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スタイリッシュ武器屋 作者:弘松 涼
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132 王の懺悔3

 6歳だった私はリュック一杯のお弁当を背負って、ウィハさんと動物園までの道中をウキウキした気持ちで歩いていた。


「わん、わんって鳴く動物は?」
「イヌ!」

「じゃぁコーン、コーンは?」
「キツネ!」

「ニャーニャーは?」
「ネコ!」


 その時の私は、まさか『あーんあーん』と鳴く動物がこの園内にいるなんて、知る由もなかった。


 朝一番で出発したせいもあり、正午前には動物園に到着することはできた。
 さすがアイゼンハード随一と言われるだけあり、噂にたがわぬ評判のようである。平日だというのに、すごいにぎわいを見せており、入り口の前には長蛇の列ができていた。

 最後列に並ぶと、ウィハさんと動物の鳴き声などで予備学習をしながら順番を待った。


 前列に並ぶ一家族が、動物園のパンフレットを見入っている。
 お父さんらしき大柄の男性が子供に話しかけた。

「カイ、一番見たい動物はなんだい?」
「びっちぃ!」

 びっち?
 そんな名前の動物が存在するのか?
 確かにその時の私は、まだ6歳の子供、それほど生物の名前に詳しくなどない。
 だが、『びっち』という名称で、別の何かを思い出した。


 私たちの住む借家の一軒隣で、そのような単語をよく耳にするのだ。
 それはとても恐ろしい出来事である。

 隣の借家には、お姉さんが一人で住んでいた。
 年齢はよく分からない。
 若いようでもあり、それなりに人生経験を積んでいるようでもあった。
 きっといつもくたびれた表情をしているからかもしれない。
 その疲れた顔からは、若さというものを感じることができなかった。
 服は私たちと似たようなボロの布の服をきているけど、首や腕には、装飾品をはめていた。
 今思えば、それは二束三文のガラクタだろうけど、妙な気品を感じた。
 妖艶な――といえば正しいのかもしれないが、子供にはよく分からない感覚だった。



 そんな隣人の会話が
 薄い壁を通して頻繁に聞こえてきた。


「おい、ビッチ! てめぇ、いつになったら金を返すんだ!?」
「ふん、無いもの無いんだよ。それよかあんた、いいことしていかない。その代り……」
「……ごくり、わかったよ……」

借金取りは、このお姉さんをいつもビッチと呼んでいた。
『びっち』という単語の意味はよく分からかった。
 だけど、夜遅くまで月の明かりで一生懸命内職をしているウィハさんに『びっち』って何と聞こうと思うことはなかった。
 子供ながら『びっち』とは良くないものの名称と思っていた。




 ――その良くない総称の『びっち』が、この動物園にいる……




 正直、奇妙な感覚に襲われていた。


 前列の子供は続けている。
「びっちはあーん、あーん、って鳴くんでしょ? ねぇ、父さん」
「そうパンフレットには書いてあるな」



 確かに隣人のビッチと呼ばれるお姉さんも、借金取りの男を家の中へ連れ込んではそのような声を出していた。
 うす壁の向こうで、何かをしているのだろう。
 子供心でも、それはよくないことをしているときの声だと薄々分かっていた。ウィハさんは下を向いたまま、黙々と編み物を続けいた。私はいつも、そんなウィハさんを目の当たりにしてきた。私が寝床に入ってもその声が続いている。私は耳を塞いで、何をしているのか想像すらしなかった。きっとイケないことをしているのだろう。それは悪いことだ。
 だからビッチを見たいとは、これっぽちも思わない。


 私が一番見たいのは、アイテムボックスの使い手が封じ込めた伝説の魔獣である。恐ろしい力を秘めており、世界を一瞬で滅ぼすことができるとされている。
 それが今や無力化されて檻の中にいるとのこと。
 正直、とても怖い。
 でも好奇心の方が上回っていた。

 

 口から火を吐くのかな?
 空を飛ぶのかな?
 体長はどれくらいあるのな?
 口はさけており、全身にはドラゴンのようなぶ厚い鱗なんてのがあり、だから装甲はでたらめに固く、そんじょそこらの剣なんかではまったく太刀打ちなどできるはずもない。
 そんな恐ろしい魔物が、この動物園にいるのだ。
 これがわくわくしなくていられるものか。

 
 ビッチと連呼しながらはしゃいでいるのは、前列の子供だけではない。順番を待っている客のほとんどが「ビッチ、ビッチ」とひっきりなしに噂をしている。それでも私はビッチを見たいとはまったく思わない。きっと良くない生き物なのだから。


 そうこうしているうちに、私たちにも順番が回ってきた。
 ウィハさんはチケットを購入すると、ゲートを潜り、動物園の中へと進んでいった。
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