挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む 作者:木塚ネロ

第三章

72/108

第9話 勇者と魔王、絶望的な戦いに挑む

「くくくっ、まぁこの辺にしておいてやるかの。あの意地の悪い罠の道も踏破したことじゃしな」

 どれだけ理性の制止を振り切ってハリセンでどつきまわしてやろうか分からなくなった頃のこと。

 やっと冷静になったところで周囲を確認すると、そこはいまだ最初のスタート部屋を彷彿とさせる作りの部屋だった。

 広さは四分の一程度だったが、部屋の片隅にはスタート部屋と同じ泉のような水場があったし、四角い部屋も無骨で無機質な見た目の癖に何故か温かみの感じる床や壁もそのままだ。
 違う点と言えば、魔物部屋へとつながる通路がないことと、代わりに巨大な金属製の扉が一つ設置されていることだ。
 おそらく、あの扉を出れば外に出られるのだろう。

「良い顔で笑いやがって、憶えてろよ。……まぁ、とりあえず『ここが出口だよ?』って書いてあったんだから、書いてあった迷路は突破したってことだろ」

 上機嫌に笑う赤頭に負け惜しみ気味に悪態をついて気を抜いて、やっとトラップゾーンを抜けたのだという実感の湧いてきた。

「そうか、やっと外に出られるのか。これでお前と顔を突き合わせることも無くなるのか」

「なんじゃ、寂しいのか? ん、ん? しょーがないやつじゃのー。飯炊き係として従順に仕えるなら雇ってやっても構わんぞ?」

「ハイハイ、自意識過剰オツー」

 ヘッ、と軽く馬鹿にしたように笑い飛ばしてやっても、いつもと違ってさほど怒りを覚えた様子はない。

 やはり赤頭もやっとこの罠の山を突破したのが嬉しいらしい。

「十日振りの外か。もう昼だか夜だか分からねぇけど、とりあえず外の空気が吸えるなら何でもいいか」

 俺は立ち上がると扉に向かって歩き出した。赤頭もまた俺の隣を歩いて扉へと向かう。

「今はちょうど空が赤く染まり始めるころじゃの」

「なんでわかるんだよ」

「妾の腹の減り具合がそう言っておるからじゃ。ということでここを出たら飯じゃからな」

 赤頭は口の端をぺろりと舐めながらそう言った。

「……この中にいた間の行動時間の半分ぐらいはお前の飯を作ってたような気がするわ」

 最初は軽い気持ちで請け負ったが、まさかここまで料理をさせまくられることになるとは思わなかった。
 そもそも、こんなに長くこのダンジョンの中にいるつもりもなかったわけだが。

「やはり、世界は謎に満ちておる。なんでこんな冴えない顔をしておる男に料理が作れて、妾のような最強美少女がなぜ料理の才能がないのじゃ。おかしい、絶対におかしいのじゃ。もしや、変なものでも入れておるんじゃなかろうな?」

「何度同じこといえば気が済むんだよ。っていうか、なんだ変なものって、失礼な奴だな」

 俺たちは観音開きのその扉の前に立つと、それぞれ扉の片方ずつに取り付けられている扉の取っ手を握った。

「まぁいいや、これで最後だからな。喰いすぎでぶっ倒れるくらい飯を作ってやるよ」

「おおっ、いいのう! 今まで抑え気味に食べておったからな」

「マジでッ!? あれで抑えてたの!?」

「当たり前じゃ、食はこの世の真理じゃ。妾が本気になればいつもの倍はイケる。最後ぐらいは思いっきり食べてやるからの、なにをつくってもらおうかのぉ」

「なんなのお前、全身胃袋で出来てんの? それとも胃液がどっかの魔物の溶解液にでもなってんの?」

 俺は呆れたように言いながら、『仕方ないから気合を入れて作ってやるか』と口にせずに考えながら手に力を入れる。

 ギィイイイイイッと金属が軋む特有の音を立てながら扉を押し開いた。

 

『カサカサカサカサ』『ビチャビチャ』『ガササッ、ガササササッ』『グジジジッ』『ズジャジャジャ』



「「…………」」

 そして、俺たちは無言で扉を閉じた。

「「ふぅ……、イヤイヤイヤイヤ」」

 誰に言っているわけでもなく俺たちは自分の前で手を振った。

「え、何ちょっと今の、疲れてんのかな」

「アレはないのじゃ、流石にアレはないのじゃ」

 俺たちは疲れが取れることを祈って目頭を手で揉みあげる。

 そして互いの顔を見合わせ、一度深く頷くと、俺たちは意を決して再び扉を押し開いた。

 だが、いくら目を逸らしてもそこにあるものは変わらなかった。扉の向こうにあったのは澄み切った空気でも広い空でもなく、



『ビュチャ、ビチ』『ゲジジャ』『ガザザザッ』『ズッ、ズルズゥ』『ギヂヂ、ギヂヂヂヂ』『ギュジュジュ』



 …………ゴキ○リに、ゲジゲ○に、ナ○クジに、○ミズに、○モに、ム○デ、蚊や蛾などが、中型犬サイズ位に巨大化してその四角い部屋の中でその身を捩らせる光景だった。



「「ナイナイナイナイナイ!!」」

 一匹一匹の気持ち悪さもさることながら、部屋の奥で10や20では利かない夥しい数が蠢く光景に本能が拒否反応を示す。
 そのあまりの光景を俺たちは直視できずに再び扉を閉めて手を振った。

 え? なにあれ、なにあれ、なんなのあれ。
 おかしくね? え、だっておかしくね?

「なんなのじゃあれは、どういうことじゃ。魔物はおらんと言っておったではないか」

 しばらく思考を停止させ、沈黙が場を支配した後。
 両目を手で覆いながらしゃがみ込んでつぶやく赤頭の声を聴いて、やっと我に返った。

「……あれが魔物かどうかということは置いておいて、魔物が居ないって書いてあったのは『迷路の中』だけだからってことじゃね?」

 最初のふざけた垂れ幕に書かれていたルールを再度確認してみれば、そんな風に書かれていた。
 一応出口を通ったわけだし、迷路は抜けたから嘘はついてないってことだろうか。

「迷路を抜けたなら、なんで地上に出られんのじゃ。クリアしたら外に出られるって書いてあったじゃろ」

「あれだろ、迷路はクリアしたけどダンジョンはクリアしてねぇってことだろ?」

 それに、よく見てみればこの扉、ダンジョンのボス部屋前に設置されている扉に似てないだろうか。

「あっ」

「なんじゃ、まだ何かあるのか」

「いや、あそこさ、すっげぇ見え辛いけど『守護者の間』って文字が浮き彫りになってない?」

 そう言っておれは扉の上を指さした。
 壁の色とほとんど同色で、扉の大きさに対して小さく目立たなかったが、そこには確かに『守護者の間』という文字があった。

「「…………」」

 再びそこに嫌な沈黙が落ちる。

「い、嫌じゃ、嫌じゃっ、嫌じゃっ!! だって守護者の間って、あれと戦うわけじゃろ? 無理じゃろ、アレはないじゃろっ、いくらなんでも性格が悪いとかそういうレベルじゃないじゃろっ、アレはッ!!」

 何かを拒絶するようにブンブンと手を振りながら赤頭が叫ぶ。

「あっ、男の子は虫が好きじゃろ? 女の子は虫が苦手じゃろ? だから、な?」

「なにが『だから、な?』だっ!! 俺だって嫌だわっあんなん!! 確かに男の子は虫が好きだけどっ!! アレは違うッ、あれは違うからっ、なんかこう、ジャンルが違うからっ!!」

「あんな気持ち悪いのを相手になどしたくはないのじゃっ!! そ、そうじゃ、一つ貸しがあったじゃろ。今返すのじゃ、すぐ返すのじゃ。妾の代わりにあの虫と戦うのじゃっ!!」

「嫌だよっ!! 借りはほらアレだ、散々俺のことを馬鹿にしたからそれでチャラだ!!」

「なっ、卑怯じゃ、踏み倒すつもりか!? 人としてダメじゃろっ、いかん、いかんぞっ、他人の借りはきちんと返さないとちゃんとした大人になれんのじゃ!!」

「何の話だ何のッ!!」

 いやだ、絶対にいやだ。
 アレと戦うのはこう、体力とか以前に色んなものをガリガリ削られる。
 多少キモくても魔物は化物と思えば戦えるが、いつものキモイ虫のイメージのまま、でかくなったアレは嫌だった。殺虫スプレーが欲しいです。

「というか、こんな美少女にあんなのの相手をさせようとするとか犯罪じゃろっ!! このろくでなしっ!!」

「だれがろくでなしだこの赤頭ッ!! お前の方がよっぽど人でなしだろっ!! 俺の戦闘手段ってめっちゃ近接攻撃なんだぞっ!? 離れて見たってあの破壊力なのに、近づいて攻撃とか無理に決まってるだろ!! あんなのに手で触れる距離まで近づくとか正気の沙汰じゃないっつのっ!!」

「そんなものッ、目を瞑って戦えばいいんじゃっ!!」

「無茶言うなっ!! 俺の攻撃手段は基本的に剣なんだぞっ!! そんなんであいつらと戦ったら返り血代わりに体液まみれになること必須だぞっ!!」

「それぐらい良いじゃろっ、ほらっ、水も滴るいい男って言うじゃろうがッ!!」

「だから滴るのは水じゃねぇって言ってんだろうがッ!!」

 グロ画像を背景に巨大虫の体液に塗れてどうやったらいい男になるんだ!!

「嫌じゃー、嫌なのじゃあああっ!! だってガサガサしてたのじゃ、ヌチャヌチャしてたのじゃ、黒光りするのとか粘液まみれでのたうつのとかワサワサしてたりウジャウジャしてたりっ、背筋がゾワッって、ゾワッてっ!!」

「あれに好き好んで突進していける奴なんているかっ!! 巫山戯んなっ!!」

 俺たちはどうにかしてあの強大な敵の相手を押し付けようと、不毛な争いを続けるのだった。


              ☆



 そうしてしばらくして。

「嫌なのは俺も一緒だって言ってんだろうがッ!! いいじゃんっ、魔法で攻撃できるんだからいいじゃんっ!! 遠くから得意の魔法で焼き殺したり生き埋めにしたりすればいいだろ!!」

「そういう問題じゃないのじゃ!! だいたいそれを言うならお前くらいの身体能力があるなら返り血を浴びる前に距離を取るのも可能じゃろっ!! それにそんなに嫌なら魔物の骨でも投げつければいいじゃろうが!!」

 互いのセリフにハタと動きを止める。

「「言われてみればその通りか(じゃ)」

 一気に脱力感が身を包む。あぁ、たったこれだけの事実に気付くにたどり着くまでにどれだけ遠回りをしてきたのか。

「そうだ、アイツラと『戦う』と思うからこんなに心が乱れるんだよ」

「そうじゃな、アレは戦う相手ではない。『駆除』じゃ、駆除すべき存在じゃ」

 ゆらりと、俺たちは再び扉を向いた。
 そうだ、何を嫌がっていたのか。でかくなろうが虫は虫。ゲテモノだろうと虫は虫。
 扉の前でこんな醜い言い争いをつづけたところで事態は好転しないのだ。

 

「虫がなんぼのもんだぁあああああっ!!」
「害虫はっ、殺虫じゃぁあああああっ!!」



 俺たちは目の前の扉を蹴破ってボス戦に突入するのだった。

『ギャギャギャッ!!』『シャジャ』『ギュチュギュギギ』



「「イヤアアアああアアアぁあアアァあああぁッ!!」」



 ヤケになって突っ込んでみたが、そんな余裕など張子の虎より脆く破けた。
 絶望的な戦闘が今、始まった。
 
後2話で回想終わります。
どうしても無理だわ、飛ばす! という方は、11話からはどうしても読んでいただきたいです。
 わっかりやすい伏線になっているので、読まないと後日「ん?」となると思われます。(まだそこまで書き上がっていないのですが……。

 それはそれとして、みなさんも体調管理には気をつけてください。
 筆者は思いっきり風邪を引いて会社で地獄を見てます。ストック用意していて良かったと、本当に思います。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ