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スタイリッシュ武器屋 作者:弘松 涼
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15 間話『夜道の散歩』

 今回のお話は三人称神視点です。
 ここはグアゼルグの森と呼ばれる木々に囲まれた暗闇。
 どこともなく不気味な獣の慟哭が木霊する。

 昼間ならモンスター狩りをしている冒険者がまばらに存在するこの場所も、さすがにこの時刻になると人っ子一人いない。

 
 そんな深い森の奥に、夜の鳥の鳴き声を聞きながらひとりの男が歩いていた。

 
 場違いなスーツ姿に、黒い革の靴。
 メガネだけが月明かりに照らされて青白く反射している。
 とても山道を進む者とは思えない堅苦しい身なりなのに、彼の服はまったく乱れていない。

 
 男は懐中時計を開いて視線を落とす。
 少女たちと別れて三時間経ったようだ。

 誰かに「こんなところに何をしにきたのか?」と聞かれても、伊藤は、お客様がどうなったか心配で、とは言わないだろう。
 きっと涼しい顔で「木材の調達に来ました」と短く返すに違いない。


 そんな伊藤の足元には、粉々になった木片の山があった。


 それを一瞥してあの少女の顔を思いだしたのか、伊藤の口元が僅かに緩んだ。

 辺りには大きな穴と巨大な足跡、そして何かが散らばっただろう丸い型がまばらに広がっている。

 それだけの情報で、伊藤にはおおよそ読み取れる。
 どのような状況で、敵に何ポイントのダメージを与え、その後どのような展開があったのかまで推測できるのだ。



 ここに来るまでに、小さな木片があった。
 それは戦闘した形跡。

 ひのきの棒の消耗を、最小限に抑えて戦った証拠。

 だったら彼だ。

 それに引き替え、この場所では木材が派手に四散している。
 力任せにひのきの棒を叩きつけた跡だ。

 だったら彼女か。

 異なる場所で、違った性質のバトルがあった。
 つまり、ヴァルナと珍念は手分けして捜索したのだろう。

 最初の地点からこの場所まで、足跡がついていた。
 つま先で蹴ったような跡だ。
 歩幅感覚は平均87cm。
 走る時の歩幅は身長×0.5である。
 つまりこれをつけたのは174cmの人間。
 この足跡は、カイルしかいない。

 珍念はカノンを、ヴァルナはカイルを見つけたのか。
 逆を言えば、カイルはカノンを見捨てた。


 伊藤の読みは、当たっていた。


 カイルはシルバーレイピアをカノンにプレゼントしている。
 つまり金の力で、新米勇者カノンの興味を引いた。
 だけど渡したのは値切りまくった粗悪品だ。
 大切な女性に渡すプレゼントを本人の前で値切るだろうか。おそらくカイルにとって、ナンパ感覚で声をかけて引っかかった使い捨ての女くらいにしか思っていない。

 カノンはカノンで、自分にとって得である者について行っただけ。
 だから分かりやすいくらいカイルを持ち上げていた。
 バカにした女に、新しい彼氏を自慢している。いい女を演じているだけの、典型的な悪女。 

 懐いた猫と同じ。
 カイルの懐が寂しくなれば、自分の美貌と勇者の看板を使って、また新しい飼い主を探すだけ。

 利害が異なれば、仲たがいするのは火を見るより明らかだ。




 論より証拠。
 二人は森の中で武器が破損し、

「あんたが値切るからよ!」

「貰っておいてなんだ! 俺にケチをつけるのか! 俺がいなければ、初心者のお前なんてすぐにのたれ死んでいたぞ!」

「バカなの? あんた。
 マジであんたなんかについて行くんじゃなかったわ。あたくしはみんなに愛される勇者なんですよ。どうして勇者であるあたくしがこんな情けない思いをしなくちゃならないのかしら。あんたって本当に無能ね! ほら、なんとかしてみなさいよ!」

 と、散々互いを罵倒しながらモンスターの群れから逃げ回っていた。


 このままでは二人とも死んでしまう。

 だからカイルは、
「このまま二人死ぬより、どちらか生き残った方が得だろ?」とカノンに不気味に笑いかける。

 本能的に危険を悟ったカノンは、
「そ、そうね。死ぬのはあなたでしょ?」と苦笑いを浮かべ、うなずく。

「バカか。おめぇだよ!」

 カイルはモンスターの群れに向かってカノンを突き倒し、その隙に全力で遁走した。

 しりもちをついたカノンは、モンスターの群れに囲まれてさぞかし恐ろしい思いをしただろう。


 伊藤の曇った眼鏡は、カノンがしりもちをついてぽっこりできただろう穴の方を向いていた。

 全力疾走で転倒した場合、後ろに倒れることはまずない。モンスターに弾き飛ばされた場合、相手には爪がある。血痕のひとつでも残っているはずだ。


 ――やはりカイルは見捨てたのか。


 伊藤にとってこのようなことくらい容易に推測できるが、別にどうでもいいことだった。素振りこそ見せないが、やはり伊藤はあの二人を気にしていた。


 曇ったレンズが柔らかくとける。
 少し目を細めただけ。
 だが伊藤は笑っていたのかもしれない。

 恐怖におののき、デタラメに折れたレイピアを振り回しながら泣きじゃくっていたカノンを助けたのは、彼女がセルフ葬式屋とまで見下したあの少年だったからだ。




 そして足元にできている大きなクレーター。
 全長3メートルを超える巨大グリズリーが仰向けに倒れてできたものだ。

 一歩前に踏み込んで、その直後後ろに倒れている。
 敵の後頭部から蹴りを入れ、すかさず敵の真正面に回り込み、倒れ込む反動を利用して返り討ちにしている。
 敵の体重がそのままダメージにプラスされる。
 さらにヴァルナの腕力と、そしてひのきの棒の本数が加算される。

 四散しているひのきの棒の破片の量で、使った本数は概算できる。
 グリズリーのHPは324。
 カイルにとっては神クラスの化け物だが、ヴァルナはレベル41。
 もはや素手二発で倒せる相手。
 そいつに9421のダメージを与えている。

 
 それまでクールだった伊藤は初めて、手加減を知らないヴァルナに「やれやれですね」と漏らした。

 彼女の気持ちはよく分かる。
 1ゴールドの価値もない男を救うために、死に物狂いで走ったのだろう。
 そしてカイルのピンチに「うおおおお」と咆哮をあげて飛びかかり、一瞬で粉砕した。




 まばらに点在している小さな跡。
 それは――

 カイルはきっと「……。今まですまなかった。これはお礼だ。受け取ってくれ」とでも言って手渡そうとしたのだろう。

 ヴァルナはそれを軽く笑い一蹴した。

「今のお前は1ゴールドの価値もない。私は心のない金を受け取らない。早く私が金を貰ってやってもいいと思える男になるんだな」とでも言って、カイルの手をはたいたのだろう。

 それによってできた跡に違いない。


 だが金貨が残っていないところを見ると、もしかしてその後和解してヴァルナは受け取ってやったのか、それともカイルが懐にしまったのか――




「いや……
 それ以上詮索することは無粋ですね。
 ここにはただ、木材の調達に来ただけなのですから」



 そして伊藤は歩きながら、もう一言付け加えた。




「またあなたですか。こんな時間に何のようですか?」


 森の木々が激しく騒ぎ、身の丈を超える大きくどす黒い影が伊藤の背後に立った。


「よく分かったな、さすが伊藤」

「こんな夜遅いというのに、いつまで経ってもモンスターと遭遇しないなんて異常です。あなたに恐れてどこかに行ってしまったようですね。
 わたくしは、また三流ストーカーさんにつけられているのかな、とため息交じりに知らんぷりをしておりました」


「考え直してはくれぬか。
 どうしても予は、お前を参謀にしたいのだ」


「どうしてわたくしが三流魔王の参謀にならなくてはならないのですか?」


「相変わらず言ってくれるな。
 お前は欲しくないのか?
 予と組めば世界は欲しいがままだ。
 それだけではない。
 如何なる者をもひれ伏すことができるのだ。
 予とお前が手を組めば、世界を牛耳れるのだぞ」


「まだそのような物を欲しがっているのですか? だからあなたは三流なのです」


「ぐぐぐ……
 な、何を言うか!?
 では聞こう。
 お前が望む物は何だ?
 如何なる褒美であろうが、予に叶えられぬ物などない」


「無理でしょう。
 あなたは三流ですから」


「言え!
 秘宝の類か?
 如何なる財宝であろうが、予に見つけられぬものなどない。
 予には1000の魔法、100億の魔の軍勢もいるのだぞ。
 なんだって手に入る」


「わたくしが欲しいものは、心のこもった5ゴールドです。今のあなたにはとても払えない大金です。では、わたくしは仕事がありますので、これで」


 全人類が恐れる恐怖の大魔王は、言葉を失った。
 大きな肩をワナワナ震わせながら、伊藤が消えゆくまで、その背中を悔しそうに睨みつけていた。
 次回からは、伊藤の店を心底ねたむ同業者のおっさんと、そのお店で派手にこき使われているかわいそうなエルフの少女の物語です(^○^)
 ひのきの棒が、エルフの心を救う!?

 成長したヴァルナや珍念も時々登場します。
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