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スタイリッシュ武器屋 作者:弘松 涼
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127 そして再び

127 そして再び

 そして舞台は、あの場所に戻る。

 そう――
 姫菊とアークが、殺さずの野球のすばらしさを街頭演説していた、あの時の話だ。

 市民たちは石を投げつけてきて、そして暴徒となって姫菊達を追いかけてきている。

「この非国民を殺せ!」と。

 そして壁に挟まれた一方通行で、姫菊とアークは完全に包囲された。
 敵の手には弓や連射機能のついたボーガンがある。
 絶体絶命のピンチ。
 そこへ突如加勢に入った者たちがいた。
 ひのきの棒を握った謎の二人組――ヴァルナ、珍念だ。
 彼らの登場で、場の緊張は一気に膨れ上がっていた。
 さらにだ。
 鬼頭の登場で、興奮状態はピークに達していた。

 思い出していただけただろうか。
 すなわち、↓↓↓↓↓↓この場面だ。



   弓 弓 弓 弓 弓 弓 弓 弓 弓 弓 弓
 壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁
 剣 剣 ボーガン → ヴァルナ 姫菊 アーク  珍念 ← ボーガン 剣 剣 剣
 壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁 鬼頭ヴェルザーク
   弓 弓 弓 弓 弓 弓 弓 弓 弓 弓 弓




 壁の上に立ちはだかっている大衆たちは、矢をつがえたまま思い出していた。

 大衆たちは知っている。
 ゆとり教育とは、アイゼンハードの地に恐怖と混乱を招いた呪われた教育。
 ゆとり教育を受けた学生たちは、暴徒となって暴れまわったのだから。彼らの合言葉は、「俺達はゆとりだから、何をやってもゆるされる」だった。
 その言葉を盾に、放火、強盗、殺人、なんだってやってきた。コンビニの前にヤンキー座りでたむろしては、殺して手に入れた戦利品を前に並べ、互いに自慢しているくらいだった。
 大人たちはゆとりを恐れた。
 円周率3しか言えないのに、台形の面積は良く分かっていないのに、奴らは最強だ。
 ゆとりとは、まさに死神の教えだ。
 ゆとりとは、すなわち邪教徒である。

 
 そのゆとりを駆逐したのが、殺人野球だ。
 殺人野球こそ世界の法。

 
 そして今、目の前に現れた長いコートを羽織った男――鬼頭は、まさしく教育者の鏡。
 かつて荒み切っていた3年C組を救った英雄だ。
 だったら殺人野球を助長するはずなんてない。

 
 聖なる教育者 = 殺人野球。
 この図式は、この世界での一般常識なのだ。



 大衆たちは姫菊を見下ろして叫ぶ。

「ヒャッハー。これでお前らの不殺の野球ももう終わりだ。死にさらせ!」


 一斉に矢が降り注いでくる。
 いや、矢だけではない。
 爆薬だってある。

 例え相手にヴァルナや珍念といった凄腕がいようとも、もはや関係ない。
 これに触れれば爆裂するのだ。


 なのに――

 
 鬼頭は動いた。
 手には、どういう訳か、ひのきの棒がある。

 参戦する気はないのだろうか。棒の先端はやや下を向いている。
 その棒がかすかに動いた。たったそれだけだった。鬼頭を意識した大衆の目には、そう見えただけだった。


 途端――


 爆薬が宙で炸裂したかと思うと、それは他の爆薬にも引火して、爆発を誘引していく。まさにドミノ上に宙で砕け散る爆薬と弓。
 そしてその弓は、放った者へ飛んでいく。
 まるで珍念がひのきの棒をさばいた時のように。
 いや、若干違う。珍念は敵の横5ミリ先を通過した。
 だが鬼頭が打ち返した矢は、敵の胸に突き刺さっているのだ。

「悪い。私はそれほど器用ではないのでな」

 矢を放った者たちは、赤く染まった胸を抑えて突っ伏していく。

 静かに鬼頭は続ける。

「早く病院へ連れて行った方がいい。矢は急所の5ミリ横を貫いている。急がねば手遅れになるぞ……」


 大衆たちはの喉筋から、冷たい滴が垂れた。
 鬼頭が何をしたのかまでは、分からなかった。だが姫菊に手を貸したことは、分かる。
 何故なら鬼頭は言葉を発したからだ。
 悪い、それほど器用でない、と。
 だったらこの惨事を引き起こしたのは、奴しかいない。
 鬼頭だ。鬼頭がやりやがった。奴も不殺野球の信者なのか!?

 こいつ……まさか、殺さずの野球の連れなのか……
 教育者が殺人野球を擁護するなんてありえない。
 しかし、この現実は……


 大衆は信じるしかなかった。
 紛れもなく鬼頭は、姫菊を救ったのだから。
 だったら、なぜ。
 殺さずの野球に、どうして殺人者が加担するのだ?
 いや、確かに殺してはいない。致命傷にあわせただけで、命までは奪っていない。その点は不殺と同じだが……。ただ単に、一撃必殺ではないだけ。奴はギリギリの線をついてくる。


 大衆たちは不殺の野球戦士は、殺さないから、やり返してこないから、からかって遊べたのだ。だが鬼頭は反撃をしてくる。しかも相当な手練れ。なんたって荒れ狂う3年C組を解放したくらい腕前なのだ。俺達はもしかして、相当やばい奴を敵にまわしているのではないのだろうか。――大衆たちの心情は、まさにこうだった。つがえている弓の先が震えているのが、何よりの証拠だ。


 一瞬、隙ができた。
 ざざっと大衆たちが身をひるがえし、一団の中央に道ができたのだ。


「さぁ、いまのうちに」

 鬼頭はそう言った。


 その場面をアスカも見ていたのだ。彼女は息も絶え絶えに走り、丁度先ほどこの場面に駆けつけた。そして姫菊達のピンチに乱入しようとしていた。
 まさにその時だった。
 人の姿をした暗黒鬼神ヴェルザークが、姫菊を救った……。そのように見えるが、アスカは知っている。

 ヴェルザークは悪魔だ。

 だからヴェルザークこと鬼頭の後に続く姫菊達を、抑制しようとした。口にしようとした。待て、と。

 しかし言えなかった。
 ここでそれを口にして、どうなる。

 確かにヴェルザークのギリギリ殺法が、功をなしている。この隙に逃走しない手はない。だがこのまま、姫菊がヴェルザークに心を許すことだけは避けなければならない。
 奴は姫菊率いるチームユニカルを、血も涙もない殺人野球チームに育て上げることが目的なのだから。その為に監督になるのだと、奴は自らの口で言っていた。


 カノンは、ギュッと下唇を噛みしめて姫菊達を追った。
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