害タクティクスの楽しさが分かってきて……」


 なんとかごまかそうと必死に繕いましたが、ご主人様はニカリと不気味に笑います。


「ガリガリで死にそうだったお前は、この一ヶ月で血色のいい顔つきになった。
 伊藤に餌付けされている証拠だ。
 おそらく奴はそのペンダントの中にある母親の写真でも見て、お前を育てれば儲かると踏んでいるに違いない」


「え、それはどういうことですか?」


「お前の母ちゃんはべっぴんさんだ。
 だからお前も成長したらそうなると踏んで、飯と温情を与えて餌付けしているんだ。
 成長したらお前をさらって、奴隷市場に流すに違いない」


「違う! 違う! 伊藤さんはそんな人じゃない!」


 あたしはハッとして口を抑えました。


「あれ~?
 どうして敵である伊藤をかばうような発言をしたのかな~?
 ん~?」


「こ、これはつまり……」


「ククク。
 俺はなぁ、最初からこうなることは知っていたんだ。
 だからアホなふりをして、お前を泳がせていた。
 お前なんかが営業妨害タクティクスをできる訳がないし、受け継ぐ資格すらない。
 営業妨害タクティクスを発動させていたのは俺の方だ。
 お前はただの使い捨ての駒。
 大きくなったら奴隷市場に流してやろうと思っていたが、その前に有効活用できるとは、俺もついているぜ。
 そもそも伊藤はヤクの売人ではない。
 どちらかというと、お人よしの部類に入る。
 珍念もヴァルナも世間でいう立派な人ってやつだ。
 どうやってひのきの棒で戦っているのかまで知らねぇし、そんな安い武器を販売するなんて効率悪いから興味すらない。だがひとつハッキリと言えることは、あいつらはマジで強い。
 だから俺は最初から伊藤を殺すつもりで、お前をぶつけた。
 お前には可哀そうなオーラが出まくっている。
 お人よしの伊藤ならお前を救おうとするだろう。
 だからいいんだよ。
 ククク。
 すべて筋書き通りだ。
 知っていたか?
 実は俺と伊藤は、お前を使って何度もけん制し合っていたんだ。
 お前を棒で殴ったことが合っただろ?
 あれは、俺が伊藤に送ったサインだった。
 俺のサインに伊藤は応えてくれた。
 てめぇに包帯を巻くというメッセージでな」


「包帯を巻いてもらったことなんて一回もありません」


「だから言っただろ?
 俺の目は節穴じゃねぇんだよ。
 お前の右腕には、包帯を巻いた跡があった。
 好意にしてもらっていることがばれるから断るのが普通だ。
 だがお前は断れなかった。
 伊藤に包帯を巻いて欲しかったからだ。
 そして店に帰る直前に外したんだ。
 包帯の跡なんざ、すぐ消える。伊藤の店を出た時に外せばいいものを俺と会う直前までしていた。
 どうしてか? それはお前が伊藤に包帯をしてもらってうれしかったからだ。
 できることなら外したくない。
 それは、お前は伊藤が好きになったという心理から発生するものだ。
 つまりそれなりの人間関係を構築できたという証拠だ。
 そして伊藤。
 奴はバカじゃねぇ。少し考えたら、包帯なんてしたら裏でコソコソやっていることがばれることなんて分かるだろう。
 つまりこれは、宣戦布告の合図だ。
 野郎はかかってこいと言ってきた。
 面白いぜ。
 殺しがいがある。
 これからお前に営業妨害タクティクス上級編のファイナルウエポンになってもらう。
 これで伊藤を確実に仕留められる。
 体と頭が、真っ二つに分離されてな。
 簡単だ。
 奴をマジでヤクの売人に仕立てやればいいだけのこと」


 ご主人様はポケットから白い袋を取り出して、ニカリと口角を上げます。


「簡単なおつかいだ。
 こいつを奴の家に隠してくればいい。
 伊藤と信頼関係を結べているお前なら、気づかれずにできるだろ?」


「で、できません!」


「おめぇはやるしかねぇんだよ!」


 突如ご主人様があたしに手を伸ばしてきた。

 え? 何を?

 ペンダントを握り、力任せに引きちぎられた。
 ペンダントのチェーンがバラバラになって宙を舞っている。

「か、返して! それはお母さんのペンダントなんだよ。そのペンダントに認めてもらったらお母さんに会えるんだよ! だから返して! お願い」


「じゃぁ、行けよ。
 ちゃんとおつかいができたら返してやるぜ。
 逃げようとしても無駄だ」


 その時でした。
 鉄の鎧がガシャリと動いたのです。


「紹介してやるよ。
 俺の営業妨害タクティクスを会得して、重装兵長まで上り詰めたラドン様だ」


「ゴンザよ。その節は世話になったな。
 お前のとこの武器は今一つだが、営業妨害タクティクスは最強だ。
 すべてのライバルを蹴落として、俺がナンバーワンになった。
 だが、最近どういう訳か伊藤の店の客共がメキメキと実力をつけている。
 早いとこ沈めないと面倒だ。
 おい、エルフの小娘。
 お前は粛々(しゅくしゅく)と任務をまっとうすればいい。
 さっさと行け。
 逃げようとしても無駄だ。
 後ろから突き殺す。
 今は夜だし、お前は小さいから後処理なんて他愛もない仕事だしな」


 ラドンという名の重装備の男は、鉄の斧をあたしの喉元に向けてきた。


 ご主人様――いえ、こんな人、もうご主人様でもなんでもない。
 ゴンザはにやにやと醜悪な笑みを浮かべ、

「なぁに。
 心配いらねぇって。
 お前の大好きな伊藤は、宣誓布告をしてきた。
 おそらく準備万端ってことだ。
 俺と伊藤が戦ったらどっちが勝つと思う?」


「伊藤さんよ!」


「じゃぁ何も心配いらないではないか?
 奴は俺に勝てるんだろ?
 行けよ。
 ほら、行けよ!」



 正面対決をすれば、ゴンザなんて伊藤さんの敵じゃない。
 で、でも。
 伊藤さんは何も知らない。
 ただ親切心であたしに勉強を教えてくれていただけ。


「……あ、あ、あたしを殺しなさい」


 斧を持ったラドンは、
「お、これはいけねぇな。マジで覚悟した目だ。こんな目、どこかで見たことがある。こういう目をした奴は、行くところまでとことん行くぜ? どうする、ゴンザ?」


「ノエルよ。
 おめぇ、伊藤の可能性にかけてみろよ。
 どうせお前が死んでも、第二、第三のノエルを量産して、伊藤のところに送り込めばいいだけのことだ。
 どっちにしても、お前と伊藤は破滅する。
 だったら二人仲良く逝った方がいいだろ?
 もしかして伊藤が勝つかも?」


 うぅ。
 悔しくて涙がでてきました。
 ゴンザの言いなりになりたくない。


 だけど――
 あたしが行かなければ、誰か他の可哀そうな子がこんな卑劣な奴の犠牲になる。


 あたしが行くしかない。


「ノエル。ひとつ忠告しておくぞ。
 俺は壁越しに聞いているからな。
 もしこのことを一言でも伊藤に教えたら、お前のペンダントは破壊するから。
 そのつもりで」



 *



 恐る恐る伊藤さんのお店をノックしました。
 クローズのかかったドアが開かれ、こんな時間なのにいつものスーツ姿をした伊藤さんはにっこりとほほ笑んでいます。

「こんな時刻にどうされたのですか?」

「……あ、あ、あ……」

「今日はペンダントをされていませんね」

「……えーと、これは……」

「こんなところではなんですので、よろしければ、どうぞ中へ」


 ダメだよ。
 伊藤さん。
 あたしは、あなたを麻薬密売者にしなくてはならないのですよ。
 適当にあしらってください。


「そういえば、忘れ物をしていたようです。
 いつもの戸棚に置いておきました。
 実はわたくし、今、手が離せない仕事をしていたんです。
 大変申し訳ないのですが、取りに行ってもらえますか?」



 いつもの戸棚。
 それはあたしの個人ロッカーとして用意してくれた場所です。



 ゴンザ達は近くに潜んでいます。
 物陰からザワザワと音がします。
 おそらく憲兵を配置しているのでしょう。
 すべてゴンザ達の息がかかった者達だと思います。
 完全包囲されている。

 ここに来るまでゴンザに「もしおめぇが役所に垂れこんでも無駄だ。見て分かるように俺は国の偉い奴とつながっているし、第一、おめぇのような奴隷なんかの言うことなんて誰が聞くってんだ。それどころかお前が捕まるだろうよ」と、くぎを刺されました。


 

 あたしは震える手で、ロッカーを開けた。

 え? 何もない。

 奥の部屋から伊藤さんがやってきました。


「いけないことをしましたね?」


 いけないことって?
 もしかして伊藤さんは知っていたの?


「あなたは泥棒をしてしまいました。
 お客様と言えど、さすがに見逃すわけにはいきません。
 どうか返してください」


「え、何も盗ってないよ」


「あなたの胸のポケットにしまっている白い紙の袋です。
 早くその袋を、棚の引き出しにお返しください。
 今ならまだ見なかったことにしますから」


「ダメだよ。
 これを置いたら、伊藤さん、捕まっちゃうよ!」


「返してくれなければ、ノエル様が窃盗罪で捕まりますよ?」


「で、でも……」


 伊藤さんは知っていた。
 そしてあたしをかばって捕まろうとしている。
 どうしてなの!?

 いつまでも固まっていると、伊藤さんは人差し指と中指でさっとスタイリッシュに袋をポケットからさらい、棚の引き出しに入れた。

 どうじに憲兵達が押し寄せてきた。

「動くな! 伊藤!」


 伊藤さんは軽く一瞥すると、静かに「このような時刻に何の御用です? もう営業時間は終わっていますよ?」と口にした。


「お前が麻薬を所持していることは知っているんだ。
 これから家宅捜査させてもらう」


 なだれ込んだ憲兵達は伊藤さんの家を隈なく探していった。


「おい、あったぞ!」

 一人の兵士が、白い袋を手にして叫んだ。
 そして伊藤さんの腕に手錠がかけられた。


 指揮していた重装兵長は、大笑いしながら伊藤さんに近づいていった。

「ガハハハ。
 これでお前も終わりだな。
 小娘、よくやった。
 お前の目は嫌いじゃないぜ。
 思い出したぞ。
 あの女の目だ。
 かつて俺はエルフ狩りを任されていてな、ひとつの小国を滅ぼしたことがある。
 小国と言っても、村みてぇなサイズだけどな。
 その種族はバカなんだぜ?
 正義だとか愛だとか、そんな時代遅れな言葉を掲げている。
 確かに剣や弓の腕はすげぇが、俺は営業妨害タクティクスを極めている。
 悪と正義が戦えば、悪が勝つに決まっている。
 だって正義ってのは縛りプレーみてぇなもんなんだせ?
 俺たちはエルフの奴隷の子供に爆薬を背負わせて、ほら、エルフ軍に助けて貰えって言って突撃させた。
 膨大な物量と火力、そしてありとあらゆる卑怯な手を駆使して沈めてやったのだ。
 だがその女王がすげー奴なんだ。
 最後の一人になっても怯むことなく、勇敢に真正面から向かってきたんだ。
 雨のように矢が降ってくる戦場を、赤子をかばうように抱いたまま一騎駆けしてくるんだ。背中にはたくさんの矢が刺さっている。
 どうして死なないんだ、この女。
 俺は正直、びびっていた。
 だがやつも所詮、エルフの女。化け物じゃねぇ。
 胸に大きな一発を受け、そのまま重力にすいよせられるように馬から落ちた。
 やったぜ!
 俺はエルフ軍を打ち破ったぜ!
 うれしくて、敵の顔を拝みに、走り寄った。
 そうしたらまだ生きていたんだ。
 びびっちまったが、とにかく斧を高く掲げてとどめをさそうとしたんだ。

『……わ、私はもう助からぬ……。
 た、たのむ……
 武人の情けだ。
 この子はまだ何も分からない……
 この子だけは……むごく……扱わないで……』

 俺は頷いてやった。
 だって女王は最後の力で声を振り絞って言ったセリフだ。
 俺が赤子を受け取ると、静かに目を閉じた。
 俺も男だ。
 約束は守るぜ。
 約束通り、むごく扱わないことにした。
 奴隷商人に売り飛ばした。
 どうなったかは知んねぇけど、俺はむごく扱っていねぇから。
 お前、そいつの目に似ていたぞ。

 そいつの名前は、リオン=シューナルディー=エルティネール。
 俺達兵団全員を心底ビビらせた伝説の最強女剣士だ」



 お、お母さん……。
 お母さんは死んでいた。
 こんな悪い奴の手にかかって……。
 そして伊藤さんは手錠をされている……。


 大粒の涙が後から後へと流れ落ちていく。


 伊藤さんは、そんなあたしを見て、


「すいません。
 またあなたを泣かせてしまいました。
 今度ばかりは許されない罪。
 罪は償わなければなりません。
 それでは行ってきます」


 ゴンザは大笑いした。

「そうだ! 伊藤。お前は麻薬所持&密売という絶対に許されない罪を犯したんだよ。
 極刑が言い渡されるから覚悟しておけよ。
 俺を怒らせたら、すべて地獄へ落ちる」


「地獄でいいのですか?」


「は?
 殺されるっていう意味で言っているんだ。
 地獄だろうが、どこだっていい」


「はい。
 殺されることはもう確定しています。
 地獄なんて生ぬるいところで本当に良いのか、まだお時間がありますから、今一度じっくりお考えください」


「ぎゃはは。
 完全にパニくってやんの。
 もうちょっとできる奴かと思ったのに、ガッカリだぜ。
 てめぇが宣誓布告してきたからどれ程のことを考えているかと思ったのに、なんだこりゃ。所詮おめぇもカスってことだ。
 まぁ俺のタクティクスが最強過ぎただけだがな」


「宣誓布告?
 もしかして包帯のことをおっしゃっているんですか?」


「そうだ」


「それを宣誓布告と思われたのなら、それはあなたの勘違いです。
 泣いている子供を助けるのに、理由などいらないでしょう?」




 裁かれるのは伊藤さんじゃない。
 こいつらだ。
 この醜悪な笑みを浮かべる化け物どもだ。





 誰も居なくなった伊藤さんのお店。
 あたしは心のなくなった抜け殻のように、ポツンとつっ立っていた。


 お母さんのペンダントは取られた。
 あたしにはもう何もない。

 ポケットには伊藤さんからもらった羽ペンがある。
 伊藤さんのようになりたくて、肌身離さず持っていた大切な宝物。

 あたしにこのペンを持つ資格なんてない。


 あたしはペンを返そうと、ロッカーを開けた。


 こ、これは?

 さっきまで何もなかったハズ。
 そこに300ゴールド紙幣が置いてあるんです。
 どこから出てきたんだろう?
 あ、ロッカーの天井が抜けている。

 さっきまで騒がしかったので、バタバタした拍子でロッカーが壊れたのかな?

 手紙が添えてありました。

 これはエルフの特殊暗号文字。
 ただの落書きにしか見えないですが、実は言葉が眠っています。

 伊藤さんが教えてくれたので、あたしには読めます。


『ノエル様。
 一カ月間お疲れ様です。
 あなたは毎日、お店のお手伝いをしてくださいました。
 だから、これはそのお給料です』


 伊藤さん……。
 もういいんです……。
 あたし、あなたから受け取る資格なんてありません……

 手紙には続きがありました。

『営業妨害タクティクス上級編、ご卒業おめでとうございます』



 伊藤さんは何を言っているの!?


『さて、これからは補講の時間です。
 営業妨害タクティクスには更に上があります。
 これを取得されると如何なる大企業であろうが、即座に粉砕できます。
 受講されますか?』


 そんなの、もうたくさんだよ。
 誰かのお店を潰すなんて、あたしには……


『どうしても叩き潰したいお相手がいるのではないでしょうか。
 その企業は24時間、365日、弱者から最後の一滴の血まで絞りとって、堂々とお日様の下で、営業をしています』


 あいつらのこと?


『さて、わたくしは商人。
 ここからはビジネスのお話になり大変恐縮ではございますが、この補講を受講するにあたって教材をご購入頂く必要があります。
 全部で250ゴールドになりますが、如何されますか?
 もし受講される場合、裏庭に植えてある一番背の高いひのきの下に宝箱を埋めていますので、お手数ですが掘り起こしていただけませんでしょうか?
 ちなみに講座名は――
 営業妨害タクティクスひのきの棒編』



 もしかして伊藤さんはこうなることは分かっていた。
 いえ、仕組んでいた。
 そうとしか思えません。


 わざわざこのロッカーを普段から使わせていたのは、ここを秘密の隠し場所だよ、とあたしに教えるため。
 そしてエルフの暗号文字をあたしに教えてくれたのは、この手紙をあたしにしか分からなくするため。

 伊藤さんは営業妨害に必要なスキルは、情報力だと言っていました。
 ゴンザのことを調べていたに違いありません。
 そしてゴンザから、重装兵長ラドンに辿り着いたのかもしれません。
 そこから可哀そうなエルフ族のこと……。
 お母さんのことまで……。



 これは何となくだけど、伊藤さんは心の中できっとこう言っているような気がします。


『役者はすべてそろいました。
 あとはノエル様、あなたが営業妨害タクティクスひのきの棒編を習得するだけです』
+注意+
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