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スタイリッシュ武器屋 作者:弘松 涼
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138 聖騎士

 珍念のすぐ横にいるのは、聖騎士の少女――ヴァルナ。


 ヴァルナは、珍念と別れてからは、しばらくの間、武者修行の旅を続けていた。
 一流の戦士を目指して、強い怪物へ挑んでいた。


 イフリート。
 ブラックドラゴン。
 オクトパスキング……


 ひのきの棒タクティクスを極めた彼女にとって、それらは既に敵ではなかった。
 伊藤が自分の価値観を変えてくれたように、誰かの役に立ちたい。誰かの為に頑張りたい。そういう気持ちで、日々冒険を続けた。

 

 そんな彼女に、聖騎士への誘いがあった。

 

 
 だが、そこは聖騎士とは名ばかりの惰弱した場所だった。




 お金持ちの貴族の息子たちが、ステータスと世間体欲しさに集まるダメダメ収容所であった。


 騎士長グランレは困り果てていた。

 ここには、裏口入学したような何も知らないボンボンしかいない。
 もしモンスターの群れが攻めてきたら、ひとたまりもないだろう。


 鍛えようにも、貴族のボンボン達は「ダリー」と言うだけだった。


 招集をかけても、集まるのは、1割以下。
 あとは家でゴロゴロしながら、ゲームばかりしている。
 何のために血税で雇っているのか、さっぱり分からない。



 もはや聖騎士長グランレの手には負えない状態であった。

 ――なんとかせねば。


 そんなグランレの目に、ヴァルナがとまったのだ。
 彼女は最低最弱の武器、ひのきの棒でイフリートを撃破した。
 それもたった2ターンで。
 のちにエルフの少女が、最短記録を叩き出すが、この時はヴァルナの成績がダントツトップだった。

 ヴァルナなら「ダリー」しか言わない、聖騎士軍団をなんとかしてくれかもしれない。
 そういう気持ちでグランレは、ヴァルナにコンタクトをとった。

 最初ヴァルナは、「そんな堅苦しいところ、私には……」と断っていたが、グランレが誠意を込めて実情を話すと、意外にもすんなり「いいわ。圧倒的に最強の軍団を作ってあげる。報酬はいらないから」と二つ返事でやってきた。


 そして彼女の奮闘が始まった。
 ヴァルナがやった行動。
 それは単純ではあったが、効果てきめんだった。


 今日もボンボン達は「ダリー」言って地べたに座ってカードゲームをしている。


 そんな聖騎士団に向かって。
「あんたら全員クビ」
 そう言い放った。


「は? ざけんな。おい、女。誰に向かって言っているんだ? 僕はハーマン家の長男様なんだぞ! 僕の家は超お金持ちなんだぞ! 知らないのか? 僕に逆らったら死刑なんだぞ!」

「知らなねぇよ! 私はこの騎士団の長を仰せつかった。だからこの場の絶対権力者だ。今日限りで、お前らはクビだ。出ていけ! 何もしていないで食えるなんて世の中そんなに甘くない!」


 ボンボン達は慌ただしく叫び出した。


「えええええ!! ざ、ざけんな!」
「あーん、あーん。こいつが頑張っている僕達の仕事を取ろうとするよー」


「無能を無能と言って切り捨てただけだ。グダグダ言われる筋合いなんてない!」


 さすがにその言葉には、グランレも驚きを隠せなかった。
 こいつらはどうしようもないクズばかりだが、腐っても貴族。実家は金持ちだ。
 親が文句を言ってくるに違いない。
 そうなればやっかいだ。

「ヴァ、ヴァルナ様。さ、さすがに……クビは……ちょっと……。
 それに私は、彼らを鍛え直してほしいとお願いしたはず」

「は?
 どうして私がこんなバカ共に剣術を教えなくはならないんだ」

「だって、そのためにあなたをお呼びしたのですから」

「ハッキリ言ってやるよ!
 もしモンスターの軍団が攻めてきたとき、こいつら100000万匹より私の方が役に圧倒的に役に立つ。ぶっちゃけ私一人いれば、いいんじゃないのか?」



 グランレは思った。
 確かにそうだ。
 ボンボンは「ダリー」しか言わない。ゲームばかりしている。
 ヴァルナ一人いれば、国は守れる。
 こんなのいらない。



 ぼんぼん達は焦り始めた。
 ひそひそ話を始めている。

「ねぇねぇ。もしかして僕たち、クビになるの?」
「んな筈ねぇだろ! 僕の家はすごいお金持ちなんだよ」
「だけどあいつ、偉そうになんか言っているよ」
「大丈夫だよ。元老院のおじいちゃんが、ヴァルナなんてやっつけてくれるよ」
「……で、でもさ、あんたのおじいちゃん、勝てるの? あいつ、イフリート2ターンで倒すんだよ?」
「黙れよ! 僕のおじいちゃんはなぁ! お金、いくらでもあるんだよ! 金で勝てない奴なんていないんだよ!」
「そ、そうだよね。お金持ちは、常に最強だもんね」


 そもそもヴァルナは無償でこの仕事を買ってでた。
 金になんて興味ない。
 興味があるのは真の強者。

 金の亡者共が束になってかかろうが、彼女の敵ではない。

 
 さすがにボンボンの親たちはすぐに気付いた。
 ヴァルナは面倒だ。
 されど、ヴァルナの腕は最強である。
 息子たちから聖騎士の仕事をはく奪されたら、何もできないことも重々知っている。

 
 だから親たちはひそかに集まり、会議を始めた。


「……こうなったらヴァルナを抹殺できるヒットマン雇うしかないな」
「そうだな。面倒な奴は殺してしまえ!」

「でもお前は知っているのか? ヴァルナを抹殺できる野郎を」
「うーん、マキシムなんてどうだ?」

「あいつは暗殺のような陰険な仕事を受けてくれないぞ」
「他にいるか? ヴァルナは、イフリートを2ターンで仕留めたんだぞ」

「いた! あいつならいける!」
「誰だよ」

「破壊神びっち。破壊神ってくらいだから、こういった闇の仕事でも引き受けてくれるんじゃないか?」
「駄目だ。あいつは、そもそも知性がない。アホの子だ。ターゲットの名前すら覚えられるかどうか、あやしい。だって、ヴァの発音が難しいぞ。間違えてハルナさんとか殺してしまいそうだ。それにあいつ、動物園で晒された後、始末されたって話じゃないか!」

「くそったれ。びっちは使えないか! ほんと、びっちは役に立たねぇな。びっちの他に仕える奴はいないのか?」

「勇者なんてどうだ?」


 一人がそう言うと、数枚の写真を取り出し、テーブルにならべた。
 そこには華やかな装備をまとった精悍そうな男女が映っている。


「お、おい! 勇者なのに犯罪に手を染めてくれるのか?」
「当たり前だろ! 知っているか? 勇者は金に弱い。勇者ってのはわりと金のいる商売だ。金さえ貰えれば、基本、なんだってやってくれる。俺も昔、勇者を目指していたから分かるが、勇者の時給はかなり低い。だって王様は最初に100ゴールドしかくれないのに、パーティの装備まで買い与えなくてはならないのだぞ」

「た、確かにそうだ! 斧とか法衣とか、全部勇者が買ってやっているな。宿代も勇者が払っている。どうしてなんだろ?」
「ククク。それはすべて仕組まれていたからだ。勇者様のパーティに入れて貰えるのだから、仲間になりたい奴が、たっぷり寄付するのが普通だろ? それをすべて撤廃した」

「誰が?」
「俺達の先輩に決まっているだろ!」

「どうして?」
「簡単な理由さ。勇者が金欠に陥りやすくするための社会構造を基礎から構築する為さ。勇者として冒険すれば、必ず金に困る。だから勇者として活躍する為には、アルバイトをするしかないのさ」

「なるほど。でも俺、勇者がバイトしているところをみたことないぞ」
「ククク。そりゃそうさ。お前、良い事に気付いたな」

「えへへ。でもさっきの話だと、勇者はバイトしているんだろ? 俺、見たことないけど?」
「ククク。表立ってアルバイトしたらカッコ悪いじゃないか? 勇者は無駄にプライドが高い。そんでもって勇者として生活していくには金が必要だ。そもそも勇者になっても実入りなんてほとんどないのだ。勇者はわりと中ボスクラスを倒したがるが、その辺のボスは、あまり金を落とさないのだぞ?」

「そうなの?」
「当たり前だろ? その辺の中ボスは、洞窟の最下層でじっとしているんだぞ? 商売でもしていたら少しは違うが、大抵、中ボスはヒマをしている。中ボスなんて、ニートと一緒なんだよ」

「そっか。確かにそうだ。中ボスはほとんど動かない。ニートと同じだ」
「そうとは気付かず勇者は、洞窟の最下層まで降りて、モンスター版ニートを狩り続けているんだ。だから金なんて、すぐになくなる。それなのに奴らは、勇者という地位を維持しようとする。だから裏で犯罪に手を染めるしかないのさ」

「そ、そうか! なるほど。確かにそうだ! 勇者は裏で犯罪をしなくては生活できない。で、でもそんなのをぶつけて、ヴァルナに勝てるのか?」
「ククク。勝てなくてもいい。ヴァルナのことを知らなそうなバカな勇者を騙して、ぶつければ、すべて終わる」

「え? だから勝てるのか?」
「だから勝てなくてもいいんだよ! とっとと負けちまえば」

「ええ!! もう訳が分からん!」
「考えてみろ。勇者を殺したら重犯罪だ。だからヴァルナは特級の犯罪者になっちまうんだよ。そうしたら賞金額が膨れ上がり、腕利きのヒットマンたちも、こぞってヴァルナを狙うだろう。ヴァルナは寝ても覚めてもヒットマンに狙われ続ける」

「そ、そっか!」
「ククク。で、どいつでいく? こいつなんてどうだ?」
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