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二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む 作者:木塚ネロ

第三章

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第15話 纏わりつく罪科の血

胸糞注意です

「っ、待てっ!! 俺だっ、海人だっ!! ケリーッ、シェンファッ、目を覚ませっ!!」

「コ……ロ、ス。ユウシャ、ラムネ、ホシイ、ホシイッ、ホシィイイイイイイ!!」「シンデェエエエエッ、ユウシャシンデェエエエエッ!!」「ホシイヨォ、ラムネッ、ラムネッ、ラムネェエ!!」

「くっ、俺が誰かも分かってないのかっ!?」

 捨て身ともいえるような防御を無視した攻撃をいなしながら、俺は孤児院で仲良くなった子供たちが振るう短剣を弾き飛ばしていく。

「っ!! くそっ!!」

 手にした武器を失えば、子供たちは呆然と座り込んで動かなくなるか、何をすればいいのかもわからないというように、キョロキョロと不安げに周りを見始める。

 傷つけずに無力化することには成功しているが、全く安心できる様子には見えない。

「はぁ、はぁ、なんだって、っ!?」

 そうして、普段とはまるで違う気を使いながら子供たちが手にしていたすべての武器を弾き飛ばした時だ。

「うぅううぅっ!! ぎゃふっ」「助けて、先生、助け、ごぼぉっ!!」「あ、ああ、あああああっ、ゲボッ」

「お前らッ!!」

 突然、苦しみの悲鳴をあげてからはあっという間だった。
 対処する間もなく一瞬で吐血した子供たちはその場に倒れ込む。

「あ……れ? おにいちゃ……」

「トリア、ッ!!」

 最後の最後の瞬間、やっと少し光の戻った目で、一人の少女がまだ小さいその手を伸ばす。

「くるし、ぃ、たす、け……」

 バタリと、俺が手を取るよりも早く、『助けて』の一言すら最後まで言えずにその手は地面に落ちた。

「トリアッ、トリアッ!!」

 ゴボッ、と口から大量のどす黒い血が流れ、温かく滑った血が俺の手を濡らす。

「…………んだ、これは」

 呆然と、声が震える。
 この世界に来て何度も人が死ぬところを見てきた。何度も自分以外の命を奪ってきた。
 だからこそ、もう手の施しようがないと分かる。分かってしまう。

子供たちは全員、その場で命を失っていた。



「なんだこれはァアアァアアアァアアアアアアアアアアアっ!!」



 ビリビリと喉が破けそうな絶叫が口から響いた。

『ひっ』

 俺の威圧めいた獣の咆哮に遠く反応した気配があった。
 この子供たちを連れてきて、この惨状を遠くから眺めていた相手。

 絶対に、逃がすものか。

 ドゴンッ、と大きく地面をへこませながら男の元まで駆け抜ける。

「…………おい、どこに行くつもりだ?」

「ひっ、ひぃいいいいいっ!!」

 慌てふためいて逃げ出そうとした相手の襟首を掴んで引き倒して、逃走を阻止する。

「な、何か用か? 俺はただ通りかか……、ぎゃぁああああっ!?」

「おい、余計なことは話すな。あれは、なんだって聞いてる」

 地面についていた手を容赦なく踏み砕く。
尋問のためにこんな風に誰かを痛めつけるのは初めてだったが、そこに躊躇いは感じなかった。
そんな余裕が、なかった。

「いでぇ、いでぇえよぉおおおっ」

「お前、覚えてるぞ。グロンドのところの従業員だろう。アレは、グロンドの仕業か? ……叫んでねぇで答えろクズ野郎がっ!!」

頭が芯から沸騰して止まらなかった。目に映る視界が怒りで泡立つ。

「ひっ、分かったっ、話すっ、話すからっ!!」

 泡を食って慌てたように男は語りだす。

「あ、あいつらはグロンドの旦那が集めさせた孤児で、私設学校の第一期生だ。飯と寝床をやる代わりに裏の技術を仕込んだ兵士だよ!」

「学校だと?」

「あ、ああ、以前から考えてたらしいが、ちょうどいい資金源ができたからって二年ぐらい前に実行に移されて……」

「に、ねん、まえ……?」

 ズグリッ、と嫌な予感に心臓が一度脈を打つ。

 二年前といえば、ちょうど俺が現代知識を利用した魔道具が商品化して売れ始めたころのこと。

『魔王討伐に向けて戦力を整えるためにもいろいろな物資は必要でしょう。これらの道具の販売益は魔族と戦う一般兵のための物資や、勇者様の希望通り、身寄りを亡くした孤児などの受け皿の作るための資金にさせていただこうと思います』

 脳裏に浮かぶのは人の好さそうな笑顔でそう言ったグロンドの顔。
 その学校とやらの存在とまるで無関係と思うには、あまりにも状況証拠がそろい過ぎていて……。
くらりと、全身を血管を冷や水が駆け巡ったような気がした。

「な、なぁ、命だけは助けてくれよ。頼むよ、俺はただ命令されてただけで……」

 現実感のない声で、目の前の木偶はしゃべる。

(…………ああ、こいつは、いったい何を言っているんだろう)

「その、学校は、どこにある」

 掠れる声で言葉にできたのはそれだけだった。

「お、オードロス山脈の中腹だよ。も、もういいだろ? グロンドの旦那ともアンタとも、もう二度とかかわらないからさ、殺すのだけは」

「殺すのだけは、なんだ?」

「え?」

 本当に、こいつはいったい何を言っているのか。
 なんで、へらへらとしながら、命乞いなんてしているのか。

「なんで、お前を生かさなきゃらならない」

 グロンドが、こいつらが、子供たちをあんな風に仕立て上げて、使いつぶしたというのに。

「あのレベルに見合わないステータスと感覚は鋭敏さ、それに反するような自己判断能力の低下と何度も連呼してた『ラムネ』。お前ら、あいつらの力を無理やり底上げするために『早生強薬』を使っただろ」

 早生強薬。
 普通はどんな金属でも風化させ、ボロボロの土塊へと変えてしまう性質を持っているため、強力な呪いの装備などを破棄するために使われる薬剤。だが、服用することで圧倒的なステータスの成長・上昇効果を手にすることができる。
 そして、中毒性のある代物で、使い過ぎれば先ほどの子供たちのようにいずれ命を落とすことになる、猛毒。

それは、この世界における麻薬の一つだった。

「そ、それは、ガッ、ぐギョォゴゥ!?」

「そんなお前らを、なんで生かさなきゃならない」

「ギィッ、ガァア、ゲェゲッゲ……」

「ふざけんじゃねぇぞこのクズガァッ!!」

 バキリと、ゆっくりと首を押しつぶすようにへし折って殺した。

 手を離さすと、どさりと力の抜けた男の体が地面に落ち、ひたひたと滑った赤い血が自分の手を伝っていくのが分かった。

「……纏われ悪魔の紅蓮、『赤陽の青車輪』」

 死体が残っていることすら許せず、どうにもならない気持ちを吐き出すように、目の前のゴミを骨も残らずに焼き尽くした。

 心剣の生み出した青黒い炎は、ゴォウッと一瞬空気を唸らせた後、まるで最初から何もなかったかのようにその場は静寂を取り戻す。

「…………ああ、またか」

 シンッ、と静まり返る周囲の森に、思わずこぼれた声がやけに響いて聞こえる。

 襲い来る無力感と絶望感に、立ってもいられないほどに全身から力が抜けていく。

「また、俺のせいなのか」

 ガンガンと鈍く痛む思考にドサリと地面に腰を突き、木の幹を背に下を向く。

『金ができたから、この計画を』とあの男は言っていた。

 俺がグロンドを信じなければ、あの子供たちは今もまだ、元気にどこかで笑っていられたのだろうか。

 俺が本当に金が望んだように使われているのか、自分で確認しようとしてれば、こんな未来はありえなかったのだろうか。

「俺が信じる相手を間違えなかったら……」

 俺の存在がアイツに与えてしまった金で、確かにあいつは身寄りのない孤児たちの受け皿を作ったのだろう。
 自分に都合のいい使い捨ての鉄砲玉を育て上げるための、その学校を。

 

 あの子供たちを殺したのはグロンドと、
 …………俺の、浅はかさだ。

 

「…………しょう」

 呆れと悔しさの混じる滴が両頬を伝い落ちる。

「畜生ッ、畜生ッ、畜生ッ!!」

 ボロボロと流れ落ちる感情のまま、拳を地面へとたたきつける。

「このっ、ド畜生がぁあああああああああああああああああああああああっ!!」

 ドゴンッ、と地面の削れる大きな音がした。

 けれど、どれだけ強く手を地面に叩きつけても、皮膚の表面が泡立つようなあの滑った血の感触がどうしても拭えなくて。

 最後に残された、言い切ることすら許されなかった『助けて』という、ただその言葉だけが。
 掻き消えることもなく耳の中で反響し続けていた。




 その数日後。

俺は聞き出したその『学校』を訪れた。
裏切りが表面化してから初めて、俺は自分から戦いと言う名の蹂躙を求めてその場を訪れた。

 全員殺した。怒り狂って、切って切ってきってキッテ……。

部屋も自分も返り血で真っ赤に染まったその場所で、まるで見てくれとばかりに残されたこの計画の全貌が記された紙を見つける。

 手の血で濡れたその紙には、今回の計画にかかわったスラムのごろつきの集団、『スラッグス』とのこと、はっきりと俺がグロンドに与えてしまった資金で計画が回されていた詳細が書き込まれ、


…………失敗作の有効的な廃棄処分という、最終項目が記載されていた。


 そして、勇者という立場から転がり落ちた俺の汚名には、『血に飢えた勇者が、グロンド商会が設立した身寄りをなくした孤児たちのための救済施設を襲い、子供もろともその場にいた人間を虐殺した』というものが加わることとなった。


                            ☆


「っ、はぁ、はぁ、はぁーっ…………、はぁ」

 跳ね起きるように体を起こした俺は荒い息を整えるように深く息を吸い、どうしようもない記憶を握りつぶすようにクシャリと自らの髪を握った。
 びっしょりと流れる汗が、素肌に服を張り付かせていて気持ちが悪い。

「…………」

 窓から外を見ればいまだ朝は遠く、街は暗闇に包まれている。
 ミナリスとシュリアはすやすやと眠っている。俺はどうにもすぐに寝直す気になれず、二人を起こさないように部屋を出た。

 そのまま宿の外へと出ると、冷たい夜風が頬をなでた。
 裏手の路地から壁を三角飛びに跳ね上がり、宿の屋根の上へと降り立った。
 ゆるい傾斜のつく屋根を少しだけ上り、片膝を立てて空を見上げる。

あの男、グロンド=ゴールドットと最後に面と向かってあったのは、俺が王女から勇者召喚の真実を告げられる前。元の世界に帰るというレティシアとの約束を守ろうと、必死に王都を目指していた時のことだった。

 グロンドとは夜を徹して新商品の開発などを意見しあった仲だ。
 互いに目の下にクマを作りながら、出来上がった作品に大笑いしたこともある。

 状況を把握できておらず、まだすべての仲間が裏切っていたなどと知らなかった俺はやすやすとグロンドに騙され、ステータスを低下させる呪いの武器やマジックアイテムなどでを利用した罠に囚われかけた。
 間一髪でその罠から逃れ、逃げ出す直前に何故だと問いかけた俺に向けてアイツが最後に放った言葉は、

『お前がもたらした知識は私に多くの富を与える。これからもあれらの知識は私だけが所有すべきものなのだ。この世のすべての物の価値は金が保証し、お前を生かして置く価値はもう銅貨一枚の価値すらない』

と、ただそれだけだった。

そこからも、王都を目指す俺を殺したがる輩は多かった。
地位、名誉、不満や怒りの矛先、そして金。俺を殺す理由はいくらでもあった。

それでも普通なら魔王を倒す存在、第二の魔王になり替わったとされた俺だ。
 普通ならしり込みしそうなところだったが、多くの魔族を従えて基本的に魔王城の奥にいるとされていたレティシアに対し、俺は常に一人で行動していたこと、各国のトップが軒並み敵対の意を示したこと、アイツラの陰の悪事が俺に押し付けられていたことなど、その他さまざまな理由で俺を狙う存在が絶えることはなかった。

それはもう、笑うしかないほどにあのクソ共に上手くやられてしまった。やられたことの責任はどいつにも必ず何倍にもして支払わせてやるが。

そしてその後、グロンドと対峙することもなく、俺は勇者召喚の秘密を知る。

 失意に落ちた俺に、世界は無関心に過ぎた。
目的すら見失い、ただ残された約束に縋って逃げて、逃げて、逃げて。
 飴に集るアリのように襲い掛かってくる襲撃者を何のためにという疑問を押し殺して蹴散らして。
だが、そんな襲撃者たちの中でも一際異彩を放つ相手が集団で襲ってきたことがあった。

暗く濁った生気の感じられない目をした10歳前後の見覚えのある(・・・・・・)少年少女。

 それは、グロンドと知り合ったダートラスの町で仲良くなった孤児院の子供の姿。

 どこにでもいる普通の子供たちだったはずの彼らは、いつの間にか戦闘ではなく、殺人に対する技術を身に付けていた。

 その後のことは、夢で見た通りだった。

俺が少しでも俺のように家族と切り離された子供たちのために使われていると思ったその金は、その孤児達を洗脳兵士へと仕立て上げるために使われていた。

 守れると思った。守りたいと思った。
 本当に、バカみたいな話だ。俺がアイツらのもとへと届けたのは、腐りきった毒の蜜だ。

 俺が信じる相手を間違えたその結果は、そんなありきたりで、腐臭の漂うゴミみたいな結末にしかならなかった。

「やっぱり、でけぇ月だな」

 手を延ばせば本当に届きそうな月に、ゆっくりと手を延ばす。
 当然、その手は届くはずもない、当たり前の話だ。

 けれど、それは確かにそこにあるのだ。触れられなくとも、決してなくなったりしない。

 そう、例え、俺たち以外の誰もがソレを知らずとも、俺たちだけは知っている。
 あの日のことを、寸分の一の狂いもなく憶えている。

「なぁ、やっとお前らの仇が討てるよ。一度目の世界じゃダメだったけど、必ずアイツを地獄に送るから。…………お前らが、それを望むかどうかは知らないけどさ。前に言っただろ? 大人はズルいんだ」

 微かに笑いながら口にして、自らの手のひらへと視線を落とす。

「…………」

 あの日の出来事は、絶対に消えたりなんか、しない。
 たとえ世界が巻き戻ったって、なかったことになど、させられるはずがない。

 

 …………俺に纏わりつく罪科の血は、今もまだ乾くこともなく、この手を濡らしているのだから。



 
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