挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む 作者:木塚ネロ

第三章

84/115

閑話 ミナリスの○○虫育成日記

データの復旧の見積もりと期間が業者から帰ってきました。
なんとかデータの復旧の見込みはあるそうです。

それは安心しましたが、早くても8日まではかかるそうです。

かなりお金もかかるらしいですが、背に腹は代えられません。喜ばしかったり苦しかったりと、なんか早死にしそうな気がする作者です。


 王都を離れてしばらく、いくつかの町をたどりながら私とご主人様は旅を続けていました。

 そんなある日の夜。

 丸袋の中から一つの大きめの瓶を取り出しました。
 夕食の後、私は試しにとその瓶の中に葉物の野菜の残り端を入れます。

「ふぅ、やはり普通の野菜は食べないみたいですね。鮮度の高い野菜ならあるいはと思ったのですが……」

 大きめの瓶の中にいるのは王都でご主人様が拾っていた『ウォールイーター』でした。

 姿は変わっていますが、瓶の中には綺麗な白い色をした虫がのたうっています。

「クーちゃん、それはお布団じゃないんですよ?」

 クーちゃんというのはこの子の名前です。元は透明な体をしていたのでクーちゃんと命名しました。

 どうやら、入れられた葉物は新しい布団か何かと思っているようで、せっせと皺を延ばすように瓶の底で広げています。

「とはいえ、クーちゃんも大きくなりましたね……」

 最初のころの大きさを思い出し、改めてしげしげと頷いてみる。

 クーちゃんは小さな2センチ程度の尺取虫サイズから、人の指一本ぐらいのでっぷりとした芋虫サイズへと成長したこと。
 体色が透明から艶のある白い色へと変化したこと。
 そして、体を覆っていたヌメヌメとした粘液も成長するにつれて無くなったことぐらいでしょうか。

「どうだ? 野菜は食べたか?」

「ご主人様」

 と、横からご主人様が顔を出して瓶の中を覗き込みました。

 近い、近いですご主人様っ!!
 いきなりやられると心の準備が……っ。

「やはり食べるのは金属や魔石の類か、もしくは肉類だけみたいです。せっかくのお野菜はベッドになってしまいました」

 こっそりと鉄面皮のスキルを使って平静を装いつつ、少し魔力を込めたグリーン・ボアの魔物の肉を一欠けら瓶の中へと落とします。

 野菜には目も向けなかったクーちゃんが、シャクシャクと勢いよくお肉に食いついていました。

 クーちゃんと同じくらいの大きさがあるお肉が、勢いよくなくなっていく姿はちょっと微笑ましくもありました。

「魔力を込めたものが好きなのは『ウォールイーター』の性質的に分からなくもないが、なんで肉は食って野菜は食わないんだろうな。見た目的には桑の葉とか好物そうなんだけど」

「クワノハ、ですか?」

「ああ、俺の世界にそういう名前の植物があったんだよ」

 その言葉にチクリと心の端を針がつつく。
 私が知らない、共有できていない世界をご主人様は持っている。
 時折触れるその事実に、私の心が小さく痛みます。いえ、痛みというよりも乾きのような感情でしょうか。

「そういえば、今更だけどなんで『クーちゃん』なんだ?
 鑑定でも性別が表示されないし、もしかしたら『クーくん』かもしれないだろうに」

 と、ご主人様がよくわからないことをおっしゃりました。

「? クーちゃんは女の子ですよ、ねー?」

 瓶に話しかけるとクーちゃんは肯定と返すように頭を上げ下げしてくれました。

「マジかよ、いや、まぁどっちでもいいんだが……」

 ご主人様は若干いぶかし気にそういって、頬を掻くのでした。


            ☆

 
「あ、ご飯を上げるならシュリアにやらせてほしいのですよっ、今度こそリベンジなのです!!」

 エルミアの街を離れて数日。
 憤然と燃えるシュリアの前には、小さめの木箱ぐらいの大きさのケースがあります。
 その中ではどこか泰然とした雰囲気を漂わせるクーちゃんがいました。

「『キュキュルゥ』」

 どこか挑発するように鳴いたのはクーちゃんです。

 あれからさらに大きくなったクーちゃんは今はもう小さめのウサギのような大きさになっていました。

 体が大きくなるにつれて、クーちゃんは体を震わせるようにして声を上げるようになっていました。

「ほら、おいしいおいしいお肉なのですよぉ」

 シュリアは意気込みの炎を背負いながら自らの魔力を込めたオークの肉を一塊、ケースの中へと落とします。

 クーちゃんはまるで品定めをするかのように入れられた肉塊をつつき回すとそれをケースの隅に追いやって、多くの葉っぱで作られた自分のベッド区画へと身を戻してしまいました。

「な、むむぅ~~~~っ!! なんでシュリアのはだめなのですぅーっ!!」

 魔力を込められた金属類や肉類が好物のクーちゃんでしたが、なぜかシュリアが魔力を込めた餌は食べません。何か気に入らないようでした。

「ま、まぁ、あまり気にしない方がいいですよ、シュリア」

 さすがの私もかける言葉が見つからず、そんな曖昧な返事をするしかありませんでした。

 ケースからオークの肉を取り出すと、代わりにユーミス邸から持ち出した手のひらサイズの魔石を置きました。

『キュキュイィッ!!』

 すると、まるで待っていましたとばかりに自らのねぐらから飛び出してきたクーちゃんがその魔石に食いつきました。

 大きくなってもどこにあるかわからない小さな口でクーちゃんはカリカリと魔石を食べていきます。
 しかし……。

『キュプ、キュ』

「あ……」

 クーちゃんは魔石を半分以上も残して食べるのを止めてしまいました。

「どうしたんでしょうか。以前ならペロッと食べつくしてしまう量のはずなのですが……」

 最近、クーちゃんのご飯を食べる量が明らかに減ってきています。
 ご飯をまったく食べないわけではなく、こうして好物の魔石を与えると勢いよく飛び出してきたりと、弱っているわけではなさそうなのですが、心配です。

「何か、おかしな病気にでも掛かっているのでしょうか」

「鑑定した限りじゃおかしなステータスにはなってないぞ」

 ケースを挟んで反対側にしゃがみこんだご主人様が言いました。

「ただ……、どうもクーは鑑定に抵抗するんだよなぁ。意識的にか無意識にかわからないけど。さすがにステータスを偽ってる感じはしないから大丈夫だとは思うんだが」

 そういってご主人様が首をひねる。

『キュッ、キュイィ』

「しかし、おかしなもんだな。でかい虫なんて見たくもなかったはずだったんだが、クーをかわいいと思うようになるとはなぁ」

 ケースの中のクーちゃんを指先で撫でながら、ご主人様はそんなことを呟きました。

 そうですね、クーちゃん、かわいいですから。

「ご主人様も、少しずつ変わっていく部分もあるということです」

「むぅー、ほら、食べるのですっ、食べるのですっ!! うぅー、どうしてダメなのですぅ」

 懲りずに魔力を込めたお肉を入れるシュリアでしたが、こうなるとしばらくは喰いつきません。

 涙目なシュリアを慰めつつ、どうも様子のおかしいクーちゃんの様子を心配するのでした。


 
 その翌日。

「…………これは、どういうことなんでしょう」

 たった一晩の間に、クーちゃんが入れられていたケースの中には、まるで宝石の様に白く輝く殻を持った卵が置かれていました。
 そして、ケースの中にはクーちゃんの姿がありません。

「ご、ご主人様、こ、この卵がクーちゃんなんでしょうか?」

「……わからん、鑑定も弾かれる」

 ご主人様は難しい顔をしてその卵を見ます。

「とはいえ、状況的にそうとしか考えられないし、これがクーなんだろうな」

「だ、大丈夫なのです? シュリアの餌を食べる前にどうにかなっちゃうなんてそんなの許さないのですよっ」

「二人とも落ち着け。死んだだけならこんな状態になったりするか。こいつも魔物なんだし、不可思議な生体の一つや二つはあってもおかしくはないだろう」

 そういうご主人様の顔も、不安げな様子でした。

「? いま、卵が動いたのですっ」

 と、その時です。
 シュリアの言葉に視線を戻すとまったく動かず鎮座していた卵が小さく振動しました。

「あ、またなのです」

 その非常に小さな振動はかなりの感覚を開けて、けれど確かに振動していました。

「…………なんだかわからんが、とりあえず、死んでるわけじゃないみたいだな」

「…………」

 とりあえずは一安心です。
 多少の不安を抱えて見た卵は、再び小さく振動するのでした。

 
              ☆


 結局、その後どうこうすることもできず、卵になったクーちゃんの様子を時々見守ることになりました。

 相変わらず振動は続いていますが、卵に変化はありません。卵なのですから、いずれ孵る時が来るのでしょうか?

 
 
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ