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スタイリッシュ武器屋 作者:弘松 涼
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141 勇者3

 大抵の家の床下には、勇者の死骸が転がっている。
 だが、このことがあからさまになることはなかった。



 何故なら勇者は世界のヒーロー。
 そのような偉大な者を殺すなどもってのほかだ。
 もし勇者を殺したら、役所に連行され極刑を言い渡されるだろう。



 アイゼンハードの住民たちには、どことなくよそよそしい一面があった。

 話題を振っても、いつも考え事をしているかのように、「あ、何の話でした?」と返されることが頻繁にある。

 地方の町や村からやってきた人々は、「都会の人はやっぱりちょっと気取っているよね」と、最初は言っていたのだが、いざ都会に住みだすと、どういう訳かだんだんと無口になっていく。
 都会色に染まらないと心に決めて移り住んだ者も、次第に、眉間にしわを集め、いつも難しい顔をするようになる。

 あんなにざっくばらんに話していた陽気で世話焼きだったアントニーもそうだ。
 みんなここに住むと変わる。

 故郷の者達はやっぱりアイゼンハードに移り住むと、都会の色に染まるんだなぁと噂している。

 

 そのような故郷の友を横目で見ながら、アントニーは内心しめやかに思う。
 ――そりゃ、無口にもなりますよ。
 うちの床下には、勇者の死骸があるんですから、と。




 そんな社会現象に目を付けた一人の男がいた。
 のちにアイゼンハード屈しの豪商となり貴族にまで成り上がった――神田良蔵だ。



 神田は、真の勇者の特性に目をつけた。
 そして勇者を相手に商売を始めた。
 彼の店には、真の勇者しか入れない。


 そして神田の店には、真の勇者なら喉から手が出るほど欲しいものが売ってあった。



 それは表紙に『完全攻略本』と書かれた怪しげな書物だった。
 その書物には、勇者が効率よく冒険を進めていくためのお得な秘密情報が掲載されている。



 完全攻略本をめくると――

 この家の壺には、何ゴールド入っているのか、そしてあの家のタンスにはどういった種類の薬草がいくつ隠してあるのか、家の主はどの時間帯に家を空けているのか、そして留守中はどういったタイプの罠がいくつ仕掛けてあるのか、――といった真の勇者なら飛びつていて大喜びしそうなマル秘情報が克明に図解入りで書かれてあるのだ。



 すごいぞ、完全攻略本!



 完全攻略本さえあれば、勇者は家の主が仕掛けた罠を潜り抜け、壺の中のコインを手にすることができるのだ。


 どうして神田に、そのように精度の高い完全攻略本が作れたのかというと――
 やり手の商人は、客の懐具合が分かるという。
 身なりや話しぶり、行動から、大体の資産を想像できる。

 神田は、その能力が一際優れていた。
 クラスにいる地味な女の子が、クラスメートの趣向を事細かく知っているように、悪徳商人は、庶民の懐具合を事細かく知ることができるのだ。

 それが悪徳商人タクティクス――
 神田は、独自のネットワークと優れた洞察力を駆使して、庶民の家の内部事情を事細かく把握することができた。


 それを一冊の書物にまとめたものが、『完全攻略本』なのである。


 勇者達は、こぞって真の勇者しか入れないと噂される神田商店にやってきては、完全攻略本を購入していくのだ。



 だから神田は言った。
「ククク。真の勇者にターゲットを絞って商売をすれば、笑いが出る程儲かるわ」と。




 順風満帆に思えた勇者ビジネス。
 だが、ここで問題が起こった。
 完全攻略本が世に出回ることによって、生態系のバランスが崩れていったのだ。
 そう、食物連鎖が成り立たなくなったのである。

 今までは、一定量の勇者は罠にかかってキチンと死んでいたのだが、完全攻略本の流出により、勇者の生存率が格段と上がったのだ。
 おのずと勇者は、増殖の一途をたどる。


 勇者はどんどん増え続けていく。


 そうなると、様々な社会的問題が起きる。
 例えば、うさぎ愛護団体が妙な力をつけた時がいい例だろう。
 うさぎが増え続けた結果、草が根こそぎ食べられていく。
 結果、食べ物を失い、うさぎ自身も苦しむハメになる。

 それと同じ現象が、アイゼンハードでも起こったのだ。
 民家に隠してあるアイテムには限りがある。
 もちろん家の主は、頑張って盗まれないように創意工夫していく。罠は次第に強化され数も増えていくのだが、それ以上に勇者の総数は膨れ上がっていくのだ。

 庶民は命がけだ。
 毎度毎度、留守中に盗まれていては、たまったもんじゃない。
 このままでは生活ができない。
 家の床下には勇者の死体があり、後ろめたい日常生活に悩まされているというのに、これ以上ストレスを抱えたくない。それなのに、毎日のように壺の中身はなくなるのだ。

 
 庶民はあれこれ試行錯誤していく。
 もう罠の強度は、かなりのものだ。


 対する勇者は――
 素の状態で家に忍び込んでは、ひとたまりもないレベルにまで到達している。一歩家に忍び込めば、高機能連射ボーガンや赤外線ビームが張り巡らされているのだ。
 たかだか坪の中身のコインをゲットするためだけに、高速連射ボーガンをよけながら網の目のような赤外線ビームをくぐり抜けなければならないのだ。


 もはや完全攻略本なくして、家に忍び込めない。


 だから毎週月曜日になると、神田の店には長蛇の列ができている。
 厳密にいうと、前日の夜から。

 週刊完全攻略本が発売されると同時に、即座に完売。
 だってそりゃ、坪の中のアイテムはひとつしかないのだから。

 誰よりも早く週刊完全攻略本をゲットして、素早く民家に侵入しなくては、壺の中のアイテムを手にいれることができないのだ。
 出遅れたら、他の勇者に先を越されてしまう。
 そうなったら、来週発売の新刊まで待たなくてはならない。
 そんなことをしていたら、のたれ死んでしまう。
 とにかく勇者は金のいる商売なのだ。
 貧民やお姫様を救わなくてはならないのだ。
 金はいくらでもかかる。



 だから神田は言った。
「ククク。真の勇者にターゲットを絞って商売をすれば、笑いが出る程儲かるわ」と。





 人知れず人々を救うために、人の目をはばかり人様の米櫃に手を付ける。
 それが真の勇者の生きざまなのだ。


 しかし――
 どうして彼らは、そのようなことを命がけでするのだろうか。
 一体何が、彼らをそこまで掻き立てているのだろうか。
 その動機は何なのだろうか。
 一体何が、彼らを正義と悪の狭間へと、追い込んでいくのだろうか。

 その真相を知っているのは、説明書やガイドブックを片手に、セーブ・ロードを繰り返しながらRPGの世界を完全攻略していった、ディスプレーの前のあなたなのかもしれない。
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