誰よりも
貴方を愛しています
シンとした教室に私はいた。
両手に重いカメラを握り締めて、貴方を見つめている。
この時間が好き。
この時間が幸せ。
だって、貴方が見れるから。
「あ、一年生がゴールした」
今年入ったばかりの初々しい一年生がゴールを入れて大喜びをしている。
その可愛らしい笑顔に思わずシャッターを切る。
「よかったね」
あの人と付き合い始めて、この日、私は初めて他の人を撮った。
「あれ?」
この前撮った写真。
この日、やっと現像して、ある場所に置いていた。
それなのに、何故かその写真がない。
少し目を離した隙に。
疑問に思って首をひねる。
「探してるのは、これ?」
いつの間に背後にいたのはあの人。
びっくりして小さく悲鳴を上げる。
情けない声を上げてしまったことが恥ずかしくて顔を赤くする。
彼はヒラヒラと数枚の写真を手に持って揺らして見せた。
「あ、うん」
何だか怖かった。
いつもと違う、いつもより低いその声。
固くて、表情のない顔。
怒ってる?
どうして?
「珍しいよね?」
「え?」
沈黙を破ったのは彼の方。
一枚の写真をそこから抜き取って私に見せる。
それは思わず撮ってしまった一年生の写真。
「それ、が?」
「俺以外の奴撮るなんて珍しいよな?」
もしかして?
まさか………?
これが怒っている理由?
「どうして撮ったの?」
「え?つい、喜んでる顔が可愛くて」
雰囲気にのまれて私は本当のことを口走ってしまう。
さらに彼の顔は険しくなる。
彼はゆっくりと私に歩み寄る。
怖くて、思わず後ろに下がるけど、机があって、すぐに距離を縮められてしまった。
「ふぅん、だから撮ったんだ」
冷たい声音に身をすくめてしまう。
彼は私の手を取って引き寄せる。
まるで、逃がさないと言われているようだった。
「でも、俺はちょっと納得できないから………お仕置き」
そんな理不尽なことを呟いた瞬間、私の身体は拘束される。
強く抱きしめられて、心臓が飛び出しそうなくらいうるさくなる。
触れている場所が熱くて、気付かれそうで怖くて。
おそらく今の私は顔を真っ赤にしているだろう。
お仕置き、とは一体どんなことなんか、今の私にはそんなこと考えている余裕はなくて。
ただ、この熱さと心臓の音に気付かれないようにと願うことしかできなかった。
「すごい、ドキドキしてる」
気付かれたと、顔が熱くなるのがわかった。
そしたらすぐに身体を離されて顔を覗かれる。
「熱いけど、感じてる?」
「な、な、何言って………っっ!!」
突然唇をふさがれて思考が停止する。
差し込まれるものに苦しさと熱を感じる。
いつのまにか彼の服を強く握って、他の部分は力が抜けていく。
長い、長いキスは私が吐き出した息によって終わりを告げる。
「こんなんじゃ、今日は終わらせない」
「え!?」
彼のお仕置き。
それは私を窒息死させることみたい。
「ん………」
目を開ければそこには心配そうに私を覗き込む彼の顔。
びっくりして起き上がると、彼はほっと安堵したように顔をほころばした。
「おいおい、キスぐらいで気絶しないでくれよ」
「え?だって、あんな………」
どうやら私は気絶していたようだ。
思わず顔を真っ赤にして、私は視線をそらす。
その反応が面白かったのか、彼は笑い声を上げる。
「い、意地悪!!大体、何でこんなこと」
「それはお前が悪いんだぞ?こんな写真撮るから」
「………やっぱり妬いてるの?」
「なっ!!」
私の言葉に今度は彼が顔を赤くする。
その顔が可愛くて、つい私は顔を緩ませてしまった。
そうしたら、彼はむっと顔を苦くした。
「何笑ってんだよ」
「だって、珍しいものが見れたから」
いつも俺様で自信満々の彼が、たった一枚の写真で取り乱すなんて、なかなかないもの。
私のことを想って怒る貴方が、好き。
可愛い…。
「今、可愛いって思ったろ?」
「へ?何でわかったの!?」
予想通りだったのが嫌だったのか、口を引きつらせる彼。
だけど、すぐに表情は笑みに変わる。
意地の悪いその笑みはいつもの俺様の彼。
「俺よりもお前の方が可愛いのに」
「へ?え?」
「だから、俺が惚れるんだよ」
いつも、彼には適わない。
一緒にいるだけでこんなにもドキドキなのに、そんなことを言われると正直困る。
赤くなった顔を隠すように私はうずくまる。
「もう、そんなこと言ったら私がどうなるか知ってるくせに」
「知ってるから言ってんだよ。誰のことも目に入らないくらいに俺に惚れてくれないと困るんだよ」
どうしよう。
どうしよう。
私の熱は冷めることなく増えていく。
甘い甘い口づけと言葉と共に。
「次から、絶対俺だけを見させてやる」
「もう、ちょっと独占欲強すぎない?」
「それが俺だろ?嫌いか?」
ずるい。
そんなこと聞かなくてもわかってるくせに。
だって、先に好きになったのは私だから。
貴方を愛しています。
「嫌いになんてなれないよ」
「ナイス。それで今日のお仕置き終わりにしてやるよ」
意地悪で、
意地っ張りで、
独占欲強くて、
だけど、
それだから、
貴方が好きなの。
「じゃぁ、ちゃんとしたキスをして?」
「上等、また気絶するくらいのキスをやるよ」
そして、私はまた一つ。
戻れない関係に溺れていく。
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