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二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む 作者:木塚ネロ

第三章

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第21話 ミナリスとシュリア、噂と老人

ありがとうございますっ、皆様のおかげでこのたび重版が決定したそうです!! 
本当にありがとうございますっ!!
とりあえず、爆死では、ない、のですよね……?
胃の痛みからは多少解放されてもいいのですよね……?
今は忙しくて掛けませんが、週末には何とか活動報告で改めて詳しい報告を書かせていただこうと思います!

「おい、遅いぞ」

 薄暗い路地裏、グロンド商会の部下は約束の時間より遅れてやってきた相手に苛立ちを隠せずに告げた。

 現れたのは深くフードを被った特徴のない男。
 周囲を窺うようにコソコソする様子は、男の気の弱さを表しているようだった。

「す、済まない、ひ、人目を避けるのに少し手間がかかってな」

「例のリストは持ってきたのか?」

「あ、ああ、これが、例の現象で被害の届けが出ている商会や商店、行商人のリストの写しだ」

 フードの男が取り出した文書をグロンド商会の部下が受け取る。

「そうか。これが約束の報酬だ」

「おお、これで久々にいい女が買えるよ、ひ、ひひっ」

「……こんなのが役所の資料を簡単に見れる位置にいるっていうんだから、世の中分かんねぇよなぁ」

 引き気味に笑うフードの男を若干気持ち悪そうにグロンドの部下が見る。

「そんじゃあな、また何かあったらよろしく頼むぜ」

 それ以上その場に居たくないとばかりに、引き笑いを続ける男を残して、グロンドの部下の男は足早にその場を去って行った。

「ひっ、ひひひっ、…………、……もういいですね」

 人気のなくなったその場所で、男は笑いを止めた。
 まるで別人のように表情の抜けた男がそうつぶやくと、グニャリとその姿が歪み、男はウサギの獣人の女へと姿を変えた。

「ふぅ、これだけ操作が辛くなると疲れますね」

「お疲れさん、一応MPポーション、飲んでおくか?」

「ご主人様」

 暗がりから現れたのもまた、ローブに深く身を包んだ男。
 手にした瓶の中には青っぽい液体が詰められていた。

「MPの消費が増えるわけではありませんから大丈夫ですよ」

「そうか。なんにしても、これでまた一つ計画が進んだな」

 男は口の端を吊り上げながら意地の悪い笑みを浮かべる。

「えぇ、そうですね。ご主人様の方の首尾はどうですか?」

「あぁ、まぁ、トラブルもあったが大方はうまくいっているよ。トラブルの内容については宿で集まってからだな」

 少し微妙な顔をした男は少し歯切れ悪く言葉を告げた。

「かしこまりました、ご主人様。こちらも順調に進んでいます。すぐにシュリアが甘味と肉につられそうになるのが難点ですが」

「ハハハ、シュリアらしいな。いいよ、あんまり気を張っていても却って不審がられるだけ……」

「違います、お腹が膨れてせっかく私の作るご飯を食べられなくなるのが許せません」

「あ、そっちね……」

 肩透かしを食らった男がポツリと言葉をこぼす。

「ご主人様も、買い食いはほどほどにしてくださいね?」

「は、はい……」

 ニコリッと笑った獣人の女に、冷や汗を垂らしながら男はぎこちない笑みを浮かべるのだった。

 
               ☆


 シュリアは今、外に席が出ているお店で一人、小麦をゆるくヤギのミルクで溶き、薄く焼き上げたものはちみつにつけて食べています。

 お仕事の最中、ご主人様に呼び出されたを待っている間、休憩ついでにこっそりと間食を取っていました。

「んん~っ、これなのですよ」

 ミナリスお姉ちゃんにはご飯の前に食べ過ぎちゃダメ言われてますけど、食べたいものは食べたいのです。

 とはいっても、割と普段から、ミナリスお姉ちゃんに隠れてこっそり海人様と屋台の料理を食べたりしています。
 ミナリスお姉ちゃんは割と意図的にこれを見逃して、拗ねて見せて海人様とイチャイチャしてます。

 シュリアもシュリアで海人様と秘密のデート気分を味わえて、まさに一石二鳥なのです。

 ただ、ミナリスお姉ちゃんは割と本気で拗ねたりしているようなので、あまりやりすぎるのはNGなのですけど。

「お仕事の合間に甘いもの。これぞ至高の贅沢なのです」

 望めば望むだけ与えられたユーミス姉さまのところでは忘れかけていた、日々の仕事のほんの隙間の楽しみ。
 束縛や不自由があるからこそ、そこ垂らされた一滴の快楽により深く陶酔できるのです。

「ふぅ、おいしかったのです」

 皿の上に載った料理を空にして、はふぅ、と息を吐く。

 海人様が色んな所に種をまきに行っている間、シュリアたちはその種が芽吹くようにある噂を流す役を買って出ていました。

 こうしていろいろ作業をするのは、むかし村に住んでいたころ、母様やシェルミーと一緒にした収穫祭の前準備のようで楽しいです。

 準備していることが結実するその日を夢見てワクワクする気持ちは、今も昔も変わらないです。

 あの頃と少しだけ違うのは、求める祭りはずっとずっと刺激的な叫びの声が上がるものになったことだけ。

「あ、種をまくって表現、なんかとっても卑猥なのですっ!!」

「……なにを馬鹿なこと言っているのですか、シュリア」

「あ、ミナリスお姉ちゃん、おかえりなのです」

 ハッ、と気が付いたことを口にしたら、後ろからミナリスお姉ちゃんに声を掛けられました。

 一瞬ドキリとしましたが、お皿はもう下げてもらっているので証拠隠滅は完了済みなのです。

「すり替えはうまくいったのです?」

「ええ、この魔力嵐のせいでかなり大変でしたが、幻術を使って予定通り、受け渡しもうまくいきましたから、ご主人様の計画通りに進みますよ」

 シュリアの前に座ったミナリスお姉ちゃんが機嫌よさそうに笑う。

「それはよかったのです! むふふー、努力が実を結ぶ日が待ち遠しいのです」

「そうですね。よくもまぁ、ご主人様もこんな考えを思いつくものです。私なら普通にとらえて拷問するぐらいしか思いつかなかったでしょう」

「ですです。……というか、シュリアは説明を聞いても、所々わからないところがあったのです」

 ミナリスお姉ちゃんの言うことに深く頷いて、シュリアは首を傾げた。

「そもそも、『カヘイカイチュウ』? で、どうして大騒ぎになるのです? 金貨は金貨じゃないのですか?」

「ええ、その通りですよ。ただ、その金貨の価値を保証しているのは、その金貨に含まれている金の量や鋳造技術、ひいては、その後ろにある国の権威ですから。金の含有量を減らすということは国の財政が行き詰っていることの証明になってしまいます。つまり、金貨に対する信用度が……、理解できていますか?」

「えっと、えへへ? なのです?」

 小難しいお話は苦手なのです。
 海人様もすごいですが、言っていることをちゃんと理解できるミナリスお姉ちゃんも相当だと思うのです。

「むむ、これでは理解できませんか……。そうですね、大切なご主人様だけが使った食器と、どうでもいい他人にも使われた食器とではコレクションランクが違うでしょう?」

「あぁ、それならなんとなくわかるのです!」

「そういうことです。……それじゃあ、仕事に戻りましょう。ああ、その前に晩御飯の食材を選びに行きましょうか」

「あっ、お肉っ、お肉がいいのです!」

「そうですか、では今日はお魚にしましょう。どうやらシュリアは私の料理よりもお店のデザートにご執心のようですから。私に黙ってこっそり一人で楽しむくらいに」

「ふぇ!?」

 な、なんでバレたのです!? お皿は下げてもらってあるのにっ!!

「獣人の鼻は、簡単にはごまかせませんよ、シュリア」

 ちょんっ、とミナリスお姉ちゃんは形の整った鼻先を触りました。

「あうぅっ、ミナリスお姉ちゃぁんっ、許してなのですぅ」

「知りません、まったくもう」

 立ち上がってさっさと歩きだしてしまうミナリスお姉ちゃんを、慌てて立ち上がって追いかけることになったのでした。

 
              ☆


 陽が落ちる前の酒場。
 普段ならこれから人が集まり始める時間帯の酒場は、既に多くの人が集まってそこら中から笑い声が上がっていました。

 魔力嵐による街道の魔物の活性化や魔法の操作難易度により、強い冒険者に護衛を頼めない余裕の少ない行商人たちは街に留まらざるを得ません。

 娯楽の少ない世界で暇をつぶす方法となれば、酒か女かギャンブルか。
 酒場に多くの人間が集うのは自然な流れと言えました。

「だから、商人を恨んだその男性の幽霊が手当たり次第に金貨を奪っているんだそうですよ」

「他にも精霊さんのいたずらなんて話もあるみたいなのです」

「ハッハッハッ、なるほどねぇ」

 ガヤガヤと騒がしい酒場の中、また一つそこに笑い声が重なります。

「ちょうどいい酒の肴になったぜ。本当に精霊様や幽霊なんかの仕業だったらどうしようもねぇが、いろいろ気を付けることにするわ。面白いヨタ話だったぜ。嬢ちゃんたち」

「いえ、私たちみたいな小さな行商人はこうして情報交換しなきゃ生き残っていけませんからね。大商会から見たらはした金でも、私たちには大打撃ですもの」

「そうだなぁ、無くなってる金はマチマチらしいけど、俺もとっとと明日の商談を終えて、この街とおさらばして帝国に戻りたいね。まったく、なんだってこんな時に魔力嵐なんか……」

 話し相手の行商人の男はため息を吐きました。

「あぁ、帝国への街道は魔物が活発になっているせいで危険ですものね」

「そうなんだよ、しかも明日の商談相手はなんだが、実はさっきのお嬢ちゃんの話に出てたグロンド商会なんだよ」

「あら、そうなんですか?」

「あぁ、さすがにあのクラスの大商会が黒幕で、大商会にしたら端金を危険を犯してまで回収してるなんて噂は信じられねぇが……、商品の仕入れを渋ってるらしくてなぁ」

「……それは」

「帝国にも店を構えるらしくて現金を集めてるんだとよ。この時期なら色付けて買ってもらえると思って持ってきた品が、そもそも買い取りすらされねぇかもってんだからたまんねぇよ。ぁあ、ついてねぇ。んぐ、んぐっ、ぷはーっ」

 行商人の男は木の器に入った酒を一気に飲み干しました。

「っとすまねぇ、愚痴っぽくなったな。あーぁ、明日の最後の取引が終わる頃には安全に通れるようになるといいんだがな」

「店を持てるような商店や商会ならともかく、私たちのような行商人では安心できるレベルの護衛を雇うのも大変ですしね」

 余裕のない行商人にとっては護衛を雇うだけでもそこそこ金がかかる。
 ましてやこの状況下で安全を確実に確保できるレベルの護衛を雇うのは難しいでしょう。誰でも命は惜しいものですから。

「きっと大丈夫なのですよ。ほかの場所で魔力嵐にあったこともありましたが、早々長くは続かないものですから」

「お、そうなのか。だったら明日に期待して今日は陽が落ちる前に宿に戻るかね。なんとか持ってきた品を売り込まないと大損だからな、気合を入れねぇと」

「お互い大変ですが、頑張りましょう」

「ファイトなのです!」

「おう、お嬢ちゃん達もな。姉妹で行商人とは色々大変だろうけど頑張れよ」

 ガタリと立ち上がった行商人の男は酒のつまみに注文していた塩の煮豆の残りを掻き込む。
 と、立ち去ろうとした男が立ち止まり、頬を掻きながらこちらを見ました。

「な、なぁ、もしよかったら何だが、俺と一緒に商売を……」

「申し訳ありません、私には既に身も心も魂も捧げたお方が傍におりますので」

「色々な体験を捧げた愛すべきご主人様がもういるので、ノーサンキューなのですよ」

「…………そうか、悪かったな」

 ガックリと肩を落とした男が去っていく。
 気持ち悪いことを言わないでくださいと言いかけたが、さすがにそれは自制することにしました。

 せっかく頑張って取引に成功しても、その売り上げを丸っきり失ってしまう行商人にそこまで追い打ちをかけることもないでしょう。

「さぁ、次の酒場へ行くとしましょうか」

「はいなのですよ!」

 テーブルにフルーツの果汁が入った水の勘定を置き、軽く店員に声をかけて酒場から外に出る。

 陽が落ちかける寸前の町は、夕日に赤く染まっている。
 これから酒場はさらに賑わいを見せ始めるでしょう。

「さて、次はどこの酒場にしましょうか」

「んっと、あそこがいいと思うのです」

 シュリアが指示したのは一軒の酒場だった。

「あそこはだめです、食事処を兼ねているようなので、飲み物だけで済ませるのはいささか不自然でしょう」

「うぅ、せっかくおいしそうなお肉の香ばしい匂いがしてるのにですぅ」

「昼すぎにデザートも食べているんですから、本当に晩御飯が食べられなくなりますよ。というか、太ります」

「ぴぎゃ!? そ、それは禁句なのですっ!? 成長期だから少しぐらい問題ないのですよっ!!」

「ふふふっ、冗談ですよ。……まぁ、晩御飯を残したりしたらお仕置きするのに変わりはありませんが」

「はうっ、……ミナリスお姉ちゃんに叱られるのなら、それはそれで……」

「本気でご飯抜きにしましょうか?」

「ごめんなさいなのです」

 まったくこの子は。
 ご主人様も本当に厄介な性癖をシュリアの底から掘り越したものです。

「とにかく、条件に合った酒場を……」

「なんだぁ嬢ちゃんたち、飲み屋探してんのかぁ? ヒック」

「「…………」」

 声をかけて来たのは夕日に照らされているだけとは、はっきりと違う理由で赤ら顔をした男だった。

「だったらよぉっ、ひっく、俺と一緒に飲もうぜ? 邪魔が入らねぇいい部屋知ってんだぁ、ひく、ひっく」

 しゃっくり交じりの男は馴れ馴れし気に近づいてくる男からは強い酒精の匂いが漂ってくる。

「……はぁ、まったく、この手合いは」

「邪魔なのですよ」

 シュリアとのジャレあいと違い、今度は本気のため息をつきました。

「行きましょう、シュリア」

「はいなのです」

 酔っ払いは相手にすれば相手にするほどつけあがります。
 なので、完全に無視を決め込んで酔っ払い男を迂回するように進路を取ります。

「あっ、おいっ、無視するこたぁねえじゃねぇかよぉッ、俺はCランク冒険者のゴルンダ様ダゾォ!! 声かけられたら喜んで『キャー、素敵ー!!』てなもんだろうがよぉ!!」

「……Cランクで自慢とか小物臭がひど過ぎて、笑いも出てこないのですよ」

「まぁ私たちもパーティランクはCですけどね」

「お? 何言ったんだ? あぁそっかー、やっぱり俺様がかっこいいから照れてたのかぁー、ひっく、へへ、かわぃいいじゃねぇーの」

 何か勘違いでもしたらしく、しつこくまとわりつくよう近づいてくる男には多少の不快感が湧いてきます。

 まぁ、MPや酒で酔っぱらった時のことで責めたりしないというのが、ご主人様の不文律なようなので、私もシュリアもそれに習ってどうこうしようというつもりはありませんでした。

 ただ、その男が調子に乗りすぎなければの話でしたが。

「おおっと、手が滑っちまった」

「っ!?」

 酔った男が事故のフリをしてお尻へと手を伸ばしてきた。当然、そのまま触られなどするわけもなく身を捩らせてそれを交わす。

「こいつ……」

 ただ邪魔と感じていただけの不快感が、一気に敵意へと形を変える。

(この体の全てはご主人様のものなのにっ、この男……っ!!)

 それも、ご主人様がお気に入りの私の尻尾に触れようなどと……っ!
 えぇ、万死に値します、万死に値しますっ!!

「あーぁ、ミナリスお姉ちゃん、プッツンしちゃったのです」

 シュリアが隣で何かを言っていましたが、今はそれよりもやることがあります。
 さすがに殺すわけにはいきませんが、この状況なら腕の一本や二本、切り落としても問題はありません。

「なんだよ、よけんなよぉ。おおっとまた手が滑って……」

 私から抑えきれない殺気が漏れ出しているはずでしたが、目の前の男は酔っぱらっているせいか、それとも殺気にすら気が付けないレベルの小物なのか、再び手を出そうとしてきました。

 魔力嵐の影響もあり、この場ですぐに魔法を構築するのは難しい。
 ですが、伸びてきた手を切り落とすのに、魔法はいりません。

(殺しはしませんが、少々、痛い目には合ってもらいましょう)

 そうして腰の剣に手を掛けようとした時でした。

 

「やれやれ、酒におぼれて女性に手を出すのはいささか関心できませんね」



 ガシッ、と伸びてきた手を掴んだのは、片腕に食材の入った袋を抱えた痩身の老人。

 フェグナー・リールットの姿だった。

 
投稿少し遅れて申し訳ありません。
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