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二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む 作者:木塚ネロ

第三章

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第10話 勇者と魔王、肉片(汚)に塗れる

過去編長くて申し訳ない。
しかし、長くてもちゃんと描写する必要があると判断したところなので……。
過去編11話終わった後に活動報告に一応、作者の言い訳載せます。
「おらっ、潰れろ虫がッ!!」

『ギャギュイ……』『ガヂヂィ……』

 ブンブンと丸袋の中で肥しになっていた角やら骨やら外殻やらを全力で投げつける。
 もはやそこにあるのは入った時以上のグロ画像だった。

 ただでさえカサカサゴチャゴチャとしていたのに、今は更にそこに、噴き出した体液や千切れた体の破片でヌメヌメとネチャネチャ成分が大量追加されている。

 そのビジュアルだけでこれを意図した奴がどれだけ性格が悪いやつなのか察することができる。

「ハーッハッハッ、虫が虫けらのようだっ!!」

 もはや何を言っているか自分でも分からないが、いったん冷静になってテンションを落として直視してしまえば発狂してしまいそうで、俺は意識して発狂状態を保っていた。発狂状態は無敵だっ!! 
 あれ、俺本当に何考えてるんだろう。

「ギャアアアアアァツ、キモイキモイッ!! 寄るでないっ、虫はっ、虫料理だけはダメなのじゃっ!!」

 なんだアイツ、虫料理なんか食ってたのか。それで俺以上の拒否反応を示したのか。

『ギヂィイイイッ!!』『ビュガァアビビッ!!』

「カサカサしてるぅっっ、ビクビクしてるのじゃぁっ!! もういやじゃぁああっ!!」

 赤頭の方のほうもギャアギャアと叫びながらろくに狙いもつけずに魔法を乱射していた。
 うんうん、俺と同じくいい発狂具合だ。あれ、泣いてるってことは発狂解除されてる? そういや赤頭は混乱を引き起こす攻撃を完全にレジストしてたような?

「まぁいっかっ!! ほらほらっ、とっとと沈めっ!! アハハハッ」

「くそうっ、自分一人だけ正気を放り出しおってっ!! なんで妾だけ正気を保っておらんとならんのじゃ……っ!! 魔法抵抗が高すぎる自分が初めて憎いのじゃ……」

「なんか言ったかー? 俺は正気だぞー!!」

「うっさいのじゃハゲッ!! 目をグルグルさせて何を言っておるんじゃっ、いい加減、そろそろ正気に戻らぬかっ!!」

「うぉおっ!?」

 ビャシャアッ、と突然中に現れた水球を落とされ、冷たい水でずぶぬれにされてしまった。
 ついでに俺にかかっていただろう軽い混乱の状態異常まで溶けてしまう。

「何しやがるっ!!」

「中途半端な耐性で状態異常に掛かっとるから助けてやったんじゃろうがっ!! いつまでラリッとるんじゃ」

「ワザとだよっ!! 治そうとと思えばいつでも治せるから放っておいたんだよっ!! あんなキモイの正気で相手してられるかっ!! うげぇえっ」

 改めて状況を把握すると気持ち悪いことこの上ない光景だった。テレビや映画など、画面越しでも遠慮したいような光景は、素で見ると想像以上の破壊力を持っている。

 気のせいか、若干空気まで淀んでいるような気さえしてくる。っていうかさっきまでラリってたから気が付かなかったが、噴き出した体液やら、俺の混乱を引き起こしたヌメッとしたキノコのようなキショイ魔物の胞子、竜種のブレスの下位互換な息を吐きだすミミズもどきなどのせいで、実際に吐き気を誘う匂いが周りを取り巻いている。

 レベルも上がってそこそこの状態異常の耐性スキルも持っているから、残滓のようなこれらのせいで状態異常になることはないが、それでにおいまで感じなくなるわけじゃない。

「く、くそっ、体液のせいかムワッとしてて余計ににおいが……っ、虫って変温動物なんじゃねぇの? 血も体液も冷たいんじゃねぇの? なんで?」

 正常に戻ったせいで今まで適当に無視できていた情報が一気に人間離れした五感を刺激してくる。
 グロ画像はやけに細かいところまではっきりと見えているし、宙を飛んでいる羽虫もどき類の不快な羽音が部屋を埋め尽くしているし、先程のにおいのこともそうだ。
 そして、いつの間にやら気温が上がっているのか、湿度が上がっているように感じる。たぶん、赤頭が炎系の魔法を使ったりしているせいだろう。

 しかも、とうの赤頭はというと自分の周囲に半球状に風の幕を作っているようで、そう言った空気を全て遮断しているようだった。

「赤頭ッ!! お前ッ、自分だけズルいぞっ!! 俺も入れろっ!!」

 アイアンガルムの牙を地を這うように迫ってくるムカデもどきの頭を貫くように一つ、空から迫って来ようとする羽根つきアリもどき二匹を打ち落とすように二つ投げつけながら、赤頭の魔法の効果範囲へと近寄る。

「ぬわっ!? こっちに来るでないっ、キモイの引き連れてきておるじゃろうがっ!! それにお前に染みついたにおいが入ってくるではないかっ!!」

「たった今お前が水で洗い流しただろうがッ!!」

「まだ少し臭っておるのじゃっ、ええいっ、もう一度洗って落とせっ!!」

「おわっ!?」

 再び現れた水球が俺の体を包む。違うところは俺の体を濡らして落ちるのではなく周囲に纏わりついたままぐるぐると渦を巻き始めたことだ。

(おおっ、人間洗濯機だな)

 赤頭が放った石の槍が再び数匹の羽虫の羽を貫き、地面へと這いつくばらせる。
 その間に首から下で10秒ほどギュルギュルと水流を生み出したの魔法は最後はバシャァと床に落ちて地面を濡らした。

「って、びしょぬれで放置なのかよっ!! いやさっきからそうだったけど!!」

「贅沢言うでないっ、特に実害もないんだからいいじゃろうがっ!!」

「濡れてるとあのキノコっぽいやつの胞子とか、飛んでる蛾みたいなのの鱗粉とかっ、そう言うのがべたべたくっつきやすそうだろ!! 大問題で大惨事だろっ!!」

「妾を舐めるなっ、この風膜の範囲内にあんな気持ちの悪いものをいれるわけないじゃろっ!! 

 そんな会話の間に、丸ごと体を洗われた10秒の間に距離を詰められた虫たち5、6匹をまとめて潰すために、3メートル級のストーンゴーレムの遺骸をそのまま投げつけて潰す。
 一つ前の初心者向けのかなり小さく弱いダンジョンボスで、ほとんど大きな傷をつけずに倒せたものだ。
 ゴーレム系の魔物が少ないオロルレア王国ではとても貴重な検体になると普段はおっとりとしたユーミスが興奮気味に言っていたのでそのままの形で丸袋に入れていたのだ。
 本当は次に到着する予定の町でエルミアの町にあるユーミスの研究所に送ってもらう手筈だったのだが、悪いユーミス。今回は緊急事態だ、勘弁してほしい。

 ちょっとくらい虫の体液とかかかっても、研究にはきっと問題ないよね? うん、ダメだったら後でもう一匹狩りに行こう。

「ちくしょう、服が張り付いて微妙に気持ち悪い」

 あの虫共をあのまま相手にするのも嫌だが、元の世界の服と違ってあまり質の良くないこの世界の服は濡れてしまうとただでさえ微妙な肌触りがさらに悪くなる。
 体温などでしばらくすれば乾くだろうが、早くそうなってくれることを祈る。

『キシャアアアアアッ!!』

「キシャアじゃねぇええよクソ虫がっ!!」

 鳴き声らしき甲高い音を発しながら這いずってくるナメクジもどきにイラッとしながら、投擲作業を再開するのだった。

 
            ☆


 しばらく戦い続けた後のこと。

 入ったばかりのころは夥しい数が居た虫もかなりその数を減らしてきている。
 もう少しすればこの部屋の虫たちも殲滅しきれるだろう。段々と見晴らしの良くなってきた部屋の中、俺たちが入ってきた扉と正反対の位置に、同じデザインの鮮やかな緑色をした色違いの扉があった。きっとそここそが本当のゴールなのだろう。
 だが、それとは裏腹に、俺と赤頭は嫌な予感に襲われていた。

「のぉっ、あの奥にあるやつなんじゃが」

 努めて考えないようにしてきたが、とうとう我慢の限界が来たのか、ついに赤頭が話題を振ってくる。

「……言うな、分かってる」

 虫を殲滅しながらチラチラと視線が向かう先にはヌメッとした感じの薄ピンク色の卵のようなものがあった。血管のようなものが表面を走っているようで、それが時々ビクビクと動いているのが遠くからでも分かる。

 虫の数が減ってきたから今度はイケるかと、適当な素材ではなく、きちんと投擲用に作られた投げナイフを放る。

「チッ、まだ駄目か」

 だが、ナイフは目標に到達する前にその卵を守るように一丸と壁になる虫達にさえぎられる。しかも、その卵があるのは出口らしき緑の扉の真ん前なのだ。

 これだけでも何かあるのが分かるが、その卵は先程からその色をどんどんと濃く、そして大きくなっている。

「なぁ、妾、段々嫌な予感がし始めたんじゃが」

「そうか。自分だけじゃないと思うとなんか安心感湧くな」

「なんて嫌な安心感じゃ、無駄にもほどがあるじゃろ」

 赤頭もいい加減慣れ始めてきたようで今は淡々と炎球を手から放出している。
 どんな相手にも取りあえず炎系統の魔法は聞くのを確認してからはそれだけを使って虫を倒している。
 おかげであたりは黒い煙がそこかしこで上がっている。煙が充満することはないので視界がふさがれることはまずないが、どこぞの世紀末な風景のようだった。

(飛び込んで行って直接切り付けて来るか? でもなぁ、この外に出るのはなぁ)

 赤頭の風膜のおかげでこの中の空気はフラットに保たれているが、ひとたび外に出ればあの異臭が襲ってくるのだろう。いや、もうかなりの数を倒したし、火の魔法を多用しているせいで室温も絶妙に気持ち悪い感じに温まっているしでさらに不快度数は増していることだろう。

 赤頭の方も魔法の構築速度と保有しているMPには目を見張るところがあるが、一発あたりに込められる魔力量はそれに比べてだいぶ少ない。
 あの肉、いや、虫の壁を貫くには少し威力が足りないようだった。

「ぬぅっ、虫の癖になんで魔法耐久が高いんじゃ」

 そうして歯噛みしている間にも卵は変化を進めていく。
 順調に減っていく虫達に比例するようにしてその卵はその色を深め、巨大になっていく。

 部屋の中の虫たちの密度はかなり下がり、殲滅までの残りも見えてきた。しかし、その少ない数を補うように卵の周囲に虫たちは固まって意地でも卵を気付つけさせないとばかりに抵抗を見せていた。

 そして、その嫌な予感は結果として生み出されてしまう。
 ある一点を超えたのか、卵の変化は急に加速した。破裂するような速度で大きくなり、初めは薄いピンク色をしていたにもかかわらず今は、赤というよりもほとんど黒に近いような赤黒い色をしている。
 ドクドクと脈を打つ速さも、最早連打しているような速度になっていた。

「ちっ!!」

 もう少しで虫を殲滅しきれるのにっ、やはりそううまくは行かないようだった。
 苦し紛れにこれでも喰らえと手持ちに残った5本の投げナイフを投げ付けた。

 ヒュゥンッ、と風を切りながら宙を走ったナイフの大部分はいまだ残る虫たちに体を張って止められた。そのうちの一本が虫たちの間をすり抜けて卵の下へと飛来した。

(……取ったかっ!? っていかん、これフラグっ!?)

 だが、そのナイフが到達する直前、卵が本当に爆発するような勢いでそのブヨブヨとした殻を開いた。
 花の蕾が開くように切れ目が入って開いた中から黄土色の遠目にもわかるほど粘度の高そうな液体が周囲に飛び散った。
 その粘液に勢いを削がれたナイフは地面に落ちてしまう。

「っ、ああっ、くそ、回収ご苦労様ですっこんちくしょうめっ!! ていうか気持ち悪ッ!!」

「ひぃいいいっ、あ、ぁあ、き、気持ち悪いのじゃアアアアアアアアアッ!!」

 少しやけっぱちめにつぶやいた先、現れたのはドキュメンタリー番組で見た『ダイオウグソクムシ』が巨大化して進化したような姿の虫だった。
 卵の中でどうやって納まっていたのかという大きさのそいつは縦横ともに5メートル近いデカさを誇っていた。正面だけを見れば都心の小さめの一軒家位の大きさがある。

 ヌメヌメとした粘液で体をテカらせながら、十本以上もあるカニやエビのような甲殻質な手足をワジャワジャと動かす。まるでムカデの顔と同じような形の顔もギチギチと獲物を求めるように音を鳴らしている。

 そう、その姿はエイ○アンである。まごうことなきエ○リアンである。
 すっげぇ気持ち悪い。先程までの虫も虫としてかなりに気持ち悪かったが、これはこれでその比ではない。
 体内がスケスケな感じなのがなお嫌らしい。 

『ギジャァアアアッ!!』

 甲高い音と鈍く低い音を二重に重ねたような割れた鳴き声は、耳の中で乱反射するような不快感を掻き立てる。
 ここからが本番とばかりに満を持して現れたそいつは周囲にいた虫たちをバリバリと喰らい始めた。
 甲殻を持つ虫を殻ごとかみ砕き、羽虫の羽をちぎって数匹まとめて口に放り込む。ナメクジのような奴らは体にかみつくとそこから水分を奪い取るように干からびさせた後、カラカラになって小さくなったソレをまたもや口に食べる。
 残り少なかった虫たちは全てラスボスっぽい奴の腹へと収まってしまった。
 つまり、コイツが本当のボスなんだろう。見た目による精神攻撃の強さもこれまででピカイチだ。

「くっそぉっ、誰だこんなダンジョン作ったの。絶対自然に出来上がったもんじゃ……」

「あ、ああっ、あぁあああぁ」

 そして、俺が声を発しきる前にの隣から俺の隣からプチッ、という音が聞こえた気がした。

「もう嫌なのじゃああああああああっ!! とっとと死ねぇええええええええっ!!」

「うおっ!?」

 赤頭がやけっぱちに叫ぶと同時に散々だとばかりにとんでもない速度で魔法を構築しまくり始めた。
 モノの数秒で数十発近い火球が宙に浮かび上がり、俺は巻き込まれないように少し飛びずさって距離をとる。

「ば、バカッ!! あんなでかい相手をそんな爆発系の魔法でっ!! うげぇッ」

 ただこの戦闘を早く終えることしか頭にないのかっ、火球の生成によって急激に熱せられた空気が赤頭を中心に放射状に広がる。
 そのせいか、理性を飛ばした赤頭が制御を放り出したせいかは分からないが、今まで空気を遮っていた風膜が取り払われ、たんぱく質の焦げる嫌なにおいや熱せられて蒸発した虫たちの体液のにおいなどが混じった強烈なにおいが襲い掛かってくる。

 そのせいで反射的に詰まった息に言葉が止まった。

 例え最後まで言えていても赤頭が話を聞いたかは分からないが、とにもかくにも、俺の制止の声は間に合わず、その賽は投げられる。

「爆ぜるのじゃああああっ!!」

「やめてぇええええ?!」

 俺の悲痛な叫びをかき消すように、最終的に百近い数まで増えた炎弾が一斉にそいつへと着弾した。

『ギュシャアァアアアアアァアアアッ!?』

 一つ一つは先程までの威力と変わらないものだったが、的が大きかったこともあり、そのすべてを緻密なコントロールで同時に着弾させて威力が桁違いに上がっていた。

 そして、俺たちに何かの攻撃をすることすらなく無残にやられたダイオウグソクムシもどきは断末摩の悲鳴をあげてその命火を絶つことになった。

 ただし、爆発と共に体積に比例した体液と粉々に砕けてベチョベチョした肉片の雨と共に。

「「ギャアアアアアアァアアアアァアアッ!!」」

 ザアアアァッ、と土砂降りのような勢いでまるで胃酸のような吐き気を呼ぶ粘液の雨が降りかかり、意外とゼラチン質だったらしい拳一つ分位のサイズの体の肉片がボトボトと降り注いでくる。

 その量はすさまじく、爆発速度の凄さもあって満足な対応すらとれず、結果、全身が汚物まみれの状況に晒されるのだった。



 
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