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二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む 作者:木塚ネロ

第三章

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第26話 塔の崩れる音 1

遅れてしまって申し訳ありません。
誤字の訂正も追いつかず、本当に申し訳ないです……。皆さんの感想のおかげでギリギリモチベをつないでいる状態です。
あぁ、学生の頃に戻りたい。小説だけ書いて過ごしたい……。
宝くじ、当たらんかなぁ。もしくはヒm……ゲフンゲフンッ。←(クズの思考
  
 そう、だからそれは崩れ始めの音。

 虚像にかたどられた、冷たく光る価値を纏うソレを積み上げ続けて、アイツはもっともっとと高い場所を望んで上を見続けている。

 だから、気付かれないようにひそやかに、一つ一つ、その塔が揺れないようにその足元から塔の欠片を引き抜いていった。

 物事は落差が大きければ大きいほどに、その身を叩く強さを増していくから。
 その塔を崩すときは、あいつが次の段を積み上げるその瞬間に、抵抗する暇もなく落とすと決めた。

 そしてこれが最後のピース。
 これが、最初に大きく響く、瓦解を始める塔の音。
 溺れるようにアイツが築いて登ったその足元が、脆く崩れ始める崩壊の音。

 俺は、その塔から引き抜いた欠片を手に救い上げてチャラチャラと手からこぼす。

「さぁ、祭りの準備はこれで終わりだ。お前にも味合わせてやる、今まで大切だと思っていた価値観がズタズタに引き裂かれるあの瞬間を」

 何もかもが凍える冷たさと、ドロドロに溶かした熱炉の底が、お前の棺桶だ。

「お前の大好きな貨幣の海で、最後に溺死させてやるよ、グロンド」

 落ちた瞬間に響いた金属の濁った音が、とても気持ちよく俺たちの耳に響いていた。

 
              ☆

 
「ふぅ、これで細かい商談は終わりだな」

 私は最後に溜まった書類にサインを入れると、ようやくなくなった書類の山に一息をついた。

 仕事に区切りがついた達成感を心地よく感じつつも、どうにも予想を外れたコトの成り行きに不満を感じていた。

「まったく、どこの商会も想定以上に耳が悪いな。私の目も想像以上に曇っていたということか……」

 うちの商会の取引に使われた貨幣が消える、そんな噂を真に受けるいくつもの小・中規模の商会。

 結局、そのほとんどがうちの商会から手を引き、取引を切ろうとしていた。
 その中にはなかなか目端を聞かせられると思っていた商会もあり、さすがに失望を禁じえなかった。

 結局、今の段階で取引を切らなかったのは被害のない大商会と、うちが美味い汁を吸わせてつつ、軽い弱みを握っている商会だけだった。

「ふんっ、こうなれば、集めた貨幣で特権を得た後はズタズタに利益を絞り上げてやる」

 特権を得てしまえば、風向きはガラリと変わる。
 多くの商会がこのグロンド商会へとすり寄って来ようとするだろう。

 しかし、今は向こうがこちらの契約を切りに来ている。手のひらを返してうちと契約しようとするのなら、当然、それに見合うだけの対価を絞り上げられる。

(現状は癪に障るが、今後を考えれば利益につながる)

 魔力嵐も収まりつつあり、街道を塞ぐ魔物たちもそのうちギルドが排除するだろう。
 情報伝達の手段が回復すれば、貨幣の改鋳の情報もすぐに広まる。

 それに合わせて、うちの取引記録の一部と被害届の一覧の情報を流せばそれでこの馬鹿なうわさもすぐに駆逐されるはずだ。
 何も問題はない。

(傘下の商会からは現金を引き上げさせたし、多少融通を聞かせられる商会からも現金を巻き上げた。他の大商会もこれだけうちがリードしている状況で張り合おうとはしてこないだろう)

 普通、貨幣の改鋳は決定後、速やかに実施がなされるのが慣例だ。
 ということは、貨幣の改鋳は既にほかの街では行われ始めていてもおかしくはない。

 この状況からうちの商会を抜き去るには明らかに時間が足りず、うちの一人勝ちが確定的だった。

「会頭、オカリア商会様、フギネ商会様、ムナイト商会様から会談の申し込みが来ています」

「なに?」

 名前に上がったのはいずれ劣らぬ街の支配者。
 ウチの商会と日々しのぎを削り合う目障りな商売敵だった。
 その規模はウチと同等……いや、うちよりも少し力を持っている商会。

 貨幣改鋳の特権を狙える位置にいた、うちの商会が警戒するべきいくつかの商会だった。

「内容は?」

「それが、臨時の追加取引を行いたいと……」

(このタイミングで追加取引……?)

「取引物はなんだ」

「ええっと、買い付けのようですね、食料と武器類の一式、ポーションの類を大量に買い付けしたいようです。理由は、数日後に計画されている魔物の討伐の需要を見込んでのとのことです」

「そうか、分かった。君はいったん退室してくれ。考えたいことがある」

「かしこまりました」

 一つ礼をした部下は黙って部屋を出ていく。
 静かになった部屋で、グルリとイスを回して立ち上がり、背後の窓から町を見回す。

「クククッ、アーハッハッハッ!!」

 そして、こらえきれずに笑い声を上げた。

「よしよしよぉーしっ!! これで本当にうちの商会が特権を得るのは確定的だっ!」

 額面通りに受け取るなら今回の魔物の討伐で一儲けしたいということだが、その仕入れをうちに求めてくるはずがない。
 確かに魔物の討伐で需要は増えるだろうが、それをあの規模の商会が自ら賄いきれないはずもない。

 この取引の目的は、明らかに現金を手放すということにある。

(あれらの商会にも貨幣改鋳の情報が回ったのだろうな、そして慌てて損害を減らすためのうちに頭を下げに来るということか……。クククッ)

 大量の貨幣との引き換えで得ることで特権。
 それは莫大な富を生む甘い果実だが、それを求めていくには相応のリスクが存在する。

 持っている貨幣の価値が変わる。
 それは、その貨幣を多く持てば多く持つほどにその影響を受けることになる。

 要するに、ほかの商会は特権を手に入れられないと諦めたのだ。

 キチンとした情報収集能力を持つあの規模の大商会が、あの噂を信じたわけもないのだから、理由はそれしかありえない。

 だから、その損害を減らそうと、うちに媚びを売るのに合わせて取引を持ち掛けようとしているのだろう。

「今まで奴らにはさんざん煮え湯を飲まされていたからな。くくく、たっぷりと足元を見て取引してやろう」

 それぞれの商会の会頭の屈辱にゆがむ顔を思い浮かべるだけで笑いそうになる。

 もうすぐ、もうすぐここから見える町が私の手に入る。
 この町を行き来するすべての金に、私の息を吹きかけることができる。

 私は、この町の命を握ることができるのだっ!

 この私が、この町のすべてを思いのままにできるのだっ!!

「くくくくっ、ハーっハッハッハッ!!」

 そうして私は、我慢できずに再び笑い声を上げた。

 
             ☆

 
「おやおや、これは少々お待たせしてしまったようで、わがグロンド商会としても汗顔の極みですな」

 数日後、わざとゆっくりと時間をおいて訪れたのは、オカリア商会、フギネ商会、ムナイト商会、そのそれぞれの会頭の待つ応接室だった。

「いえいえ、さほど待たされたわけでもありませんから」

「そ、そうですな」

「……商会の会頭というのは忙しい仕事だからな」

 一斉にこちらを向いたその顔はどれも商売人として仮面をつけていた。
 しかし、どいつもこいつもその下の素顔に浮かぶ屈辱の顔が透けて見えて仕方がない。

「さぁ、時は金なりと言いますからな。さっそく商談を始めましょうか」

 我ながらヌケヌケとよく言うと思いながら話を始める。

「それで、そちらが要望している物品はどんなものでしたかな?」

「……はい、こちらがオカリア商会からの注文書です」

 苛立ちを見事に隠しながら、オカリア商会の会頭はその紙を手渡してきた。

「これが、吾輩のフギネ商会からの注文書ですぞ」

「……ムナイト商会からだ」

 ほかの二人も同様に注文書を手渡ししてくる。

「フムフム」

 食料、鉄製の武具や防具、下級から中級HPポーションとMPポーション、各種ステータスの強化薬から状態異常の回復薬。

(……思ったよりも注文数は少ないし、単価も安いな。コレは事前に談合を交わしてきたか?)

 三枚の注文票に記載されている注文数もその単価も、その数値は想像よりも少なかった。
 おそらく、事前に打ち合わせをして、うちから買い取る量の割合と値段を決めてきたのだろう。

 大商会であるうちでも、注文に対応できる数には限りがある。
 そのすべてを独占しようとすればその価格はどんどんとつり上がることになり、向こうの三商会にとっては嬉しいことにはならない。

(まぁ当然の判断だな、私でもそうする。いや、そうするしかない)

 自らの商会の利益のことを考えたらその選択が一番いいのは確かなのだから。
 しかし……、

「ふむ、どの商会も話になりませんな」

「「「なっ!?」」」

 バサッ、と三枚の注文書を放り捨てるように手を放した。

「注文数はいいでしょう。何とかうちでも対応できなくもない量だ。しかし、この金額はいただけない。せめてもう少し、これくらいは色を付けてもらわないと」

 再び拾い上げた注文書にペンで修正を入れて、三人へと返す。

「……グロンド会頭、こりゃあいくら何でも阿漕が過ぎるってもんだ」

「そ、そうですぞ。我々の提示した値段も相場に十分色を付けた値段になっているではないか」

「そうですっ、いくらなんでも無茶苦茶だっ!」

 注文書に目を通した三人は、加えられた修正に慌てて声を上げる。

「おやおや、私はこれでも良心的だと思うのですがね。この非常事態だ、誰もが命は惜しい。それこそ飛ぶように仕入れた分だけ売れるでしょうなぁ。街道を塞いでいる魔物たちをあらかた討伐し終えたとしても、魔力嵐の影響でしばらくは魔物が多くなる。売れ残りを心配する必要もほとんどない」

 口から流れ出る言葉はとても滑らかだった。
 嘘や虚飾を使いこなして、相手を丸め込むのが商人という仕事だ。
 話している内容が真実ならなおのこと、スルスルと言葉が口から出る。

「いやぁ、羨ましい。私は支店を出すための準備で、今は在庫よりも現金を必要としているが、商人としては願ってもない商機ですなぁ」

 ハハハハッと笑い声をあげる。

「とはいえ、ウチとしても少ない商品を小出しにするよりも、先に在庫を処分して利益を確定させた方が何かと動きやすい。ねぇみなさん、これなら私も皆さんもどちらも利益を得ることができるでしょう?」

「「「…………っ!!」」」

 ニヤリ笑って見せれば、三人とも商人としての顔が一瞬だけ剥がれ落ちて、その下の屈辱に焼かれた素顔がのぞく。

 当たり前だ。
 言っていることは嘘ではないが、どちらも利益が上がるにしてもこの金額ではその差に大きく開きがある。
 実質、ただ働きをしろと言っているのとほとんど変わりがない。

(だが、それでもお前らには断れんだろう?)

 これは事実上の命令に等しかった。

 敗軍の将は以て勇を言うべからず。
 降伏を申し出てきたこいつらには、うちに媚びることしかできない。
 上手くうちの商会に取り入ることができれば、今後とも甘い汁を吸える可能性が非常に高くなるのだから。

「……わ、分かりました。我がフギネ商会は、この値段と数量で契約しますぞ」

「……オカリア商会もです」

「ムナイト商会も、同意しよう」

 おぉおぉ、この顔だけで多少の苦労など吹き飛ぶというものだ。

 完全勝利だっ!

 本当は今すぐその場で高笑いしたい気分だった。
 もちろん、本音は建前に隠すもの。どのような場であっても取引の場で仮面を外して喜ぶなど商人としてありえない。

「おお、分かっていただけましたか。それでは注文書にサインをお願いしたい」

 数字を書き換えた注文書を改めて三人の前に差し出す。

 注文書にサインをするために身を倒して文字を書く姿は、まるで私に膝まづいているようだった。

 気分がいい。とても気分がいい。

 全員の頭が下がっているのをいいことに、思わず私の顔が笑みの形にゆがんだ。

 そうして、私の眼の前で、こいつらが敗者となった証拠が作り上げられる。
 重要なのは、結ばれた注文契約で得られる利益などではない。

 これだけこちらに有利な商取引きを行わせたというその事実こそが大事なのだ。
 普段なら絶対にありえないような取引を成立させたというこの前例は、街の商会の立ち位置を格付けをはっきりとさせる。

 これは、私のグロンド商会がこの街の頂点に立つ儀式なの…………、



 その瞬間、ギシリッと、何がどこかで軋むような音が聞こえた気がした。

 

(…………なんだ、なんだこの感覚は)

 それは、これまで商人として生きてきた中で幾度も感じたことのある警戒音。

 理屈ではない、チリチリと背筋の奥が焼けるような焦燥感。
 何か、決定的に間違えてはいけない何かを踏み越えてしまったような感覚。

(おかしいっ、なぜだ? 何が問題だと言うのだ?)

 目の前にあるのは無様に頭を垂れる哀れな敗北者たち。
 手の内にあるの現実には、どう考えても間違いはない。私はこうして勝者として君臨しているのだから。

 だが、そう考えているのに心のさざ波が止むことがない。
 この感覚が湧き上がるのは、基本的に誰かに騙され、何かを失いそうになっている時だ。

「グロンド会頭、それでは一通をそちらに、もう一通は我々が持ち帰りますので」

 オカリア商会の会頭が書き終えた書類を差し出すのに合わせて、ほかの二つの商会の会頭もサインを入れ終えた注文書を差し出す。

(まさか、これか? この注文書に何かを仕掛けでもしてあるのか?)

 通常、商取引きでは契約書は二枚作成し、それを一枚ずつ保管することになっている。
 どちらかの都合で契約を反故にしないためだ。

 私は契約書を受け取ると、服の内ポケットに忍ばせてある魔道具で契約書に何か仕掛けが施されていないかと確かめるが、そこに異常は見当たらない。

「なにか、不備のある点でもございましたかな?」

「ああ、いや、なんでもありません。確かに、これで契約は完了ですな」

 一枚ずつ回収した契約書の片割れを受け取り、部下に手渡した。
 契約書を受け取った部下は、それを補完するために部屋を退室していく。

 滞りなく取引は終わったというのに、やはり胸騒ぎは収まらない。

(なぜだ……、いったい、何を見落としている?)

 もしかしたらただの思い過ごしなのか。
 望んでいたものが手に入る高揚感で、不安になっているだけなのか。

「さて、それでは来月分の取引の商談をまとめるとしましょうか。我々も忙しい、わざわざ日を改めるなど、愚の骨頂ですからな」

 心の内がどうあれ、私は商人だ。
 やるべきことはやらねばならず、予定通りに話を進める。

 三つの商会はそれぞれ独自の強みを持っていた。
 オカリア商会はステータスを一時的に強化するポーションを、フギネ商会は武具や防具などの金物に秀でて、ムナイト商会は質のいい蛍光食料や魔道具の販売に先んじている。

 それに対し、うちの商会はこれと言って秀でたものはないが、代わりに多方面への販路を持っていて、苦手な分野が存在しない。
 うちはそれぞれが秀でている品物を融通してもらう代わりに、それぞれの不得意な消耗品を安く取引していた。

(格付けが済んだ今、その鉄が熱いうちにさらに追い打ちを……)

 しかし、そこで目の前に座る三人の男が困惑したように顔を見合わせている。
 その意味に疑問を挟むよりも先に、三人を代表してムナイト商会の会頭が口を開いた。



「…………君は、何を言っているんだ? これ以上グロンド商会との取引などするわけがないだろう。というより、まだこの町で商売をできる気でいたのか?」



「…………は?」

 おもわず漏れた自分の声に、私が立っている足場の一部が、ジャラリッ、と崩れる音がした。

  
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