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スタイリッシュ武器屋 作者:弘松 涼
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143 勇者5

「すごいだろ。昨日、僕んちを勇者様が守ってくださったんだ!」
「うちだって勇者様が、警備してくれたぞ!」
「わしの家だって、勇者様が壺の中のコインを死守してくださったんだ。お礼に10ゴールドさしあげたんだぞ」



 アイゼンハードでは、こういった話題がひっきりなしで飛び交っている。
 勇者様は、なんと庶民の自宅の壺やタンスに隠してあるアイテムまで警護してくださるのだ。

 大量発生した勇者様が、いつも壺やタンスに手を突っ込んでいる。
 もちろんモンスターから大切なアイテムを守る為に、だ。


 だからみんな勇者のことが大好き。




 建前上は。





 そりゃ、庶民だってバカではない。
 薄々は気付いている。
 だけど勇者は正義の味方ってことになっている。
 盗っ人呼ばわりしたら、裁判に連れていかれ、吊るされてしまうだろう。
 それに裁判官は勇者あがりの役人。
 法廷で勝てる訳もない。



「すごいだろ。昨日、僕んちを勇者様が守ってくださったんだ!」
「うちだって勇者様が、警備してくれたぞ!」
「わしの家だって、勇者様が壺の中のコインを死守してくださったんだ。お礼に10ゴールドさしあげたんだぞ」


 そういった台詞を口にはしている者達の顔はやつれ目からは涙が流れていた。






 このままでは大量発生した勇者に、殺されてしまう。
 それが本音だったのかもしれない。





 瞬く間に、この噂は全世界に広がっていった。




 地方の村では――

 田んぼを耕していた青年たちが一休みするために、あぜ道に腰を下ろした。
 そして空を眺め、各々の夢を語り出した。

「トーマス。お前。どうなりたんだ?」
「俺か? とにかくスゲーことがしたいな!」

「スゲーって何だよ?」
「分かんないけど、とにかくでっかくて偉大なことさ。でもここじゃ、無理だな」
「まぁな。何もない田舎だからな」

「いいなぁ。アイゼンハードは」
「どうして?」

「知らないのか? アイゼンハードではな、勇者が大活躍しているんだ!」
「勇者はいつも活躍しているんじゃないの?」

 青年はチッチと指を鳴らす。

「そんな次元を遥かに凌駕しているんだぜ。アイゼンハードの勇者様は、本当に庶民の目線まで降りて命がけで民衆を守っているんだ。なんつーか……これは聞いた話なんだが……、実際に会えるアイドル的な、そんなフレンドリーな感覚でいつも守ってくださるんだ」
「マジかよ!!! すごいな。憧れの勇者さまにいつでも会えるのか???」

「あぁ! そしていつもちゃんと弱い者を守ってくれるんだ!」
「すげぇー!!! 俺、アイゼンハードに行きたい!!」

「俺もだ! こんな村、飛び出して行っちゃう??」
「うん、行こう!!」


 二人の青年が走り出そうとした、その時だった。
 杖をついた老人が、この青年たちを止めようと大声を出した。



「駄目じゃ! 行くんでない!」



 青年は振り返る。

「なんだよ、長老! もういいだろ! 俺達はこの村の為によく頑張った! だけどこの村には夢ってのが無すぎるんだよ!!!」

「駄目じゃ! アイゼンハードにだけは、行ってはならぬ。わしは実際にこの目で見たんじゃ! あれはまさしく地獄じゃ!」

「は? どうせ長老が見たのは昔のアイゼンハードだろ? 今は、勇者様がきっちり守ってくださっているんだぞ!」

「違う! 違うんじゃ!!!」

「は??? どう違うってんだ?」

「アイゼンハードでは、勇者様がじきじきに民家にやってくるんじゃ!」
「凄いじゃないか! 俺、勇者さまに会いてぇ!!!」
「俺も!!」

「駄目じゃ! 駄目なのじゃ! 会ってはならぬ! もし会うと……会うとだな……」

「なんなんだよ!? ハッキリ言ってくれよ!」


 長老は言おうとした。
 叫ぼうとした。
 悲劇なる実情を語ろうとした。

 かつて長老自らが経験した、勇者との熾烈なる攻防戦を。
 悔しいあの日々を。
 あの惨劇の思い出を。



 かつて長老はまだ若かった。
 アイゼンハードでは、左官業を営んでいた。
 小さいなりにも、数人の従業員も養っていた。
 灼熱の炎天下、額には汗をいっぱい浮かべて壁を塗っていた。

 長老には夢があった。
 アイゼンハードで錦を上げて、故郷の者たちを幸せにしてあげるといった大義が。

 そして彼のもとに集まってきた、従業員、取引先、お客様――
 みんなのおかげで今の自分がある。
 だから、心から恩返しをするために、汗水たらして働いていた。


 そんな長老は、ちょっとずつだったが、コツコツと貯金をしていた。
 それは、苦労ばかりさせてきた両親に送るための大切なお金だった。




 その大切なお金を、大量発生した勇者が毎日のように奪いにくるのだ。
 それでも長老は、がむしゃらに頑張ろうとした。


 勇者様が盗むより、多く稼ぐんだ!
 勇者なんかに負けてたまるか!


 されど勇者共の魔の手は、日に日に激しくなる。
 長老は土中深くに財産を隠した。

 だけど勇者は、土中に隠した壺まで掘り当てるのだ。
 それを目の辺りにした長老は、さすがに切れた。

「返せ! それは母親の……もう余命いくばくもない、お母さんにあげる大切なお金なんだ!! 頼む! 後生だ! どうか、返してください!」


 さすがに長老の剣幕に、勇者はたじろんだ。
 だが勇者は大量発生している。
 ライバル共と熾烈な奪い合いをしているのだ。
 今日の稼ぎがないと、生きてはいけない。


「あんたの家の地下にはモンスターがいた。それを倒してやったのだ! 礼をよこせ!」



 これが……
 勇者なのか……




 この夜、長老はアイゼンハードを捨てた。


 この悲劇の物語を、目の前にいる若者に伝えなければならない。
 これが私に残された最後の使命……



 されど長老は、次のセリフを口にすることはできなかった。
 長老の目の前、天使が舞い降りたのだ。
 まるでそれは、あの優しかった母のような――そんな温かい眼差しで長老を見つめている。





「あなたはよく頑張りました。さぁ、一緒に参りましょう……」








「ちょ……長老……。長老おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」




 この老人はきっと天国と呼ばれる楽園に召されたに違いない。
 されど二人の青年は、この後、アイゼンハードと呼ばれる勇者が守る……いや、大量発生している国へと向かった。


 道中、二人は語る。

「どうして長老は、あんなに止めたんだろ? 村にいて欲しかったのかな?」
「……うーん。いつも若いうちはしっかりと旅をしろって教えてくれたのに。多分だけど、きっと、勇者に迷惑かけないように、そう言ったんだよ」

「え? それはどういう意味?」
「わざわざ自宅まで来て下さる親切な勇者なんだよ。もし俺達がアイゼンハードに移り住んだら、勇者の仕事が増えるじゃないか!」

「あ、そっか……。
 やはり長老には深い考えがあったんだね。
 あ、俺、良い事を思いついたよ!」
「何?」

「俺達もアイゼンハードについたら勇者を目指そうよ!」
「え? 俺達も勇者になれるのか?」

「分からない。だけどいつも長老が言ってたじゃないか! 頑張ったらなんだって出来るって!」
「そうだね! 頑張って勇者になって、庶民の味方になろうね」




 この後、この二人がどうなったのか、誰も知らない。
 ただ、勇者だけはならないで欲しいと、切に願う。





 今日も世界中には、このような噂が飛び交っている……

「すごいだろ。昨日、僕んちを勇者様が守ってくださったんだ!」
「うちだって勇者様が、警備してくれたぞ!」
「わしの家だって、勇者様が壺の中のコインを死守してくださったんだ。お礼に10ゴールドさしあげたんだぞ……」




 いつでも会える勇者の住む幻の大国。
 その名はアイゼンハード。
 そこは、死ぬまでに一度は行ってみたい国ランキングNo1を常に死守し続ける素晴らしい場所である。
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