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スタイリッシュ武器屋 作者:弘松 涼
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134 王の懺悔5

 私がびっち救出を誓って、10日ほどが経った。 
 動物園でさらし者にされていたビッチを、私は哀れだと思っていた。

 びっちはあーんあーんと鳴くのは、以前から知っていた。


 確かに動物園にいたびっちも、その名に恥じぬように「あーん、あーん」と鳴いていた。
 だけど真夜中になると同音の声を発するお姉さんとは異質な鳴き声に思えた。

 
 とにかく私は、びっちが可哀そうで仕方なかった。

 
 私は数度動物園を探索して、もっとも手薄な場所を見つけていた。

 
 それは、マイナーモンスターである『ゴブリンゴリラ』の檻の辺りだ。

 ゴブリンゴリラは、ゴブリンより強いが、ゴリラより弱い微妙なモンスターで、知能も低い。いつも自分が食べたバナナの皮ですべってこけている。


 その昔はバナナの皮でこけるネタが流行っていたのかもしれないが、もはや誰も見向きもしない。それでもゴブリンゴリラは何時なんどきも、バナナの皮ですべってこけている。

 どうも、腹が立つ者も多いようだ。
 みんな不機嫌そうに無視を貫いている。


 例えば、そう―ー
 ここにひとつのみかんがあったとしよう。
 それをとあるおじさんが、アルミ缶の上に乗せてこう言った。

「アルミかんの上にあるみかん」

 これを聞いて、あなたはどう思うだろうか?
 とりあえず無視だけはしておくだろう。
 だけどおじさんは、アルミ缶の上を指差してしつこく言っているのだ。

「アルミかんの上にあるみかん、アルミかんの上にあるみかん」


 これを聞いて、どう思うだろうか?

「あのさ、おじさんのダジャレ、分からないかな? アルミ缶の上にだな……」


 と胸を張って偉そうに解釈まで始めたら、あなたはどう対応するだろうか?

 きっとこのおじさん、構ってほしいだけだ。
 へぇ、面白いねと言ったら、調子に乗ってもっと痛いダジャレを連発するに違いない。
 このおじさん、家に帰ったら、誰も相手をしてくれない。
 部屋の隅で、一人さびしくお酒を飲んでいる。
 だからこうやって、話を聞いてくれそうな人を見つけるために、ところ構わず「アルミかんの上にあるみかん」と連発している。


 まさにそれが、現状のゴブリンゴリラに置かれた立ち位置なのだ。
 いつもバナナの皮でこけている。


 まぁ実際のところ、ゴブリンゴリラ自身はダジャレのつもりではなく、単に間抜けなので転んでいるだけなのだろうが。


 私は真夜中になると、ウィハさんが寝ていることを確認して、ここ数日食べ物残しておいたパンや豆などをリュックに詰めて、動物園に向かった。

 
 入り口付近は、見張りが交代で警備をしている。
 更にスポットライトが夜空を照らしている。さすがアイゼンハード随一の動物園。危険な動物がたくさんいるため、警備は厳重である。

 だけど自分の食べたバナナの皮で転ぶゴブリンゴリラ付近――すなわち動物園の裏側の一角は、ほぼノーマークである。
 ゴブリンゴリラの檻の後ろに生え茂る草や木をかき分けて、動物園の柵までやってきた。

 
 高いフェンスが見える。
 この先にびっちがいる……


 動物園に侵入するためにはこの高いフェンスをよじ登る必要があるが、躊躇なくフェンスに手をかけた。

 ぎぃときしむ音で、私はビクンをした。
 のぼる手を止めて、息を殺し辺りを見渡した。

 
 だけどほぼ同時に、ドスンという音がした。
 おそらくゴブリンゴリラが、バナナの皮で転んだ音なのだろう。

 
 狙い通りだ。
 定期的にゴブリンゴリラが、バナナの皮で転ぶので、その音で些細な音はかき消されている。
 私はドスンと転ぶ音に混じりながら、一気にフェンスをよじのこぼった。
 高い位置から動物園を見渡す。

 見えた。
 中央の檻に「あーん、あーん」と鳴いているビッチがいる。


 フェンスから飛び降りた。
 着地した私を、ゴブリンゴリラが掘りの深い目でギロリとにらんでいる。


 私はリュックを抱きかかえると、びっちがいる檻へと急いだ。
 びっちの檻に警備がいないことを確認して、檻の前まで走り寄った。


「あーん、あーん(おなかが空いたよー)」
「おい、びっち。これをやる」


「あーん、あーん(?)」


 びっちはピタリと泣くのを辞めた。そして私が投げ入れたパンをつかむと、おいしそうに頬ぼってくれた。

「あーん、あーん(うまうま)」


 びっちは「あーんあーん」と鳴いているだけだった。
 なんて言っているのか、さっぱりわからない。

 だけどその鳴き声は、まるでありがとうとと言っているように聞こえた。


「おい、びっち、また明日も食べ物、もってきてやるからな」
「あーん、あーん(わーい)」
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