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二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む 作者:木塚ネロ

第三章

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第24話 それは、たった四文字の言葉 2

更新遅れてすみません、だれか、新人でも飲み会の2次会3次会を断る術を教えてください。
次の日が土日だとしたって、社会人になってまで朝までコースとか……orz


「なんだお前らぐぁ!?」

「邪魔だ、どけよ」

 その日、ダートラスのスラムの一角、多くのハミ出して零れ落ちた者達のるつぼで、俺はまた一人の男を裏拳で吹き飛ばした。

何人目かわからないが、今回の奴は感触的に多少は耐久性がありそうだったから多分生きているだろうと思う。まぁそんなことはどうでもいいんだけど。

事前に調べていた順路通りに、乱雑なスラムの道でスキップ交じりに歩を進める。
敵意を持って進路を妨害した奴らは容赦なくぶん殴った。生きてるか死んでるかはそいつの運しだいだが、生き残れる目があるだけましだろう。正直、そんなことを金している余裕は俺にはもうない。

「ご主人様、ノリノリですね」

「音符が宙に飛んでるのです」

「あぁ、ずっと腹が減って仕方がないんだ。あんなんじゃまだまだ足りない、全員食い散らかしてやらなきゃ、気が済まないんだよ」

 早く、早くと突き上げるような鼓動が、一歩一歩と進む足の速度を速める。

 嬉しいとは言えない。

 楽しみというのも似ているようで違う。

それは何かといえば、失くしてしまったと思っていた大事な落とし物を受け取りに行くような、そんな感覚。

そして、俺たちは目的の場所にたどり着く。
 粗雑ながらも立派なアジトといった感じのコンクリートもどきを使ったその建物が、目的地。

 この町で唯一、『早生強薬』を使った麻薬『ラムネ』をバラまいているクズどもの集まり、『スラッグス』の親分核が使っている根城。

「なんだてめぇらぐべしっ!?」

「へへっ、いい女ゴギャァ!?」

「寄らないでください」「ウザいのです」

 入口の前でたむろするように見張り番をしていた連中。バカ面を下げて寄ってきたのを、ミナリスが回し蹴りでみぞおちの奥の背骨を、シュリアが魔力の糸を操って首の骨をねじり折った。

「さぁ、ついたな。それじゃあ第二幕だ」

 俺はため込んできた気持ちを吐き出すように入口の扉を蹴破った。

『だ、だれだてめぇらっ!?』『おいっ見張りはどうした!?』『なんだなんだぁ?』

ざわつくゴミどもを見て、俺は嗤い顔を浮かべる。
 そう、グロンドだけじゃない。お前らも、苦しんで、苦しんで、苦しんで、絶望と苦痛の味が離れなくなるほどその身に思い知ってから死んでもらう。

「…………」

 頭によぎるのは、笑っていた時と、死ぬ間際の子供たちの顔。
 手に残るその鋭い破片を、絶対に離さないように握りこむ。

「……たった四文字の、そのケジメをつけてもらうぞ。地獄の底でもがき苦しめ」


                    ☆


「ぎゃあぁあぁあああっ!? 目がっ、めがっ!! おでの腕が、ウデドゴォオオオオ!?」

「ぐぁああっ!? 皮膚が溶け、が、ぼっ」

「や、やめろ、やめてくれジェニスッ!! ギャアアアアァアアッ!!」

「いやっ、いやぁああっ!! 違うのスローブ!! 鎧が、体が勝手にっ、グゥウウウッ、ぎっ、ぐ」

その場所でどの町にも存在する暗く陰の濃いその場所を楽し気に生きてきた真性のクズどもの心地よい悲鳴が鳴り響いていた。

「イダイッイダイィイイイッ、グウゥ、ウウ、アガァアアア」

「くふふっ、うーん、やっぱり獣人はタフですねぇ。毒の周りが遅くて体感覚の方が先に飛んでしまうみたいです、ちょっともったいないなぁ。さぁ、今度はこっちの薬ですよ? まだまだ終わらせたりしませんからね」

 激痛に意味をなくした咆哮を上げる男に、妖艶にほほ笑んだミナリスは嬉々とした様子でいろいろな薬を試している。

「ガァ、ガ、ウグゥウウウ」

「もういやぁああああああっ!! なんで誰も抵抗しないのっ!! 誰か私を殺してよぉおおおおおっ!!」

「あっ、もう、また操作がズレたのです。今度は腕を切り落とさせるつもりだったのに、抵抗するから位置がズレちゃったのです」

シュリアの指先から、スッ、と伸びる魔力の糸がクズどもが着込む、スラムには似つかわしくないほど上等な装備へと括りついている。
褐色のその指が宙をなでるように滑るたびに、泣き叫ぶ女が手にした剣が彼女の仲間を傷つけていく。
剣を振るわれる側もまるで何かに押さえつけられているかのように叫び声を上げて身じろぎするだけだった。

「やめろっ!! そいつらに手を出すんじゃねぇえっ!!」

「クククッ、アハハハハッ!! いいなぁおい、わかりやすく感情が乗っていい声だ。アハハハッ!!」

 耳に心地よい悲鳴は、俺が踏みつけているこの集団の長のものだ。
傷だらけの筋骨隆々の体と、眼帯を付けた隻眼の威圧的な強面を持ったその男は今は無様に地面に踏みつけられている。

「おいっ、てめぇ、てめぇえっ、この足をどけやがれっ!!」

「おいおい、何を言ってるんだ。こんなの、お前らがいつも変態どもへのごますりにやってきたことじゃないか。『薬物中毒者同士の泥沼バトルロワイヤル』!! 薬漬けにしたやつらを殺し合わせる虐殺ショー。……客に交じって楽しんで見物してたんだろ? いい趣味してるよ本当に」

「そ、それっ、は……」

 こいつらはこの町のスラムの裏組織の一つだ。
殺し、盗み、犯し、そして奪う。
 人から搾取することでしか生きられず、心から関わりのない相手を不幸にすることを楽しむことができるクズども。

そして、そんなこいつらの一番の金脈となっているのが、通称『ラムネ』。
 『早生強薬』を豆粒ほどの丸薬にまとめた、薄い水色をした麻薬。

こんな世界だ。
いくつも麻薬のような代物を取り扱う組織は存在するし、使う側が存在する以上はいくらでもこういった仲介業者(ブローカー)は存在する。

だがこの町で『早生強薬』を使用したラムネを作り出しているのは、こいつらだけだ。

「ほらほらっ、楽しめよ。なぁに、うちの奴らもそう捨てたもんじゃねぇよ? きっとお前が見てきた以上のショーを見せつけてくれるはずだから、なぁ?」

「くふふふっ、ほらほらっ、次はどこを腐らせてほしいですかぁ? 右目と両耳はなくなっちゃいましたけど、まだ左目や鼻、歯や唇なんか残ってますよ? くふっ、くふふふっ!!」

「あんっ、また殺しちゃったのですぅ。うう、まだもうちょっと甚振っておきたかったですのにっ、ですのにぃいいっ!!」

「……あらら、テンション上がりきってるみたいだなぁ。二人もノリノリだよ」

 二人とも、こういうクズどもは心底嫌いなのはわかりきっている。
 レベルも上がり、それに比例してMPの上限も上がってきている。なのに、こういう時は多少の差はあれど理性のタガを外したハイテンションになるから、どうも魔力酔いなんかとは関係なく理性が飛んじゃうようだった。

まぁ、俺も似たようなもんだから文句は言えないけどな。

「やめろっ、やめろやめろやめさせろおぉおおおおっ!!」

「アハハハ、こんな面白い見世物、誰が止めるかよ。何のためにお前をこうして甚振りもせずに生かしてやってると思ってるんだ?」

 血の鉄さびの臭いと、くぐもっていたり甲高かったりする絶叫が入り混じるその光景。

「ミナリスさん、ちょっとシュリアに人数分けてほしいのですよ」

「ダメですよっ。くふふっ、こういうクズをひねり殺してやりたいのは、シュリアだけではないんですから」

「ぶぅー、ミナリスさんのケチー」

「こらこら、喧嘩すんな―」

 仲良きことは、良きかな良きかな。
 二人で仲良くこのショーを続けてくれ。
 少しで鋭い痛みをこいつが抱えて死ぬように。

 ギロリと見下ろした先、苦渋に顔をゆがませながらその男は目の前の光景を見ていた。

「て、てめぇら、こんな真似して、ぐぁああぁああぁあああ!!」

「どいつもこいつもみぃんな同じこと言うんだよなぁ。『こんな真似してただで済むと思ってるのか』って? んなもん、とっくの昔にただで終わらなかったからこうなってるんだけど、そこんとこちゃんとわかってんの?」

 いい加減聞き飽きてきたお決まりのフレーズに、俺はそう返事をしながら踏みつけていた男の両膝の関節をへし折ってやった。

「がぁ、ぐうぅ」

「痛いか? ん? 俺の故郷にはとってもいい言葉があってなぁ。『痛いってことは生きてるっていうことだ』っていうんだよ。つまりさぁ……」

「がぁアアあああああああっ!?!?」

 俺は嗤いながら、へし折ってやった膝の下。
ふくらはぎのあたりの骨を3か所で踏みつけて骨を折る。

「痛みの声をあげられるうちはまだまだ余裕があるっていうことだよなぁっ、アハハハハッ!!」

「こ、この腐れイカレ野郎がぁアア!! 狂ってんぞてめぇえええ!!」

 顔にびっしりと脂汗をにじませながらも、反抗心が消えないのは、さすがは荒くれ者たちの長といったところか。

「アハハハッ、知ってるよっ、ずっと前から俺の世界は狂いっぱなしだっての」

「ぐぁあ、やめっ、ああああぁアヴぁアヴぁッ!!」

「そうだ、もっと泣き喚けッ!! そうでなくちゃ割に合わないっ!! こんなんじゃ足りねぇんだよっ!! ただ毎日を懸命に生きようとしてたアイツらに、顔向けできない!! 俺が俺を許せないっ!!」

 一度目の時は、表向き秘密という扱いになっていた学校施設をつぶすことしかできなかった。

 あの時の俺ではグロンドが直接支配して防備を強化していたこの街で暴れることはできなかった。

 魔族の進行を抑えるために街の防備の強化に手を貸したのは俺だ。
 試すまでもなく、それが無理なことぐらい理解していた。

「何もできなかったっ、何もしてやれなかったっ!!」

グロンドも、こいつらも、殺すことができなかった。

 守ることすらできなかったのに。
 復讐さえ、仇討ちさえしてやれなかった。

「俺は、あいつらを助けることもできなかった役立たずだ。どんな力を持ってたって、本当に守るべき相手は何一つ守れなかったクソ野郎だ。…………けどな、なんであいつらが死ななきゃならなかったっ!! なんであいつらが弄ばれなきゃならなかったっ!!」

俺と同じように無理やり家族から切り離され、なのに、俺ほど生きるために必要な力もなく、それでも院長先生の助けを借りながら、互いを支えあっていた子供たち。

「なんでてめぇらみたいなやつらの食い物にされなきゃならねぇんだよっ!!」

 痛いほど握りしめた拳から血が流れる。

「たったっ、たった四文字だっ!!」

俺よりもずっとずっと強かった、楽しそうに笑って、この世界を生きていた子供たちが。



「『助けて』って、なんでそれだけの言葉すら許されないっ!!」



 最後の最後、救いを求める言葉すらも許されずに、子供たちはもがき苦しんで死んでいった。

「あの子たちの人生はなんだったんだっ、答えろよこのダニ虫っ!!」

「し、知らねぇよっ、何の話だっ、何を言ってやがるっ!! てめぇらいったい誰なんだっ!! この前見つけた金づるの親類かなんかかっ!?」

「……ああ、そうだよな、お前たちには分からないよなっ。きっと全部の事情を把握できたって、お前らには理解できなんだろうさっ、だからっ、泣き叫べっ!! 苦しんで苦しんで苦しんで!! 何一つ救いなどないまま地獄へ落ちろっ!!」

 呼び出した心剣は【愕削の牙剣】。
つい先日、襲い掛かってきた盗賊相手に、薄く皮を剥ぐ拷問を試していたら新たに手に入れることができた心剣だった。

灰褐色の刀身に刃はなく、まるで固まる前のゴムか何かのような質感を持っていた。
その刀身の腹にはわずか一センチ程度の大きさの口が無数にギチギチと歯を鳴らしている。
殺すことではなく、ただ苦痛を与えることを目的とした心剣。

「ひっ、な、なんだそいつぁ、やめろっ、謝るっ、あやま」

「……さぁ、贖罪の時間の始まりだ。飲み込み齧れ、『悪食飢口あくじきがこう』」

「ギャアァアアァァァァァァアアァア!?!?」

 ギキキッ、とまるで喜んでいるかのように歯を鳴らした【愕削の牙剣】がグニャリと形をなくし、その色を薄める。
かなり透明度の高い半透明な流動体になった刀身は体積を膨らませて、足元の男の腕を包み込む。
そしてその中を泳ぐように無数の小さな口が群がるように男の腕へと噛みついていった。

「痛いだろ? 痛いよなぁ? 皮膚だけを削るように齧られるのはどんな気分だ? なんとか言えよほら、ほらっ、言ってみろよおいっ!!」

 男のむき出しの皮膚と肉だけを齧りまるで虫のような小さな口が噛みつき、食いちぎり、そして飲み込んでいく。

「がっ、ぐぅあああっ、し、死ぬっ、死んじまうよっなぁっ!! があぐぁああっ、いでぇえええっ!! たのむっ、やめ、やめでぐれぇええええええ!!」

「お前たちはそうやって叫んだ相手に何をしてきたんだよ、んん? なぁおい、今更日和ったこと言ってんじゃねぇよゴミクズがっ!!」

「ガぁガァああァアアガガガッ!!」

「たった四文字のっ、ただそれだけの言葉を告げる自由すらお前らが奪い取ったっ!! たったそれだけの言葉を聞いてやることすら、俺にはできなかったんだよっ!!」

 左腕、右腕、右足、左足と順に皮膚とその下の肉を少しずつ齧りとり、そしてついに、首から上を残した男の全身が【愕削の牙剣】に包み込まれた。

皮膚を奪われ、むき出しになった肉は黒く変色し、食い散らかしたという言葉がよくあてはまるようなけばけばとした人型の何かがその場には残る。

それでも、男にはまだ意識があった。気を失うたびに新たな刺激で正気に戻し続けてやったからだ。

「あ、が、う……」

 消耗しすぎるたび、箸休めとばかりにミナリスとシュリアのショーを見せ付けてやったのも聞いたのだろう。
男の瞳にはすでに光はなく、絶望と苦しみだけが満ちていた。

それは、俺が望んだ、あの子たちが最後に浮かべていた瞳と同じもの。

そして、そのころにはその場でうめき声をあげるのは、俺が相手をしていた男ただ一人だった。

「まだまだやり足りないけど、まだ本命が残ってるからな。だからもし、この世界にあの世なんてものがあるなら、そこでもずっと苦しみ続けていることを願うことにするよ」

 そして、俺は心剣を【始まりの心剣】に切り替え、手にしたソレを振り上げた。

 殺されるという危機感からか、ほんの少しだけ男の瞳に理性の光がともる。

「ぐぅ、がっ、た、たす、ぐガァアアアア、が、ア……」

 だが、俺は途中で言葉を断ち切らせるように、剣で脳天を貫いた。

「お前らには絶対に言わせねぇよ、その言葉だけは、絶対に」

 助けてと、救いを求めるだけの言葉すら、あの子たちには許されなかったのだから。


               ☆


「んんっ、やぁーん、お股が濡れちゃう」

 ノノリックの前には全身にやすりを掛けられたみたいな死体が転がっていた。

この場所で惨劇が引き起こされてから随分と時間が経過しているのは、血の乾き具合と、普通に心臓を貫かれて殺されている死体の具合からノノリックは理解していた。

いまだ血臭が消えていないその場所で起こったことを想像するだけで、ノノリックはゾクゾクとした興奮が体をめぐるのを感じていた。

「むむぅー、これどうやったのかなぁー。どんな道具使ったんだろ。ノノも欲しいなぁー」

 ツンツンと指先で死体をつつくと、人肉特有の筋の多いぐちょぐちょとした肉の感触がノノリックの指へと変える。

「二人……、いや、三人かなぁ?」

 ノノリックは改めて周囲を見回しながらつぶやいた。

「刺し傷ばっかり多いのと、薬品使ってるのと、あとはこれを作った人……」

 死体の様子から、それをなした人間の数をノノリックは正確に割り出す。

「むふふっ、どんな人がやったのかな? ノノにもこれのやり方教えてほしいなぁ。……あーぁ、お仕事がなければ今すぐ探しに行くのになぁ……、でも、きっとそのうち会えるよね?」

 だれがやったのかはノノリックには分からなかったが、この手の連中が恨みを買いすぎて無残に殺されることぐらい珍しいことではなかった。

 だが、野生の獣の直感のようなもので、ノノリックはその誰かと会うことになると確信していた。

「おじさんに言えばきっと『探せ』って言ってくると思うし、いつ会えるのかなぁ」

 少女が浮かべるのはまるで白馬の王子を夢見る乙女のような甘い表情。

「さってと、楽しみにしながらがんばろぉーっと! るんるんるーんっ」

 その少女のように美しい少年は、ベレー帽から流れる金髪をふわりとなびかせながら、夜のスラムを泳ぐ。

奇妙にも思えるはずのその組み合わせは、しかし、ノノリックが纏う死臭によって違和感を埋めていたのだった。


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