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二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む 作者:木塚ネロ

第三章

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第19話 勇者一行、コソ泥家業に精を出す。

なんでなのか、書いていれば書いているほど、書いていたプロットに付け足す部分が増えて話数が増える…………。(親が億万長者だったらよかったのにっ←クズ野郎)
 俺たちはえっちらほっちらと、グロンドを追い詰めるための種の仕込みをしていた。

 その作業がひと段落着いたところで、俺たちはダートラスからそこそこ離れた場所にある山の中を歩いていた。

 オードロス山脈は岩山ではなかったが、山の中といってもさほど森は深くなく、山にしては比較的に移動がしやすい部類だった。そのため、登山というよりはハイキングのような感覚でその山を登っている。

『なぁっ、勇者の兄ちゃんッ! 稽古つけてくれよ。俺も強くなっていつか、みんなを守るんだっ!!』

『勇者のお兄ちゃんっ、私もこれあげるっ!! ケリーじゃ頼りないけど、勇者のお兄ちゃんなら、トリアお姉ちゃんを助けたときみたいにみんなを守れるでしょ?』

『しぇ、シェンファ~~~っ!?』

『シェンファ、おまえはこう、もうちょっと男のプライドってやつをだなぁ……』

 カラリとした天気の中、のどかな空気を感じていると、子供たちとピクニックに来た日のことを思い出した。

『海人おにいちゃんっ! これっ、トリアが作ったやつっ! 食べて食べてっ!!』

『どれどれ……、んぅ、ぐっ!? と、トリア、お、お前、味見はしたか?』

『ふぇ? 海人お兄ちゃんの分を盗み食いしたりはしないよ?』

『そ、そうか。次からは、ちゃんと味見しような? でも気持ちは嬉しかったから頭はなでなでしてやろう』

『んみゃ? もうぉおおおおおっ!! 子ども扱いしないでっ!!』

『あはははっ』

 木漏れ日と共に降り注ぐのような優しい記憶は、その優しさの分だけ痛みを増す。

「ご主人様、どうかされたのですか?」

「何をぼーっとしてるです?」

 声がかかったのはそんな時のことだった。

「んー、いや、何でも……」

「ご主人様は無駄なところで意地を張りますよね」
「海人様、シュリアたちのこと信用できないのです?」

 反射的に否定しようとした俺を責めるように見る視線に、俺は早々に白旗を挙げた。

「……いや、悪かったよ。ちょっといろいろと思い出してただけだから」

 ここに来たのは最後の舞台の仕上がり具合がどうなっているのかの確認のためだ。
 最後の舞台に選んだのは、一度目の時に俺の失敗から出来上がった、悪徳塗れのあの学校があった場所。

 あの日、どうしようもない腐った現実に狂ったように笑い続ける俺の目の前で燃え盛り、崩れ落ちたその場所は、今は柔らかな下草が地面に茂っている。

「本当、今更な話を思い出してだけだ」

 そう、今更な話なのだ。
 考えるまでもなく、五臓六腑に染み渡るまであの時の感情はこびりついている。
 あの時の無念も、怒りも、悔しさも、絶望も。

 掴めず、届かなかった少女の手と。

 何もできずに、ただ血に濡れただけの役立たずな自分の手と。

 そして、助けてと、ただそれだけの一言すら聞けなかったあの日を。

「いや、思い出すってのも違うか。まだ何も終わっちゃいないんだからな」

 まだ何一つとして終わってなどいない。
 何一つ忘れることもなく、今も生々しい感覚は残されたままなのだから。

「だったら、感傷に浸っている暇はありませんよ、ご主人様」

 そういうミナリスの声音は少し厳しい。

「アイツらは何も知らない。何一つ覚えていません。一度目の世界のことなど何もなかったように生きていて、その爪痕すらこの二度目の世界にはありません」

 けれど、そこに滲むあいつ等への怒りを昇華させるようにミナリスは妖艶にほほ笑んだ。

「でも、なかったことになんてなりません。なかったことになんてできません。思い知らせてやりましょう、そのすべてを。魂の一欠けらにまで刻み込んで」

「シュリアたちは、そのために共犯者になったのです。苦しめて苦しめて苦しめて、痛みに慣れさせることすら許さないほど、苦痛だけで埋め尽くして。全員殺してやるのですよ」

 楽し気に笑うシュリアが、ミナリスの言葉を引き継いだ。

「……そうだな。さてっ、それじゃあ気を取り直してえっちらほっちら働きますか!」

 甘えを許さず、ほしい時にほしい言葉をくれる共犯者に感謝しながら、俺は目的の場所に向け歩を進めた。

 そしてたどり着いたのは、街からほどほど離れたオードロス山脈の中腹、その中で多少木々の晴れた場所。

「…………」

 整備されているわけでもない目の前の光景に、一瞬、あの忌々しい木造の校舎が建つ光景がダブる。

「よしよし、順調だな」

 現在、その広場には直径十五メートル程度の穴が一つ作られていた。

「チュチュッ!!」

 と、足元に近寄ってきたのは1匹のネズミ。

 ネズミ一号、改め、チュウスケだ。

 昨日、ネズミ一号との感覚共有でグロンドの観察をしていた時に、シュリアの『ネズミ一号!? ダメなのですっ、こんなに可愛いのにっ、そんな適当な名前ひどいのですっ!!』という強い要望を受けた。

 怪盗一号二号みたいでいい感じの名前だと思っていたのに、喜んで改名を受け入れたネズミ一号、いや、チュウスケの様子にちょっと落ち込んだ。
 まさかスラ吉もと思って後でこっそり尋ねたら、『気に入っている』という旨の返事が返ってきて泣きそうになったのは絶対に墓場まで持っていこうと思う。

 そうして新たな名前を受け入れたチュウスケは、さらに有能さを増していた。

 新たにスキル『統率:ネズミ種』を取得し、ほかのネズミたちに命令を下せるようになったのだ。

 その力を使ってもらい、チュウスケには最後の舞台のために穴を掘っていてもらっていた。

 ユーミスの時は俺とミナリスでの手作業だったので、ゴーレム一体分が丸々っと沈むだけの穴を掘りあげるのには大変苦労した。

 事前にチュウスケの『使役紋』を通じて伝わってきた報告通りに穴が完成している。

「うんうん、これぐらいの深さがあれば十分だな」

 近くにしゃがみこんで覗き込んで見ると、穴には三メートルぐらいのしっかりとした深さがある。

「チュ~!」

 チュウスケは『褒めて褒めて!』という感情を顕にしながら肩まで上がってきて身を擦り付けてきた。

 ちなみにチュウスケはかなり綺麗好きなようで、川を見つければ体を洗い、こまめに毛づくろいをし、ちょっと石鹸を与えると喜んでアワアワになるほどの清潔さ加減だった。

 なので、そこらのネズミと違って毛はふわっふわの綺麗で普通にかわいい。

「おぉ、愛い奴愛い奴。よくやったな」

「ちゅー!!」

 感謝を込めながら頭を撫でてやると気持ちよさそうにチュウスケは声を上げる。

「「…………」」

「そんな顔しなくても分かってるって二人共」

 少し羨ましげな二人に言葉をかける。レティシアには朴念仁だとか鈍いなどと言われてきたが、そんなことはない。

 二人が何かを羨ましがっていることぐらいわかるのだ。そして、女性は大概かわいい小動物が大好きである。

「ほら、好きなだけ撫でてもいいぞ。チュウスケが嫌がらない程度でな」

「ご主人様……」「はぁ、なのですよ」「チュチュウ」

「……あれ? 何か、間違ったのか?」

 逆三角な目をした二人と一匹の視線に、なにか失敗したようだという空気だけを感じたのだった。


                  ☆


 あれは、たしか俺が小学4年の夏休み。

 長期の休みを利用して、両親の知り合いの実家へと招待されたことがあった。
 虫取りに、夏祭りに、川遊びにと遊び回ったのだが、その最後には『働かざる者食うべからず』との至言のもと、人参やキャベツなどのいろんな野菜の種付け作業を手伝わされた。

 まぁ何が言いたいのかというと、

「種まきって作業は数が多くなると途端に面倒になるんだよなぁ」

 ラストステージの下見をした日から数日、現実逃避気味に呟いたのは、忍び込む小商会の数が10件目を超えるころだった。

 武器屋や道具屋など、一つの分野だけで商いを行う職人肌の商店は、商売の規模があまり大きくないので動く金の量も小さい。

 そうすると金の隠し方がまちまちで、俺やミナリス、シュリアが痕跡を残さずに探し出すのは時間がかかる。そういうところはスラ吉任せている。

 スラ吉なら、ほんの小さな隙間からでも侵入できるし、いくつにも小さく分裂できるから短時間で多くの場所を探せる。

 それに対して商会は他所から仕入れた商品を自らの店舗で販売するほかに、職人肌の商店に原材料を仲介するのも仕事だ。
 商店と商会の違いはあいまいだが、基本的にはこの原材料の仲介業をしているかどうかが基準になっている。

 そして、小さな金額を客とやり取りするだけの商店ではなく、いくつもの商店とそこそこの規模のやり取りする商会はある程度まとまった金額が頻繁に出入りする。

 しかも、大体の商店が市民を相手に商売をする関係上、行き来するのは銅貨から銀貨が一番を多く、それである程度の金額をやり取りするのでその枚数も膨大になる。

 この世界に、現代日本ほどの繊細な貨幣の製造技術などなく、一枚一枚が大きく分厚い貨幣が何千枚と集まるのだ。
 必然、貨幣が占有スペースはかなりのものになり、どの商会も金と、単価の高い貴金属や貴重な魔道具などを管理するために金庫室を作るのが当たり前だった。

 丸々一室が金庫替わりになっているような場所なら、痕跡を残さず素早く離脱するのも容易い。

 そんなわけで俺は今こうして、とある商会のジメジメとした薄暗い地下室で、貨幣の入った麻袋からチャラチャラと取り出していた。
 ミナリスたちが聞き出したリストに従い、決められた枚数の貨幣を丸袋の中へと収納していく。

「銀貨が百四十五まーい、銀貨が百四十六まーい、銀貨が百四十七まーい、えっと、銀貨はこれで全部か。あとは大銅貨が二百六十二枚と、銅貨が三百枚か」

 一枚一枚しっかりと枚数を確認して、必要な枚数だけを盗み出していく。

 ここで一枚でも枚数を間違えてしまえば、計画の効果は半減してしまう。面倒だからと手を抜くわけにはいかないし、この一つ一つがアイツに絶望を見せるためのカギになる。

 ギリギリと食い込むように根を張っていく絶望の種は、地の底を這うように静かにグロンドの足元を覆って芽吹く。
 アイツは目の前にぶら下げた黄金色の果実に、足元で花を咲かすその花など意にも介さないだろう。
 …………その足に絡みつく花が、自らの命を啜る猛毒の花などとは考えもせずに。

「さてと、これで全部か。『ユーフォン商会』っと」

 しっかりと規定枚数を選り分けてそれを纏めて麻袋に入れると、麻袋に商会の名前を書き入れる。その麻袋を丸袋の中にしまい込んで立ち上がる。

「長居は無用だな、さっさと行くとするか」

 俺は金庫室から外に出ると、その金属製のいかつい扉を閉めて、その中央の赤い文様に手を触れた。

「『クローズ』」

 ギィンッ、と小さく魔力の鳴る音と共に、金庫室に鍵がかけられる。

 商会の金の掛け方によってもランクは変わるが、大抵の金庫室は最低でも物理・魔法結界による強化と探知による警報機能がつけられている。
 通常はソレを解除するために、その金庫室に対応する鍵の役割を持った魔道具があり、どの商会も大抵は商会の会頭が肌身離さず持っていることが多い。
 さすがにそれを直接盗み出し、かつ、俺たちの痕跡を残さないようにするのは手間がかかりすぎる。

 だが、堅固な作りをしている金庫室も、今回の魔力嵐で機能にほころびが出ている。
 そのほころびを利用すれば、【魔繕の鈎刃】でMPの消費を抑えながらも金庫室へと侵入することができる。あとはミナリスの毒で金庫室の前で立ったままうたた寝をしている見張り番に、解毒の香を吸わせるだけだ。

「これでよし」

 あと数分もすれば目を覚まして、うたた寝したことも忘れているはずだ。

 俺は周囲に誰かの気配がないことを確認しつつ、店の裏口から外に出て通りの雑踏へと紛れ込む。

「はい、いらっしゃいっいらっしゃいっ、今日はポーションが安いよ!! ちょっとそこのお兄さんっ、魔物の討伐の緊急依頼が出てるんだろ? だったらうちのポーション買ってきなよ!」

 表の通りから見る商会はそこそこ活気があるように見えた。
 盗みに入る前にコツコツと築き上げた財産と人脈でやっとただの商店から商会へと成り上がったばかりらしいと、小耳にはさんでいた。

「おっ、アンタっ、待ちなってそこのアンタだよっ!!」

「……ん? 俺か?」

 なんとなく視線を出てきた商会を眺めていると、商会の売り子に目をつけられたようで手招きするように声を掛けられた。

「あんまり良いガタイはしてないけど、身なりからしてあんたも冒険者だろ? だったらうちのポーション買っていきなよっ、いい品備えてあるからさ」

 そういって売り子をしていた女性は手に持ったポーションの瓶をチャポンと揺らした。

「ふむ、……はは、確かに質の良いHPポーションだ」

 鑑定を掛けてみれば『下級HPポーション、品質(上)』と出た。

「お、この下級ポーションの質が分かるのかい? なんだ、そんな身なりしてるのに駆け出しってわけじゃないんだね」

「まぁな、それなりに場数は踏んでるさ。MPポーションは売ってるのか?」

「もちろんだ、腕のいい薬師と契約してるからね。回復系のポーションから能力強化系まで取り揃えてあるよ!」

 少しだけ店の中に戻った売り子はMPポーションを用意する。そちらのポーションも品質は高いと鑑定で出来た。
 回復系のポーションは命に直接と係わるアイテムだ。ごまかしが利かない分、そこをキッチリと抑えている商人の評価は高くなる。
 どうやら本当に真っ当に商売をして大成してきたのだろう。

「なら、それを十個ほど貰おうか。値段はいくらだ?」

「なんだい、太っ腹じゃないか! 全部で銀貨十枚だよ」

 俺は自分の銀貨を取り出して渡し、代わりに木箱に入れられたMPポーションを受け取った。

「毎度ありっ、今後もご贔屓にねっ!」

「あぁ、気が向いたらな」

 ヒラヒラと手を振って、俺は再び歩き出す。
 久々に気持ちのいい商売人を見た。中身が本当に外面と等しいかは分からないが、それを確かめるような余裕は俺にはない。
 だから、俺にはあの商売人がクズでないことを祈るくらいしかできない。

 だが……、

「悪いな、全部終わったら返してやるから、頑張って商売しててくれよ」

 そう思っていても、躊躇いを覚えることはなかった。
 悪いとは思うのだ、だが、それで躊躇うほど、俺の復讐は安くはない。

 必ず殺す、絶対殺す。

 復讐に無駄な殺しを紛れ込ませはしないが、必要ならどれだけの数の有象無象をも踏みつぶそう。

 正しくないのは分かっている。それでも、正しいことだけで生きていけた俺はもういない。
 本当に必要であるのなら、その罪悪感ですら飲み込んで、俺は進むと決めたのだから。

 ただの勇者は、もういない。

「っ、とっ」

 変なことに思考を割いていたせいで周囲への注意がおろそかになってしまった。
 トンッ、と軽い音を立てて誰かとぶつかった。

「っ!!」

「きゃぁあっ!!」

 そこにはまるで軍服のような服装をし、ベレー帽をかぶった金髪の少女が、いや、少年が尻もちをついている。
 シュリアと同じくらい小柄なそいつは、ネコを思わせる吊り目勝ちの顔をしている。

「もういったいなぁ。まえみろっ、がぉー!!」

「…………」

 俺の目の前に現れたのはノノリックだった。
先日、ついに拙作が発売となりました。
なんか、棚に置いてある自分の本を見たら、何やら恥ずかしくて逃げ帰って家で枕に顔を突っ込んでバウバウ叫ぶ駄犬と化してました。

一巻目が売れないと、続刊がどんどんと厳しくなってしまうそうで、大丈夫なのかとソワソワとガクガクを同時に味わうという未知の感覚を味わっております。

それからこちら、一巻に入っている絵の一部となります。

挿絵(By みてみん)

(ちゃんと売れてるのか編集さんに確認もできないチキン野郎な作者より)
+注意+
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