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二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む 作者:木塚ネロ

閑章

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第5話 勇者、無関係な孔明を罵る パート2


「はぁ、久方ぶりに人心地つくことができた、中々やるではないか。特にこの肉じゃ、肉のくせに口の中で溶けおる、このような肉は食べたことがない。感じから言って魔物の肉じゃの」

 ぷふー、とでも言いそうな感じで赤頭は満足げに腹の辺りをさすっていた。
多めに作ったスープはあっという間に空になり、鍋の中は綺麗に掬われている。

「ああ、『グレイトフル・ボア』の肉だよ」

「む、きさま、まだ妾のことを馬鹿にしておるな? グレイトフル・ボアの肉など筋張って味も薄い最低ランクの肉ではないか。妾が肉の正体が判らぬからと言って適当なことを言うでないわ」

「へいへい、わるぅーございましたね」

 適当にへらへらと肩をすくめてやれば、むぅ、と不満げに顔をしかめるが、わざわざこの肉の秘密を話してやるつもりはない。そもそも嘘は言っていないのだし。

グレイトフルボアの肉を早摘みのリコルの果実酒と一緒に煮込むのは王都のオヤジがドワーフに伝わるレシピを好意で教えてくれたものだ。
別に隠しておく理由もないが、一度食べさせてもらって以来、何度も頼み込んでやっと教えてもらったこの秘密を簡単に教えるのはちょっと悔しいので黙っておくことにした。

「それよりそろそろ質問させてくれ」

「おお、そうじゃったな。何が聞きたいんじゃ?」

「俺が聞きたいのはお前が着てるその服のことだ」

 そう言って俺は赤頭を指差す。
 すると、赤頭はパタパタと手を振って袖を揺らした。

「なんじゃ、これのことか? てっきり『超絶美少女な妾は何者じゃ?』とか、『このダンジョンについて』とか聞いてくると思っておったのじゃが」

「そっちはそっちで気になるが、今はいい。あと自分で超絶美少女とかワロス、痛いからやめとけ」

 いくら美少女でも自分でそれを言ってる奴は頭に『残念な』という言葉が付く美少女にしかならん。

「なんじゃ、これぐらいの戯言にいちいち小さい男じゃのぉ。まぁよい、この服は『着物』と言ってな、可愛いじゃろ? 効果は『自動装着』と『自動サイズ調整』、『体温保持』に――…」

「いや、別に能力が聞きたいわけじゃない。そいつの出処とか、誰が作ったのか聞きたいんだ」

 この世界で着物を作った人間がいるとするのなら、もしかしたら俺と同じように元の世界からこちらに来た日本人かも知れない。
 小説なんかでお馴染みの召喚以外で呼び出された『転移者』や『転生者』なんて可能性もある。
だが、俺の事情なんて知らない目の前の赤頭は思いっきり見当違いな想像をしたようだった。

「むあ、これは女物の服じゃっ! あ、そういう趣味じゃったのか? ハゲの上に特殊性癖とは、深い業を背負っておるのぉ」

「なんでそんなにハゲ押しなんだよお前、そして俺に女装癖はねぇよ!!」

 ドン引きというような目をする赤頭に慌てて否定に入った。

「俺はそいつを作った人間に興味があるだけだ、別に奪い取りもしねぇし欲しくもねぇからその危ない奴を見る目はやめろ!」

「べ、べつに、隠す必要はないと妾は思うぞ? 人間無理をしないのが一番じゃ、な?」

「おい、見当違い甚だしいフォローはなんの意味もないからやめろ、いい加減にしないともう飯作ってやらんからな」

 額に青筋を浮かべながら凄んでやると『遊びすぎたかの、とはいえ我慢の利かぬ男じゃ』とヤレヤレと頭を振る赤頭。うん、ぶん殴りたい。

ハリセンを呼び出そうか迷っていると赤頭は先ほどのことなど何もなかったように話し始めた。

「さて、この着物の出処だったの。残念じゃが誰が作ったのかは分からぬ。家の物置にあったのを勝手に引っ張ってきただけじゃからな」

「……そうか」

「じゃが、似た服は売っているのを見たことがあるぞ。たしか、獣国のどこだったかの集落で手先の器用な獣人たちが作っておった。あれは何の獣人だったかのう」

 獣人、ということは転移者ということはないだろう。だが、転生者という線は残るな。

あ、でも、俺よりも200年近く前に呼び出されたという勇者が残していったという可能性もあるな。俺のように黒髪黒目の男性だったそうだし、いや、だったら獣国じゃなくて王国で広まってるんじゃないのか? 

そんなことを考えて、俺は全然この世界の常識を知らないことに思い至る。そういえば、この世界に来てからこっち、強くなることと勇者として誰かを救うことばかりでろくにこの世界を見回っていない。
この世界に来て一年経つというのに、自分が持っている戦闘や魔物など以外の手持ちの情報の少なさに少し驚いた。

 とにかく、外に出たらユーミスあたりに聞いてみよう。いや、世界各地を回っていたという騎士団長のギードットの方がこういうことは詳しいかも知れない。

「それだけ分かれば十分だ。そうか、獣国でか」

 獣国ギルムスでは王国とは逆に獣人族至上主義が大勢を占めているらしい。俺が召喚されたオロルレア王国とギルムス獣国はその主義の違いから険悪な関係にあるとアレシアから聞いている。二つの国の間に帝国が出来上がるまでは小競り合いが絶えることはなかったそうだ。

 それもあって、俺が勇者であるといっても人族である以上は色々と問題が起こりそうであるのは予想に難くない。
アレシアも王女としてこの現状をなんとかしたいが、貴族たちなど国内の反発もあって中々難しいらしい。

 今回のダンジョン廻りについても、いくら帝国の領内とはいえ、ダンジョンが密集している獣国との国境付近に来るのはいろいろなところから反発があったようだ。
 それで結局アレシアはお留守番ということになっている。

そもそもアレシアが旅についてきているのも王都の中でも反王権派と呼ばれる人たちの運動が活発になってきているせいだ。
 歴戦の熟練者でありオロルレア軍のなかでもずば抜けた実力者である騎士団長や勇者である俺が側にいる旅のパーティに同行した方が安全だろうという判断なようで、王女というのも大変らしい。

幸い、アレシア自身もヒーラーとしての能力に秀でているため、旅の中で害されにくいように成長を望まれているという面もあると王様からは言われている。

だが、人族を毛嫌いしている獣人が集まっているという獣国に王女を連れて行くのはさすがに危険という判断だった。

「まぁいい、とりあえずこのダンジョンからさっさと抜け出るか」

 穴から落ちてきたのだからとりあえず上を目指して行けば外に出られるだろう。不安なのはこのダンジョンの情報が一切ないことで、国が把握していない以上は公式的にはこのダンジョンをクリアしたものはいないということになる。

「さっさと抜け出るとは、すごい自信じゃの」

「自信があるかどうかは関係ない。俺はこんなところで道草を食ってる暇はない」

 このままパーティのもとに戻らなければそれだけ修行に遅れが出るということだ。それはつまり、元の世界に帰るのが遅れることを示している。

俺は立ち上がると改めて部屋の中を見回した。
 部屋の広さは元の世界で例えると教室二つ分ぐらいの広さがあった。
水場がある側の壁を正面としたとき、右手側に通路、背後に階段がある。
脱出を目指すのなら階段を登るべきだろう。このダンジョンを攻略するにしろ、一度外でパーティと合流したほうがいい。

「ふむ、まぁよい、そっちの通路の先を行くと食用になる魔物が現れる部屋がある。時間が経ったらまた飯を頼むぞ。妾は腹が膨れたら眠くなったのでしばらく寝る。この中にいると時間間隔が狂うからのぉ。お前も適度に休憩を取るのを勧めておくのじゃ」

 くぁ~、とひとつ大きくあくびをした赤頭は道具袋の中から毛布のようなものと枕を取り出すと、ゴロンと床に横になった。
その行動に面食らったのは俺だ。

「は? おい、待て、寝るってなんだ、俺はすぐにでも一度このダンジョンから出たいんだ。悪いが、悠長にここでお前が起きるまで待っている時間はないし、見張りなんてするつもりは……」

 飯係などというから付いてくるのだろうと勝手に思っていたが、予想に反して赤頭は動く気配がない。
背負っていくのは論外だ。

「見張りなぞいらん、ここは安全地帯じゃ。仮に襲ってきても殺気や敵意が向けられればすぐに起きるからの」

 さっさといけとばかりに、シッシッと追い払うように赤頭が毛布から出した手を振る。
そう言われて周りをもう一度見回してみれば、『安全松明』と呼ばれるダンジョン特有の設置物が部屋の中にはあった。

 原因や理屈はわからないものの、ダンジョン内でこの松明が設置されている部屋の中には魔物が現れず、ほかの部屋の魔物がおってくることもない。
 水飲み場なんてものもあるし、この部屋はいわゆるセーフティエリアなのだろう。

「それに、どうせすぐにこの部屋に戻ってくることになる。通路の先は行き止まりじゃからここから抜け出るならそっちの階段から行くしかないようじゃ。あとは勝手にせい」

「っ、なんだそりゃ、魔物に追われて逃げ込んで来るとでも思ってるのか?」

 そこらの魔物には簡単にやられない自信はある。この世界に来て一年は伊達じゃない。それこそ、最近はそこらの魔物を狩るだけでは経験値効率が悪くなってきているほどだ。だからこそ、こうして昼夜問わずに経験値を得るために腐心しているわけなのだから。

まぁ、おかげでこんな事態に巻き込まれてしまったわけだが。

この一年の努力を馬鹿にされたようで、少しムッとした俺の事を分かっているのか分かっていないのか、その言葉に返事はない。

「そう吠えるでない。すぐに分かるわ」

「ちっ、もう知らんっ、俺は先に行くからなっ。もうここには戻ってこねぇから飯炊き係は今回で終わりだ」

「おー、行くが良い行くが良い。戻ってきたら次の飯は先程よりも五割増しで気合を入れて作るのじゃ」

「だから戻ってこねぇっつってんだろっ!!」

 実際レベルやステータスを聞いたわけではないが、この少女の強さなら早々身の危険はないだろう。
俺は馬鹿にされたことに腹を立てながら、階段に足をかけて登っていく。
途中から螺旋状になっている階段はかなり長いようで、一段飛ばしなどで既に200段近くは登ってきていると思うのだが、一向に出口が見えない。
だが、おかげで段々と頭が冷えてきた。

「……失敗した。ガキかよ俺は」

 一人になって冷静になり、どこの時代のキレやすい若者かと反省の念が湧いてくる。
いくら強いからといって、ダンジョンの中に明らかに年下の少女一人を置き去りにしてくる奴があるか。しかも理由が馬鹿にされてムカついたからとか、短絡的にも程がある。

 若干後悔しながらもここで戻ってどうなると、そんなことを考えて階段を踏んだ時だ。

「っ!? なっ!!」

カチッ、という音とともに足場にしていた階段が次々と傾き、角度の急なスロープに変わった。
慌てて踏ん張ろうとするも、もともと表面がツルツルな素材で出来た床な上に、にじみ出るようにしてヌメった油のような液体まで染み出してくる。
当然、そんな極小な摩擦係数の足場に留まれる訳もなく、それはもう見事に転ぶ。

「っでっ、ぬぁああああああああっ!!」

 対処しようにも掴めるような場所もなく、ナイフを取り出して突き立てようとするも油で滑って刺さらず、凄いスピードで登ってきた階段を滑り降りていく。

「こ、こ、こうぅううめめぇええええええええっ!!」

 適切な罵倒が何も思いつかず、俺はまたしても全く関係のない偉人に風評被害を被せて叫ぶしかなかった。
 当然、それでどうこうなる訳もなく、油のような謎粘液に塗れて、ほんの5分前に啖呵を切って飛び出した部屋に戻されてしまった。

「いでっ!?」

 ズサァァア、と滑った先に出たときにはなかったはずの出っ張りが出来ていて、そこに思い切り背中を打ち付けることになった。
グルグルと目を回していると前方の上空でこれまた最初にはなかったはずのくす玉が割れた。

 ひらひらと色とりどりの花びらが舞う。
 バラァ、と垂れ下がった横断幕には『トワコクロイの大迷宮へようこそっ!!』とこちらを馬鹿にしたような文字が書かれている。

「あ、な、んっ」

「んぁ、一度目にしては存外長いこと登ったの。運がいいんじゃな」

 と、呆然とする俺に声がかかる。

「ほれほれ、どうした? もうここには戻ってこないんじゃなかったかの? んん?」

「~~~~~~――――っ!!」

 言葉にならない声を出す俺を、寝転がったまま肩ごしに見てニヤリと笑う赤頭。

「ぷぷっ、あれだけの啖呵を切って出ていったあげくに即帰還とは随分と大物じゃの、いやぁ、妾には到底真似できぬわ。ブプフッ」

 最後はこらえきれないとばかりにわざとらしく口元に手を当てる。

何この性格の悪さ、悪魔なんです?
 いや初対面から十分すぎるぐらい悪魔だったけど!!

「おまっ、これっ、知ってたのかよ」

「だから言ったじゃろ、それよりも次に起きたら飯じゃ。約束通り、5割増しで頼むぞ、飯炊き係(・・・・)

軽く肩を竦めた赤頭はもう用はないとばかりに再び寝入る。

「なっ、おまえっ、くっ、このっ、~~~~ーーっ!!」

俺はただ、顔を真っ赤にしながら口をつぐむしかなかった。ここでわめき散らすほど格好の悪いこともない。

そして行き場のない怒りを胸に、ただひとり心に誓う。

(孔明っ、きさま、ただでは済まさんからなぁっ!!)

 八つ当たりのように全く関係のない偉人に対してバカなことを考えながら、俺はとりあえず謎の液体を振り払うために水場へと向かうのだった。

(あとついでに、コイツにも絶対仕返ししてやるっ!!)

 ガキっぽいと思った反省は撤回することにした。こんな性格の悪いやつに遠慮なぞいらん!!

 機会があれば徹底的に馬鹿にして笑ってやるっ!!
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