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二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む 作者:木塚ネロ

第一章 

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第8話 勇者、ストーカーと死神を兼任する 2

 俺は先を走る男を追いかけながら移動していた。

 男が襲いかかってきたチンピラと取引をしていているのは知っていた。もちろんその取引内容についても同様である。なぜなら、一度目の時も全く同じことをやられ、ついでに隠れていた男についても締め上げて取引やら街のまとめ役やら何やら無理やり吐き出させたからだ。

 だからもちろん、男がどこからここの様子を覗いているのかも知っており、スラムのまとめ役であるクソメガネに報告に行くことも容易に想像がついたので、ついでにクソメガネのいる場所まで案内してもらおうと思ったのだ。

 初めてスラムのまとめ役に会った時の場所は覚えていたが、立場的に狙われることも多いため、特殊な魔道具を使って拠点ごといろんな場所に移動を繰り返す生活をしている。なので、初めて会った場所と同じ場所にいるとは限らない。

 気づかれないように、追跡をしている間にステータスを確認してみれば『追跡 LV2』『気配隠蔽 Lv1』と新たなスキルが追加されていた。やはり、スキルの習得は一度目の時よりも相当楽だった。スキルレベルはリセットされてもスキルの使い方は覚えているのだから当然といえば当然なのだが、思ったよりも早くスキルレベルは上げ直すことができるかも知れない。

 そんなことを気にしながら追い続けると、どうやら相当焦っていたようで最短距離で隠れ家まで案内してくれたようだった。

 一度目の世界では情報収集に長けた使える人材で、どこかの国の諜報員をしてたらしく警戒心の強い人間だっただけに少しだけ驚いた。だが、警戒心に比例するように臆病な人間で、特に自分の生命を最優先にして逃げ出す人間だったので、殺気を直接男に向けてはいなかったがそこらへんのあたりを俺がチンピラを殺した時に何か刺激してしまったのだろう。

 スラムでは殺し合いなど日常茶飯事だ。パンの一欠片を子供の首を叩きおって手に入れたり、腐りかけの果実をめぐって起こった喧嘩で普通に人死が出る。頭の湧いてしまった快楽殺人者も定期的に現れては、そのスラムのまとめ役などから袋叩きにされて殺される。

 スラムで人死にが起きない日の方が珍しく、実際、ここまで追ってくる間も食べ物をめぐって喧嘩している人間が何人かいた。

 元の職業のこともあり、人死を見慣れていないわけではないのだろうがチンピラが殺されたのを見て気づかれれば自分にも危害が及ぶとでも思ったのだろう。実際、一度目の時はそうなったのだし。

 男が建物に入ってからしばらく様子を見てから建物に向かう。

 そこには見覚えのある鋼鉄の扉と、2体のガーゴイルが鎮座していた。

 「「合言葉は?」」

 「あー、そういやこいつらのこと忘れてたよ……」

 やってしまったと頭を掻く。初めて来た時は締め上げた男に案内させたので合言葉も問題なかったが、今回はあまり荒っぽく訪問するつもりはなかったのでこうしてこっそりついてきたのだ。

 今から会う相手は復讐相手ではない。それどころか、決して味方ではなかったが、敵でもなかった。再度言うが、あのクソメガネは断じて味方ではなかった。利があるならばどんなことでも平気で出来る人間であり、そういった相手としかつるまず、そういった相手なら誰とでもつるんだ。

 嘘を言うことだけはしないが、それ以外の方法ではどんな方法で利用してこようとするかわからない。最初から利を積まれれば裏切ると宣言するような人間だ。

 利用し、利用されるだけの関係。

 それでも、この国の人間の中で一番マシな関係の相手だっただろう。そして、王女から奪ったネックレスを売買する相手であり、これから交渉するにあたって最初から敵対的な態度で臨む利はなかった。感情を荒げたり、無駄な行動を取ればその隙を見抜かれる。

 最大限の警戒をして当たらなければ気づかないうちに情報を抜き取られ、自分以外の人間へ売られかねない。料金を払えばそれ以上の金額でない限り口止めはできるが、情報を得たことすら話すことはない。

 肉体的、戦闘的な面でもそこそこ有能な錬金術師であり、それ以上によく回る頭がある。決して、油断していいような相手ではなかった。

 「急で悪いんだが、お前らの親玉に会わせてもらえるか?」

 「「合言葉は?」」

 どうやらガーゴイルたちには会話をするつもりは無いようだった。あのクソメガネが同じ合言葉を使い続けるとは思えなかったが、ほかに思いつく言葉もなかったので仕方なく、以前来た時の、今から3年半以上先の合言葉を告げてみる。

 「………『ネズラ兎の逆さ毛』」

 「「違う、立ち去られよ。招かれざる客人よ」」

 「ああ、結局こうなるなら無駄な気回さなきゃよかった」
 
 石像のように動かずにいたガーゴイルがその石の翼で台座から舞い上がると、排除対象(・・・・)になった俺に向かい、口を開いて魔法を発動しようとした瞬間にガーゴイルに向かって駆け出す。

 龍種の放射状に広範囲に長くとどまるブレスと違い、ガーゴイルのそれはレーザー光線のように直線にしか進まず、範囲も狭い。たとえスキルを封じられたままでも人に作られた簡単な動きしかできないガーゴイルなど敵ではなかった。

 レーザーを掻い潜って殴った相手の感触はさすがのガーゴイルとばかりに固く、現在のステータスでは砕けないようだった。なので、魔力操作で足と目だけはそのままに、その他の魔力を腕のみに集中させて一時的な強化を図る。魔力を集めた箇所だけ強化されるが、その他の部分は逆に弱体化する緊急避難のような技だったが、どうせこのステータスではまともに喰らえば致命傷は避けられない。

 そしてなにより、心剣は使いたくはなかった。チンピラたちに使った【火蜘蛛の脚剣】は仕方がないとしても、ガーゴイルを通してこちらを見ているだろうクソメガネにこの段階で情報をやるのは嫌だったのだ。

 その上、ガーゴイルは火、つまりは熱に対する耐久が抜きん出て高く、攻撃に使いやすい火属性の魔法使い達にとっては鬼門となる相手だった。

 刃渡りの小さく、能力である熱の操作が効かないのでは【火蜘蛛の脚剣】は相性が悪すぎた。

 その点、魔力操作による強化は体内を移動させるだけなのでMPを使うこともなく、デメリットの面でもどちらにしろガーゴイルの攻撃に対する脅威度は変わらない。というか、この程度のガーゴイルの攻撃など当たるわけもない。

 「グルゥッ!?」

 「グガァッ!?」

 翼を殴り折り、腕を握りつぶし、足を掴んで地面に叩きつけて頭を砕く。もう一体に残った体を投げつけ、動きが止まった隙に頭を掴んで目を潰すようにガーゴイルの動力源である両目の魔石を抉り取る。

 「なっ!? なんだお前はっ!?」

 と、戦闘音に様子を見に来たらしい中肉中背の男がひとり、慌てて剣を抜いてこちらに向けてきたので、どうせもう平和的にはいけないのだからと落ち窪んだガーゴイルの眼孔に指を掛けてその体をその男に叩きつけるとガーゴイルの首が引きちぎれた。

 「ぐがああっ!?」

 予想外の攻撃方法に虚を衝かれた男はガーゴイルの硬い体を上手くいなせずに強い力のまま叩きつけられて壁際に押しやられた。

 折れた骨が内臓に突き刺さったらしく、壁を背にズルズルと崩れ落ちながら口から血を吐く。

 「てめぇっ、よくもハムンズをやりやがったなっ!!」

 男を放置してそのまま中に入ると今度は別の細身の優男が抜き身の剣で切りかかってきた。今度は【火蜘蛛の脚剣】でそれを受け流すと、ちょうど持っていたガーゴイルの頭で男の両膝を叩き折り、崩れ落ちた男の腕を掴んで背中を蹴飛ばしながら両肘も反対方向に折った。

 「ぐがぁああああっ!!??」

 「アルッ!! このクソガキッ、よくも………っ!?」

 それ以上かかって来られても面倒なだけなので多少の魔力に濃密な殺気を乗せた威圧を放つ。

 顔ぶれは違ったが、どうせクソメガネに雇われた用心棒だろう。せいぜいが中級程度の冒険者か落ちぶれた元騎士あたりであり、魔力抵抗も低そうな脳筋ばかりだったので魔力を乗せた威圧はよく効いた。

 周りを見回すが、俺が追ってきた男はそこにはいなかった。おそらく、クソメガネの執務室である二階の一番奥で俺のことを報告しているのだろう。
 
 ふと見下ろすと両肘と両膝を折られた優男がいた。どうせだから威圧代わりに利用することにしよう。ガーゴイルを倒して無理やり押し通ったことで友好的な仮面をかぶるのも既に無理がある。

 優男の襟首を掴んだ俺は階段の段差とぶつかって男が呻くのを無視して階段を引きずって上がる。

 そのまま突き当たりの部屋まで行くと、物理・魔法障壁と防音障壁が張られているハズの扉を両手がふさがっていたので仕方なく(・・・・)、一瞬だけ足に最大級の魔力を集中させて蹴破った。

 「どうもー、あんたがここのスラムの親玉さん?」

 この世界では初対面のはずのクソメガネに向け、そんな言葉を言い放つ。

 部屋の中では感情の読めない平然とした顔でこちらを眺めるクソメガネと、真っ青な顔でこちらを見る案内人の男(ストーカー対象)がいた。

 「あ、道案内ありがとうな。それでさっきの件(・・・・・)はチャラにしてやるよ」

 そう言ってからクソメガネに視線を向け、にっこりと、ビジネススマイルを浮かべる。

 さぁ、交渉の始まりだ。
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