挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
スタイリッシュ武器屋 作者:弘松 涼
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

12/145

12 戦術指南 中級編3

 私が選択したフィールドは、見通しのよい傾斜面。
 所々ではあるが、針葉樹の木々や人くらいの背丈の岩山が点在している。


 まず初手は珍念からだ。
 当たりをつけたワイバーンに「そもさん!」と叫ぶ。

 上空をグルグル旋回していたワイバーンは、珍念に眼光を向けて襲い掛かってきた。

 菅笠(すげがさ)の紐はしっかりと結んである。
 今回はハゲフラッシュで目くらましを使用するつもりはない。
 10メートルの巨体に、近距離戦で混乱されたらかなり危険だ。


 ワイバーンは轟音を唸らせて、珍念に向かって一直線に突撃してくる。


 珍念はひのきの棒を構えた。
 もちろん、打撃をする為にだ。

 珍念の攻撃力は、45。
 対するワイバーンの防御力は125。

 珍念の腕力で奴の装甲を貫通させるにはこれしかない。
 私は岩陰に隠れて、その機を狙っている。

 珍念まで、300メートル、200メートル、100メートル、50、40、30……

 今だ!

 私は岩陰から躍り出て、奴の顔面に奥義『兜刈り』を炸裂させる。
 ぶつかったと同時に、ひのきの棒は木端微塵に砕け散った。
 たったの一発で朽ちてしまうのか。

 私の攻撃力は154。
 ひのきの棒を足して155。

 攻撃力155 - 防御力125 = ダメージ30
 奴のHPは2500もある。

 ほとんど効いていないだろう。

 だが構わない。
 これは初手だ。
 下から突き上げた一閃で、ワイバーンの顔面の鱗が剥げ落ちた。

 驚いたワイバーン。
 スピードが若干落ちた気がした。


 続いて珍念は身をひるがえし横へ飛び退くと、構えていたひのきの棒でワイバーンの顔面を捉える。
 珍念のひのきの棒は、剥げ落ちた奴の急所に命中。
 ひのきの棒はバギンと霧状に破壊されたが、奴には確実にダメージが蓄積された。
 それを証拠に、スピードを緩めて、空に顔を向け浮上しようとしている。

 だが猛烈に突進してきたのだ。
 浮上まで、まだ時間がかかる。
 その間、慣性的に直進を続ける。


 私はあらかじめ珍念が作っておいた、ひのきの棒トロッコに飛び乗った。

 トロッコと言ったが、それ程大層なものではない。

 9本のひのきの棒を横連結させ、サイドの4隅に輪切りにしたひのきの棒を車輪替わりにくっつけているだけのシンプルな――言わば木のボードだ。

 支えている石を蹴飛ばすと、斜面伝いに加速を始める。
 私はひとつ大きく地を蹴り、ワイバーンを追った。


 減速していくワイバーン。
 それを追いかけるトロッコに乗った私と珍念。
 追随できる射程距離に突入するまで、あと30メートル、20メートル、10メートル――


 伊藤氏は言った。
 ワイバーンが一回の攻撃を終えるまでに仕留めてください、と。
 おそらく一度浮上したら、次は剥がれた鱗をかばいながら攻撃をしてくるだろう。制空権を持つ空の敵に、消極的な戦法にでられたら圧倒的に不利だ。
 敵は危うくなれば、逃げる事だって容易なのだから。


 だから、なんとしても初手で仕留めるべきだ。


 私が考えた作戦――
 それは珍念と私で、交互に追随しながら弱点に打撃をぶちこむ。


 遂に射程内突入。
 ワイバーンの真横までやってきた。

 後は、背中のひのきの棒を握って飛び上がるだけ。
 こいつをてめぇの顔面にぶち込んでやる。


 ぐぅ。

 ぬ、抜けない。

 そうだった。
 激しい乱戦時や海中戦で不用意に抜けないように、回して抜くんだっけ。
 手の平に汗が充満して、うまく回せない。
 ちくしょう!
 しっかり練習しておくべきだった。

 仕方ない。
 こいつを使うか。


「珍念、すまん。もう一機トロッコを作ってくれ。私はこのトロッコを奴にぶつける!」


 早く一撃叩き込んで動きを鈍らせないと、みすみす浮上されてしまう。

 私は足元の板の先端部を、思い切り踏みつけた。
 板ごと、宙に投げ出される。

 このトロッコ。
 9本のひのきの棒を横連結させただけのシンプルなもの。

 購入したひのきの棒41本の内訳は、90cmが8本。60cmが33本。
 同一の長さばかり使うと、後で困りそうだから長いのを中央に置いておいた。

 これが功を奏したようだ。
 握りやすい形状である。

 中央の長い柄を握り、「うおおおお!」と咆哮を上げ、ワイバーンの顔面に叩き込んだ。


 9本のひのきの棒は、奴の顔面に飲み込まれるように連鎖的に霧状に爆破されていく。


 どうした、珍念。
 固まるな。
 急がないと、ワイバーンは浮上しちまうぞ!

 作戦を無視して変形的な攻撃に出ちまったことを後悔しつつも、「ち、珍念。すまない。計画が狂っちまった。急いでくれ!」と叫んだ。

「ヴァルナさん、見てください。ワイバーンが!」


 え?

 どうしたというのだ。
 高く掲げていたワイバーンの羽は下を向き、ドドドドドと地に沈んでいく。
 そしてそのまま金塊へと変わっていった。

 もしかして倒しちまったのか?

 クリティカルヒットでもしたのか!?
 に、してもこんなにあっさり倒せる訳がない。
 なぜ?





 ぱち、ぱち、ぱち

 伊藤氏が手を叩きながらやってきた。

「お見事です」

「え、ど、どうしてこんなにあっさりと……」

「もう少し手加減をしてあげても良かったと思いますよ。
 たった一戦でひのきの棒11本は、少々使いすぎかもしれませんね」

「使い過ぎも何も、あいつ、HP2500もあるんだろ?
 どうしてこんなに少ない手数で沈んだんだよ?」

「どうも理解して行動したのではないようなので、ダメージを算出してみましょうか」

「お、おう。
 頼む」

「ヴァルナ様は、初撃で敵の装甲を剥ぎ落としました。
 ダメージは30。
 ですが、これでしばらくは貫通攻撃が適用されます」

「あぁ、そこまでは狙ってやった」

「続いて珍念様の打撃は、むき出しの皮膚にヒットしました。
 ちなみに、むき出しになったのは弱点である顔面です。

 (攻撃力45 ― 防御力0) × 2(クリティカルヒット) = (ダメージ)90

 それとご存知でしょうか?
 3秒以内に同一パーティの者が同一モンスターに奥義を発動させると、連携ボーナスが加算されます。これはトータルダメージの20%。
 つまりこの時点で、合算のダメージは144になります」


「良く分からねぇけど、そんなところだと思う。だけど奴のHPはまだ2400近くあるじゃねぇか。なのにどうして??」


「次の9連発の連携が大きな加算になりました」

「は?
 でっかい一本をぶつけただけだぞ?」

「違います。
 9連鎖しました。
 例えるなら、連続して9枚の瓦が、断続的に頭上に落ちてきたシーンをイメージして頂ければ分かりやすいと思います。
 まず一枚目の瓦がヒットし、それが割れ、続いて2枚目といった具合にダメージが蓄積していきます。
 この原理を応用して作られたのが、ツインダガーやツインランサーを始めとする二枚刃の武器ですが、刃の位置が異なる為、それらの武器で弱点の一点のみを狙う事は困難でしょう。
 ただ横に並べたひのきの棒を連鎖的に破壊させることにより、弱点に連続コンボを叩き込む事が可能になります。
 これをウィークデッドクロスと言います。
 それを9連鎖繰り返しました。

 話はそれますが、ほとんどの冒険者は、ドラゴンキラーといった、竜殺し専門の剣を用いますが、試しに計算してみましょう。
 ヴァルナ様の攻撃力は154。
 ドラゴンキラーの破壊力は246。
 合算で400。
 ドラゴン属性には通常より5割増しの威力があります。
(攻撃力400 - 防御力125)× 1.5 = 412
 仮に弱点へクリティカルヒットした場合でも1200です。
 ですが龍族はドラゴンキラーを警戒しますし、それ以前にかなりの重量。
 クリティカルヒットを叩き出すのは、至難の業です。
 つまり運頼み。
 ほとんどが、アベレージで300~600前後のダメージとなります。

 それをひのきの棒の連鎖効果を使うとどうなるかを、公式を用いて算出してみましょう。
(攻撃力155 -防御力0)×(クリティカルヒット2)+(連携ボーナス 全体ダメージ×0.2)
 これを9回転させると、9156。
 ワイバーンなど軽く撃沈させることができます」


「す、すげぇ。
 ひのきの棒ってそんなに強かったのか!?
 だったら初めから教えてくれれば良かったのに」

「教えられて行動していては応用力が身に付きません」

「そりゃ、そうだがよ……」


 確かに考えてみたら、伊藤氏のおかげで実力もだけど、自信がついた。

 強敵に勝つには、頭を使うしかない。
 頭の悪い私だ。
 今まで避けてきた一番苦手なことだった。
 それを自分たちで考えてやってのけたんだ。


 ふと、北の空を見た。
 あの空の下くらいに、あいつらがいる……

 カイルの奴、まだせこせことゴブリン退治をしているのかな?
 宣告した時間まで、もうそれほど時間はない気がする。
 性格は最悪だし、一応忠告は受けているんだ。
 あとは自己責任。
 どうなろうと知ったことではない。

「ヴァルナ様、如何なされましたか?」


「あ、いや。あはは。
 なんだかんだあったけど、それでも自分たちでワイバーンを倒せたことに感激してね」

 
「そうでしたか。それは何よりです。
 ヴァルナ様の発想は秀逸でした。
 ひのきの棒を移動手段に用いるところなんて、とても初心者とは思えません。
 では引き続き、連鎖効果を使いこなすトレーニングを行っていきましょう。
 ここから更に難易度は跳ね上がります。
 覚悟はよろしいでしょうか?」


 どうしてあんな酷い奴らの事が、何度も頭をよぎるのだろうか。
 私には関係ないと自分に言い聞かせて、首を縦に振った。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ