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二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む 作者:木塚ネロ

第三章

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第16話 勇者、蠢き出す


「っと、あぁ、やっちまった」

 手にした骨せんべいがバキリと音を立てて割れ、パラパラと欠片が崩れ落ちる。

まずいまずい、ちょっとでも上の空になるとグロンドのことを思い出してしまう。復讐心の固定は戒めとしては最高だが、こういう時に感情の制御が難しくなる。

 俺は自分の心をなだめるように、手にした湯呑持ち上げた。

「はぁ、うめぇ」

 宿を変えた俺たちは新しい宿屋で休憩代わりにお茶を飲んでいた。

最初の宿は素晴らしいベッドだったが、そもそも長逗留目的に使われる宿ではないので、いつまでも部屋を取っていると目立ってしまう。
 そのため、最初の宿ほどではないにせよ、いいベッドを用意している宿へと拠点を移した。

「やっぱり、お茶はほうじ茶に限るな」

 行商人からありったけ手に入れたほうじ茶の茶葉をさっそく使い、ミナリスに頼んで作ってもらったアジのような魚の骨を使った骨せんべいのお茶請け。

欲を言えばちゃんとした焼きせんべいがあればよかったが贅沢は言うまい。
煎餅と日本茶。ちょっと亜種だが、日本人の血がそうさせるのか、この組み合わせはとてもホッとする。

「……不思議な味ですね。色は少し紅茶に似ていますが、いい香りに程よい苦さでホッとします。馴染みはありませんが、とてもおいしいですね。さすがはご主人様の故郷の味です」

「王国でお茶って言ったらだいたいが紅茶か、コーヒーモドキだからなぁ。うまく手に入ってよかったよ」

そう言って肩をすくめると、宿の窓からダートラスの町を眺める。

 ダートラスの町は、エルミアと同様に貿易で成り立っている街だった。
 違う点はエルミアなら魔術開発に振り分けられている分まで商売に力が注がれていること。

 そして、貿易の相手の規模と相手が全く違うことだ。

 エルミアでは王国内の各地の物資を王国内の別の場所に流通させる際の要所であったのに対し、ダートラスの街がやり取りするのは帝国の品と王国の品のやり取り。

 要するに、国家間を跨いでの貿易だ。

 他にも帝国との品物のやり取りを主産業に据える街はあったが、ダートラスの町はそれらの町の中でも抜きんでて貿易が盛んな町だった。

 大小様々な商売に携わる人間たちがひしめき合い、日々大量の貨幣や物資が人の手から人の手へと移動している。

 銅貨と、銀貨と、金貨と、白銀貨。
 4つの貨幣が混ざり合う坩堝(るつぼ)の街。

 それがここダートラスと呼ばれる街の姿だった。

「シュリアはコレも嫌いじゃないですけど、やっぱりミルクたっぷりのが好きなのです」

「ああ、この町じゃ手に入らなかったけどこのほうじ茶のほかにも『抹茶』っていうのがあってな。それを使った『抹茶ラテ』って飲み物が甘くて美味いぞ。帝国に行ったらその手の甘味が美味いところに連れて行ってやるよ」

「やったのですっ、今から楽しみなのです♪」

「あ、あの、ご主人様? 私も……」

「そんな顔しなくてもちゃんとミナリスも連れて行ってやるよ」

「! ありがとうございます、ご主人様!!」

 二人ともキャイキャイと嬉しそうにしている。やはり、甘いものは世界共通で女性の心をつかむ話題だ。

今回も表から裏から色々な手段を使いつつ、グロンドについての情報収集を行っていた。

 一度目で俺が知らなかった事実。
 表では景気のいいやり手の商人と言った様子のグロンド。
 裏ではかなり強引で悪どい方法でのし上がってきたらしい。

 調べて分かった事の中で、俺たちに深いかかわりがありそうなこともいくつかあった。

 グロンドが秘密裏に大量の獣人の奴隷を王都へ送っていたこと。
 おそらく俺が召喚される時の生贄として殺された獣人の奴隷なのだろう。

 そして、ノノリックが現在、裏の部分を担当する先兵として雇われているということ。

 最後に、ある孤児院の院長の夫を殺し、借金のかたとしてその形見の品である魔剣を奪い取っていたこと。

「あ、またやっちまったよ」

 また一枚の骨せんべいを圧し折ってしまい、パラパラと欠片を机に落としてしまう。

「ご主人様、子供みたいです」

「おこぼしさんなのです。食べ物は大切にしないといけないのですよ」

「悪い悪い」

 ミナリスもシュリアも、俺が考えていることを察しているのか、わざと茶化すような口調で話した。

「でもな、お前たちの顔にも骨せんべいのかけらが付いてるぞ」

「「ふぇ!?」」

「冗談だ」

「あ、ご主人様っ!!」「ひどいのですっ!!」

「アハハハッ、うんうん、二人とも言い騙されっぷりだ」

 顔を真っ赤にして怒りと恥ずかしさで顔を赤くする二人をニヤニヤと笑って揶揄って、再びほうじ茶に口をつける。

共犯者の存在は本当にありがたい。怒りの感情に飲み込まれてしまわないよう、こうして互いに抑制しあえるのだから。

 そして、俺は再び窓の外をのぞき込む。

 視線の先に見えるのは、いつの日かの孤児院。

 建物の庭先で妙齢の女性が子供たちと遊んであげている。

 きっと一度目の時も彼女は、夫を殺したのはグロンドの手の者なんじゃないかと疑っていたはずだ。
 そして、俺とグロンドとが知り合いであったことは、この町を離れる時に彼女に知れた。

 あの時、一瞬だけ動揺して見せて、俺に静かに笑って見せた彼女はいったい何を思ったのだろう。

(…………そんなの決まってるか)

一度目の時は分からなかった。
 【復讐の聖剣】を通し、小さいながらも確かに伝わる女性に宿る黒い熱。

「…………」

 大切にしていた孤児院の子供たちが、薬漬けの戦闘人形にされて死んで行ったその時、彼女は何をどこまで知って、どんな気持ちを抱いていたのだろう。
 いや、そもそも、その時の彼女が生きていたのかすら…………。

「あぁ、やっぱりこの宿を選んだのは失敗だったな」

 俺は皿の上に残った、最後の骨煎餅に手を延ばした。

「……どんなにベッドが良くたって、ここじゃ、眠れやしない」

 今度は、手にした骨せんべいを砕いてしまうことはなかった。
 代わりに、何も手にせず握り込んでいた手の間から、一筋の血が流れ落ちた。


            ☆

 
 ほうじ茶と骨せんべいでのお茶休憩を取った次の日から、俺たちはダートラスの町付近にあるダンジョンへと潜っていた。
 難易度のわりにあまり旨みのないそのダンジョンは人気が少なく、俺たちの目的にはうまく合致した場所だった。未発見のダンジョンがあるならそれが一番よかったのだが、残念ながらこの町の近くにそれはなかった。

「やっと外だぁ、やっぱり太陽の下はいいなぁ」

 毎度お馴染な洞窟系のダンジョンのジメッとした空気から出てきた俺は、陽の当たるカラっとした空気を吸い込むようにグーッと伸びをした。

「ヒカリゴケの光と違ってポカポカしてるのです。暗いのは大丈夫なのですよ? でも、ジメッとしてるのはヤな感じなのですよ」

「私もジメジメとしてるのは少し苦手です。洗った服を乾かすのもたき火でやるよりも太陽で乾かした方が肌触りも良くなりますから」

 シュリアの言葉にミナリスも深々とうなずく。
 ……ミナリスよ、判断基準が完全にメイドになってるぞ。

「まぁいいや、とにかく、これで第一段階は終了だな」

 手をやった丸袋の中には目的の品物、ダンジョンコアが入っている。

 当然、バレれば大騒ぎになるため幾つかの対策は施してきた。

 王都近くのダンジョン、『ゴブリンの巣穴』で手に入れたダンジョンコアの破片に『吸着剣』の力で地中などから集めた石英などを混ぜ込んでダンジョンコアモドキを代わりに置いてきた。

 いくら人気のないダンジョンとはいえ、全く人がいないなんてことはない。
 ダンジョンを管理している兵士たちや攻略に来ていた冒険者たちは、意識を奪った上でミナリスの薬で短い時間の記憶を消して安全松明のある部屋にまとめて押し込んである。
 当然、不思議には思って訝しむだろうがそれで俺たちまでたどり着くこともない。

 更に、スラ吉に街から出る街道に大量の魔物を追い込ませた。
 今頃は発見され、討伐隊を組む緊急依頼が出されていることだろう。
 そちらが片づくまでは中堅ぐらいまでの冒険者はそちらにかかりきりになるはずだから、ダンジョンに人が訪れることも減り、ダンジョンで魔物がリポップしなくなっていることにも気付くのが遅れるだろう。

 多少の時間稼ぎができればそれで十分だった。

「このダンジョンコアがあれば魔力嵐モドキが起こせる。そうすれば通信系の魔道具は使えなくなるからな」

 魔力嵐は国中で不規則に起こるこの世界特有の自然災害だ。
 範囲や規模はまちまちだが、空気中の魔素の濃度が上がり、異様に乱れ、精密な魔力波は扱えなくなる。通常魔法についても制御の難易度が跳ね上がることになり、魔法の扱いに長ける魔族すら中級魔法すら仕様が覚束なくなる有様だ。
 そして濃くなった魔素のせいか魔物が軒並み活性化する。

 ダンジョンコアがあれば疑似的にこの魔力嵐を引き起こすことが可能なのだ。そのためにこうしてわざわざ手間をかけて、こうしてダンジョンコアを確保した。

 グロンドを嵌めるためには、アイツと王都の、いや、王女とのつながりを妨害しておく必要がある。アレシアに確認を取られれば計画の効果は半減してしまう。
 街道封鎖と囮のため、スラ吉に追い込んでもらった魔物についても、魔力嵐で説明が付けられる。

 ただひとつ、問題があるとすればそれは、

「さて、いったいポーション何個分開けることになるのかねぇ。まだほかの下準備があるとは言え、今から気が重くなる」

「シュリア、MPポーションの味が苦手なのです」

「そういえば、ポーションの味が苦手という人もそれなりにいるようですね。とはいえ今回はシュリアも我慢して手伝ってもらうしかありませんけれど……」

 ダンジョンコアを使って魔力嵐モドキを起こすその方法が、破損していないダンジョンコアに許容量を超えるまで魔力を途切れさせることなく、注がなければいけないということだけだった。

「交代でやっても、MP酔いは避けられないだろうなぁ……」

 せめてあまり痴態を晒さずに済めばいいと思いながら、そんな呟き声を漏らすのだった。

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