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二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む 作者:木塚ネロ

第三章

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第14話 グロンド=ゴールドットという男

 

「グロンド様、例の商談をまとめてまいりました。こちらが報告書です」

「そうか、受け取ろう」

 窓から差し込む光はすっかりと赤い色を帯びている。
 普段と変わらない片付いた執務室の中、私は部下の持ってきた報告書に目を通していく。
 ある程度の内容に目を通した後、報告書の束を机の上に置いた。

「なるほど、くくっ、ようやくあの女も剣を手放したか」

 リラックスして椅子の背に体重をかけると、ギシッ、と軽く軋む音がする。
 新調したばかりの最高級の皮を張った椅子が程よい反発で体を支えてくれる。

「はい。つい先日に夫も死んでましたし、借金を理由に孤児院の差し押さえをチラつかせたら一発でしたよ。品物はこちらに」

 ゴトッ、と執務机に置かれたのは、深い緑と明るめの黄土色の装飾が鞘に成された剣。
 刃渡りはだいたい七十センチ程度であり、握り手は樹の幹のような質感で愕の部分も含め細い木が捻じれて合わさったようなデザインをしていた。

「ほう、これがAランクダンジョン『牙龍の木道』から手に入れたというランク4の魔剣、『葉石の剣』か」

 立ち上がって鞘から引き出した剣はそのスラリとした鋼の色を放っている。

 ダンジョンから見つかる武器の中にはそれ自体が魔力を帯びた武器というものが存在する。
 魔力を帯びた武器自体は珍しくなく、元となった素材と鍛冶師の腕に左右はされるが、そこそこ大きな町の大店の武器屋ならば、手に入れられないこともない。

 武器や防具などに恒常的に施される付与魔法はこの魔力を元に効果を持続的に発揮している。

 だが、ダンジョン産の魔力を帯びた装備には常時効果を及ぼしている付与魔法のほかに、任意で使うことができる強力な特殊効果が付与されているものがある。

 それは巨大な炎竜を呼び出すものだったり、強力な肉体強化の魔法のような効果を得られたり、一時的に宙に浮くことができたり、ほかにも戦闘に使われるようなものではなかったりと千差万別ではあるが、こればかりは人の手で人工的に生み出すことができていないものだった。

 そして、その特殊能力の強さや有用性、希少性などを鑑みてランクが7段階に分けられている。

 ランク4の魔剣と言うと少なくとも一線級の冒険者か、あるいは中堅クラスの貴族ぐらいしか手に入れられないレベルである。

 それを見て、私は一つため息をついた。

「まったく、余計な手間を取らせてくれる。不良在庫の処分ができるとはいえ、これまでのことも考えれば収支はマイナスだな」

「は?」

「こういうことだ、不良在庫」

「がっ!?」

 引き抜いた剣を突き出し、舐めた真似をした部下だった者の腹を貫いた。

 その男は信じられないといった表情で目を見開いた後、自分に突き立つ剣を見て、再びこちらに視線を戻す。

「な、な…な、ぜ……」

「私も舐められたものだ、この程度の贋作を見抜けないとでも思ったのか? これはダンジョン産の魔剣とは別物だ」

 確かにこの剣はそこそこの品ではあった。だが、ダンジョン産の魔剣が帯びる魔力は、鍛冶師が鍛造したものが帯びる魔力とは質が違う。

「大方、この偽物を私が取引相手の貴族に掴ませるようにして、私を失脚させて本物の魔剣を手土産に自分がこの会頭の椅子に収まる算段だったのだろうが……、この虫けらがッ!!」

「ぐうぅっ!! か、は……」

 剣を一気に引き抜くと執務机から回り込んでゴミを踏みつける。

「テメェみたいなカスが俺に逆らってんじゃねぇ!! ゴミクズがッ!! お前のせいでッ、他の商談のッ、取引がッ、遅れるだろうがッ!! あぁ!? テメェの時間と俺の時間じゃ値段が違うんだよっ? おいっ、黙ってねぇで弁償しろやオラッ!!」

 ガシガシッと鬱憤を晴らすために元部下だった物を何度も蹴りつける。

「こいつはッ、ガーランド伯爵にッ、恩を売る絶好の取引なんだぞムシケラァッ!! テメェもッ、あの孤児院のアバズレもッ、俺の稼ぎを減らすような真似しやがってっ!!」

 お得意先の帝国貴族から注文があったのは一か月ほど前のこと。
 子息が帝国の武闘祭に出るのに強力な剣を欲しているようで、使いこなす時間を得るためか早く納品すれば納品するほどに追加で報酬を出すと言われていた。

 普通に仕入れることも出来たが、その追加報酬は望めない程度には時間が掛かる。

 そこで目を付けたのが町の片隅でひっそりと開かれた孤児院だ。
 怪我で引退した元腕利きの冒険者が開いたものだったが、数年前から経営が苦しくなり、その男も数週間前に不慮の事故で亡くなり、崖っぷちに追い詰められていた。

 だから、経営を救う代わりに代償としてその旦那が残したという剣を買い取ろうとしたのだが、『亡き夫の形見だから』などと、一銭の価値もない理由で剣を売り渋ったのだ。

「はぁ、はぁ、……ふぅ」

 そのまま虚ろな目をしたゴミに変わった後もしばらく蹴り続けていたが、やがて息が上がって来たところで頭に上った血も下がってきた。

 冷静になった頭で思考を巡らせ始める。

 おそらく、孤児院が剣を手放したのは確かだろう。そこまで偽装されたものだとしたら、貴族との取引の前に確実に情報が私の耳に届く。
 それぐらいのことも気付かないほど頭のない虫けらではなかった。そこまで使えないのならもっと早く首を切っている。

 だとすれば、本物の『葉石の剣』はどこか別の場所に保管してあるはずだ。
 ある程度の大店の会頭は『商爵』という名の貴族位を金で買うことができる。もちろん、私もとっくの昔に『商爵』の地位を手に入れているので、こいつを殺してしまったことには問題ない。
 いや、たとえ問題があったとしても、多少の金でどうとでも解決できる。

 だが、問題はそのあとだ。

「ちっ、下手を打ったか」

 俺の得られるはずの金が奪われるかもしれないという事態に、思わず衝動的に目の前の男を殺してしまった。だが、俺へ情報がバレることが無いよう、本物の剣を簡単にわかるような場所に隠してはいないはずだ。

 殺す前にその隠し場所を聞いておくべきだった。そういう方面では能力のある男であったし、隠し場所を見つけ出すのには多少の時間が掛かるだろう。

 …………やはり、本来得られるはずだった金額よりも金貨の枚数は確実に目減りする。

「くぞがっ!! この金喰い虫がッ!! 盗人がッ!! ゴミ人形が!!」

 改めて、認識した自分のものになるはずの金を失ったというその事実に、湧き上がる怒りの命じるまま死体という名のゴミを再び蹴りつける。

「俺の金をッ、奪いやがってッ!! 地獄に落ちろッ、ゴミ虫がッ!!」

 金をかき集め、かき集めた金を自分のために浪費し、この世のすべての豊かさを味わうことが私の全てだ。

 金は何にでも化ける。
 食べ物も、家も、服も、爵位も、武器も、誇りも、名誉も、権力も、人の命も、そして、…………国さえも。

 この世の中、金がなければ幸せになどなれない。本当に満たされるにはそれ相応どころではない金が要る。

 この世のすべての物の価値は、金で決まる。金で決めることができる。

 私にとって、金とは神にも等しい、金は私の全てを保証してくれるものだからだ。
 この世の金をかき集め、かき集め、かき集め、私がこの世で一番に豊かな人間となるのだ。
 …………そう、だれよりもこの私が。

「フゥッ、さて、いつまでもこうしているわけにはいかんか」

 そして、最後に剣差し代わりに死体に剣を突き立てると、執務机の上に置いてあるベルをガランガランッ、と魔道具のベルを鳴らす。
 こうすることで対応する魔道具が侍女室で鳴り、そこからメイドがやってくることになっている。

「グロンド様、お呼びで、ひっ」

 やってきたのは見慣れぬ顔のメイドだった。おそらく、この前孕ませて捨てたメイドの代わりとして新しく補充されたメイドだろう。

「部屋を片付けておけ、当然、その剣も綺麗にしておけよ。死体の処理は葬儀屋を呼べば後は全て向こうが勝手にやる。小一時間程度で戻ってくるが、この部屋に戻ってくるまでに元の状態に戻して置けよ」

「は、はひっ、あッ、いえ、はいっ」

 真っ青な顔をしているメイドを放り出し、私は自慢の屋敷の中を歩いていく。

 本当はいまだ処理すべき書類はいくつかあるが、執務室以外で仕事をする気はないし、血の匂いで満たされたままの執務室で仕事をする気もない。

 絵画などの高価な芸術品が飾られ、廊下に引かれたカーペットも皇室御用達の店に作らせた一級品である。少なくともそこらの貴族のよりもずっと豪勢な屋敷になっているのは確かだった。

 そしてたどり着いた目的地は、どの調度品をとっても一財産になる最高級品で満たされた寝室だ。
 天蓋付きのベッドやその脇の水差しとベルが置かれているベッド脇のテーブル、本棚とそこに収められた本、絨毯やカーテン、飾られた絵画に花瓶や底に飾られた花までそのほとんどがオーダーメイドの特注品であり、私だけのために金にモノを言わせて用意した寝室だった。

 自らが築き上げた金の山を象徴するようなこの部屋で寝るのが一番落ち着いて寝ることができる。

「ふむ、あの絵画も見飽きてきたな。執事長に次の絵画を探させるとするか」

 ここに来たのはリフレッシュを兼ねて夕食前にひと眠りするためだ。
 それぐらいの時間がたてば部屋にこもる血の匂いもきちんと換気されていることだろう。葬儀屋の方にはこういう時にうまく取り計らうように便宜を図っている。
 そもそも殺したことに違法性はほぼないし、手続きから何から上手く(・・・)処理するはずだ。

 そして多少返り血のついた服から寝間着に着替え、ベッドの脇のテーブルの上から持ち上げたベルを鳴らす。

 さほど間を開けずに部屋をノックする音が響いた。

「入れ」

「お呼びでしょうか、旦那様」

 低く渋みのある声で返答をしながら入ってきたのは、黒の燕尾服に身を包んだ痩身痩躯の初老の男。
 深く皺の刻まれた顔に、きれいに整えられた白髪は男の年齢を感じさせるが、蒼碧色の瞳は静かながら年齢を感じさせない強さを持っていた。

 フェグナー・リールット。

 先代からゴールドット家に使えてくれている男で、ゴールドット家の執事長をしている。
 与えた仕事を手早くこなし、公私とも色々と使える男だ。

「フェグナー、ノノリックの元へ使いを出せ。仕事だから夕餉の後に執務室に来るようにとな。それから、部屋に飾る絵画を入れ替えるからいいものを見繕ってこい」

「承知いたしました。直ちに手配します」

「私は少し休む。晩飯の時間より半時ほど前に起こしに来い」

「かしこまりました、ゆっくりとお休みください」

 そうして一礼したフェグナーは部屋を出て行く。
 私は水差しから一杯の水を飲み乾すと、特注品の柔らかなベッドに身を沈めるのだった。

 
             ☆


「ち、やはり軒並み物価が上がりの傾向にあるな」

 原因はすぐに予想がつく。
 最近、少しずつ広まり始めている『魔族が攻めて来る』という噂。
 魔族たち、いや、各国の上層部は認めてはいないが、あれの実態は間違いなく『魔族の国』だ。
 国と認めない方が都合がいいためそうなっているだけの話だ。

 その魔族の国との小競り合いはこれまでも絶えることなく度々起こっていた。

 50年前には小国に入り込んだ魔族がその内情を引っ掻き舞わし、国を疲弊させたということも事実として歴史に残っている。

 それがいまやたらとなって騒がれているのは、その魔族たちの中に真の王、真の魔王が現れたという噂があるところに起因している。

 これは魔族を率いているモノをさすことではなく、たった一人で世界を滅ぼすことすらできるという、本当の魔族の王のことだ。
 その王を立て、魔族が総力戦を仕掛けてくるかもしれないというのが噂の骨子になっている。

 そう言った不安から色々な物資の価格が上がっているのだろう。
 とはいえ、まだ誤差の範囲内であり、早急に勘案しなければならない案件でもない。心にとめておく程度で大丈夫だろう。

 重要なのは、変化が一気に加速するそのタイミングを掴めるかどうか。

 そこに気を付けてさえいれば、市場が揺れることさえもまた商機となる。

「グロンドのおじさーん、言われた通りに来たよぉー?」

 と、ノックもなしに開いたドアから入ってきたのは、中性的なコロコロとした特徴のある声のまるで少女のような姿をした歳幼く見える少年。
 さらっと腰まで伸びた金髪にベレー帽のような帽子をかぶり、白のシャツの上に黒の軍服のようなものを着ている。
 ハーフパンツのような丈の短いズボンからは男の物とは思えないスラッとした色白の足が覗いている。

「ノノリック、部屋に入るときはあれほどノックして確認を取れと言っただろう」

「まぁまぁいいじゃない? 子供なんだから許してよ。それからノノリックじゃなくてノノって呼んで」

「何が子供だ。この五年、年を取るどころか髪すら伸びていない癖に。実年齢がいくつかなど分かったものではない」

「んもう、分かってないなぁ。ノノの心はいつでも無邪気な子供のままなぁの。外見も中身も子供なんだからなにもおかしいことなんてないじゃない」

 大仰に芝居じみた態度で肩をすくめて首を振った後、執務机まで歩み寄ってきたノノリックはピョンッ、とふわりと跳ねるようにして執務机に腰を掛ける。
 不思議と、衝撃に机が揺れることもない。

「で、今日はお仕事の話なんだよね? なにさせてくれるの? ノノ的には拷問がいいんだけど、また殺し? だったら今度はちょっと遊んでからでもいいよね? ね?」

 まるで子供が何かをねだるような表情でノノリックは身を乗り出して来る。
 少しくすんだ金の瞳は邪気のかけらもないほどキラキラと輝いていた。

「残念ながら拷問でも殺しでもない、今回のはただの物探しだ。殺しはやり過ぎなければ構わないが速度優先だ、楽しむのはかまわんが日数がかかった分だけいつもの報酬は少なくする」

「えぇー、そりゃないよおじさーん」

 その少年が不満げに潤った唇を小さく突き出す姿はまさしく可憐な少女の物。

「沢山苛めて遊んで殺していい玩具をくれるっていうから、おじさんに雇われてあげたっていうのにぃー」

 しかし、その奥に潜んでいるのは無邪気で純粋なまでに破綻した、どこまでも残虐な本性だった。

「諜報活動も行うこと、私の指示には従うこと。この二つも条件に入っていたはずだが? それに仕事があった時はその報酬として、お前の言う玩具はちゃんと与えてやっているではないか。孤児院の元冒険者とやらせたときにもひとつ与えたばかりだろう?」

「うぅー、それは、そうだけどぉ……」

 我儘を通そうと情に訴えかける少女のように、ノノリックは人差し指を柔らかそうな唇にあて、上目遣いでこちらを見上げてくる。

「ノノとえっちぃ夜過ごさせてあげるからさ、もうちょっと仕事でも楽しませてよ」

「悪いが私に男を愛でる趣味はない」

 一言で切って捨てるとさらに身を乗り出してそこらの遊女以上に綺麗な指先を肩へと這わせ、その鈴のような声音で誘惑の声を奏でる。

「試してみればきっと世界も変わるよ? おじさんならたっぷりサービスしてあ・げ・る♪」

「はぁ、だから私は興味がないと言っているだろう。金で買う以外の方法で女を犯しても楽しくない」

「ぶぅー、おじさんのへんたぁーい!! 何そのニッチな性欲ー」

「女装して男を漁るのが趣味のお前に言われたくはないわ」

 見た目だけは一級品だが、それ以外が論外過ぎた。
 コイツではヤル気にもならない。

「そういうことは与えてやった玩具とでもやるがいい」

「えぇー、だめだよぉ。奴隷とヤッても全然気持ちよくないんだもん。拷問して苛めたい相手と、エッチで一緒に気持ちよくなりたい相手は別々なの」

 ノノリックは匂い立つような色気を引っ込めて体を起こした。

「今回の仕事が成功すれば大量の儲けが出る。二日以内に見つけられたなら今回の奴隷は2匹連れて行っていいから、とにかく急げ」

 その言葉を聞いた途端、ノノリックは現金にも態度を一変させ、その表情に輝かんばかりの笑顔を浮かべた。

「え? ホントにっ!? やったーっ、さすがおじさん太っ腹ー!! 実は前のおじさん殺して来た時にもらった奴隷は遊び過ぎてもう壊しちゃったんだよねー」

「……はぁ、奴隷は安い商品ではないのだがな」

 本当に能力だけを見れば惜しい人材だった。
 勘が鋭く、暗殺の技術も高い。ムラッ気が強いが時々こちらが舌を巻くほどに頭が回り、情報収集の能力にも長けている。この享楽的な虐待殺人の趣味がなければなおよかったのだが、うまくはいかないものだ。

「探し出すのは『葉石の剣』だ。おそらくこの近日中に孤児院から持ち出され、どこかに隠されたのだろう」

「あぁ、先週殺したおじさんが持ってた剣だよね。あの時に一緒に持ってきちゃえばよかったのに」

「部下に経験を積ませようと思っていたのだよ。まぁ、あのゴミは恩を仇で返すように主人に噛み付いてきたがな」

「ふーん、まぁいいや。それじゃあさっそく探しに、……っ!!」

「? なんだ、どうした?」

 突然に気配を鋭くさせたノノリックが窓の外へと視線を向ける。
 だが、その先には月すら隠れた常闇の町があるだけだ。

「……いや、ノノの気のせいかな? 変な気配を感じた気がしたんだけど」

 んー、と人差し指を下唇に当ててノノリックは首をかしげた。
 そして、すぐに張り詰めた気配を緩めたノノリックが肩をすくめる。

「とにかくノノはもう行くね。報酬の玩具の用意はちゃんとしておいてね?」

「ああ、分かった」

 こちらを振り向くこともなくひらひらと片手を振りながら、ノノリックは部屋から出て行った。

 
                  ☆

 
「あ、危ねぇ。この距離で気付かれそうになるなんてな」

 グロンド商会から程遠く離れた町はずれの果樹園の木の上。
 俺は魂の勘の鋭さだけでこちらの存在を察知しかけた相手に一瞬ひやりとした。
 今はまだ、アイツに存在を察知されたくはない。

「っと、いきなり悪かったな」

 とっさにミナリスとシュリアの後ろ襟をつかんで葉の中に隠れるように引き込んだのだが、そのせいで両脇に二人を抱え込むような格好になってしまっていた。
 俺は手を離して改めて少し離れる。

「大丈夫です。それよりもご主人様の言う通り、警戒していて正解でしたね」

「あぁ、万が一にもこちらの存在を警戒されたら困ると思っての保険だったが、まさかアイツがグロンドとつながりがあったとはな」

 俺は多少の予想外に軽く顔をしかめる。
 遠見鏡を使って様子だけでも確かめようとしたわけだが、アイツの部屋の中にノノリックが現れた時はかなり驚いた。
 流石に会話を聞くことはできないが、あの様子を見るだけでもそこそこ親密な関係であるのは伝わってきた。

「あの女の子のこと知ってるのです?」

「あぁ、ちょっとな。そうか、復讐相手に関わっている記憶がないからお前たちには伝わってないのか」

 一度目の世界でのノノリックとの関わりは、魔王退治の旅の途中で軽くやり合ったことがあったことがあるだけの顔見知り程度の関係しかない。
 とはいえ、その特徴的な戦闘法と強さのために強く記憶には残っている。
 少女と思って手加減しようとして痛い目を見て、引き分けのような幕引きの後に『僕、男だよ?』と言われた時の衝撃は早々忘れるものでもない。

「まぁ、アイツのことは後でだな。こんな場所で話すことでもない。宿に戻ってからにしよう」

「かしこまりました」

「了解なのです」

 木から飛び降りると、町の雑踏に紛れるように歩み出す。

「明日からはまた情報収集だなぁ。ノノリックとアイツの関係も探り出さないと」

「忙しくなりそうですね、ご主人様」

「本当に楽しみなのです!」

 俺たちは、最高の料理を目の前にしたときのように、輝かんばかりの笑みを浮かべ、これからのことを想像するのだった。

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