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スタイリッシュ武器屋 作者:弘松 涼
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140 勇者2

 誰しも、人に言えない秘密のひとつやふたつはあるものだ。
 それはあなたにも言えることである。

 あなたは、このような経験がないだろうか?
 例えば、そう――
 長期出張の前などでよくある話だ。


 最近、家の物がよく無くなる。
 どういう訳か壺の中のメダルや、本棚の中の薬草が消えているのだ。
 おそらく天井裏のネズミか野良猫の仕業だろう。


 多少腹も立つが、あなたはとてもできた人間。
 だから普段は、このように考えるようにしている。

 ――人間と自然は、共存して生きているのだ。
 お互いを尊重し、助け合っていかなければならない。
 されど人間は動物たちから多くの自然を奪い、我がもの顔で独占している。
 だから少々のイタズラくらい目をつむろう。



 そんなあなたは、明日より長期出張にでかけることになっている。
 普段は寛容なあなたでも、留守中にあんまり荒らされるのも嫌だから、この日ばかりは罠を仕掛けておくだろう。
 しばらく家にいないのだから、わりと頑丈な物を用意しておくのが普通だ。


 だからあなたは、何気ない気持ちで、大きめで頑丈なバネ式の罠を設置してでかけた。




 出張が終わり、あなたは家の戸を開いて、深いため息を吐いた。
 やっぱりまたネズミが出没し、イタズラをしたようなのだ。
 戸棚の中の薬草が消えているし、壺の中のコインもなくなっている。

 2階だけでなく、1階も罠を仕掛けておくべきだったと、反省した。


 2階の寝室に行ったあなたは、そこで思わず大声を上げてしまった。



 何故だ!?
 どうしてだ?
 なぜ、僕の部屋で勇者が死んでいるのだ?

 

 そう――
 あなたの部屋には、白骨化した勇者の骸が転がっているのだ。
 無残な姿になっているが、すぐに勇者だと分かる。
 だって、目の前でくたばっている遺体は、勇者以外の何者にも見えないのだから。

 おでこにあるありがたそうな宝玉や、頭にかぶっている左右に羽根のある兜は、まさしく勇者である証。

 そのような立派な方が、あなたの部屋で死んでいるのだ。
 これを驚かずしていられる訳がない。

 
 あなたはすぐに気づく。
 勇者は罠にかかった。
 そして脱出できずに、そのまま死んだに違いない。
 頑張って罠を解除しようと、もがいた跡が何よりの証拠だ。

 
 さすがに普段は冷静なあなたでも、この時ばかりは訳が分からなくなった。

 
 だって勇者を殺したら重犯罪なのだ。
 そして自分の仕掛けた罠で勇者は死んでしまった。
 このままでは、あなたは犯罪者の烙印を押されてしまう。
 どうして勇者様の手に、あなたが大切にしまっておいた薬草とコインがあるのだ。
 まったく訳が分からない。
 何故だ! どうしてだ!
 やばいぞ、あなた!

 
 懸命なあなたは、急いで勇者を担いで床の下に埋めた。
 そして何事もないように、いつもの生活を続けることにした。
 リビングでコーヒーを飲んでいるあなたの足元には、勇者の骸が眠っているというのに。

 

 だけど誰にも言えない。

 

 
 今日は恋人が、あなたの自宅にやってくる。
 あなたは告白するつもりだ。
 指輪も用意している。

 

 そんなあなたの足元には、勇者の骸が眠っている。

 

 あなたの彼女は、誰にでも優しい天使のような女性である。
 困っている人を見たら助けずにはいられない。
 おなかを空かせている子供には、自分の食事を分け与えている。
 彼女の家は、それほど裕福ではないというのに。
 頑固者だけど真面目で働き者の父と、それを必死に支える無口な母、いくら頑張っても豊かになれない。それでも彼女は笑顔を絶やすことはなかった。
 その透き通るような笑みを見ると、皆、心から癒される。
 町内の皆が憧れている穢れなき天使。


 されど、彼女の部屋の床下にも、勇者の骸が眠っている。

 

 
 このアイゼンハードの城下町――
 大抵の家の床下には、罠にかかった勇者の骸が眠っている。

 


 誰しも、人に言えない秘密のひとつやふたつはあるものだ。
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