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スタイリッシュ武器屋 作者:弘松 涼
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129 あの惨劇の追憶

 地下道の奥深くにある簡素な木造の扉。
 その門を潜った一同は驚いた。

「ようこそ。不殺の戦士たちよ」

 そういって迎え入れてくれたのは痩せこけた老人だった。
 きっと目は見えないのだろう。
 瞑目したまぶたをやさしく緩め、杖で足元を確認しながら歩いている。
 視力を失ったのは、おそらくここ数年のうちなのだろう。暗いこの空間に長くいることによってのものなのだろうか。それとも事故で? それは推測の域を越えなかったが、ここに来たみなは知っていた。

 かつてはその目は見えていたはず。

 そしてこの老人のこともよく知っている。
 以前はふくよかな体格をしており、丸く温厚な性格をしていた。そしてその頭には、王冠が乗っていた。

 彼はまさしく、突如失踪したとされているアイゼンハード王アレックス21世である。

 ゆとり教育という悪法を施行させて国をダメにしてしまった、大罪人でもある。
 アイゼンハード王アレックス21世は、ゆとり教育を施せば、だれでも天才になれると断言した。ゆとり教育による自由な発想を身に着けることにより、魔力を一切必要としない次世代の魔法、科学という素晴らしい未知なる技術を手に入れることができると説いた。


 だが、それはデタラメだった。


 イカレタ次世代の戦士を量産することとなり、世は狂い、町は荒れ果てたのだ。
 世界を混乱へと導いたアレックス21世は、まさしく諸悪の根源。その王は悩乱し、どこかへ消え失せた。おそらく発狂して乞食となり死んだのだろう。
 そう歴史の教科書には記されている。


 本当はゆとりの本場、異世界チキューで真のゆとり教育をマスターしたゆとりタクティクスの使い手――鼻くそばかりほじるサイレンコマンダーよしおの差し金ではあるが、そのような裏事情を大衆が知る由などない。

 
 そんな王が、姫菊たちの目の前にいるのだ。
 ――どうして王が、このようなところに?
 まずそのような疑念が各々の心に浮かびかがった。



「私は間違っていました」
 かつて王と呼ばれた老人はそう言うと、ゆっくりと話始めた。


 それは己の半生の懺悔であった。
 姫菊たちは、その話に黙って耳を傾けた。


 最後に「間違っていたのは、ゆとり教育ではありません。教育とは何かを直視してこなかった私の判断です。そして殺人野球などでは、仮にゆとりは倒せても、この世界は救えません。殺人野球は間違っています」


 姫菊たちは理解した。
 王は己の過ちを正すため、一人、孤独な戦いをしてきたということを。
 自分たちと同じ、いや、それ以上の期間を使って戦ってきたのだろう。

 姫菊は王の手を取った。
 その手はしわくちゃで、骨と皮だけだった。
 おそらくこの地下壕で相当の苦労をしてきたのだろう。
 それを傍で支えてきたのが、きっとアツシなのだろう。
 彼はその昔、ゆとり戦士として街を荒らしていた悪党だった。
 だが今、こうして王を支えている。

「……ありがとうございます。王様」

 姫菊京香はうれしかった。
 この世界は自分の敵ばかりだった。だがこうして分かってくれている者たちがいる。だからもっと頑張ろうと思った。この世界を救うためには不殺の野球しかないということを、みんなにわかって貰おうと心の中で誓った。だから強く王の手を握り、もう片方の手をその上に添えた。


「……私はもう、王ではない……」

「いえ、あなたは王様です。この殺人野球が蔓延った間違った世の中を正していく正義の王があなたです」

 王の目から涙がおぼれた。

「ありがとう。姫菊さん」


 姫菊は部屋の隅へ顔を向けた。
 どうも暗くてよく見えないのだが、部屋の隅に誰かいる。女の子ようだ。そしてさっきから「あーん、あーん」と泣いている。

 誰なのだろう?

 王は軽くその子に顔を向けると、

「彼女はゆとりの乱の時に、迷子になったようなのです……。おそらくあの戦乱によって孤児になったのかと……」
「そうでしたか……」

 ゆとりの起こした暴挙の被害者を、王は預かって育てている。
 このやり取りで、そうとらえたのは、姫菊とアークだけだった。

 ひのきの棒戦士たちは妙な気配を感じていた。

 その子は暗い洞窟内で、なにやら異質なオーラを帯びているのだ。
 一定以上の戦闘経験があれば察知できるのだが、彼女のレベルは超破格なのだ。おそらく999999999999999999999以上ある。
 間違いなくただ者ではない。

 そして彼女の正体を知る者もいた。
 それは人の姿を借りた暗黒鬼神ヴェルザークである。
 彼は眉根をひそめた。

 ――やつは伝説の破壊神。
 その名はビッチ。
 究極の暗黒破壊魔術を極めている。
 それを行使すれば、瞬時に地上を焦土にすることだって可能だ。
 どうも最近、行方をくらましていたようなのだが……
 そんな奴が、どうしてこんなところにいるんだ!?


 王は続けた。
「どうも彼女は記憶をなくしているようなのです」


 ヴェルザークには分かる。
 ――ビッチは記憶をなくしてなどいない。
 ヴェルザークの眼球には魔神スコープが搭載されており、脳波の異常を見抜くことができる。その眼球でビッチをのぞく。脳機能自体はたいしてなく、知能が低いことはよくわかるが、脳波自体は正常に動作している。
 決して記憶などなくしてなどいない。
 それなのに、どうして、あーんあーん、としか言わないのだ。
 もしかして王を誑かしているのか?
 その目的はなんだ?
 ビッチにはたいした知能などなかったはずなのに?
 わりとアホで、アイテムボックスとかに格納されてこき使われていた経緯を持つと聞く。それくらい低知能なお前が、いったい何をたくらんでいるのだ!?


 姫菊はビッチに近づこうした。
 突然の来訪に驚いて泣いちゃったのかな? と思ったのだろう。だから頭を撫でて「大丈夫だよ」と言おうとした。


 ヴェルザークは鋭い視線でにらんだ。
 ――危険だ。姫菊。奴はビッチ。破壊神だ。近づくではない!


 それを伝えようとしたが、果たして信用してもらえるだろうか。
 仕方ない。
 魔法を使って地上へ転送してやる。
 ビッチ、覚悟!


 しかし、ヴェルザークは次の一手を発動させられない。
 腑に落ちないことがあるのだ。
 これだけ暗黒オーラを高めているというのに、ビッチは無反応すぎる。どうしてだ? おい、ビッチ。お前はいったい何を考えている? 目的はなんだ? どうして人間に近づいた? おい、ビッチ。私が発している暗黒テレパシーは、心から心へ直接通信することができる。暗黒神の類ならだれでも簡単に意図をくみ取れるはずだ。お前も暗黒神の端くれ。だから、おい、聞こえているんだろ? 何か言えよ!

「あーん、あーん(言葉、忘れちゃったよー)」

「……」


 姫菊はビッチの頭を撫でながら「大丈夫だからね。あ、そうだ。私、犬のぬいぐるみを持っているからあげるね」と、アイテムボックスからぬいぐるみを取り出そうとしている。

「あーん、あーん(わんわん怖いよー)」
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