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二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む 作者:木塚ネロ

第三章

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第17話 勇者一行、蠢き出す2

 ほの暗い部屋の一室。
 無駄に広さがあるその場所は、円形状に土壁が広がっていているだけの部屋というよりも穴蔵といったほうが正しい様相をしてます。

 ここはダンジョンにある隠し部屋の一つです。いや、海人様とシュリアたちの手で既にダンジョンコアを壊してしまっているので、正確には元・ダンジョンというのが正しいのです。
 ダンジョンの最奥にある台座には、海人様とミナリスさんが王都で手に入れたダンジョンコアの破片と、水晶を混ぜ合わせた偽物のダンジョンコアは設置されているです。
 だから、もうここはダンジョンではなくなっていました。

「うぅ、……あぁ、あ……」

「…………そろそろ、いい具合に毒が回ってきましたね」

「夢うつつなのですよ! これならクマさんのお仕事もしやすいのです」

 私の目の前には、シュリアの使い魔の一人、『メタルさん』が椅子の形となって一人の男を拘束しています。
 ミナリスさんが作った毒で、意識を半分だけ夢の世界に落とし込んでいます。シュリアのお仕事は、クマさんの力を使って尋問に答えやすくなる夢を作り出すようにすることです。

「さぁ、クマさん、お仕事なのですよ」

 シュリアは海人様がくれた丸袋からクマさんを取り出して腕の中で抱えました。
 ネコさんもメタルさんも、普段はこの丸袋の中にいてもらってます。夜中、眠れないときにはよく抱き枕になってもらっているのです。

「『クシ、クシシッ』」

「もう、ダメなのですよ? 寝坊助さんはお仕置きなのです」

『眠い、あと五分(意訳)』なんておふざけする子は許さないのです。

「『クシッ!?』」

 クマさんとつながったパスから、クマさんに渡しているMPの容量を取り上げると、クマさんは慌ててワタワタと体を動かします。ちょっとかわいいです。

「反省したらちゃんとお仕事するのですよ」

「『クシィ……』」

 クマさんへ、取り上げたMP容量を再び分け与えると、ほっとしたように胸を撫で下ろしました。
 地面にクマさんを下すと、テクテクと男の前に歩いていく。

「『キキィ』」

「『クシシッ』」

 ニョロンッ、と挨拶するように金属の触手で手を上げたメタルさんに、クマさんも片手を上げて挨拶している。

「それじゃあやるのです。――――淡い夢現の有限へ、『傀儡憑代・クマ』」

 シュリアが鍵言を呟くのに合わせ、スウゥッ、と空気に溶けるようにクマさんの姿がぼやけた黒い霧へと変わりました。その黒い霧はメタルさんが抑えている男にまとわりつくように漂っていく。

「うが、あ、あ」

 煙が形を成していくように脳裏に情景を構築していきます。
 想像するのは、記憶のうちに焼き付けられたあの醜い豚。
 周囲のすべてを餌としか見ず、自分の欲を満たすためなら奪うことに躊躇い一つ抱かない、ユーミス姉さまと同類のゴミクズ、グロンド。

 イメージを固定化したら、あとの調整はクマさんに任せ、シュリアは丸袋から木のテーブルと紙を取り出しました。

 いつもはご主人様との来たるべきえっちぃ日のために、ミナリスさんとお勉強をするために使っている机ですが、今日は聞き出した情報をメモするために使うのです。
 ミナリスさんは最低限の読み書きしかできないので、自然とこういう役割分担になりました。

 シュリアはというと、家族への手紙を書いていたり、海人様やミナリスさんにも内緒にしている妄想を書き綴った冊子を作ったりしているので字を書くのは割と得意なのです。

「ミナリスさん、準備OKなのです」

「そうですか。それじゃあ始めましょう」

 ミナリスさんはそういって尋問を始める。

「さぁ、もう一度。一つ一つ答えてください。あなたのお名前は?」

「…………アド……ル、ア」

「あなたの年齢は?」

「……三十、四、歳」

「あなたはどこで働いていますか?」

「グロンド商会の……、事務を……」

 最初はつっかえつっかえの掠れ気味に答えていた男の答えが少しずつ明瞭になっていきます。
 ミナリスさんの質問も少しずつ核心に迫るものになってきました。

「あなたの具体的なお仕事の内容は?」

「取引台帳を、つける。記録と、報告を……」

「その、取引台帳には何を記録するのですか?」

「取引先の名前、支払う品物の名前と数量に、受け取る品物の名前と、数量」

 ちらりと、ミナリスさんに目配せをもらったので、メモの準備を進めて、了解の意味を込めてうなずき返します。

「それでは、…………」


                     ☆


「ただいまー、っと」

 ひと仕事を終えてダンジョンの隠し部屋に戻ってきた俺を出迎えたのは、ミナリスとシュリアの声だった。

「おかえりなさいませ、ご主人様」

「おかえりなのですー!!」

 一人で街道をさかのぼりダートラスの町へと向かう行商人を探し出して、ある手紙・・・・をその商人が運ぶ手紙の束に紛れ込ませてきた。

 荷の中にダートラスの町に送られる手紙があり、ちょうどいいタイミングでダートラスへとたどり着く行商人を探すのには少しばかり手間取ったが、概ね予定通りの進み具合なので問題はない。

 そうして目的を果たした俺は、別口でほかの仕事をしてもらっていたスラ吉と街中でひっそりと合流した。それからちょっと寄り道して、いくつかの珍しいポーションをスラ吉に買ってあげた。

 スラ吉はポーションが好きなようで、おやつ代わりに渡してやると嬉しそうにキュピキュピと飲み干す。
 色んなポーションを飲みたがるので、今回は大忙しで動いてもらうスラ吉へのご褒美だった。

 スラ吉が獲得した『遠距離分化』と『体積増加』の二つスキルのおかげで効率よく種の仕込みは進行している。ミナリスたちが絞り出しているはずの情報をもとに、またすぐに働いてもらうことになるので、これぐらいのご褒美はやってもいいだろう。

「お、いいタイミングでも戻ってこれたみたいだな」

 ちょうど任せていた情報の聞き出しもひと段落ついているようで、隙を見て拉致って来たグロンド商会の経理の人間は完全に気を失った状態で適当に縛られて放置されていた。

「『キュリッ、キュリッ!!』」

「『キキィッ、キィキキッ!』」

「お前ら、ほんと仲いいなぁ」

 同じ流体生物として通じ合う部分があるのか、スラ吉とメタルさんは仲がいい。
 今もスルスルと近づいて、ペチペチ、ペシペシとそれぞれの触手でハイタッチのようなことをしていた。

「ご主人様、必要な情報は絞れるだけ搾り取りました」

「バッチリなのです!!」

 見て見てとばかりにシュリアが差し出した紙にはズラズラッ、と商店や商会の名前が連なっている。

「さすがは腐ってても大商会だな、短期間にこの数の取引か…………、いい感じだな」

 その事実に、俺は思わず口の端が吊り上がった。
 作戦の精度も上がるし、対象は多ければ多いほうがいい。真っ当なところに迷惑をかけるのも忍びないが、復讐のために必要なら、躊躇うつもりもない。

 やはり、まだまだスラ吉には頑張ってもらわなければならないようだ。

「それじゃあ、このリストの通りに、主にスラ吉に種をばら撒いて貰いつつ、俺たちはその種が芽吹くように水をやらないといけないな。俺たち自身が種をまく側に回るか種を育てる側に回るかは、様子を見て調整して行くとして、次は魔力嵐を起こさないと……」

 と、くうぅぅっと腹が鳴る音がした。

「…………の前に腹ごしらえが先か。一度休憩がてら宿に戻るとするか」

「そうですね。私もお腹が空きました。この男もそろそろ薬が抜け切る頃ですし、これ以上の失踪は誰かに不信感を抱かれてしまうかもしれませんから」

 そういってミナリスが地面に転がったままの男を見下ろす。

「はいはーいっ! シュリア、出店で食べ歩きがしたいのですっ!」

「お、いいな。オーク肉の串焼きとか、ハンティング・カウのシチューとか、気になるもんも…………」

「いけませんっ、復讐の前にあんな質の悪いものを食べるなんて、私が許しません!!」

 断・固・拒・否!! という文字を背後に浮かべたミナリスが提案を却下した。

「「えー」」

「えー、ではありません。どうして二人ともわざわざ割高で質の悪い料理を食べたがるのですか?」

 ミナリスは心底理解に苦しむと言った表情を浮かべた。
 うちの妹様もジャンクフード嫌いだったので、俺がマ○ドやケン○ッキーを食べているところを見つかってしまうと同じような顔をしていた。

 その後は、切々とジャンクフードがどんな健康被害を及ぼすのかを語り始め、最後には「兄様は、舞を置いて一人先に死んでしまうおつもりなのですか?」という言葉で、潤みきった瞳と共に締めくくられる。

 さすがにそこまでされると一カ月ぐらいはジャンクフードに手を出す気はなくなるのだが、それでもまた懲りずに食べたくなってしまい、再び妹に怒られるという光景が我が家ではたびたび繰り返されていた。

「いやぁ、ほら、やっぱり屋台には屋台ならではの不思議な魅力があるというか」

「安っぽいのはシュリアたちにもわかってるのです。でも、その安っぽさがいいのですよ」

 実際、普通に味を考えるなら比べるまでもなくミナリスの料理に軍配が上がるのだ。毎日食べたい料理がどちらかといえば考えるまでもなくミナリスの料理だった。

 それでも時折、ああいう雑っぽい料理を食べたくなってしまうのだ。人間って不思議だよね。

「…………はぁ、わかりました。どうせ黙っていても、隠れて食べてしまうのでしょうし」

「「うっ」」

 三白眼でこちらに向けられた視線から目を逸らす。

「それなら目の前で食べられたほうがまだマシです」

「「やったー!!」」

 そうと決まれば、ミナリスの気が変わらないうちに、さっそく出かけることにしよう。
 地面に放置された男を担ぎ上げ、元ダンジョンの隠し部屋から外へと向かう。

 食事作りにこだわりを持っているミナリスが、屋台での買い食いを認めてくれるのは珍しい。次回のお許しが出る時の分まで思いっきり食いだめしておくことにしよう。

「ふぅ、今度から屋台料理のレパートリーも増やすことにしましょう。となるとまずは味の調査を……」

 ブツブツとつぶやく声が後ろから聞こえてきた。

 …………いつか、屋台飯への欲求さえもミナリスに満たされてしまう日が、来るかもしれない。

 
                 ☆


 その三日後、俺たちは醜態を晒しかけながら、校外の森で魔力嵐を起こした。
 吹き上がる魔力嵐はダートラスの街の周囲を覆い、魔力通信による情報伝達を遮断する。

 まるで巨大な生き物が上げる祝号のようなソレに、俺は自然と笑みをこぼした。

「そうだ、盛大に吹き上がれ。アイツの全てをグチャグチャに踏みつぶすために」

 さぁ、グロンド。
…………ご機嫌な未来予想図は、もう目の前まで迫っているぞ?

「お前は必ず、この手で殺すよ。グロンド」
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どうも、木塚ネロです。
この作品の第一巻が発売日まで一週間を切り、ここでも宣伝をさせていただこうと思ったのですが、今までいくつも自分で見てきたはずなのに、いざ書こうとするとなかなか書けないものですね・・・・・・・

とにかくっ、『二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む~裏切り王女~』の第一巻っ、5月25日(水)に発売予定です。

 買ってくださいっ、お願いしますっ!!
あぁああ、胃が痛い。本当にこんな作品世に放っていいの?と、最近、まるっと夢だったという夢を見ました。

人を選ぶものだとは思いますが、どうか、大爆死だけはなにとぞっ、なにとぞっ!!

毎日毎日、キリキリと痛みまくる胃に泣きそうになりながら会社に通う日々を送っております、木塚ネロからお送りしました。

web版についても、今後の商人編をお楽しみください。
今回は商人編ということで今まで以上に色々と主人公たち動き回っております。

最近、あと一年、学生でいたかったなぁ、と割と本気で考えます。


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