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二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む 作者:木塚ネロ

第三章

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第6話 勇者、ダンジョン攻略はマ〇オ式で

突然ですが、何から書けばいいのか分からないのでまずは感謝の言葉を。

ありがとうございます、このたび皆さまのおかげでMFブックスさんから出版させていただけることになりました!

MFブックスさんの公式サイトに詳しい情報は載っていますが、発売日は5月25日になる予定です。

本当に本になるのか、ここまで来ても夢みたいで信じられずにいますが、とにかく感謝の至りです、ありがとうございますっ!!

 記念というわけではありませんが、五日ごとの更新をさせてきていただきましたが、次話は明日また更新します。

 まったり進む前半ですが、もうしばらくお付き合いください。
体を水場で洗い流してからしばらく。

 服を乾かそうと岩石燃料に火を点け、ボーッと服が乾くのを待っていた。

 服が乾くと、赤頭に聞いた通りに階段ではない通路の方へ進んでいく。

「おー、いるいる」

 突き当たった部屋、体育館何個分だと言いたくなるような広さの部屋の中には食用になる魔物が多種多様に蠢いていた。

 とは言っても本当に全部食べられる魔物なのかは知らない。有名どころはともかく、見たこともない虫のような魔物や、爬虫類っぽい魔物までそういう目で見ようとは思えない。

 それに部屋から魔物が出てくることもないようで、こちらの存在に気が付いている様子ながら魔物が襲って来ることはなかった。

 通路にも安全松明が設置されていたので、ここも一応は安全ということだろう。

 ダンジョンの中にはこういう現象も多々あるので驚くことはないが、襲って来る様子がなくとも魔物に見られているのはいい気分ではない。
 警戒しつつ部屋の中に入ってみても、魔物たちが襲って来ることはなかった。こうなるとおそらく、敵対行動を取るか、魔物に近づきすぎると襲って来るのだろう。

「あれでいいか」

 ちょうど入口の付近に『グレイトフル・ボア』もいたので、さくっ、と倒してその巨体を丸袋の中に収納してすぐさまセーフティエリアらしい通路に引っ込んだ。

 どれか一匹と戦闘になったら、その他の魔物も一斉に襲ってくることになるのではないかと警戒したのだが、そういうことはないようだ。

 魔物の解体はギルドで依頼すればやってくれるし、そうして解体した肉類も丸袋の中には十分残っている。

 ここに来たのは赤頭のセリフの裏を取るためと、減った分だけ新たに解体してもらう魔物を手に入れるためだ。

 それよりも、ここが袋小路という意味は確かにわかった。

 入口に近い部分ではさほど強い魔物は見かけなかったのもの、遠目に見える先には『ギガント・ジャイアント』や『マルチ・ヒュドラ』、『パラライズ・モスキングラー』に『ダークブラッド・タランチュラ』など、他のダンジョンならボスを張っていてもおかしくないレベルの魔物が群れていた。

 一対一でやりあっても瀕死の重傷を覚悟してやっと倒せるかという相手を、一度にあれほど相手にするなど自殺行為だった。
 相当距離があるのに、グレイトフル・ボアを狩った一瞬の間に向けられた殺気、いや、おそらく魔物たちにとっては『ちょっとうるさいな』程度の敵意で冷や汗をかきそうになっている。

 悔しいが、レベル上げとか経験値とかそんな事を言っている間に瞬殺される。それぐらいにまだ力の差がある。

『魔物に追われて部屋に戻ってくるとでも言いたいのかっ』と啖呵を切ったが、もし本当にこんな部屋に飛び込むことになっていたらと思うと本気で笑えなかった。

 少なくとも、丸袋に解体済みの魔物の肉がある間はもうこの部屋を訪れることはないだろうと思いながら、俺は元来た道を戻っていく。
 いろいろ馬鹿にしているダンジョンだが、アレを見る限り超特S級のダンジョンだ。

 俺は状況の悪さに舌打ちしながら、元の部屋に戻った。

「たわけっ!! どこに行っておったのじゃ!!」

「息するように魔法を使うなっ!!」

 赤頭が魔法を放ってきたので『ハリセンの重羽剣』で思いっきり打ち返してやった。
 どうやら土系統の魔法のサンドボールという砂の塊だったようで、天井に飛んでいった魔法はそこで激突し、バラバラと砂になって俺たちの上に降り注いだ。

「ベッ、っべっ!! 何するんじゃ黒頭ッ!!」

「お前のせいだろうが赤頭っ!!」

「良いから早くまた飯を作らんかっ!!」

「えっ!? マジで!? どんな腹してんのっ!? 燃費悪くねっ!?」

 ……起きたら五割増しで気合を入れて飯を作れとは言われたけど、さっきからまだ三時間ぐらいしか経ってないんですけど。
 腹の中にブラックホールでも飼ってるんです?

 
          ☆

 
「ぬ、ぬうぅ、まさか本当にあのデカ豚がこんなに、しかもさらに美味くなるとは……、なんじゃ、前に食ったアレはなんだったのじゃ」

「前より美味しいのは当たり前だろ、さっきよりも手間かかってんだから」

 同じ料理を五割増しで気合を入れろと言われた俺は仕方なく手間をかけて肉を処理した。
 といっても肉の筋を丁寧に切り、先に野菜だけ軽く煮て灰汁を取り除いただけだ。さすがに料理の勉強をしていたわけでもない俺に、それ以上どうこうできるような技量なんてない。

 家庭内カーストが親父と合わせて最底辺だった俺はお菓子作りが壊滅的な妹様にねだられてケーキなどの甘味類はよく作ったりしていた。とは言っても妹の舞が持ってきた女性誌とかに乗っているレシピ通りに作っていただけだったので、料理自体は苦じゃなくとも、なにかしらのアレンジをできるような技術がないのだ。
 まぁ、料理が出来ることと料理が上手いことは別であるというお話だ。

「そうではないのじゃ。以前に街の料理屋に持ち込んだグレイトフルボアの肉は不味くて仕方なかったのじゃ」

「そうか」

「なぜじゃ、茹でたからか、火の入れ方か? それとも切り方、香辛料かの? そういえば酒精のものも入れていたし、いや、この野菜に秘密が隠されてたんじゃな?」

 微妙に的はずれではない。
 肉を柔らかく旨くするのは、骨と一緒に煮込み、そこに早摘みリコルの果実酒を加えることだ。

 赤頭はとっとと二杯目に手をつけながら、口に運ぶスプーンの勢いを止めることはなく、チラチラとこっちを窺ってくる。

「の、のぉ、妾、この肉料理だいぶ気に入っておるんじゃが、その、料理法というかの? どうやったら、あのクソ不味い肉がこんなふうになるんじゃ?」

 半ば意を決したとでもいうようにして聞いてく。シビレを切らして聞いてきたところを見ると、どうやらかなりこれを気に入ったらしい。

 赤頭の方を見ると、ちょうど二杯目を空にしたところのようで、俺の回答を待って若干、前のめり気味になっていた。俺はまだ一杯目の半分程度だというのに、どういう速度で食べてるんだこいつは。

 それはそれとして、赤頭の目はキラキラと期待に輝いている。俺は食事を止めて、赤頭の方を向いた。

「この料理の料理法、っていうか、この肉の正しい調理法ってことな」

「そ、そうじゃっ!!」

「それはな」

 当然、料理の肝になる部分の情報を……、

「ノーコメントだ、企業秘密、部外秘だ。教えるわけないだろバーカッ!! ハーッハッハッハ!!」

「……」

 ゲラゲラと目の前で笑ってやったら、目の前の赤頭はポカーンとした顔をしていた。
 実に愉快である。

「こっ、のっ!! 飯炊き係の癖になんという言い草じゃっ!!」

「はぁ? どこの世界に客にレシピまで教える料理人がいるんですかー?」

 そうでなくともこのレシピというか調理法は俺自身苦労して教えてもらったものなのだ。

 こんな女に誰が教えてやるものか。

「燃えて禿げろっ!!」

「ぬぉっ!? そっちこそどういう理屈だその早すぎる魔法はっ!!」

 ブォオオンッ、と飛んでくる火球を体を逸らして避ける。

「そんなのっ、超早く魔力を練って超早く術式を作って超早く放出するだけ……貴様が調理法を教えたら答えてやる」

「ほとんど全部言ってるじゃねぇかっ!! というかその理屈はいろいろ詐欺だ赤頭っ!!」

「ぬぐぐぅっ、だから赤頭と呼ぶでないっ!!」

「名前も知らねぇんだから仕方ねぇだろっ!!」

 だがそういうと、先程俺が馬鹿にした時とはまた違う、虚を突かれたような表情を浮かべた。

「わ、妾の名は下賎の輩に告げられるようなものではないのじゃ」

「はぁ? なんだそりゃ」

 赤頭はそれまでの勢いが嘘のように気まずそうにソッポを向いた。

「ええぃっ、乙女の秘密を探るではないわっ!!」

「おわっ!! だからポンポン魔法を投げるなっ!!」

 飛んできた火球を再び避けて、赤頭の言葉について考える。

 この偉っそうな態度と言葉と、あと自然に纏っている『偉くて当然』とばかりのこのオーラからして、まぁ元は貴族なのだろう。
 これだけの力を持っていることからして冒険者。強さだけならどっかの国の軍人とも考えられるが、この性格と躊躇いのなさで規律に縛られる軍人はないだろう。

 そこに名前を告げたくないというのを合わせて考えると、不名誉な理由で取り潰されて悪名が轟いている家の出身だとか、あまり目立ちたくないような理由が、

(……いや、人の事情を勝手に測るもんじゃないな)

 適当なところで考えを打ち切る。

 結局、赤頭は名乗ることなく、ブツブツと文句を言いながら食事に戻った。名乗ったらその上であえて赤頭と呼んでやろうと思っていたのに。

「まったく、ハゲのくせに、飯炊き係のくせに、うだつの上がらない顔をしてるくせに」

「喧嘩売ってんのかっ!」

「ふんじゃっ」

「なんだ『ふんじゃ』って。ガキかよ」

 自分のことはどっかの棚の上に放り投げて、呆れた口調でそう返したあと、俺も食事に戻ることにした。


            ☆


「なるほど、うん、馬鹿にしてるな」

 食事が終わったあと、このダンジョンについて赤頭に尋ねてみた。
 赤頭自身、このダンジョンに閉じ込められたのは三日前ぐらいらしく、さっきのような罠のせいで何度もこの部屋に逆戻りさせられているらしい。

 しかもこのダンジョン、ここが正式なスタート地点なようで、進めば進むほど攻略が簡単になるということもないそうだ。
 さらに言うと、魔物も一切出てこないらしい。

 なぜこんなことがわかるかというと、全部説明書きがなされていたからだ。

 俺が階段滑り台の罠に嵌って戻ってきた時、馬鹿にするように落ちてきた垂れ幕の裏に説明書きがなされていた。

 曰く、この先は迷路である。ズル禁止。

 曰く、迷路の中には魔物はでない。

 曰く、ギブアップと叫ぶとこのスタート部屋に直通する落とし穴が真下に現れる。

 曰く、ダンジョンをクリアすれば地上に出られる。

 曰く、半年以上ここに留まり続けると強制的に地上に戻される。

 曰く、通路先の魔物部屋の奥の方の魔物は部屋に長時間とどまらず、奥に入り込んで来なければ敵対行動を取らない。入口付近の魔物を狩って食料を得ている分には安全である。

 曰く、仮に魔物部屋で食料を得ることができなくとも、このスタート地点に設置されている水場の水を飲んでいる限りは餓死することはない。

 曰く、日が変わるごとに水場の水の色が変わる。

 曰く、ダンジョンをクリアした者には褒美が与えられる。

 と、書き記されていたのはこの九カ条。

「ダンジョンなのは確かみたいだけど、どうにも毛色が違うなぁ」

 ダンジョンは自然発生した災害だとされている。
 魔物がひしめく中を潜っていってボスを倒すことで力と財宝を手に入れることのできる場所。

 だが、このダンジョンには明らかに人の意思が反映されていた。この説明書きとか、こちらを馬鹿にしているような罠とか、そこかしこに自然物ではない自我のある存在の色が見える。

 こんなのは前代未聞だった。少なくとも俺が攻略してきたダンジョンにはこんなものはなかった。

(まぁ、俺が考えても仕方がないか。俺はダンジョンの専門家でも何でもないんだし、今はここをクリアすることだけ考えよう)

 調査や分析なんかはその道の専門家に任せればいい。ここを脱出できたら帝国のお偉い人にでもそのことを告げればそれでオシマイだ。

「とりあえず、攻略しなきゃならないのはこの階段か」

 見てみると階段はスロープから通常の状態に戻っている。一番下の段をなでてみたが、あの油のようなものも消えてツルツルと乾燥した岩肌になっていた。

 おそらく、段のどれかに階段をスロープ状にするスイッチのような段があるのだろう。問題はどうやってそれを押さずに階段を登りきるかということなのだろうが。

「どうじゃ? 妾ならお前を連れてこの階段を登りきる方法があるぞ?」

「なんだそりゃ、罠になっている段がどれなのか知ってるってことか?」

 と、階段を上りきる方法を考えていたら、横から声がかかる。

「そんなみみっちい方法ではないのじゃ、じゃから、あの調理法を」

「ダメ、絶対ダメ。教えてやるつもりはねぇよ」

 こんなことで誰が安々とアドバンテージを手放すものか。

「ぬぅっ、なんじゃ、ケチじゃのぉ!!」

「もう突破する方法は思いついてるから手助けされるまでもない」

 そう言って立ち上がった俺は助走をつけて走り出した。そして、階段の手前で少しだけ角度をつけて思いっきり地面を蹴った。

「とりゃっ」

 そして階段の壁を蹴り飛ばし、三角跳びの要領で反対側の壁へと向かう。

「よっ、ほっ、はっ」

 そう、マ○オ式多段ジャンプである。
 ジグザグに飛ぶそれを繰り返しながら俺は上を目指し始めた。

「ハーッハッハッ!! 滑り台なんぞ恐るに足らん!!」

 たとえ階段が滑り台になろうとも、そもそも階段を足場にしなければそれまでの話なのだ。
 子供の頃の将来の夢に『忍者』と書いていた俺はイメトレは幼い頃に十分積んでいる。
 この世界で手に入れた身体能力を使えばこの程度のことは容易くできるのだ。

「馬鹿じゃ、馬鹿がおる……」

 忍者の瞬間移動のようなシュタッ、シュタッ、という移動の真似が出来て若干興奮気味の俺には呆然と何か言っていた赤頭の声は届かなかった。
次回の更新は明日です。
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