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スタイリッシュ武器屋 作者:弘松 涼
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100 家庭訪問3

 暗黒鬼神ヴェルザークは、嬉しくて嬉しくて仕方なかった。

 家庭訪問に行く前に、緻密な計画の書かれた手帳を開いた。


 ペンを取ると、裏表紙に『人類抹殺計画』と書かれた手帳のページに視線を落とし、計画の修正箇所を記載していく。

 人類を抹殺するには、まず脅威である二人の勇者、そしてその娘カノンを地獄の底に落とす必要がある。
 そのために9つ目のカルマを手に入れなければならない。
 8つは手に入れた。
 それは残虐、非道、欲望、破壊、傲慢、卑劣、嫉妬、冷血……
 残りひとつがどうしても見つからない。
 恐らく最後のカルマは人間界にある。
 そしてそれは地味という性質であると暫定的であるが仮定できた。
 地味は自分には分からない気持ちだ。
 だからナツミに心を打ち明けてもらわないといけない。
 そのためにはクラスのみんなと接する必要がある。


 そのためには……
 ……


 ヴェルザークは手で顔を覆った。
 もしかして涙を押し殺していたのかもしれない。

 そうこうしているうちに、3年C組のみんなが好きになっていたからだ。
 いつも意識して興味のないふりをしていた。
 どうせ別れなければならないのだから。

 だけど。
 期限付きだが、自分には全力でぶつかる理由ができた。
 あのすばらしい学園長の右腕として、私は3年C組を変えてやる。そうしたら、あいつらが心から笑う姿を目にすることができる。
 あのヒロシが、本気になったらどうなるのだろう?
 人の不幸を手まで叩いて喜んでいるアキがどう変わる? 
 そしてナツミは?


 だから新しい行に、このように書いた。

『3年C組のみんなへ。全力でぶつかるから覚悟しておけ、と』


 日が暮れる前に、アキの自宅についた。
 アキは裕福な家庭の一人娘だった。
 母親もアキ同様に小太りで、ネックレスや指輪で派手に着飾っている。

 客間に通された暗黒鬼神ヴェルザークは、出された紅茶に少し口をつけて話始めた。

「アキは将来、何になりたい」

「もちアイドルよ!」

 アイドルなるならまず痩せろとか、そういうことを言う暗黒鬼神ヴェルザークではなかった。

「なるほど」と言い、またちびりと紅茶を飲んだ。


 母親は物凄い剣幕で怒り出す。

 それは暗黒鬼神ヴェルザークにとって、もはや見飽きた光景である。
 ここの学園に通わせる親たちは、皆が皆、子供を自分の敷いたレールの上を歩かせようとしている。

「アキちゃん! 駄目よ! 駄目よ! 絶対に駄目だからね! そんな浮き沈みのある仕事なんて絶対に許さないから!」


 アキは陰険ないじめっ子ではあるが、暗黒鬼神ヴェルザークなりに彼女のことを分析していた。
 だから母親に向かって「お母様、お気持ちはよくわかります。私がしっかりと現実の厳しさを言い聞かせたいので、少しの間だけ二人で話させて貰えないでしょうか?」

 母親は立ち上がると「先生、お願いします。この子、わがままに育てちゃったから、バカな事ばかり言って聞かないのよ。先生の方からガツンと言ってあげてください」と言い、丁寧に頭をさげて部屋から出ていった。


 面白くない顔でむくれているアキに、暗黒鬼神ヴェルザークは声を潜めてこのように言った。

「お母さんにはああ言ったが、私はお前、結構いい線いっていると思うぞ。本気でアイドルになるのなら応援してやる」

「え! マジで!」

「しぃ!」

 と人差し指を立てる教師に、アキは「あ、うん」と頷いた。

 まさかの賛同者にアキは嬉しそうににんまりしている。


「だがお前、アイドルとは人気商売ってことが分かっているのか?」

「え、あ、うん。もちろん。先生、私、これでも超人気があるんだよ!」

「嘘だな」

「え? だって、みんな私のことを面白いって言ってくれるよ」

「みんなって誰だ?」

 アキは指を立てながら、「ツトムにリリアに、ガッチィにパロにぃ……」と一人ずつ名前を呼んでいった。

 その中にヒロシやナツミの名前は無かった。
 だが暗黒鬼神ヴェルザークは、熱い眼差しで真正面からアキを覗き込んだ。

「なるほどな。じゃぁアイドル選手権をやろう! まずこの学園でトップくらい張らないとプロなんて絶対無理だし、親だって認めないだろうから。公平を期するために違うクラスから対抗馬を出す。どんな方法でもいい。たくさん票を勝ち取った方が勝ちってのはどうだ!?」

 アキは目を輝かした。
 この人は真剣に自分の夢を後押ししてくている。
 そんな大人、今まで出会ったことがない。

「先生。私、頑張るよ」

「じゃぁ明日から早朝マラソンな」

「えー!」

 暗黒鬼神ヴェルザークは、そんなナリだからアイドルは無理だとは言わない。

「なんだ? てめぇの夢はその程度か?」

「え、あ、まだやらないとは……。で、でも、他のダイエット方法じゃダメ?」

「まずは早起きして2キロ走るところから始めろ。私が付き合ってやる」


 渋々だがアキは頷いた。

 暗黒鬼神ヴェルザークは口角でニヤリと笑った。
 これでアキとはガッツリ話せる。
 すごいじゃないか。アキ。アイドルは人に夢を与える仕事だ。お前に足りないものは、圧倒的にたくさんある。だがそれに気付かせてやるのが教師の務めだ。ひとつひとつ教えてやるよ。


 あとはナツミだけだ。
 彼女はアキ達に虐められていつも寂しそうにしている。
 髪も服装も、いつも疲れきっている。
 だけど笑うときっと可愛いだろう。
 見てみたいな。ナツミの笑うところを。
 私にはお前の笑顔を取り戻すことはできない。
 それをするのはナツミ、お前自身でやるしかないのだから。
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