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二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む 作者:木塚ネロ

第一章 

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第9話 勇者、盗品を横流しして、銅を溶かす

「一応、その扉には私の特製の遮音結界と物理結界が仕込まれていたのですがね。自信がなくなりますよ」

「悪いな、躾の悪い犬が絡んで来たせいでちょうど両手が塞がっててな。蹴破るしかなかったんだ」

「それは失礼しました。私はこのスラムのまとめ役の真似事をさせていただいているジュフェイン・ガールと言います。ご用件のほどはなんでしょうか」

 ジュフェイン・ガールと名乗ったそのクソメガネはガーゴイルの頭にも、気絶した用心棒らしき男も、自身の結界が破られたことも、まるで気にせずに微笑を見せながらそういった。

この程度で威圧されるようなタマではないと予想はしていたものの、全く意にも介さないその態度に少し悔しさを覚えながら両手に掴んだものを邪魔だと放り捨てる。

「なに、ちょっと買取を頼みたいものがあってね。ああ、俺の名前の情報は金貨50枚で売ってやるよ」

 そう言ってポケットから無造作に取り出したネックレスを見て、クソメガネことジュフェインがその目の色を変えたのがわかった。

「……ジャック、今ここで見たことは全て忘れて退室しなさい」

「は、え?」

 ジャックというらしいずっと青い顔をしていた男は咄嗟に意味を判断できなかったのか間抜けな返事を返す。

「知りすぎる事の危険はあなたもよく知っているはずです。知らないうちに退室しなさい」

「っ!! は、はいっ!!」

 はじかれるようにしてジャックは部屋を出て行った。俺はその様子を見送ると、ジュフェインの机の前に立って早速商談に入る。

「さぁ、交渉に入ろうか。これをいくらでお前は買う?」

「拝見させていただいても?」

「ああ、よく見るといい」

 そう言ってジュフェインの机の上にネックレスを置く。

丁寧な手付きでそれを取り上げたジュフェインは、一つ一つ確かめるようにいろんな角度からそのネックレスを見る。

ネックレスについた魔石の一つ一つ、それを繋ぐ台座、身につけるための小さなチェーンまでじっくりと確認したジュフェインがそのネックレスを置いた。

「素晴らしい装飾品ですね、魔石はどれも一級品の加工がしてある。台座と繋ぎ鎖に使われているのは魔法銀(ミスリル)でしょうか。なにより、魔石に編みこまれた魔法が素晴らしい。 HP自動回復、回復効果微増、幻影像記録、自己破損修復(小)、これほどの品ならば金貨で30枚出しましょう」

「……金貨30枚、ねぇ?」

 ここで、貨幣についての説明をしておこうと思う。この王国の貨幣は銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨、白銀貨の7種類だ。それぞれ十枚でひとつ上の貨幣と同じ価値を持つ。

物の価値が違うからはっきりとは言えないが、銀貨一枚が日本円での1000円ぐらいの価値があり、大金貨、白銀貨のレベルになると日常生活で御目にかかることはまずなく、大規模な商会や国との取引に使われる程度にしか使われない。

個人の取引で使われるのは金貨までが常識であり、それ以上は個人の生活の範囲で使うには使い勝手が悪すぎるのだ。

 話を戻すと、ネックレスに付けられた金貨30枚という値段は、日本円でおよそ300万という値がついたということだった。

いくつかの魔法がかけられていたところでその本質はただの装飾品でしかないそのネックレスは確かにそれだけで見るならば妥当な値段と言えなくもない。しかし、それはそのネックレスの質だけを見た時の話だ。

「おい、こっちの腹を探るんじゃねぇよ」

「っ!!」

 睨みつけるような視線を向ける先、膨大な殺意を乗せたそれを、先ほどのように放射状にばら撒くのではなくただ目の前の男だけに向けて流し込む。

「お前なら確実に上手く使えるだろう? だから、あんまり面倒なこと言ってるんじゃねぇよ、じゃないと、つい、殺したくなっちまうだろ?」

 そう、ここにはわかってるものしかいない。それはただのネックレスではない。王室ゆかりの品であることを示す刻印が魔石の底に刻まれたネックレスであり、その刻印は王家が大精霊と交わした古代の誓約により王族の人間以外が使うことはできない。なぜなら、その刻印は王族が自ら自分の血を捧げることで精霊によって刻まれるものだからだ。

 だからこそ、下手を打つことができないと手下を追い出したこいつが、この状況でそんな値段を言い出す理由は俺の反応を見て情報を引き出し、不利な条件を突きつけて交渉を有利に進めようとしているからしかありえない。

 だが、こいつはこの商談が俺にとってどんな意味を持っているのか分かっていない。
 これは復讐の一環に成り得る計画なのだ。
金額など、些細なことでしかない。本当ならバラして売るだけでも当面の資金は工面できるのだから。
コイツなら上手くやるだろうと思ったからこのネックレスをここまで持ってきたのだ。
 こいつなら、より自然に旨みを得ながらこのネックレスを王家の下に届ける、その運び鳥になってくれるだろう。

 邪魔をするなら覚悟しろとばかりに一瞬だけさらに強烈な威圧を放ち、すぐに、ふっとその殺意と威圧を解いた。
 ジュフェインはひとつ息をつくと、その一瞬で普段の調子に自分を戻したようだった。

「これは、失礼しました。今必要なのはこれが本物であるという情報だけ。そして、私にはこれを扱えるだけの力がある。あなたから余分なことを知るのは高くつきそうだ」

 クックッ、と小さく笑ってモノクルを外して布で綺麗に拭う。

「金貨で350枚出しましょう。前金としてそのうちの10枚を今お渡しします。さすがにそれほどの大金をすぐには用意できないので残りは明日またここをお訪ねください。それまでこれはお返ししておきましょう」

「いいのか? その金を持ち逃げするかもしれないぞ?」

「それをするような人間なら、私に見る目がなかったというだけのことです。ではこれを」

 そう言ってジュフェインは机から引き出した金貨袋を渡す。

「それなら、ありがたく」

 机に置かれたそれを拾い上げると、袋を開いてそのうちの一枚を軽くジュフェインに向かって放った。

「これは、何の真似でしょうか?」

「いやなに、色々と壊しちまったからその修理代だな。それから、まぁ」

 俺はあざ笑うように口の端を釣り上げる。

「これで見る目(・・・)はなくなっちまったなぁ?」

「………あなたの名前の情報、金貨50枚でしたか?」

「悪いな、それは今はもう非売品なんだ。逃がしたチャンスは帰ってこないぜ」

 そう言って9枚の金貨が入った袋を服のポケットに詰めると外に出たのだった。

「……ック、ククク、たまにこういうことがあるから、このスラムには飽きないのですよねぇ」

ひとり残されたジュフェインは楽しそうに愉悦の笑みを浮かべる。

その手には、ジュフェインが錬金術で作り出した金貨のフリをした生命体がその擬態を解いてスライムのように蠢いていた。


                    ☆


計画通りにコトが進んだ俺はそこそこ上機嫌に大通りを目指していた。途中で喧嘩でもふっかけられるかと思ったが、そんなこともなくスラムの奥まった場所から表通りへの道を進んでいく。

日も大分傾き、もう少しすれば完全に日が落ちるだろう。早いところ大通りに戻って宿を探しておきたい。体感では3ヶ月ぶりにじっとりと湿った空気と体温を奪う石と砂利の地面ではない普通の部屋に泊まれると思うと、さすがにテンションが上がってしまっても仕方がないというものだろう。

「おっと、そういや、このままじゃうまく使えないか」

 普通の宿に止まるのに掛かるのは銀貨が1枚あればお釣りが来る。日本等とは違い、朝食はつかないし部屋は狭い。そもそもの物価が低いので、金貨で払っても宿に釣りが置いていないかもしれない。そういう問題なさそうな高級宿は身元の証明が必要なので無理である。

 できれば大銀貨と銀貨、大銅貨あたりまで何枚か両替しておきたいと思い、両替商がいないかとあたりを見回す。

大通りで健全に商売している両替商の方が手間賃は安いが、金貨クラスの両替になるとこれまた身元の証明が必要になってしまう。なので、多少高い手間賃を取られても、そういうことを聞き忘れる両替商の多いこのスラムで両替をしておきたかった。

「あそこにするか」

 適当に選んだ両替商の下へ足を運ぶ。

「おう、あんちゃん、両替かい?」

筋肉ダルマという言葉がよく似合うその男は低い声でそう言った。スラムで両替商をしている人間はこういった力自慢か、あるいはどこかの組織の後ろ盾のマークを掲げた人間だけだった。そうでなければあっという間に両替のお金を奪い取られてしまう。

「ああ、金貨の両替を願いたい」

「金貨? 何枚だ」

「一枚でいい。銀貨と大銅貨も混ぜて替えてくれ」

 男は天秤を出すと、その右側に渡した金貨を置き、もう一方に小さな分銅を置いた。

「ああ、確かに本物だな。手数料を引いて大銀貨5枚と銀貨23枚、大銅貨20枚だ」

 全部で銀貨25枚分か。

「高いな」

「いやなら表で替えてもらいな、うちはそれでも困らねぇ」

 確かにスラムの両替商の手数料としては若干高めではあったが、常軌を逸しているというほどではなかった。早く宿を探しに行きたいこともあって黙ると、男は一枚一枚数えるように大銀貨と銀貨、大銅貨を目の前に置いていく。

と、そこでその男に敵意、いや、悪意が混じったのが感じ取れた。
なにか、今日はよく勘が働く日だったが、一応警戒してそれを見る。

「これで数に間違いはないな、そら、持って行けよ」

 だが、男の行動に不審な点は今のところ見当たらなかった。やはり勘は勘でしかないのだろうが、理屈ではない部分が今も男からの悪意を感じ取っており、その原因はその貨幣を受け取った時にわかった。

「ああ、そういうことか。おい」

「あん? どうし……っ!?」

 完全に油断していた男の首を掴み、背後の壁に押し付ける。

「て、めぇ……、何、銀貨は渡しただろうが……っ」

「銀貨? この銅貨(・・・)がか?」

「なっ……!?」

 渡された銀貨に少量の魔力を流し込めば、パチンッ、と弾けるような音がして男がかけていた幻術が解けて黒ずんだ銅貨が姿を現した。

魔力感知に関するスキルはなくし、そういった感知系を強化するパッシブ能力を持った心剣も封印されている。そのせいで実際にこうして触れるまで、硬貨に幻術がかけられていることにも気がつかなかった。浮かれていたとは言え、不覚である。

「けっ、騙されるほうが悪いんだよっ、このスラムじゃなぁっ!! 『フォースアップ』っ!!」

 取り繕うのもやめたのか、下卑た表情で吐き捨てた男は身体能力を向上させる魔法を自身へとかける。ただの筋肉ダルマかと思ったが、知能派だったらしい。

「ったく、ああ、本当に最悪の国だなここは。どいつもこいつも」

 まったくもって不愉快だった。いい気分に水を差されたことも、ニヤニヤと笑うコイツの視線も、そしてなによりも。



…………騙せそうだと侮られたことが、たまらなく不愉快だった。



 それは、まるで以前の選択を間違えてしまった俺のまま、何も変わっていないと思われているようで。

 今にも八つ裂きにしてやりたいという感情の荒れ狂う復讐対象たちと同じ様なことを簡単にできると思われているようで。

「あぁ、本当に反吐が出る」

思わず腕に込めていた手に力が入った。

「がああああっああ!! クソッ、なんで剥がせねぇっ!!」

首を掴んでいる腕を引き剥がそうと掴まれるが、とっくに腕に魔力を集中させているので全身を強化するフォースアップを掛けた程度ではこの国の騎士にすら敵わなそうなこの男では引き剥がせるはずもない。

「がっ、ぐっ、な、んで……?」

 ちなみに、この魔力を集中させる方法は一般的には知られていない。だから、魔法を発動した様子もない、目の前の筋肉ダルマに比べれば華奢な俺の腕を引き剥がせないことが理解できないのだろう。

「ああ、そうだ。今日はちょっといいことがあったからなぁ、お前を許してやらなくもない」

「ぐっ、げホッ、ゲホッ!!」

 いいことを思いついたとそう言って笑いかけてやり、手を離してやる。
事ここに至ってようやく自分が手を出してはいけない相手に手を出したとわかったのか、青い顔で男は聞いた。

「あ、謝ればいいのかっ? 悪かった、俺が悪かった、謝る、謝るから許してくれ……っ」

「別にあやまんなくてもいいさ、キチンとけじめをつけてくれさえすればいい」

 そう言うと手に持っていた銅貨を一度ポケットにしまい、黙って【火蜘蛛の脚剣】を取り出した。本当に今日は大活躍の心剣だ。

「ま、待てっ!! 待ってくれっ!!」

 通常、貨幣の偽造は両腕切り落としの上、多額の借金である。国が後ろ盾として発行している貨幣を偽造するのだから当然といえば当然のバツだが、両腕をなくした上での借金となれば返せる当てなどあるはずもなく、行く末は自殺か奴隷として身売りするくらいしかない。

そのことを思い出して、短剣で腕を切り落とされるとでも思ったのか慌てたように男は叫ぶ。

「なんだ、腕を切り落とされるとでも思ったのか? 安心しろよ、そんなことはしないって。第一、このサイズの短剣でそんなことできるわけないだろ?」

 実際には十分切断出来るだけの力はあるが、そう言ってカラカラと笑ってやる。

「こいつはちょっと面白い特性があってなぁ。普段は火種にしたり、ちょっとものを焼いたりするぐらいしかできないんだけど、元になったモンスターの能力が反映されてるのかある物質に対してだけは異様に高い力を発揮できるんだよ」

「は、え?」

【火蜘蛛の脚剣】の取得条件であったプロミネンス・スパイダーは、溶岩洞に住む燃え盛る大蜘蛛だ。
 こいつは魔物だが食事を得るために狩りを必要としない。プロミネンス・スパイダーの主食は、溶岩洞内に存在する様々な鉱物であり、火毒と呼ばれる特殊な炎で鉱物の融点を引き下げ、ドロドロに溶かして喰らうのだ。つまり……。

「やっぱり、償いってのは、自分のしたことに比例してバツが増えるべきだと思うんだよ。だから、ちゃんと嘘をついたその口で、最後まで食らってくれよ?」

そう言ってまずは、逃げられないように両腕と両足を蹴り折った。

「ぐっ、がぎゃああああっ!!」

スラムの通りに野太い悲鳴が響き渡る。だが、男の悪夢は終わらない。

「さぁ、まずは一枚目だ」

 ちょうど近くにあった鉄材のようなもので無理矢理に口を開かせる。

 手に持った【火蜘蛛の脚剣】に多めの魔力を込め、その上に銅貨を置けば、すぐにドロドロに溶けた銅が短剣をゆっくりと滴り落ちていく。

「ぎゃああがあがあああがああっ!!!!!!」

 鈍く光りながら落ちていった熱い雫が、男を体の内から焼いていく。
とはいえ、簡単に死ぬことはない。
【火蜘蛛の脚剣】は金属を簡単に溶かすが、それは金属の融点を引き下げるからだ。
 熱いとはいえ、せいぜいが300度程度(・・・・・)の金属だ。この程度の量なら、上手くすれば生き残れるだろう。

「ほーら二枚目だ。あとたったの46枚だ。フォースアップもあるんだから余裕だろ? ほい、三枚目っと」

 灼熱の塊が落とされるたび、声にならない悲鳴を上げる男を見ながら俺はにこやかに笑うのだった。
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