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二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む 作者:木塚ネロ

第三章

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第12話 苦しんでも、苦しんでも、あなたは私たちが癒してみせます

「……こんな所かな。レティシアと出会った時の出来事は」

 結局、あの後パーティのクソ共と合流することは出来たが、再びあのダンジョンを発見することはできなかった。

 入った時は落とし穴、出て来る時は転移法陣。
 落とし穴の口は閉じ、出口は見つかるわけもなく、その話はそこまでにするしかなかったのだ。
 そもそもがダンジョンとしても特異な点が多すぎて、本当に『ダンジョン』と呼べるものだったのか怪しいということもある。

 そのあとも、レティシアとの話をいくつか話した。

 ある貴族の屋敷に潜入調査を行った時に、なぜかメイドに扮したレティシアと再会した話や、ダンジョンから溢れた魔物達を共同で追い返した話、とある町の大食い大会で競い合う羽目になった時の事。
 他にも思い出すまま色んな話をした。

「と、これぐらいにするか。時間も時間だし、上手く伝わってなさそうな部分はあらかた語り終えたしな」

 少し多めに作ったグレートフルボアのスープが空になったころ、俺は話に一区切りをつけた。
 思ったよりも長くなってしまった話は、きっと冷静になりきれずに色々な感情を込めてしまったせいだろう。

「「……」」

「な、なぁ、さすがに黙ってジッと見てられると色々気まずいんだが」

 話している間は終始俺ばかりが話していた。ミナリスもシュリアも二人とも特に口を挟むこともなく話は進んだのだが、話し終わってみても二人は何か言うことはなかった。
 感想を言えとは言う気はないが、せめて反応は欲しい。
 というか、この沈黙はいろいろ恥ずかしい。いや、ここで『昨夜はお楽しみでしたね』みたいな感想を返されてもそれはそれで憤死しそうではあるけどさ。

「と、言われましても……」

「さすがに『のろけ話ありがとうなのです』位しか言えないのです」

 ミナリスとシュリアは顔を見合わせてそう言った。

「の、のろけ話か」

 自分でも少しそんな自覚はあるが、実際言われると厳しいものがある。

「けど、一つ、確認したいことができました」

「シュリアもなのです。問題ないとは思ってるですけど、でも確認させてほしいのです」

 そして、そこにあるのは亜麻と真紅の二対の瞳。

「海人さまがレティシアさんのことが大好きなのは十分わかったですし、足りなかった知識もだいぶ穴埋め出来たのです」

「だからこそ、聞かせてください。ご主人様はこの二度目の世界で、レティシア様と共にいられなくてもいいのですか?」

 その瞳は冷たく鋭く、一切の虚偽も、一切のごまかしも許さない目だった。
 だから、俺はその目に薄く笑った。

「あぁ、安心しろ。心配しなくてもアイツと会って腑抜けたりはしねぇよ。あいつのことは、正直今でも好きだ。お前たちを大切に思うのと同じくらい、俺はあいつを大切に思ってる。きっと本気の殺意を向けられても、俺はアイツを殺せない」

 そう、確かに胸は痛むのだ。
 疼くようなその痛みは、今なおレティシアに焦がれている自分がいることへの反証だ。

 ……けれど、

「それでも、もう間違えたりしねぇよ。自分に都合のいい夢を見るのはもうやめた」

 どれもこれもなんて欲張りが許されるほど、世界はそんなに優しくない。
 俺のすべてに都合がいい世界なんて、とっくの昔に壊れて消えた。

 何より、それをミナリスとシュリアに突き付けた俺が、そんな愚かな選択ができるはずもない。

「復讐の道筋を一瞬だって躊躇う気はない。復讐とアイツを助けることを両立させられるだけで万々歳だ。そのせいでレティシアに憎まれることになっても、……命を狙われることになっても、俺は生き続けるさ」

 レティシアに本気に憎悪される日々を思えば、アイツがそれで楽になれると思えば、すべての復讐が終わった後なら殺されてもいいとさえ思える。

 それでも、俺はアイツに、魔王に殺されてしまうわけには絶対にいかないのだ。
たとえ憎悪の日々から抜け出せないとしても、それでも俺は……。

 それに、今は裏切れない共犯者も出来た。ミナリスも、シュリアも、俺が楽になるために死なせる事なんてできない。


 
「だから、これが答えだ。側にいられないことぐらい、とっくに理解できてるよ」



 言葉にすると、もう一度、いや、それよりも一際強く胸が疼いた。
 理性で理解はしていても、理解と納得は別物で、そればかりは止めることは出来なかった。
 ……本当に情けないが、この気持ちだけは、一生消えそうにはない。

「そう、ですか。でしたら、私から言えることはありません。ご主人様は私が一生、精一杯お支えしますから」

「シュリアもそれでいいのです。三人もいれば寂しくなんかないのですよ」

 顔に出したつもりはなかったが、そんな感情を見て取ったのか、二人はまるで慰めるように傍に寄り添い、その相貌を優し気に崩す。
 そこに純然たる善意を見て、今はただ、その気遣いがとても嬉しかった。

「そうか、ありがとうな。ミナリスも、シュリアも」

 仲間なんて薄っぺらな関係は要らない。仮に一人であっても俺は復讐の道を進んだ。

 けれど、孤独が痛いのも嘘ではなくて。

 だからこそ、深く、深く、全てがドロドロに混ざり合うほどに深く。
 信頼でもなく、利害でもなく。
 疑う余地もないほどに、裏切る余地もないほどに結びついたこの関係を。

(ただ、気持ちはうれしいんだが、女の子の大事な部分が、大きいメロンと小さいレモンが両側から当たってるんだよなぁ。二人とも、変な所で自分の魅力に無頓着で困る。いや、無頓着というよりは無自覚というか天然というか……)

 いや、役得と思う自分もいるんですけどね。
 いくら男だって言ってもせっかくの好意に劣情を感じる自分を恥じる心ぐらいあるわけでして。

 っていうか、これ、口で指摘した方がいいのか? でも、ここで口に出したらせっかく慰めようとしたのに何エロい事考えてんのこのスケベって話になるよな、いや、このまま黙ってたらそれはそれでムッツリの汚名を着せられることになる。

 と、二人の顔が若干紅潮しているのに気が付いた。

 ……これはもしかしてアレか、本人たちも気付いてて慰めの一環のつもりなのか? で、行動してみたはいいが恥ずかしがってるとか、そんな感じか?

 い、いかん、俺の悪戯心が疼いてくる。
『顔が赤くなってるけど、どうかしたか?』とか素知らぬ顔で聞いてワタワタする二人が見てみたい。

 ……いや、ダメだ、我慢しろ。
 いくらなんでもここでそれを言うのは別の意味でクズ過ぎるだろ。

(いや、クズなのはどちらにしても一緒ではあるか。クズ加減が一段アップするだけで)

「あー、こほん。長話に突き合わせて悪かったな。とりあえず、今日はもう寝よう。そろそろ目的地にも着くしな」

 そう言って俺は立ち上がり、エルミアの町で購入した高級寝袋を取り出した。
 つまり、選択コマンド撤退である。

「でしたら、私は腹ごなしにしばらく周囲の魔物を狩ってきてもよろしいですか?」

「あ、だったらシュリアも付き合うのです。今日はまだ眠くないのですよ」

「んー、まぁ、分かった。けど、ほどほどにして戻って来るんだぞ」

「かしこまりました、ご主人様」

「了解なのですよ!」

 ミナリスはスカートの両裾を持ち上げて綺麗に一礼した。シュリアは少しかがんだまま、まるで敬礼でもするように片手をピシッ、と上げる。

「それでは行ってまいります」

「行ってくるのです」

 そう言って二人は森の中へと消えていく。

「……なんかミナリスの奴、本当にメイドみたいになってきたなぁ。やっぱりあの装備のせいか?」

 装備を変えたあたりから、ミナリスのメイドっぽさが増してきている気がする。服装がメイド服そうなのも理由の一つではあるのだろうが、段々と態度や仕草、口調や言葉の選び方なんかが徐々に洗練されて行っているように思える。
 何のためにというのは何となくわかるが、どうしてそう言う方向に行ったのかはとても謎だった。

 そして俺はため息と共に罪悪感を紛らわせるための独り言を漏らす。

「……悪いな、ミナリス。レティシアとのケリをつけるまでは、考えるのすら不誠実な気がするんだよ」

 ミナリスがどんな種類の感情を抱いているのかぐらい、これだけそばにいれば感付いてはいる。だが、どんな答えを出すにしろ、今ここで口にしてしまえば中途半端な結果にしかならない気がして。

 きっとそれは、こうして好意に気が付かないフリをし続けるよりもずっと、ミナリスに対して失礼で不誠実だ。

「……こんなんだから、アイツにも『ヘタレめ』とか言われるんだろうなぁ」

 そうひとり呟いて、ヤメヤメと思考を打ち切り、俺は寝袋の中へともぐりこんだ。

 いま考えるべきなのはこれからのこと。
 目指す先にあるのは王国北部、帝国との国境にほど近いダートラスの町。そしてそこで大きな権益を握っているグロンド商会の、その会頭。

 グロンド=ゴールドット。

 俺から多くを奪い去って行った奴らの一人。
 必ず殺すと誓った奴らの一人。

「待ってろよ。……お前も必ず、月の光も届かない地底深くの闇に引き摺り込んでやる」

 殺してやる、ころしてやる、コロシテヤル。

 甚振り、嬲って、自信も信念も尊厳もぐちゃぐちゃに踏みつぶして。
 アイツが奪ったものをすべて清算して。
 何もかもを熱炉の底に沈めてやる。

「あぁ、本当に、楽しみだ。今はせいぜい笑っていろよ、ド底辺の畜生め」

 グルグルと腹の底を回る黒い感情を吐き出すように呟いて、俺は目を閉じた。



           ☆



「…………」

「…………」

 ご主人様を残し、私達は森の中へと入っていく。

「もう、大丈夫でしょうか」

「ここまで来れば、ご主人様に声が聞こえることもないのです」

 しばらくして十分に距離を取った後に、私とシュリアは顔を見合わせ、がっちりと手を取り合った。

「くふっ、くふふふっ!! やった、やりましたっ!! ついに言質を取れましたっ!!」

「やったのですっ、やったのですよっ!! 確実に一歩前進したのですっ!」

 私たちは両の手を繋ぎながらキャイキャイと飛び跳ねる。
 感情を抑えるのに随分と苦労した分、タガが外れて我慢が効かなくなってしまった。

「やっとご主人様の口から彼女との決別の決意を聞けましたっ! やりましたよっ、やりましたっ!!」

「自分で言葉にするだけでも全然違うのですっ、堕ちる時はどんな時だって、自分で宣言させたときなのですよ!!」

 シュリアもかなり興奮して話している。
 私も興奮している自覚はありましたが、抑える気にもなりませんでした。

「そうでしたね、『真夏の夜とユリの花』のピーラル姫も最初あんなに強がっていたのに、一度自分で言葉にして認めてからは簡単に崩れていました」

 もちろん、アレは創作ですからあんなに簡単に行くはずはありませんが、それでもこれは大きな一歩でしょう。

「それになのです、それになのですっ!! 慰めるときに一緒に押し付けた胸に大分反応してたのです!」

「えぇ、最初の内は必死に気を逸らそうとしてる感じがしましたけれど、途中から少し興奮気味にウズウズしてましたね。心拍も普段より少し早かったです」

「シュリアのレーダーにビビッ、と来てました! あれにはSっ気の強い欲望を感じたのです」

「私にはそんな奇怪なレーダーはありませんが、アレは私にも分かりました。私達を揶揄おうとするのを我慢しているときの表情です」

 普段、小さなミスちょっとした失敗をちょっと意地の悪い顔で笑って揶揄うご主人様に似た雰囲気を感じました。
 本で学んだ『言葉責め』みたいで恥ずかしいと思いながらも、最近は少し嬉しいと思っている自分がいます。

 聞いてみるとシュリアの方は毎回存分に楽しんで悦んでいるみたいでした。というか、『そう言う関係になれたらやりたいこと』の一つがこれの発展形らしいです。
 先取りで体験をできて嬉しいのです♪、と言っていました。

 シュリアとは色々と互いの趣味趣向の理解を深め合いながら様々な知識を学んでいます。

 シュリアは、ご主人様に愛のある行為として『踏まれたい、痛めつけられたい、辱められたい』のだそうです。シュリアの欲求そのものは理解できませんでしたが、『溺れてしまうくらいに私を貪り愛してほしいな』という点で一致を見ています。

 貪るよりも貪られたい私もまた、シュリアと多少同類なのでしょう。
『ソフトMなのですよ。でも誘い込まれたら逃げ道をいつの間にか全部潰されて良そうなあたり、Sな感じも……貪り系一体型ソフトSMなのです?』というのがシュリアからの評価でした。
 意味はよくわかりません。

 もちろん、私からのシュリアの評価は『愛を持ってひどいことをされたいという、かなり闇の深いドM』です。

 ……まぁ、成功したことはそれはそれでいいのですが、そう浮かれてばかりもいられません。

「成功は成功でいいのですが、それはそれとしてやはり悔しいものですね」

「あれだけ好き好きオーラ満開で話をされるとは思わなかったのです。甘々べったり系じゃなかったですけど、それでもイチャイチャしすぎなのです」

 思い出すと、さっきまでの興奮が少し冷える。
 復讐で血よりも深く結ばれた私たちと、それでも同じくらいに大切と言ってもらえるレティシア様に嫉妬しないわけがありません。

 ご主人様が気が付いていたかどうかは分かりませんが、話をしている間のご主人様は、それはもう、はっきりと焦がれている表情をしていました。

 大切な宝物を汚さないように触れずに見守るような寂しげな表情。

「でも、だからこそ私達が支えないといけません。焦がれる思いが強いほど、レティシア様と決別することになった時の心の傷は深くなってしまいます」

 ご主人様が求めるものを両立させれば、どうやってもレティシア様との和解などありえません。

 あの事実(・・・・)がある以上は、レティシア様に殺されることだけは何としても避けるでしょう。
 ご主人様は、レティシア様を悲しませないために、その張本人にすら憎まれたまま生きていくことになる。

 弁明をすることも、和解をすることも、贖罪に殺されることも出来ずに。

 だから少しでもご主人様の気持ちを、レティシア様から奪い取らなければいけません。
 胸に抱える痛みを多少なりとも和らげられるように、傍に寄り添い続けることで、少しでも癒して差し上げられるようになりたい。
 私自身の欲望とは別に、とても真摯にそう願います。これ以上、余計な傷を背負ってほしくはないのです。

 …………もちろん、私自身の欲望としてもご主人様に誰よりも求められたいという欲求が多分に含まれているのも確かな理由ではあるのですけれど。
 それとこれとはまた別のお話ですから。

「レティシア様と本当に決別することになった時、ご主人様はきっと一番傷つきます。そして、本当の意味で癒えることのない傷を負い続けることになる。その時こそ、本当の勝負を仕掛ける時です」

「傷心の海人様を癒して差し上げるのですっ、どうしようもない鬱憤のはけ口にしてもらって、無理やり押さえつけられて、はぁ、はぁ、ごくりっ」

「そうですね、傷ついたご主人様を包み込むように甘やかして甘やかして、それでご主人様から貪り望むようになっていただけたら……、くふっ、くふふふっ!!」

 あぁ、想像しただけでゾクリとした快感が全身を回ります。イケナイところが濡れてしまいそうです。



ご主人様、ご主人様が傷つくのを黙って見てるなんて、そんなことは絶対に許しませんから。
覚悟していてください。苦しんでも、苦しんでも、あなたは私たちが癒してみせます。



「それじゃあ、来るべき日に備えて今日も勉強するのです」

「そうですね。ご主人様のガードもだいぶ緩んできている気がしますし、この調子で頑張りましょう」

「はいなのですっ! 目指せ酒池肉林なのですっ!!」

 そして私たちはいつもの様に、教材の一つを開くのだった。

 …………今日の教材は、以前の物に比べてちょっぴり過激にHでした。
 
前半終了です。
次回からプロローグを挟んで、復讐編に戻ります。
+注意+
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