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二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む 作者:木塚ネロ

第三章

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第20話 勇者、ノノリックと出会う

なんとかデータ復旧できました。
遅くなって申し訳ありません。
  
「こんなかわいい子にぶつかってくるなんて、切り殺されちゃっても文句言えないんだよ?」

 ぷくーっ、と頬を膨らませて文句を言うその姿はまるで無邪気な少女のようだ。
 まぁ、あるべきものがあることを無理やり確認させられてしまったので疑う余地は欠片も残ってなかった。その確認させられた方法は思い出したくもなかったが。

しかし、そう分かっているのに、こうして間近で見るとこいつが男だとは信じられない。

「済まないな、少し考え事をしてたんだ。それじゃあ」

 一瞬焦ったが、向こうはこちらのことを知らない。
 グロンドをやる前にいずれこいつについてもどうにかしなければならなかったが、今はまだその時ではない。

 ここは素知らぬ顔をして、この場から離れるのが吉だろう。

「あっ! ちょっと待ってよお兄さんッ!」

「……なんだ?」

 立ち去ろうかと思った矢先、ノノリックから掛かった声に足を止めた。
 そのまま無視して行こうとかとも考えたが、かなりしっかりと目を見て呼び止められたこともあってそのまま立ち去るのはさすがに不自然だと思ったからだ。

「女の子にぶつかって置いてそれだけでいっちゃうきなのぉ? それに謝罪に誠意がこもってなぁーいっ!!」

(いけしゃあしゃあと何が女の子だコイツっ、適当なこと言いやがって)

「はぁ、仕方ないな」

 通りでいい匂いを漂わせている屋台で、香ばしく焼き上げた肉と野菜をパンで挟んだ食べ物を買う。

「ほら、こいつをやるから、これでいいだろ?」

「もおーっ、食べ物で釣ろうとするなんて女の子のあつかい方ががわかってなぁいっ! なんでそこでお花屋さんじゃなくて色気のない食べ物屋さん選んじゃうのかなぁ。お兄さんっ、童貞さんでしょ!!」

「……だったらなんだ、お前には関係ないだろうが」

「あっ、いま本気でイラッとしたでしょ。んふふっ、かっわいいーっ」

 からかう様に笑うノノリックは、ぺろりと唇を舐めて表情を変える。

「ねぇ、ノノがいろいろ教えてあげよっか? お兄さんになら色んな経験、させてあげるよ?」

「遠慮する、なんでそこまで俺にかまう」

「だって、お兄さんからとってもいい匂いがするんだもん。こんな匂い、抑えているでしょ?」

「っ!!」

 それは、ゾクリと抱きつかれて背筋をなぞりあげられるような、強く匂いたつ血の匂い。

 幼いとさえ表現できる容姿を持ちながら、こびりつくように染みついた死で遊ぶ者の香り。
 殺気とも戦意とも違う、血に飢えるような殺しを楽しむ狂気の気配に、一瞬で警戒から戦闘へと意識が切り替わる。

「あはっ、ほらやっぱり! こんなにちょっぴり漏らしただけですぐに気が付いた」

「……何のことだ?」

 直ぐに引っ込められた狂暴な気配に、嵌められたことを悟って内心で舌打ちしながら、意識を警戒へと押し戻した。

「とぼけなくってもいいよぉ。ノノだって同類なんだか……」

「『黙れ』」

「……っ!!」

 自分でも驚くほど、俺の口から低く重い声が出た。

「勝手に同類扱いするなよ。俺たち以外に俺たちの同類なんていねぇよ」

 こいつと似た狂気が俺たちの内にあるのは確かだ。

 殺したくて殺したくて殺したくて、たまらない。
 何もかもを衝動的に壊してしまいたくなるどす黒く染まった鈍色の激情。

 だが、ただ似ているだけで、同類などといわれるのは我慢がならなかった。

(っ、と、こんなところで油を売ってる場合じゃなくなったな。ミナリスと合流するか)

 ぐるりと熱を持ちかけた感情を覚ますようなタイミングで、チュウスケから感覚共有の連絡が入った。

「…………」

 俺はこれ以上話すことはないと踵を返してその場から立ち去った。

 
               ☆

 
「勝手に同類扱するなよ。俺たち以外に俺たちの同類なんていねぇよ」

 言葉を吐いた瞬間、暗い黒の瞳の奥が、水たまりの底から泥を舞いあげたような色に濁る。
 吹き出すように漏れ出たどす黒い気配は、やはりノノが望んだものだった。

 そのまま黙って男は雑踏の中に紛れて消えていく。

「うぅーん、ちょっといじめすぎちゃったなぁ。つまんないの、ノノ、ふられちゃった」

 せっかく久々に本当に楽しめそうなのを見つけたのに、ちょっと残念。 
 この町にも少し飽きてきちゃったし、グロンドのおじさんとの関係を切っちゃう前に楽しめるかなって思ったのに。

 あのお兄さんに渡された屋台の食べ物にパクつきながら、グロンドのおじさんに用意してもらった根城を目指して歩いていく。

「ノノについてきてくれたら、本当にいろんなことを教えてあげようと思ったのになぁ」

 いろんな気持ちのいいことや、…………それから、あの濁った欲望を満たすための、できる限り苦しむ姿の見れる人の殺し方とか。

「でもやっぱりダメかな? なんか最初から警戒されてたし……、お仕事で殺しちゃった相手の身内とかかなぁ。でも、だったらノノに対して怒りが向くよねぇー……」

 普通、街角でぶつかっただけのこんなにかわいい女の子を『警戒』する人間はいない。

 けれど、ノノに敵意が向いたのは、最後の時だけだった。あの押し隠している誰かに向けた殺意がノノに向いている様子はなかった。

「でもでもっ、もったいなぁ。んぐんぐ、あの感じだと絶対レベル二桁にも届いてないよ」

 手にしたパンを食べながら、ひょいひょいと面白くない人の間を縫うようにして道を進んでいく。

 本当にもったいない、少し漏れ出しただけでノノの背筋がゾクゾク来るような、あんな純度の強い殺意はなかなか見つからない。

 人殺しの快楽に溺れて自分を見失う人間は多いけれど、そういうやつがばら撒く淡い殺意とは比べるまでもない純黒の意志。

「でも、どんなに強く願ったって、力がなかったら踏みつぶされちゃうだけなんだよ?」

 口の中に放り込んだ最後の一口は、少しだけ調味料が多くてしょっぱかった。

「さてと、お仕事お仕事っと」

 ちょうどお腹も膨れたし食べた後は運動して、しなやかな体を維持しないと、|拷問す≪いじめ≫るのにも、エッチするのにも支障を来たす。

 お腹のお肉は万国共通で男の娘の敵なのだ。

 手についたソースをぺろぺろと舐めとって、最後に唇の周りを舐める。

 スイスイと道を行きながら、少しづつ慣れ親しんだ汚濁の混じる空気の方へと歩いていく。
 薄汚れた街の掃きだめは泳ぐのに心地がいい。

 表の世界の水は甘く綺麗すぎて、ずっと浸っていると胸の中が焼かれて溺れそうになる。

 そんなときほどたまらなく、血の味が欲しくなる。そう、今みたいに。

「うんうん、ここだここだ!」

 たどり着いたのは面白くない、退屈で腐臭の漂うゴミ溜めの巣窟。
 プチっと潰すのにとってもお手頃な玩具が転がっている場所。

 殺しと拷問(いじめ)と気持ちいい運動がだけが、ノノに生きている実感をくれる。

『……ぁああっ、……やめ……、ぐぅぅう』

『おらっ、暴れるんじゃねぇっ、へへへっ』

 扉越しに聞こえる下種の声。
 一番楽しく潰せる相手。

「…………んふふっ、おっじゃまっしまーすっ!!」

 どこか据えたような匂いの不潔な空気。
 タバコの煙を燻らせた匂いと混ざった薄暗い空間は、古い記憶が刺激されて炙られるように血と肉が熱を持ち始める。

「ああっ!? 誰だっ、こっちは今取り込み中なんだよっ!!」

「お、結構かわいいじゃん。なんか用かいお嬢ちゃん」

「ぐひっ、俺の好みど真ん中だぁ。なぁなぁ、お兄ちゃんと遊ぼうぜ? 大丈夫、コイツを使えばすぐに……、ぐひっ、ひひひ」

 部屋の中には何人かの男たち。
 タバコかを加えて椅子にもたれかかっている奴、脂ぎった肉に食らいついている奴、賭けカードに興じているもの、エトセトラエトセトラ。

 まさに最底辺にこびりつく生ごみ達の溜まり場の、その一番目立つ中央では、ゴブリンのような不快なダミ声の主が薄汚れた女の子の上にのしかかっている。

「な、なにしにきたのか知らねぇけど、と、とりあえずやっちまってもいいよなぁ、ぐひひっ」

「えー? なになに? お豚さんが最初に相手してくれるの?」

 ノシノシと歩いてくるオークのような男に声をかける。

「ぶっ、豚ぁあああ!?」

「『あーぁ、やっちまったよ』」

「『おいっ、トギールッ!! せっかくの上玉なんだからすぐ壊したりは……、って、完全に聞こえてねぇな』」

「『ちっ、んだよ、ありゃすぐに壊れちまうなぁ』」

「『なぁなぁ、前から聞きたかったんだがアイツ、なんであのセリフ言われると切れんの?』」

「『初恋の相手に”豚はお断り”って断られたんだと』」

 ゲラゲラと下品に響く笑い声はこの場によく似合っている。

「だ、だだだだだ誰が豚だああああっ!! 俺のどこが……」

「いいよ? お豚さん、ノノの好みだから特別に、いぃーっぱい遊んであげる。だから……」

「はぇ? がっ!?」

 ブシュッ、と水風船に針を刺したように赤い液体が男の両足から吹き出す。

「ぎゃああああぁぁあああああっ!!」

「もうちょっとだけ、そのまま床で寝ててね?」

 ドサリと横倒しになった男に、ポカンとした空気がその場に広がった。

「あれ、どうしたの? ねぇねぇ早く遊ぼうよ、アハハッ」

「て、てめぇっ!!」「ガキがっ!!」「どこの回しもんだぁっ!!」

 一瞬で氷解した空気が、肌にネットリ纏わりつくような血のような質感を帯びる。

「みぃんなみぃんな遊んであげる。いっぱい手間を掛けてあげるから、ノノのお股が濡れちゃうぐらいに―――」

 ガラガラガランッ、とバサリと広げたマントから何本かの小剣を地面に落とす。

「体の芯に響く声で、鳴いてね?」

 沸々と切り替わる、酒を回すような意識。
 血の海の底へと潜るなら、何よりも、だれよりも深く。
 そこが一番、苦痛の鳴き声がよく聞こえる場所だから。

 


「んんーっと、あ、あったあった!」

 ガサゴソと探し回った部屋の中、やっと見つけた鞘付きの剣を見つける。
 木がまとわりつくような見た目の鞘の剣は確かにグロンドおじさんに探すように頼まれていた剣だ。

「んっふーっ、これで新しいおもちゃが二人分ーっと」

 剣を道具袋にしまって周りを見回すと、散らかし放題食い散らかした跡が残っている。

 血がジメジメとした日の湿気の様に部屋の中に充満している。
 そこら中に転がる死体は、自分の体から切り落とした21本の棒を自らの口に詰め込まれた死体がそこら中に転がっている。

 我ながらなかなかにいい趣向だった。
 一本一本、丁寧に口の中に詰めながら聞いた、くぐもった悲鳴はおへその奥あたりがキュンキュンした。

 ノノ、久々に自画自賛していいレベルだと思うの、がうがう。

 満足気に眺める部屋の中に響くのはぴちょんっ、ぴちょんっ、と死体から滴り落ちる血の音と。

「ぁあああああぁああっ!! しねっ、しねぇっ!!」

 …………既に事切れた死体に、争いの途中で砕けた、鋭く尖った椅子の足の先端を何度も振り下ろす音と、女の子の荒い息遣いだけが聞こえてきていた。

 うつろな目をただ怒りだけで満たした女の子は、狂ったようにその死体を壊し続ける。

「『憎い?』」「『許せないの?』」「『だったら殺さなきゃ』」

「『殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ、一生、そのままだよ?』」

 囁いたのは、ノノの声。

 少しの間、女の子の様子を眺めて満足して一つうなずくと、女の子を残して外に出た。

「いいことした後って気持ちがいいなぁ。んふふっ!」

 道を歩きながら、着ている衣装に魔力を供給して染みついた返り血を取り払う。

 血の匂いが遠ざかって、興奮が収まった後の静かな快感が体を満たしていく。

「あー、やっぱり楽し。るるるーんっ」

 達成感にも見た陶酔に身を揺らしながら、新しくもらえるはずのおもちゃでどう遊ぼうかと考える。

 今日は、新しいおもちゃの楽しい遊び方が思いつきそうだった。



 

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