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二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む 作者:木塚ネロ

第三章

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第25話 不吉の足音

間が空いてしまってすいませんっ、ストックを切り崩しつつ投稿していたのですが……、このたび、見事にストック数が0になりました。やばいです。時間足りないです。
今月、来月の前半ぐらいは不定期更新になりそうです、申し訳ないです。

皆さんから思った以上に飲み会の2次会を断る方法についてメッセージをいただけました。本当にありがとうございます。
お世辞じゃなくて本当に助かります!
いろいろ落ち着いたら更新スピードも戻していきますのでっ、よろしくお願いしますっ!


「なんだとッ!? それは本当かっ!!」

 ノノリックからの言葉に私は思わず声を荒げた。

「ひゃんっ、もうっ、オジサンの乱暴者ぉ。勢いだけじゃ女の子は喜ばないんだよ?」

「そんな冗談に付き合っている暇はないっ!! それよりも今の話は本当なのかっ!?」

 自分の体を抱きしめるように腕を回して、特注品のソファの上でシナを作るノノリックに怒鳴りつける。

「もうっ、オジサンたらせっかち何だから。ちゃんとうまく焦らさないと女の子の体はそっぽむいちゃうんだよ」

「そんなことはどうでもいいっ、"ラムネ"の取り扱いを任せていた連中が皆殺しになったというのは本当なのかっ!?」

「うん、まーねー。この目で確かめてきたもぉん、何かの薬で殺されたのとかー、同士討ちぽい状態で互いに剣を刺しあって転がってたりするのとかー。あ、映像結晶に記録してきたから見てみる?」

 と、ノノリックは青い結晶を取り出し、私の返事を待たずに映像を部屋の白い壁へと投射した。

(……これはひどいな、よほどの怨恨があったとしても、ここまで踏み切れるものは少ない)

 映された映像の中では無数の死体が転がっていた。

 体の関節という間接を反対に折り曲げられ、奇怪なオブジェと化してしまっている死体。

 互いに持った剣をわざわざ死ぬまで時間のかかる腹部に突き立て合って繋がったままこと切れている死体。

 人型をしていることが分かるだけの、顔から全身にかけて何かに溶かされたかのように紫色に変色している死体。

 そして、首から下の皮を全身はぎ取られて黒く変色した肉が露出し、頭を貫通する程の大きな刺し傷のある涙の後が残された顔を持つ死体。

 顔が判別できる状態で残された死体からは、今際の際に恐怖と絶望にはっきりと歪む表情と、流れ落ちたであろう涙の後がはっきりと映っていた。

「でねでね! 中でもこの一番手前のリーダーっぽい人なんだけどね、すっごい面白い殺し方してたみたいなんだ♪ 映像結晶じゃ細部まではよくわからないけど、こうねぇー、なんかすごく小さなギザギザの刃で、全身の皮膚を食べたみたいな傷が残ってたんだ。ノノ、初めてだよ、どうやって拷問したのかわかんないのなんて。思わずお股がジュンジュン来ちゃった」

「…………なんということだ」

 痛む頭に手をやり、空を仰ぐように上を向いて椅子に寄りかかる。

(ノノリックがご執心のあの死体、間違いなく『スラッグス』のまとめ役だった男だろう)

 その壮絶な表情をした死に顔に、まるで別人のようにも見えたが、わずかに残る面影は確かに"ラムネ"の製造や密売の元締めをさせていた男のものだった。

「ええいっ、くそがっ!! これではまた儲かりそうな麻薬を探すところから始めなくてはならんではないかっ!!」

 スラムであのラムネを作り出していたのは『スラッグス』だけだった。

 中毒性や生産コストに使用の容易さなど、『早生強薬』を混ぜ込んだラムネという薬はなかなかにいい代物だったのだが、うちの商会では詳しい製造法までは把握していない。

 代用品になる薬など探せば幾つも見つかるだろうが、玉石混交の中からそれらを見つけ出すには金と時間がかかる。

 販路については流用も利かせられるが、そこそこ信用できる製造先を探し出すのは面倒な仕事だった。

「奴らのアジトに例の"ラムネ"の製造法の資料は残されていたか?」

「そんなの、残ってるわけないよ。紙なんて保管して置いても虫に食われて読めなくなるか、湿気で腐ってボロボロになるか。そうじゃなくても、無くてもなんとかなるものにお金を使う人間が、スラムで生き残れるはずないよ」

 うつぶせに横になって、ソファのヘリを支えに両手の甲で頬杖を突いたノノリックがケラケラと笑う。

「あそこはね、自分が生きるために必要なものしか持っちゃいけない場所なんだ。力と知恵と迷わない心、全身血まみれになるほど、自分の肉をそぎ落としてそぎ落として、身を軽くしてなきゃ危なっかしくてやってなんかられない世界なんだもん」

 と、ノノリックが立てた人差し指をクルンッ回すと、テーブルの上に置かれていた一房のプルーネから実が一つ千切れ、スッ、とノノリックの前へと宙を移動する。

「んぅー!! おいちぃー!!」

 パクリッ、と小さな口でその実を食べたノノリックが、幸せそうな顔で足を軽くばたつかせる。

「もちろん、一応確認はしてきたけど、やっぱりそれらしいものはなかったよ? その時のことを知ってた人たちも、怖がってあの場所に近づいた様子はなかったし、あの建物の中はノノが一番乗りしたんじゃないかな?」

「…………そうか、まぁ、一応うちのものにも確認に行かせるが、資料はなかったか」

 これで、適当なチンピラにラムネの製造を任せるという手段も取れなくなった。

『早生強薬』を使っているということは分かっているのでうちの商会で独自に作るという手段もあるが、それでは万が一の時に言い逃れのしようがなくなってしまう。

 裏での仕事は割がいい分、リスクを抑えてやらなければ大怪我を負うことになる。

 やはり、かえすがえす『スラッグス』が壊滅させられてしまったことが悔やまれる。

(資料がない、か、まさか……)

「あーっ、おじさんっ、今ノノのこと疑ったでしょー!!」

「んぐっ!!」

 思考に疑いを思い浮かべた途端、果実の果汁をふき取るための手拭いが顔面に向けて飛んできた。

「確かにノノはあーいうお薬好きじゃないけど、仕事の雇い主に迷惑かけるって分かってるのにそんなことしないもんっ! ぷんぷんがおーっ!」

「……わかったわかった、私が悪かった」

(まったく、本当にどういう勘をしているんだか)

 ノノリックがラムネのような薬の類が嫌いなことは知っていた。だから、あえてノノリック自身がラムネの資料を廃棄したのではないかという考えが過ったが、その思考が纏まるよりも早くノノリックは私の考えを読み取ったようだった。

「あ、それからこれ。お求めの品だよ」

 ノノリックが道具袋から取り出したのは、多少見覚えのある鞘に納められた剣、【葉石の剣】だった。
 剣をフワリと宙に浮かべたノノリックはそれを私の机の上へと寄越す。
 ゴトッ、と重量感を持った音をと共に目の前に置かれたその剣は、やはり以前に魅せられた贋作とは比べ物にならないほど質のよい魔力を纏っていた。

「ほうっ、さすがに仕事が早いな。これだけの質、確かに本物の【葉石の剣】のようだ」

 私には魔法を扱う才能はあまりなかったが、代わりに魔力の質などを感じる目は随分と養ってきた。
 その経験が、目にした魔剣が贋作ではなく本物であると告げている。

「ちゃんと約束のおもちゃ、用意しておいてね」

「安心しろ、つながりのある奴隷商への紹介状と、犯罪奴隷なら二人買えるだけの金は用意してある。後で部下から受け取れ」

「わーいっ!! 今度はあんまり早く壊さないように注意しよぉーっと」

「好きにしろ、今はそれよりも……」

 チリンチリンッ、ベルを鳴らし、使用人にフェグナーを呼ばせる。

「お呼びでしょうか、旦那様」

「フェグナー。これを帝国に届ける段取りを立てろ」

 恭しく礼をして部屋に入ってきたフェグナーへと剣を預ける。

「かしこまりました、しかし、現在魔力嵐の影響で帝国との街道を多数の魔物がふさいでおりますので、無事に届けるには少々時間がかかるかと」

「ああ、その件もあったな……。魔力嵐自体は収まりつつあるのだろう?」

「えぇー、この感じ、もうすぐ収まっちゃうの? クルクル効き目が変わって楽しかったのになぁー」

 ノノリックはそう言いながらプルーネの実を幾つか宙に浮かせてパクパクと口にする。

「さすがはノノリック様でいらっしゃいますね、この魔力嵐の中でも魔法系のスキルをそこまで使いこなせていらっしゃるとは……」

「これはこれで面白いよ? 最初はちょっとびっくりしたけどね」

「それはようございました。ですが、私の経験から見て、この状況はそろそろ収束するでしょう。私が以前巻き込まれた魔力嵐はこれよりも規模が大きいもので収まるまでに二月ほど掛かりましたが、魔力の減衰を見る限り、もってあと一、二週間といったところだと思われます」

 フェグナーはそこで一度言葉を切り、再度口を開いた。

「十日後にギルドが街道に異常発生している魔物たちの掃討を行うようですから。出発はそれまでお待ちになられたほうがよろしいかと」

「……十日か。ふむ、ちょうどいいな。大商会へ売りつけ取引する必要もある。それらの商談をまとめ次第、帝国へと向かうことにしよう。フェグナー、それまでその剣はお前が保管して置け」

「かしこまりました、旦那様」

「あっ、そうだ、もう一個おじさん言っておこうと思ってたことがあるんだ」

 と、思い出したようにノノリックが上げた声に、若干渋い顔になる。

「まだなにかあるのか?」

「うんうん、なんかね、オジサンところのお店の悪評が下のほうで出回ってるみたいだよ?」

「なんだと?」

 渋い顔が、自然とさらに渋い顔になった。

「なんかねー、最近、いろんなお店や商会でお金が消えちゃうって事件が起きてるでしょ?」

「…………ああ、一応報告に上がっていたな」

 目を通した報告書では、ここ最近、いくつもの商いをしている店から金銭が消失するという事件が起こっているようだった。

 街の治安警備隊に裏から手を回して極秘裏に手に入れた被害者のリストには十四、五程度の名前が連なって乗せられており、その中のほとんどはうちとは無関係のものだった。

 リストに載っていたうちと直接取引のある商会や商店の名は二つ三つの少数であり、治安警備隊も動いていることからしばらくは静観していることに決めていた。

 話を聞いた時にはすぐに捕まるだろうと思っていたが、犯人はよほどうまい手口を使っているようで、治安警備隊の連中は手がかり一つ掴めていないようだった。

「すぐに解決すると思っていたが……警備隊の連中め、税金だなんだと、金を搾り取る癖にまともに働くこともできん、無能どもが」

 表面化こそしていないが、実際には警備隊が把握している以上に被害の数は多いのだろう。
 野盗に襲われ、力ずくで奪われたのなら同情の一つもされようが、町の中で商人が金銭を盗まれるなど管理体制の不備を疑われ、商人として信用にもかかわってくる。

 被害そのものがあまり大きい金額ではなかったために、被害があったと治安警備の連中へと名乗り出ない者も少なくない。

 だからこそ、被害者としてリストに載っている数のわりに、大げさに噂として広がっているわけだった。

「それがねー、『幽霊の仕業だ―』とか、『精霊の祟りだ―』とか、そんな噂に交じって、今回の事件の黒幕が、グロンドおじさんところの商会だって噂があるんだよねー」

「は?」

 思わずぽかんっ、とした声を出してしまった。

「待て、なぜそうなった」

「消えちゃったお金が、ここ最近おじさんところからもらったお金なんだってことだよ? みぃんなあやふやな話ばっかりで詳しくは分からないけどね?」

 つまりはあれか? うちが事前に貨幣に細工を施して金銭を盗み出していると思われているということだろうか。

「おじさん、最近ちょっと強引に現金をかき集めてるじゃない? もう潰れちゃったけど、あのお薬のこととか、なんとなく察してる人も併せて、商会の評判は荒波に飲まれてどんぶらっこっこ。…………ちょっと、危ないんじゃないかなぁ~?」

 ふふ~んっ、と猫がネズミを甚振るような表情でノノリックが笑う。

「おい、その表情はやめろ、不愉快だ」

「ごめーんね? 怒っちゃいやだよ?」

 そういって今度はケラケラとした笑いを浮かべる。

「うちが黒幕だと? ばかばかしいっ、被害者のリストにはうちとは全く取引がない商店や商会の名前もあったではないかっ!」

「ちっちゃな商会に警備隊のお兄さんたちをどうこうするお金なんてないからね~、仕方がないんじゃない?」

 不機嫌そうに言えば、うつ伏せだった体制を仰向けにしたノノリックがそう返してくる。

「だいたい、うちが支払った金銭だとどうしてわかる? うちとだけ専門に取引しているような商店ならともかく、わざわざ取引相手ごとに金銭を分けて保管しているわけでもないだろうに」

「それがねぇ、無くなるのはきっちりとおじさんとの取引でやり取りした分のお金だけらしいよ? ほかにもいっぱいお金があっても銅貨一枚まできっちり持っていくんだって」

「は? なんだそれは」

「それが事実かどうかは置いておいても、うわさの広がり方からして誰かが意図的にはなしてるんだとおもうよん。しかも、面白いことにえっと、あのスミックス? あれ、シラックスだっけ?」

「『スラッグス』のことか?」

 つい先ほど話に出ただろうと思いながら告げると、ノノリックは人差し指でこちらを指さす。

「そうそうっ、あの面白くない人たち!! あれを潰したのと、噂を広めているの、同じ人たちだと思うよ」

「……本当か?」

「うんうん、なんか、すっごくうまく正体をぼやかされてて、まだ情報収集の途中だけど、ノノの女の勘を混ぜ混ぜしたらそういうことになったの。これはね、絶対に間違えてないと思うよ」

 ノノリックは情報収集の途中と言いながらも、絶対の確信を持った表情で笑った後、少しだけ目を細めて、口の端を吊り上げる。

「おじさん、よっぽど恨まれてるんじゃない?」

「いったいどこのどいつだ? ここまでのことができる輩に、そんな恨みを買った覚えはないぞっ、ああぁ、くそがっ!!」

 イライラする。実像を見せずに私の邪魔をする存在が、うっとうしくてかなわない。

「旦那様、こちらをどうぞ」

「ああ、ありがとう」

 スッ、とタイミングよくフェグナーが差し出した紅茶に口をつける。
 普通よりも少し強めに鼻から抜ける良い香りが、イライラとした思考を解供養に心を落ち着けてくれた。

「……ふぅ。いや、これはむしろいい試金石になるか」

 本当に信用を落として今後に強く差支えが出るような大きい商会は、うちと同じように独自の情報網を使って今回の件について探りを入れるだろう。
 当然、一番最初に情報を仕入れる先は治安警備隊であり、被害者リストを手に入れれば、すぐにこの噂の真偽には気が付くはずだ。

 試すのは小規模から中規模の商会だ。

 今回のことは各商会がどれ程の情報網を持っているのか試すのにちょうどいい。この程度の情報も手に入れられず、噂に踊らされるようではその商会に未来はない。

「ノノリックは黒幕を探し出してくれ。どちらにせよ、根も葉もない噂であることを証明するのに一役買ってもらわねばならんからな」

「はぁーいっ、おっしごと、おっしごと、らんらんらーん♪」

 ピョンッ、と飛び跳ねるようにソファから降りたノノリックは、何が楽しいのか、上機嫌に鼻歌を口ずさんで外へと出て行った。

「フェグナー、現金はどの程度集まっている」

「はっ、少々強引に話を付けさせていただいたところもありますが、今度のいくつかの大規模商会との取引がうまくいけば、概ね目標金額に達することができるかと思われます」

「そうか、なら、引き続き手持ちの商品の売却を進めてくれ」

「承知しました。それでは失礼いたします、旦那様」

 フェグナーはそういつものように綺麗に礼を取ると、ノノリックとは対照的に静かに部屋を後にする。

「ふぅ、これを飲み終えたら私も仕事に戻らねばな」

 カップに残った紅茶に口をつけ、今ひと時の休憩を楽しむのだった。

 
                ☆

 
「ノノリックさん、少しお話が」

「ん? 何か御用事?」

 旦那様の部屋を出た後、私は急ぎ、ノノリック様のもとを訪れた。

「実は、知っていたらでかまいませんので、裏の世界で魔法薬関連に強い知識を持つ人物を紹介していただきたい。それも、できるだけ早急に、叶うのならば今日にでも」

「魔法薬? ノノはかまわないけど、どうして?」

「恥ずかしながら私、裏の世界でそういった人物に心当たりがありません。少々キナ臭い部分が絡んでくるかもしれませんので、そこら辺の道理が分かる裏の人間に頼みたいのです。お願いできますでしょうか?」

 一つ頭を下げると、ノノリック様は笑ってうなずいてくださった。

「いーよー♪ でも、ちゃんと仲介料はもらうからね?」

「かまいません、いつ頃になるでしょうか?」

「向こうの都合によりけりだけど、二、三日で連れてこれると思うよ」

「そうですか、大変助かります」

「それじゃあ、ノノは行くね。話がついたらすぐに連れてくるからー」

 ノノリック様は軽く手を振って歩いていく。
 あいもかわらず、その外見はやはり少女のものに見えるが、少年のようには見えない。

「ふぅ、やれやれ。この老体で今回の騒動は乗り切れるでしょうか」

 最近、若かった頃の様にうまく体が動かなくなってきている。
 けれど、先代が残されたグロンド様とこの商会に尽くすのが、この老体に残された最後の使命。

「……何事も、起こらなければよいのですが」

 そううまくはいかないだろうと、長年の経験で培われた勘が告げているが、それでも私はその願いを口にするのだった。

 
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