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あったかい雪だるま

作者:神森真昼
 むかし、むかし、雪の国に雪だるまが住んでいました。年中通して、雪に覆われたこの国には緑色をした草木も、大地を駆けめぐる動物たちもいません。そのため、雪だるまは長い間一言もしゃべらず、動かず、真っ白な世界だけを見て生きてきました。

 しゃべらなすぎて口が凍り付いてしまうんじゃないかと心配していた頃、雪だるまは旅人に出会いました。

「こんにちは。この国はとっても寒いね」

 旅人は身体を震わせながらそう言いましたが、雪だるまは雪の国から出たことがないため、『この国が寒い場所』ということを知りません。

「寒いなら来なければいいじゃないか」

 雪だるまは冷たく突き放しましたが、旅人は腹を抱えて笑いました。

「本当にそうだな!でも、この世界には僕たちの知らないことがまだまだたくさんある。そう思うと、例え困難でも足を動かさずにはいられないんだよ」
「ふーん」

 雪だるまには、旅人の言っていることがよく分かりませんでした。興味もありませんでした。それでも、旅人は無愛想な雪だるまに話しかけました。

「君は一人でここに住んでいるのかい?」
「生まれた時からずっとね」
「わー!なんて寂しい生き方をしているんだ。私だったら、寂しすぎて死んじゃうよ」

 雪だるまには、『寂しい』という気持ちが分かりませんでした。でも、『死んじゃう』の意味は知っていました。それは、雪だるまにとって一番怖いことでした。このままだと、自分も『寂しい』になってしまい、『死んじゃう』かもしれない・・・雪だるまは、旅人の言葉に少し興味を持ちました。でも、雪だるまは動こうとはしません。

「雪だるまは雪の国でしか生きられないんだよ」

 雪だるまには、雪の国の外へ出ると融けて死んでしまうという古くからの言い伝えがありました。雪だるまはその言い伝えを信じて、今まで生きてきたのです。旅人にその話をすると、旅人はまた腹を抱えて笑いました。

「なぜ分かる?他の国を知らないのに?もしかしたら、雪だるまでも生きられる国があるかもしれないじゃないか」
「そんな国があるの?」
「それは君自身の足で探すといい。旅とはそういうものだ」

 旅人はそう言って、帽子を深くかぶり直し、再び雪道を歩いていきました。



 旅人の話を聞いてからというもの、雪だるまの頭の中は好奇心でいっぱいになりました。もしも、雪の国以外に住める国があるなら行ってみたい、見てみたい・・・雪だるまは長年動かさず地面にくっついてしまった足を動かし、一歩前へ出ました。雪だるまにはそれだけで今までと違った景色が見えたような気がしました。

 雪だるまは、雪の国を出て、緑の国へ入りました。それは、今まで真っ白な世界しか見たことのなかった雪だるまにとって、夢のような景色でした。緑の生い茂る森、茶の大地、そして、見たことのないような色をした花たち・・・何もかも初めて見たものばかりでした。また、緑の国の生き物たちにとっても、雪だるまを見るのは初めてでした。様々な生き物たちが、雪だるまに声をかけてきます。

「その真っ白な身体は何でできているんだい?」
「雪だよ」
「雪ってどんなの?」
「白くて冷たいんだよ。触ってごらん」

 緑の国の生き物たちはおそるおそる雪だるまの身体に触れ、皆「冷たい!」とびっくりしました。雪だるまは、緑の国の生き物たちの驚く姿が面白くて大笑いしました。それを見た緑の国の生き物たちも、雪だるまは身体は冷たいけど、面白いと分かり、楽しそうでした。

 雪だるまは、緑の国に住む生き物たちと一緒になって、毎日大地を駆けめぐりました。雪だるまにとって、間違いなく今までの人生で一番楽しいひと時でした。そんなある日、遊んでいる雪だるまに緑の国を治めている大木たいぼく様が声をかけてきました。大木様は、緑の国で一番大きな木でした。大木様は言いました。

「雪だるまの子よ。緑の国は楽しいだろう」
「うん!とっても!」
「しかし、お主の身体にはこの国は少々暑すぎるようだのう」

 雪だるまの身体は、緑の国へ入った直後に比べ、一回り小さくなっていました。この国は楽しいけど、長くはいられない・・・雪だるまがそう悟った瞬間でもありました。雪だるまは、大木様に尋ねました。

「雪の国以外で、雪だるまが住める国を知ってる?」

 大木様は少し唸りながら、答えました。

「おそらく、人の国のことじゃろう」
「人の国?」
然様さよう。人は自分たちの手で便利な道具を生み出すことができるのだ。雪だるまが融けないで済む道具があるのかもしれない」

 その話を聞き、雪だるまは歓喜の声をあげました。あまりの嬉しさにそれだけでちょっと雪の身体が融けた気がしました。しかし、大木様は枝木と震わせ、雪だるまに警告しました。

「人の国はいけないところだ。人は心が冷たく、生物を殺すことをいとわない。行ってはならん。生きては帰れないぞ」

 大木様の話を聞いた雪だるまは、身体がブルッと震えました。少しだけ、融けかかった身体の表面が再び凍り付いた気がしました。雪だるまはしばらく悩んだ後、大木様に言いました。

「それでも、人の国に行ってみたい!」

 雪だるまは、古くからの言い伝えを破り、緑の国へやってきました。そこで、様々な動物たちに出会いました。楽しい思いもしました。『楽しさ』を知った雪だるまは、雪の国へ戻りたくなかったのです。しかし、大木様は言いつけに逆らった雪だるまが許せず、緑の国から即刻出て行くよう命じました。雪だるまは、緑の国の生物たちに手を振りながら、国を出て行きました。



 雪だるまは、緑の国を出て、砂の国に入りました。しかし、緑の国と違い、かなり気温も高く、雪だるまの身体がすべて融け出してしまうのも時間の問題でした。
 途中、雪だるまは水辺を見つけました。雪だるまは知りませんでしたが、それは砂の国でオアシスと呼ばれるものでした。雪だるまは、オアシスが氷水のように冷たいと思い込み、駆け寄って飛び込もうとしますが一羽の鳥が「やめときな!」と止めてきました。

「この水はぬるい。お前の身体なんか一瞬で溶けちまうぞ」

 鳥の忠告に、雪だるまはオアシスの前で座り込んでしまいました。

「このままじゃ人の国へ行く前に融けちゃうよ」

 雪だるまの言葉に、鳥はたいそう驚きました。鳥はいろんな国を見て回っています。鳥にとって、雪だるまが雪の国以外で住もうとするのは、とてもめずらしい事でした。鳥は言いました。

「どうして人の国へ行きたいんだい?」

 雪だるまは残りの力を振り絞って答えました。

「雪の国が楽しくないから」

 その言葉を最後に、雪だるまは声を発することすらできなくなってしまいました。見かねた鳥は、雪だるまのかぶっていたバケツに、ほとんど融け出していた身体と、木の棒、手袋、長靴といった手足を詰め、大空高く舞い上がりました。目指すは人の国です。



 人の国に入った鳥は、雪山の小屋で暮らす少年の元へ向かいました。鳥は、その少年が冬になると、雪だるまを作っていることを知っていたのです。鳥が、少年に訴えるように「ガーガー」と鳴くと、不自然に思った少年は鳥の元へ駆けていきました。少年はバケツと中身を見て、驚きました。

「雪だるまの部品だ!」

 少年はすぐさまバケツから小さな小さな雪の塊を取り出し、雪だるまの身体を作り始めます。そして、最後に少年が雪だるまの頭にバケツをのせると、雪だるまはバチバチと瞬きし、息を吹き返しました。

「あれ?融けてない?どうして?」

 少年は、雪だるまの手である手袋に、手を当てて言いました。

「雪だるまは僕の友達なんだ!」

 『友達』・・・雪だるまには分からない言葉でした。

「友達ってなに?」

 少年は、笑って答えました。

「楽しいことや悲しいこと、嬉しいことや辛いことを分かち合える相手のことだよ!」

 雪だるまは『楽しい』は知っていましたが、『悲しい』『嬉しい』『辛い』という気持ちを知りませんでした。雪だるまが頭を傾げていると、少年は雪だるまの手を握り、駆け出しながら言いました。

「一緒にいれば分かるよ!」



 雪だるまは、少年に出会い『楽しい』だけでなく、いろんな気持ちを知りました。

 少年がずっと大事にしていた物がなくなった時は、雪だるまも一緒になって『悲しく』なりました。

 雪だるまがなくし物を見つけてきた時は、少年が喜んでくれたので、『嬉しく』なりました。

 少年が風邪を引いた時は、一緒になって『辛く』なりました。

 雪だるまにとって、『友達』との日々はかけがえのないものでした。



 雪だるまは、少年とずっと一緒にいたいと思いました。でも、人の国は四季のある国。冬が終わってしまったら、山といえど雪だるまは融けてしまいます。日に日に落ち込んでいく雪だるまを見て、少年はある提案をしました。

「雪の国に、雪だるまを作りにいこう!僕以外にも友達をたくさん作ろう!そしたら、雪の国だってきっと楽しいよ!」

 少年の提案に、雪だるまは飛び跳ねて喜びました。飛び跳ねた衝撃で、少し身体の雪が欠けましたが、気にはなりません。雪だるまと少年は、旅支度を整え雪の国へ旅立ちました。



 途中、命を落としかけた砂の国がありましたが、雪だるまは少年が用意していた便利で不思議な箱に入ってますので融けません。

 砂の国を抜けると、今度は緑の国です。緑の国は少年にとって過ごしやすい気候のはずなのですが、少年の悲鳴が聞こえたり、箱の揺れが激しかったりしました。箱に入っている雪だるまには、少年がどのような状況なのかはっきりと分かりません。しかし、少年が大きな木の前に差し掛かると、雪だるまは恐ろしい声を聞き取りました。雪だるまを緑の国から追放した大木様の声でした。

「人はいけない生き物だ。緑の国を脅かす存在だ。決して生かして返してはならん」

 その声を聞いて、雪だるまは大木様が人を忌み嫌っていることを思い出しました。どうか、少年が無事でいられますように・・・雪だるまは箱の中で祈ることしかできませんでした。



 雪の国についたのか、雪だるまは箱の中でも懐かしい冷たさを感じました。少年は疲れたような足取りでしたが、無事のようです。雪だるまはホッとしながら、箱から出してもらえるのを待っていました。すると、急にガタガタッと箱が揺れ、身体が2、3回転した後、勢いで箱の中から飛び出してしまいました。

 外は、一面真っ白な世界でした。雪だるまは、目的地に無事たどり着いたことと共に、ここが自分のずっと暮らしていた国の景色だよと少年に話したくなりました。雪だるまは、笑顔で振り返りました。

「見てみて!全部、真っ白でしょ?ここが僕の故郷なんだよ!」

 雪だるまは、笑顔でそう言いましたが、たちまちその表情は悲しみに変わりました。

 全身、傷だらけの少年が倒れていたのです。

 雪だるまは、すぐさま少年に駆け寄りました。人が『寒さ』に弱いことを覚えた雪だるまは、必死に手袋で少年の背中をさすりました。

 何度も、何度も、さすりました。

 ですが、少年はピクリとも動きません。

 次第に雪だるまの目に熱いものがこみ上げ、溢れました。雪だるまにはそれが何か分かりませんでしたが、雪融け水よりも熱い水だと分かりました。このまま、熱い水を目から流していたら、身体が融けてしまうことも分かりました。しかし、何度止めようと思っても、目から溢れ出す熱い水を止められません。

 『寂しさ』を知った雪だるまは、雪の国にいたのにも関わらず、身体が融けだして消えてしまいました。

(終)
ここまで読んでいただきありがとうございました♪

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