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スタイリッシュ武器屋 作者:弘松 涼
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142 勇者4

 お天道様が街を照らしている時刻。
 それは勇者が、ヒーローをしている時間帯である。
 悪い盗賊に襲われている村人を颯爽と助けることなど、日常茶飯事。
 だからみんな、勇者が大好き。



 だけど――
 いったん陽が落ちれば、善良な庶民と真の勇者の攻防戦が繰り広げられているのだ。




 壺のコインはいつも消える。
 ここ最近は、特にひどい。
 隠したとほぼ同時に消えるのだ。
 一瞬目を離した隙に、壺の中身はからっぽになる。


 アイゼンハードに住む人たちは、常に誰かに見張られているような錯覚に陥っていた。
 実際のところ、窓の外には『完全攻略本』を手にした勇者たちが、ギラギラした目つきで家の主が寝静まるのを待っていたのだが――




 そして遂に、事件は勃発した。
 のちに勇者インパクトと呼ばれる新たなイノベーションを起こし時代まで変えてしまった重大な事件である。



 攻略本の流出により、勇者はその数を増やし続けていった。


  勇者の総数 >>>>> 民家のお宝



 それは完全に生態系が崩れた瞬間だった。
 偏った変動は、良い事にならない。
 勇者がその数を増やし続け、とうとう壺の中身をゲットできずに、資金ショートし、毎週発行される最新の攻略本を購入できない勇者まで現れたのだ。
 攻略本の注意事項には、絶対に先週の攻略本を使ってはいけないと書かれてある。



 大量発生した勇者が、すごい勢いで壺の中をあさっている。
 お宝の隠し場所は、猛烈に変動している。
 1週間前の攻略本が役に立つはずもない。

 家の主だって死に物狂いだ。
 対策を変えてきて、罠は常に強化され続けている。
 古い攻略本では対応などできない。


 されど壺の中身……いや、仕事にありつけなかった勇者は、先週の本に頼るしかない。
 お宝をゲットできなかった勇者は、寂しそうに路地裏で賞味期限の切れた完全攻略本をパラパラめくっている。


 そのひとりが、伝説の勇者の異名をとる熱血漢。
 彼の名は勇者の中の勇者、赤い稲妻のガレン。
 自慢の赤い髪をなびかせ、颯爽と悪を斬る正義の味方だ。


 だが、ここのところ、上手にお宝をゲットできずにいた。
 このままだと、資金ショートして、弱者やお姫様を救う事が出来なくなる。

 ところであなたはご存知だろうか?
 勇者が正義の味方をやめてしまうと、ただの泥棒に成り下がってしまうということを。
 もはやシーフとして生きていくしかない。

 多くのシーフは、実はかつて勇者であったという都市伝説は、実はわりと信憑性が高い話なのだ。


 熱血勇者ガレンも、このままだとただのシーフに成り下がってしまう。
 そんなのは嫌だ。


 先週の攻略本を見ながら、家を見定めていた。
 多くの豪邸のお宝は、根こそぎ他の勇者に奪われているだろう。


 彼が目に着けたのは、生活がやっとクラスのあばら家だった。
 勇者はたぶん正義の味方である。
 貧しき者から奪うことを躊躇している者は、少なからずいた。


 だから彼はその裏をついたのだ。
 さすが勇者の中の勇者になってくると、常識という概念を覆してくる。


 熱血勇者ガレンも、さすがにちょっぴり躊躇もした。


 貧民を救うため、貧民の金を盗む。
 果たして、これでいいのだろうか?


 いや、いい!
 問題ない。
 だってグルリと一周したら一緒じゃないか。
 そもそも勇者とは貧民ビジネスなのだ。
 貧民にターゲットを絞って、色々する人が勇者なのだから。


 自分の中にそう落とし込んだ熱血勇者ガレンは、バラック小屋が立ち並ぶダウンタウンに狙いをつけた。


 そして家宅捜査。
 2件ほど、うまくコインを盗めた。

 やったぞ!
 やはり貧民宅は、盲点だった。
 3件、4件と順調に、コインを盗んでいった。


「どうやら、ここは穴場のようだな。それにセキュリティーもあまい」


 そりゃそうだ。
 家を見れば克明に物語っているが、その日暮らしがやっと。簡易な罠ですら用意できないくらい、貧しいのだから。
 勇者はそんな彼らを、いつも無償で救っている。
 だからみんな勇者のことは大好き。

 


 過信していった勇者ガレンは、中堅のご自宅にも侵入した。

 

 やったぞ!
 この家の壺には10ゴールドもあった。
 貧民邸とは全然違う。
 これで勇者の剣が買えるぜ!

 ちなみに勇者の剣とは、神田が発明した勇者にしか装備できない凄い剣だ。
 その効用は後ほど説明するとして、たった今、リアルで大変なことが起きたのだ。

  
 勇者の中の勇者ガレンが壺の中に手を突っ込んで10ゴールドゲットしてニヘヘと笑ったその次の瞬間――なんと!?





 家の主と出くわしたのだ。






 主は今日こそは盗人を捕えようと、寝ずの番をしていた。
 隣の部屋に隠れて、じっと見張っていた。
 彼の両肩にはとある有名スポーツ用品店で購入した、対戦車用ロケットランチャーがあった。

 それは全財産をはたいてまで購入した、最高級のアウトドアグッズである。


 主の目は燃えていた。
 ――絶対に盗人を退治してやる。
 主を支配していたのは、怒りと憎しみ、そういった憎悪の感情のみ。

 だけど、悔しいかな。
 いつもこうやって見張っているときに限って、どういう訳か盗っ人は現れなかった。そりゃそうだ。だって勇者は完全攻略本をキチンと購入しているから、こういうヤバイ日をちゃんと予習しているのだ。
 見つけられるはずもない。

 だから主は、いつも歯がゆい気持ちでいっぱいだった。
 今日もダメかと思っていた。

 
 でも、絶対に負けたくなかった。
 何故かというと、この主は数日前『パープルオーブ』を盗まれたのだ。
 パープルオーブは、伝説の不死鳥を復活させるために必要な大切なレアアイテムである。
 その不死鳥の背中に乗らなければ渡れない、幻の大陸があるという。
 いつか伝説の勇者が家を訪ねてきたら、自らの手で渡そうと思っていた。

 

 なのに、だ!!!

 
 訳の分からん盗っ人に、大切な『パープルオーブ』を盗まれてしまったのだ。

 
 悔しい。
 惨めだ。
 自分が情けない。
 勇者に申し訳ない。

 勇者様、申し訳ございません。私がしっかりしていなかった為に、あなた様の世界平和の理念成就への道を遠いものへと変えてしまいました。
 だから勇者様の冒険の邪魔をした盗っ人を絶対に許さない。
 ワナワナした震える両肩にロケットランチャーを乗せて、真剣な眼差しで見張っていたのだ。

 まぁ、盗んだのは、ご想像通り勇者なのだが。
 生活が苦しいので、幻のレアアイテムは食費へと変わっていた。


 そんな主の目に映ったのは、勇者だったのだ。
 なぜ、勇者様が、うちに?
 そしてどうして坪の中に手を入れて、コインをつかみ、ニヒヒと笑っているのだ。




 も、もしや!?




 主の脳裏にすべての情報がつながった。
 まるで散りばめられたパズルのピースが、ピタンと嵌ったのだ。

 以前よりアイゼンハードを荒らしていたのは、勇者だったのか!?
 そ、そんな……



 やばいぞ。ガレン。
 彼の失態により、偉大なる勇者の看板がズタぼろになる。
 勇者が世界のヒーローという方程式がくずれてしまう。
 勇者ビジネスが成り立たなくなってしまう。




 すべてが終わりかけた次の瞬間――
 あの男が現れたのだ。




 窓の外からコンコンとノックしている。

 主は窓の外に視線を投げた。

「神田さん?」


 勇者専門店を経営している神田だった。


「主よ。盗っ人は捕まったか?」

「あ、丁度、今……」

「ほほぅ。なるほど、盗っ人は勇者ガレン殿が倒したようですな」

「え??」

「盗っ人の正体はモンスターでしたか」

「ええええ??」

「ほれ見なされ。ガレン殿の手にはコインがあるではないか。モンスターは死んだらコインになる。つまり盗っ人の正体は、モンスターだった」

「え? でも壺の中身は???」

「モンスターが食べたのでしょう。そうなのでしょう? ガレン殿」


 ガレンは目を丸くした。


 すごい勘違いだ。
 本当に勘違いなのだろうか。
 だけど、ありがたい。
 でも、そう言う事にしてしまっていいのだろうか。
 だって勇者は嘘をつかない。
 庶民はそう信じている。


 ガレンは真面目な顔つきになった。

「すいません。主。私は罪を犯しました」


 そういうとガレンは申し訳なさそうな苦い顔になった。
 そして手の中のコインを、主に差し出してきた。


「……」


「私の犯した罪。それは大切なあなたのコインを守れなかったこと……。モンスターがすごい勢いでコインを食べてしまったのです。もう少し早く剣を振り下ろすことができたら……。本当に申し訳ございません」


 さすがに嘘だろう。
 主はそうとしか思えなかった。
 だって主はずっと見ていたのだ。
 一部始終、すべて、この眼球に焼き付いている。


 だけど神田は付け加えた。


「主よ。早く勇者に礼をせぬか」

「は????」


「当たり前だろう! 勇者は謙虚ゆえ、礼などいいと言って去るだろう。だけど、それでいいのか? そなたは勇者ファンなのだろう? 応援したいんだろ? だったら礼をしなくてはならないのではないのかな?」


 主は目を大きく見開いた。
 坪の中のコインを盗まれて、更に礼までしなくてはならないのか?
 ふざけるな!!!

 だから力強く叫ぼうとした。

「わしは見ていたんだ! この勇者が壺の中に手をつっこんで……」

「はい、私も見ておりました。壺の中にいるモンスターに攻撃をしたんですよね?」

 神田はニッコリ笑ってそう付け足した。
 とても納得できない。

 ガタガタ肩を震わせていたが、もし役所に行っても裁判をしてもきっと勇者の言い訳を優先されるだろう。
 だって勇者はヒーローなのだから。
 信用度はあちらの方が高い。


 神田はニヤリと笑った。


「ささ、はやくお礼を」





 この出来事は、のちに勇者インパクトと呼ばれた。
 勇者は新しい手法を見つけたのだ。
 もし家の主に見つかったら、モンスターを退治してコインをゲットしたと言えばいいという最強の交渉術を。
 この素晴らしい手法は、瞬く間に、勇者の中で広まっていった。
 これにより勇者の生存確率が、また飛躍的に伸びた。



 夜な夜な勇者が家に侵入しては、コインをゲット。もし主に見つかれば「モンスターを退治してやった」と言ってお礼をゲット。
 もはや勇者の弱点が無くなったと思えた。
 完璧すぎるぞ、夜な夜なアウトロー勇者タクティクス!



 どんどん勇者は増え続ける。
 勇者の増殖速度は、留まることを知らない。


 勇者 >>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>> 庶民



 やばいぞ、庶民。




 だが、やはり神田は商売の天才だった。
 商売の基本に三方よしという言葉ある。
 それは、長く安定的にぼろ儲けする幻の呪文である。



 ――売り手よし、買い手よし、世間よし。

 神田よし!
 勇者よし!
 世間……


「ククク。残るは世間だけか……。それでこの勇者ビジネスは完成し、次のステージへと突入し、新たなるイニシエーションが始まる。ククク。アハハハハハハ!!!」
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