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スタイリッシュ武器屋 作者:弘松 涼
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117 赤き旋風

 裏路地に逃げ込むアークと姫菊。
 追随してくる野球ファンの連中共は、不殺の野球を提唱する二人に石を投げつけてくる。その数もどんどんと増えてくる。それはまるで弱りきって動きの悪くなった幼虫にたかる腹を空かせた無数のアリのように、うじゃうじゃと。

 手にある石やハサミ、ショートダガーのような獲物までを投げつけてきては、
「お前らがいるから野球がクソつまらなくなるんだよ!」
「悔しかったら、やり返してもみろ! 何もできないのか! この臆病者め!」
 などと罵倒してくる。

 姫菊は振り返り、野球への想いを叫ぶ。
「どうしてあなた達は、そこまで殺人野球を望むの。殺し合いの先に何があるの!」

「は? バカか!? 超楽しいじゃん! 派手に選手が爆破したら超燃えるだろ! 自爆覚悟で突っ込む選手を見ると超熱いだろ! 美少女投手が泣かされながら殺されるのを見ると超興奮するだろ! バカか。そんなことも分からんのか!」

「分からないわ! そんなの!」

「だからお前らは三流、いや、五流、いやいや、全然違う。それ以下のクズなんだよ!」

「間違っているのはあなた達の方よ! もし死を覚悟して突撃する選手があなたの大切な家族だったら、もし死を目前にして涙する選手が、あなたの愛する人だったら、果たして同じことが言えるの!?」


 大衆の熱というのは恐ろしい。
 姫菊が言い返せば言い返すほど、それが正論であれば正論であるほど、敵意は増幅して降りかかってくるのだ。それは収まることを知らない。

「なんだよ! 知るかよ! それが野球だろ! それが野球選手だろ? てめぇはそれでもプロか!」

 姫菊とアークの手足は、凶器を投げつけられてできたアザが痛々しく浮かんでいる。大衆は姫菊が居たそうに眼を細めるのを見て、ゲラゲラ笑う。

「痛いんだろ? でも我慢しているんだな? よっぽど殺人が怖いんだろ? マジでプロか? 素人の俺が、お前らに殺人ってのを教えてやるよ」

 遂にはボーガンまで放つ者まで現れた。
 それも連射機能がついている高性能なやつを、だ。
 ここは一方通行の狭い道。
 そのようなところで放たれて回避などできようもない。
 アークは姫菊を守るように前に出ようとした。
 だけどアークを押しのけた。

「姫菊さん。どうして!?」
「大丈夫。私はこんな心の曲がった人が射る矢なんかでは死なない。私にはまだやることがあるのだから!」

 例え野球選手と言えど、野球装甲なしで、更に至近距離から射られた矢を受けて、大丈夫なはずがない。それもフルオート連射機能を使って、10本以上も放ってきたのだ。
 もちろん鎧をまとっていない。盾もない。
 そんな状態で、それでも姫菊はアークをかばおうとした。
 自らの聖戦で、これ以上傷つく者など出したくない。

 だから口元に笑みを浮かべ、気丈に胸を張った。

 大衆たちはゲラゲラ笑っている。

「やったぞ。姫菊が死ぬぞ!」
「美女が死ぬところが見たい!」
「ぼく、カメラ持っているよ!」
「うまく取れた売ってくれ!」


 そのような汚げな言葉が耳に入る。
 姫菊は彼らのような者達が一人でもいなくなるために戦ってきた。
 それだけに悔しい。


 その時だった。
 矢が姫菊の胸に届こうとした、その瞬間――


 姫菊と矢のわずかな間に、真っ赤な旋風が起きた。
 それはたった一瞬の出来事だった。
 突如生まれた突風は、すべての矢をバキバキにへし折った。


 その猛烈に回転する旋風は、脅威を打ち砕いたと同時につむじ風となって去り、その中から一人の女が現れた。

 炎のような真っ赤な髪に、深紅の瞳。
 その眼光は鋭いまでに吊り上っているが、曲がった事を嫌う大きな瞳をしていた。
 そしてその手には、何重にも重ねられたひのきの棒があった。

 その女を見たとたん、矢を持った男の目は大きく見開いた。
 驚いているのはその男だけでない。
 他の者達も、焦燥を隠せないといった表情だ。

 その中の一人が叫んだ。

「あ、あいつは王宮随一の使い手。聖騎士のヴァルナ。ど、どうして国に仕える正義の騎士が、社会を狂わすクソのような非国民を助ける真似をするんだ!」


 ヴァルナは姫菊に一度視線を合わせると、「なるほど、あんたが不殺の野球をやっている姫菊京香か。イメージした通り、真っ直ぐな目をしている。私はヴァルナ。ある人にあなたのことを聞いてやってきたんだ」

 早口でそう言うと、今度は大衆たちへ視線をぶつけ、ひのきの棒の先を向けた。

「あんた達に1ゴールドの価値も感じない。私を怒らせたくなかったら、今すぐ消えることね」
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