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スタイリッシュ武器屋 作者:弘松 涼
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101 家庭訪問4

 日が落ちたころ、暗黒鬼神ヴェルザークはナツミの自宅までやってきた。

 暗黒鬼神ヴェルザークは目を疑った。
 それはあまりにもみすぼらしいあばら家だった。

 このようなことを思っては失礼なのかもしれないが、彼女の両親にバカ高いこの学園の学費が払えるのだろうか。

「すいません」

 いくら戸をノックしようとも、誰も出てくる気配はない。

 それでも熱心に戸を叩き続けた。

「うるさいわね!」

 隣にある似たようなあばら家から、額に四角いばんそうこうを張った中年の女性がでてきた。

「あんた、借金取り? この家の住人、いくら戸を叩いても出てこないわよ」

「それはどういうことですか?」

「なんだ? あんた借金取りのくせに何も知らないんだね? おそらく今頃、夜の仕事に行っているから」


「働きに行っている? それは誰が?」


「ナツミだよ」

「まだ子供なのにか?」

「母親が入院しているんだから仕方ないだろ?」

「父親は?」

「あはは、この世知辛い世の中にこんな死にぞこないの家族なんて相手にする奴なんていねぇよ。身内だろうが生活にリーチかかったら見捨てるのは当然だろ。父親はとうの昔にどっかに逃げちまったよ。ナツミも死にぞこないのオカンなんてほっておいて、逃げちまえばいいのに。そもそも貧乏のクセして無理して入院なんてさせるからだよ。まぁ、まともな治療なんて受けてはいないんだろうけどね。最近の白魔導士は金がない奴を相手してくれないからね」


 暗黒鬼神ヴェルザークの胸はズキンと鳴った。


 ヴェルザークは、ナツミの提出した作文はすべて目を通していた。

 最初のころは夢を語っていたように思えた。
 なんとしても立派な白魔導士になりたい、そのような言葉を何度も何度もつづっていた。
 だが、次第に白紙で提出することが増えてきていた。


 どういう思いで、この作文を書いていたのだろうか。


「どこにある店か知らないか?」

「あんた、いくら貸したのか知らないけど、本当に極道なんだね。まぁあたしには関係ないどさ」

 中年女性はニヤニヤ笑いながらてのひらを差し出してきた。
 情報料を払えと言っているのだろう。

 暗黒鬼神ヴェルザークはスーツの裏から財布を取り出して、人間界のお金をつかんで中年女性の手に押し込んだ。

「あんた、渋くていい男だから嫌いじゃないよ。アウトローな感じプンプンしているしね」

「御託はいい。早く教えろ」

「ふーん。つれないねぇ。あ、もうちょっとくれたら、もっと面白い情報おしえてあげてもいいよ」

 ――この女は、何を教えてくれるといいうのだ。
 ただひとつ分かるのは、ナツミは相当な思いで働いていること。
 たまたまのタイミングだったのかもしれないが、ナツミが教室を出た途端、アキの身に大変なことが起こった。そしてそのことをまったく予期できなかったし、何が起こったの正直分からなかった。もしかしてナツミには、おそろしい力を宿しているのかとも、一時は思いもした。だけどその後、あらゆる角度で検証してみた。それでも結局つきとめることができなかった。
 つまりそれは偶発的の出来事としか考えられない。
 たまたまアキは調子が悪くて……
 そして私自身も色々な事を考えて過ぎて動揺してしまっていた。だから思うように魔法が使えなかった。そう考えるしか他なかった。

 
 とにかく今のヴェルザークは、ナツミが心配でならなかった。


 中年女性は取引条件として金を要求している。

 今のヴェルザークは、新米教師という肩書。
 だからかなりの安月給なのだ。
 そもそも金になどまったく執着はない。
 ハッキリ言ってしまえば、人間界のゴールドなんて、このミッションが終われば使う事なんてないだろうどうでもいいガラクタ。
 そう思っていたが、今は違う。
 本腰で生徒たちの為に尽力しようとしているのだ。
 もしかして長期戦になるやもしれない。
 そうなると人間界のアパート代。食費、電気、ガス、光熱費。それをすべてこの限られた資金の中でやりくりしなくてはならない。

 暗黒鬼神ヴェルザークは財布の中身を見た。

 あと30ゴールドしかない。

 これを渡すと今晩の飯は我慢しなくてはならない。
 いや、それだけではない。
 しばらく断食するしかない。
 その他、月末までの出費はたくさんある。
 家賃はどうする?
 人間界の大家は厳しいのだぞ。


 だが一切躊躇することなく、それをすべて中年女性の手に押し込んだ。


「これで全財産だ。知っていることを全部教えろ!」

 中年女性はにんまり笑って、ポケットからカギを取り出してチラチラと揺らした。

「これ、ナツミの家の合鍵だよ」

「どうして隣人であるお前ががそのような物を!?」

「夜、家を留守にするなんて、泥棒に入ってくれって言っているようなもんじゃないか。だからこっそり作ったのさ。だけどね、金目のものなんてありゃぁしない。だからあたしにとってこいつはもう用無し。だから、あんたにあげるわ。あんた、ナツミを丸裸の素寒貧にするために徹底的に素性を調べたいんだろ? だったら家探しかないんじゃないの?」

 ヴェルザークは凄まじい憤りを覚えた。
 怒りで自分がどうにかなってしまいそうだ。
 だが静かな顔で淡々と口にした。

「合鍵は他にはないのか?」

「は? これだけだよ」

「ウソをついたらぶち殺すぞ」

「物騒な人だねぇ。ホントにこれだけさ。あんたも探してみりゃ分かるけど、ナツミの家には何にもないんだよ。だからもうこんなのいらないんだけどね」

 ヴェルザークは合鍵を奪うようにもぎ取った。

 中年女性はへらへら笑いながら、あばら家の中へと消えいていった。


 暗黒鬼神の肩は震えていた。
 合鍵を握りつぶそうとしていた。
 だけどなんとかそれを堪えた。

 感情的になってはダメだ。
 自分が今しなくてはならないことは、ナツミという人物を知ることだ。
 彼女がどのような気持ちで、毎日を頑張ってきたのか、それが知りたい。
 人間界のルールなんて関係ない。
 彼女の心を知らなくして、次へは進めないのだから。

 合鍵でナツミの家の戸を開き、中へと入っていった。
 何もない簡素な部屋だ。
 雨漏りでできただろう、シミが点在している。
 一歩歩くと木の床がギィと鳴る。

 
 簡素な机が、ヴェルザークの視界に入った。
 その上には、表紙にウサギのイラストの描かれた帳面があった。
 どうやらナツミの日記のようだ。

 
 悪いとは思ったがヴェルザークは、それを手に取りページをめくる。
 ヴェルザークの背中には、電撃のような強烈な衝撃が走った。

 
 ナツミはクラスメートひとりひとりの行動履歴を事細かくつけていたのだ。

 いじめた相手を復讐したくて?


 最初はそう思っていたが、すぐにそれはまったく違うと気づかされる。

 
 5/1(月)
 今日はツトム君の誕生日。
 みんなはお祝いの言葉を言いながらプレゼントを渡している。
 私もあげたいけど、苛められっ子の私からもらったらツトム君が迷惑だから、こっそりお祝いをしてあげることにした。先生に褒められた時、ちょっと多めに拍手してあげたよ。ごめんね。それくらいしかできない。


 5/2(火)
 今日はヨシコちゃんのバイオリズムが崩れる日。
 きっと階段で転ぶと思う。
 だから階段の下にマットを敷いておいた。
 案の定、階段から転げ落ちた。
 でも怪我をしなくて良かったね。


 バイオリズムという単語を目にしてヴェルザークは驚きを隠せなかった。
 本棚の中には、ナツミが研究しただろう、バイオリズムの周期表があった。
 生まれた日や月の満ち欠けで、体調の変化や心の動きが変化する。それによって調子のいい日や悪い日がでてくる。
 その変化による人体の影響を、ナツミは事細かく研究して記していたのだ。
 人よりも影響を受けやすい魔族でも、ここまで正確に分析できていない。

 
 だが、驚くべきことはそれだけではなかった。

 日記はまだ続いている。

 5/10(この日の曜日は隠れちゃった)
 アキちゃんが私に死ねとノートに書いていた。
 私は先生にお願いしてトイレに行かしてもらった。
 トイレの中で、すごく泣いた。
 その後、アキちゃんが血を吐いていた。
 今日はアキちゃんのバイオリズムは最高のはずなのに。
 気づいてあげられなくて、ごめん。
 でも先生の魔法がすごくて安心したよ。
 いつかアキちゃんに渡せるといいな。
 来月はアキちゃんの誕生日だけど、きっと貰ってくれないだろうけど。


 その後に小さな文字で、
 辛い。みんな私を知って欲しい。
 そう書かれてあった。

 ヴェルザークは部屋の隅にある、刺しゅう入りのTシャツが視界にはいった。
 もしかしてそれは、ナツミが作ったのだろうか。

 Tシャツにはアッキーと言う文字が書かれある。
 その近くに手紙があった。
 丁寧な丸文字でこう書かれてあった。


『ガンバレ! アイドルのアキちゃん!』


 ヴェルザークは言葉を失った。
 急いで部屋を出ると、とにかく走った。

 ナツミが働いていると聞かされた店へ。
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