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スタイリッシュ武器屋 作者:弘松 涼
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114 革命

 一直線に飛びかかるアスカ。
 アスカが繰り出した武器は49本のひのきの棒。
 ご存知の通り、ひのきの棒はジョイントするのだ。くっつくのだ。ピタンと結合するのだ。誰が何と言おうとも合体するのだ。
 例え今、何ニュートンの力が加わろうとも、レンツの法則を無視した滅茶苦茶な磁力が発生しようとも、何があってもとにかくひのきの棒はくっつくのだ。それも49本。
 もはやでかい板だ!
 それが宿敵、ヴェルザークの頭上に振りかかろうとしている。
 すなわちこれから49連鎖の超絶コンボが、今、アイゼンハード武器屋ストリートの一角で炸裂しよとしている。
 おそらくその推測ダメージは、億を凌駕する。
 紛れもなく大都市破壊級の凄まじい爆風が舞い起こる。


 されどヴェルザークは涼しい顔で、口角を上げるだけだ。


 その余裕な表情に、アスカの腕はさらに唸る。
 ――舐めるな! このド畜生!



 だが――



 弾き飛ばされたのは、アスカの方だった。
 何が起きたのだ。
 ヴェルザークの頭上を捉えたその瞬間――
 何かバリアのような波動を感じ、そのまま逆方向に吹き飛ばされた。

 持っていたひのきの棒は跡形もなく木っ端みじんに破壊され、アスカの体は武器屋の反対方向の壁に半身埋もれていた。


 アスカは何が起きたのか分からなかった。
 とにかく顔を上げる。

 ヴェルザークの足元には木っ端みじんになったひのきの棒の破片が散らばっている。そして奴の右手には、一本のひのきの棒が握られているだけだ。

 たった一本で、49回の連鎖攻撃を防いだのか。
 そんな馬鹿な!?

 ひのきの棒1本の打撃力は1しかない。
 連鎖攻撃を誘発することにより、そのパワーを発揮できる。
 それがひのきの棒の性質。
 そうとばかり思っていた。

 だがヴェルザークの手にあったのは、たった一本のひのきの棒。
 1本ではまさしくただのゴミだ。
 まさかこの男は、ひのきの棒タクティクスのことわりを超えたというのか。
 ひのきの棒には、スーパーひのきの棒タクティクス2とかいう、覚醒ヴァージョンが存在するのか!?
 そ、そんな馬鹿な!?
 アスカは伊藤を一瞥した。

 
 どうして奴が?
 そしてどうしてひのきの棒を所有している?

 

 アスカの表情はまさしくそうだった。
 伊藤は自分の眼鏡に叶った者にしか、ひのきの棒を売らないのではなかったのか?
 あいつは暗黒鬼神なのだぞ。
 人類の敵なのだぞ。
 自分の両親を殺した悪魔。
 なのに、どうして……

 人間の姿をしているから、分からなかったのか?
 伊藤さんでも分からないことがあるのか?

 いや、そんなはずはない……
 伊藤さんに限って、そのようなミスをするなんてありえない……
 な、ならどうして……

 ヴェルザークは不気味に笑っている。

「どうした? それが全力か? お前の力をその程度なのか?」
「黙れ! 外道!」

「私を倒したいのだろう」
「当たり前だ。それが私の本懐! お前は両親の仇」

「ふ、だが、それは無理だな。その前にお前は、私の送り込んだ9つのカルマに殺されるだろう」


 ここに来て初めてアスカはしまったと思った。
 今まで一貫して悪女を演じ、ハディス以下他の寄生虫カルマ達に演技を貫き通してきたというのに、怒りという感情が爆発したせいで、自我を忘れ突撃してしまった。

 いや、それ以前に、姫菊に縁してからの態度も、見る者が見れば首を傾げる場面が多々あった。
 そして今、ハッキリと口にしてしまった。
 己の正体を。
 自分は勇者の娘であるということを……

 万事休す……か……
 こ、こんなとろこで……

 仮面の下からは止めどなく涙が流れ落ちている。

「ククク。どうした? 悔しいのか? だがお前に悔しがっている時間はないのだぞ。そんなリーチ寸前のお前に面白い提案をしてやろう」

 今更、何を!
 そんな目で仮面越しにヴェルザークを睨んだ。

「ククク。簡単だ。我が軍門に下れ」
「愚問だ。誰がキサマなどに!」

「いいのかな? お前は我が手下に見張られているのだぞ。どうせすぐ死ぬ」
「……何が言いたい?」

「ふ、私はこれよりユニカルの監督に就任する。そして最強の殺人野球チームに育てあげてやる。それをお前は支援しろ」
「バカな! 誰がそのような下郎の手助けなど!」

「そうか、ならそれでもかまわん。私はユニカルを最強の殺人チームにするために、ひそかに声をかけた者達がいる。お前の良く知っている者達だ。誰か気になるだろう?」
「……別に」

「そうか。それなら別に構わないが。
 私が誘ったメンバーは……
 大僧侶珍念、聖騎士ヴァルナ、ソードマスターのノエル、マスターシーフのカイル、白銀の追跡者シュバルツァー、ニードのエリック……」


 アスカは驚いた。
 それはまさしく自分が声をかけようとしていた者達の名前だったからだ。
 だが彼らは正義の心を持つ者達。
 こんな悪党に加担する筈がない。
 だからアスカは叫んだ。

「ふ、あなたは間抜けね。彼らが力を貸すと思っているの?」

 だが、間髪入れずヴェルザークは「あぁ、もちろん」答えた。
 そして続ける。

「私には別の顔がある。
 それは熱血教師鬼頭。
 その偽りの姿をもって人間界では、多くの不良共を更生させてきた。その昔、荒れ狂っていた3年C組というどうしようもないバカでカスでクソのようなクラスがあってな、奴らを一人前に育ててやったわ。だからそれなりに注目されている。
 だから私が球界を変えようと言えば、正義とかいうくだらない言葉が大好きな純粋なあいつらのことだ。その言葉を鵜呑みにして、ひょこひょこついてくるだろう。ククク。アハハハハ!」

「なんと卑劣な! 私はあなたを許さない!」

「どう許さないというのかな? キサマの全力をもってしても私の足元にすら及ばないというのに。もはや打つ手なし!」

 それでもアスカは立ち上がり、最期の力を振り絞ろうとしていた。

「おっと。待ちな。
 そのまま突撃して死ぬのは勝手だが、本当にそれでいいのか?
 キサマが死ねば、純粋なキサマの友達はどうなると思う?」

 友達という言葉で心が痛んだ。
 アスカは自分の胸に手をあてた。
 彼らは私のことを友達と思っていないだろう。
 そんなことくらい、分かっている。
 それでも私はこんな卑劣な奴に負ける訳にはいかない。

「さすが一度は私を追いつめた伝説の勇者の娘だ。その気迫。その信念。まさしく私が恐怖を抱いたのは、その勇猛なる精神だ。それを完膚なきまで叩きのめすために私は自らを鍛えてきた。
 ひとつ良いことを教えてやる」

 ――今更何を?

「お前に植え付けたカルマは、今、我が魔力によって昏睡状態にある。だから、お前が反逆者オリジナルカノンであることは、実はまだ知らない」

 言われてみれば、あれ以降、めっきり出てこなくなっていた。

「そして簡単に呼び起こすことができる。私がちょっと魔力を込めると、お前の中に植え付けたカルマは目を覚ます。今起こせば、直ちにお前が反逆者と知ることとなるだろう」

「何が言いたい?」

「だから最初から言っているだろう。今、ここで忠誠を誓え、と。これから私は善人のふりをして、ユニカルに近づき、ひそかに殺人野球へと変えていく。純粋な馬鹿どもの考え方をひっくり返すなど、暗黒鬼神の私にとって、早弁をして喜ぶガキ共に、弁当を取り上げてブチ泣かし、行儀を仕込むのよりも容易い。それをお前は手助けしろ」

 バカな。
 誰がそのようなマネを!
 そう口にしようとした。
 それと同時にヴェルザークは、ひとつ笑い指を立てようとしている。


 ――私の中で眠っているカルマを起こす気か!
 このまま起こされてしまっては、自分に勝ち目などない。


 奥歯を噛みしめた。
 苦い味がする。
 そして伊藤を睨んだ。


「伊藤さん。あなたの客が大変なことに巻き込まれようとしているというのに、どうして何もしないの? 平然としているの? みんな騙されて殺人者になって、最後には殺されるかもしれないのよ!? それなのに、どうして!! 何か言ってよ!!」

 伊藤の眼鏡が不気味に光った。


「最初申した通り、わたくしは商人。
 損得でしか動きません」


「損得って……
 みんな殺人者になってしまうのよ!
 それでいいの?
 命よりも大切なものがあるの!?」


「はい。ございます」


「さっき言ったよね?
 あなたは熱くれなれた、と。
 あなたにとって熱いってこんなことなの?
 こんな卑劣なことを助長してもいいの?
 誰かの苦しみや不幸の上に、喜びを作る、そんなことやることがあなたにとって熱い事なの?」


「革命とはそういうものです」


 アスカは突き上げていた拳をゆっくりと下ろした。
 そして小さくつぶやいた。


「見損なったよ……」

 そしてもう一度ヴェルザークを睨みつけ、「部下になってあげるわ」と言い放った。
「ほぅ。勇者といえど命が惜しくなったのか。クククウ」

「何とでも言うがいい。寝首をかかれないように精々気を付けることね」
 そう捨て台詞のように吐き捨て、アスカは去って行った。


 信じていた伊藤に裏切られた。所詮彼は損得でしか動かない。そしてヴェルザークは、チームを崩壊へと導こうとしている。
 だが、アスカの見えない目は死んでいなかった。
 手のひらを強く握りしめた。
 ――例えすべての者を敵にしようとも、私は悪女の仮面をかぶり、みんなを守る。
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