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二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む 作者:木塚ネロ

閑章

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第8話 勇者、やはり悪魔と確信する

 感想欄で『過去編ながいよっ!!』と指摘が多く集まり、大変申し訳なく思っております。
 過去回想自体は11話で終わります。わかりにくいですが、色々と伏線の伏線ももう出てきております。回収はそこそこ先になりますが、もう少しだけお付き合いください。
 あ、後半は普通に復讐編に戻ります。
 バネ仕掛けの床に弾き飛ばされて強制的におそらく罠満載の一本道に飛び込まされた。

 こうなっては仕方がない。たとえバネの仕掛けがわかっていても、逆戻りしても意味はない。

 賽は(無理やり)投げられたのだ。

「だから誰なんじゃその『こうめい』はっ!!」

「極彩色の扇を持って裏で多くの人間を手の平で転がすすべての策の黒幕だっ!! あいつのせいと言っておけば大体あってる!!」

「何じゃそれはっ!! 悪魔かっ!!」

「悪魔だっ!!」

 ダッ、と地面に足がついた時点で俺たちは駆け出す。これはもう条件反射だ。立ち止まればその瞬間にやられるのだ。

 罠なんだから立ち止まってれば大丈夫なんじゃないかって、そんな幻想に浸かっていたときもありました。
 あのころの俺は青かった。

 地面を蹴った場所には狙いを済ましたような正確さで、オモチャの矢を巨大化させてやじりの変わりにトリモチをつけたものが俺たちが少し前までいた場所に突き刺さ、いや、突き当たる。

 これにあたるとそのまま矢羽根に括り付けられた縄のような太さの紐で引っ張られ、体中にトリモチを巻きつけた状態で油まみれの落とし穴を転がされるのだ。

 いや、あの時は苦労した。落とし穴に落ちた後もトリモチがなかなか取れなくて、油の時とは違って拉致があかないと水場の中に飛び込んで体中を洗う羽目になった。

 それで『妾がしばらく使えなくなったじゃろうがっ!!』と思いっきり頭を殴られた。このときばかりは俺が悪かったので、大人しく殴られた。10発を越えたあたりで『殴りすぎだマナ板娘っ!!』とハリセンで対抗し始めて結局いつものノリになってしまったが。
 ちなみに水場はかけ流し方式だったので2、3時間もすれば大体の水が入れ替わる。 

 そんな嫌な記憶を刺激されながら、俺たちは前へと進む。

「くっ、っと、っらぁ!!」

「ホッ、はぁっ!!」

 目の前では突如進路を邪魔するように平らだった床に様々な高さの石段が出来上がり、進路を阻む。
 だが、この程度の障害はもう障害と呼べないほどになれた。

 駆ける、駆ける、駆ける。

 人間離れした身体能力で罠を避けながら一本道を全力でひた走る。

「っとっ!!」

 上下左右いろんな方向からから木の杭が突き出てきたのを姿勢を低くして交わす。

 残り700メートル。

「邪魔じゃっ!!」

 前方にいきなり生えてきた小型の大砲から飛んでくるトリモチ弾を赤頭が高出力の水流を作り出して押し流す。

 残り600メートル。

 前方から強烈な風が断続的に吹き付けてくる。

「おらっ!!」

 持っていかれそうになる足を無理に逆らうと、落ちた勢いを狙うように罠が襲ってくるので、体育で習った飛び込み前転の要領で風に当たる面積を少なくすることで勢いを殺さずにやり過ごす。

 残り500メートル。

 頭上からは先ほどの矢と同じトリモチを着けた吊り天上が落ちてきた。
 同時に左右からも先端に取り持ちのついた槍衾が突き出してくる。

「一つ貸しじゃぞっ!!」

 そういった赤頭はトンネル状に分厚い氷の壁を作り出した。

 このダンジョンの中の罠は、トリモチなどまで含めてどれもこれもかなり頑強にできている。
 そのせいで特級といえるレベルの魔力がこめられた魔法も数秒と持たずに砕け散った。

 しかし、その数秒があれば十分罠の範囲を避けられる。

 残り400メートル。

「うげっ、あのうざったいやつじゃ!!」

「透明ブロックっ!!」

 ぐにゃりと視界の一部に乱れが見える。
 このダンジョンの中でいくつもあった悪質な罠の一つ。

 魔力を固形・固定化した透明なそれは魔力で出来ているにも関わらず、魔力の気配すら一切遮断したブロックが複数混じっているのだ。

 魔力感知に優れた赤頭にとってこれは逆に鬼門だった。下手に普通の透明ブロックの位置がわかるせいで、その魔力が感知できない透明ブロックの位置を把握し辛いそうだ。

 魔力の気配もない透明ブロックは、光が屈折することで視界がわずかに歪む違和感を見つけて避けるしかない。

「これでさっきの借りは帳消しだぞっ!!」

 魔力を流し込まれた【ハリセンの重羽剣】はその刀身を鈍く光る銀に染める。
 俺の意思に合わせ、ハリセンの刀身が大きく開いた。

「吹き散り飛ばすは魔の解風『魔懐風』っ!!」

 大扇のようになった心剣を思いっきり振り抜くと、魔力を帯びた風が透明ブロックの魔力を霧散させる。

「助けられずとも妾だけでどうとでもなったわっ!!」

「それを言ったら俺だって一人でどうにかなったわっ!!」

 残り300メートル。

「ぬぉっ!! っと」

 内臓を鷲掴みにして揺さぶるような感覚がして、重力が反転する。そこを狙い撃ちするように巨大ハエタタキが俺たちを打ち上げようと現れる。

 上に(・・)落ちていく先にはまるでゴキ○リホイホイのようにトリモチが設置されていて、罠に綺麗に嵌ると潰された虫の標本のようになる。

 当然、それを回避するために巨大ハエタタキを逆に足場にして先に進む。

 残り200メートル。

 刈り取ってきた余裕を奪い取るように出鱈目な密度で罠を使った妨害が入る。
 水柱が乱立し、上下左右に風が吹き荒れ、足場が沈む砂へと変わり、宙に魔力で出来た魔力で出来た石のブロックが進路を阻むように設置されている。

「っ!! っ!! っ!!」

 水しぶきを浴び、風に耳を殺され、砂に余分な脚力を奪われ、肩をこするブロックの角に集中力を削がれる。

 そして、最後の残り10メートル。

 このトラップゾーンに踏み込むと同時に上下からプレスする様に通路を壁が狭め、道を塞ごうとしている。

「とど」「けぇえええええええっ!!」

 全ての罠を避けていく間に奇しくも最後の足の踏み場で俺と赤頭は隣に並んだ。
 踏み込んだ足に力を入れ、残った距離を全て飛び越す。

 千切れんばかりに力を込めて、俺たちは飛んだ。
 もう少し、もう少しでこのトラップゾーンを抜けられる。

(早く、早くっ、早くっ!!)

 しかし、焦る思考が冷徹な結果をはじき出す。
 このままでは、足を縮めても膝下ひとつ分だけ距離が足らなくなる。
 別の場所でこの罠にかかった時にはせり上がった床に足が取られ、そのままスタート地点まで逆戻りさせられた。

「くそっ!! うおっ!?」

 ダメかと思った次の瞬間、背後から後押しするように風が吹いた。

「ふふんっ、これでまた貸し一じゃっ!!」

 フワリと宙を舞いながら、赤頭はとなりで得意げな顔を浮かべる。

「ったく、美味しいところを持って行きやがって」

 そう言いながら、俺も笑いを浮かべた。
 なんにしろ、これでこのダンジョンを抜けられる。

 と、そう思った時だ。

 つい先程思い知らされたばかりだというのに、俺たちは早くもその事実を忘れてしまっていた。

 トラップゾーンを抜けた先、ゴールの扉の前にある黄色に塗られた床。安全だと思っていたその場所は、俺たちの勝手な思い込みでしかなく。

 油断した俺たちを罠にかけて嘲笑うには絶好のポイントだった。

「「っ!?」」

 重力に従って自由落下していく中、大きく口を開けるように黄色い床が消失する。
 その瞬間に下から吹き上がる熱風が肌を焦がす。

 そこには、今まで罠とは全く毛色の違う罠が仕掛けられていた。
 穴の底でとぐろを巻くようにしてその身をよじらせているのは、青い火焔。
 轟々と燃え盛るその火はまるで大きな釜口を開いているかのようだった。

(まっ、ずいっ、死ぬっ!?)

 これまではたとえ罠にハマったとしてもよほどのことがない限り直接怪我をするような罠は一つもなかった。せいぜいが打ち身か、トリモチまみれで無様を晒すか、その程度。

 だが、これは違う。いくら人間離れした身体能力があったとしても、ここまで濃い密度の魔力を込められた炎に身を晒せばただでは済まない。

 これまでこのダンジョンの罠で大怪我を負わなかったのは、そこにそう言った意思がなかったからだ。そもそも俺たちの身体能力だけでここまで無傷でこれるなら、全部の罠を物理的に粉砕して進めばいいだけのこと。

 それをしなかったのは要するに、できなかったということだ。

 そしていま、それだけの強度を持ったダンジョンの罠が、害意を持って俺たちに牙をむいている。
 そしてその焔は俺たちを食らいつくさんとばかりにで吹き上がろうとしていた。

(なにかっ、方法はっ!?)

 黄色く塗られていた床の範囲は遠目で確認していた時よりも存外広く、これを飛び越して扉の中に飛び込むには先ほどのような追い風では距離も速度も足らない。
 当然、もとに戻ろうにも通路は既に閉ざされてしまっている。

 迫り来る命の危機に、世界が色を失い、コールタールの中を泳ぐように速度が鈍化する。

(っ!! あれを再現すればっ!!)

 グルグルと空回りする思考の中、思いついた閃きをただがむしゃらに実行する。

 俺に魔力を魔法に変換する力はない。だが、魔力を運用する技術自体まで無いわけではない。

 その思いつきを実行するのに、不思議とためらいは感じなかった。
 そして、考えたわけでもないのにそのスキルの名が自然と口から溢れ出た。



「『天駆』っ!!」



「む? あの炎は、ぬきゃっ!?」

 空中に魔力で作り出した足場を利用し、近くにいた赤頭を脇に抱えて宙を駆ける。
 魔力をそのまま固めたその足場は、完成度は比べ物にならないものの、幾度となく俺たちを苦しめた透明ブロックとほとんど同じものだ。

 それを蹴飛ばして加速した俺たちを逃がさないとばかりに青い焔が気炎を上げながら、まるで口を大きく開いた一匹の龍のように吹き上がって来る。

「間に合えぇえっ!!」

 そこで勢いを殺すわけにはいかないと転がるようにして俺たちは扉の向こうに転がり込んだ。

 止まることを考えずに勢いをそのままに突っ込んだせいで、扉の向こうをゴロゴロと転がって奥の壁にぶち当たり、やっとのことで勢いが止まる。

「のぉおおおおっ」

 が、その代償にゴンッ、と鈍い音をたてたのは赤頭の脳天だった。
 まぁ、死ぬよりはマシだと思ってもらうしかない。

「これで、貸し借りはチャラだからな」

「何がチャラじゃこの戯けっ!! お主のせいで思いっきり頭をぶつけたじゃろっ!!」

 立ち上がった赤頭はこちらに向けて大声で叫ぶ。

「何をドヤ顔しておるんじゃこのド阿呆が!! 馬鹿かっ、馬鹿なのかっ!?」

「頭を打つくらい仕方ないだろっ、あのままじゃ焼き殺されるところだったんだから」

「あぁ? なんじゃ、気付いておらなかったのか?」

 赤頭は自分の頭を摩りながら、こちらを睨みつけて来る。

「は? 何が」

「じゃから、こういうことじゃ」

 赤頭は立ち上がると俺たちが飛び込んできた扉の前で立ち止まり、今もまだ轟々と燃え上がる青い焔にその手を突き出した。

「バッ!? 何してるんだ馬鹿ッ!!」

 驚きのあまり少し声が裏返りながら叫ぶ。手を突き入れる瞬間に何かした様子もなく、あれだけの魔力が込められた魔法に無防備に身を晒して無事でいられるとは考えられなかった。

 予想外の行動に立ち上がる俺を馬鹿にしたように赤頭が笑う。

「ププッ、慌て過ぎじゃ戯けめ。ほら、妾の体は別に何ともなっておらんわ」

「あ、え?」

 焔から抜かれた赤頭の手は、確かに火傷どころか傷一つ負ってはいない。もちろん着ている着物でさえも燃えるどころか一つの焦げ付きも存在していない。

「ええっと、……なんだ、どういうことだ?」

「だから、この焔はとんでもなく魔力を込めて見た目だけ精巧に再現したただの幻影じゃ。触れようがどうしようが怪我一つすることはないの」

 そう言って赤頭は意地悪く笑う。

「まぁ? 騙されて慌てる間抜けは必死に逃げようとするかもしれんがの?」

「あっ、くっ、うっ」

「『これで、貸し借りはチャラだからな』、キリッ!!」

「こ、この……っ」

「いやぁ、過去に類を見ないドヤ顔じゃったの。妾の生きてきた中で確実に五本の指に入るレベルじゃった。もう冒険者なんぞ引退して大道芸人にでもなった方がいいと妾は思うぞ?」

「うぐぐぐぐぐっっ!!」

 なんだこいつ、やっぱり悪魔かよっ!!

 とはいえ、ここで手を出したり、怒鳴り散らすのはいくらなんでも色々人としてどうかと思うところがあるのでどうにかこうにか理性を総動員して我慢する。

 いいネタを見つけたとばかりにこちらをおちょくる赤頭に散々馬鹿にされ続けながら、ぶつけるべき怒りの矛先が見つからないので、とりあえず怒り貯金を増やしておくのだった。
 
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