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二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む 作者:木塚ネロ

閑章

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第4話 勇者と魔王、食卓は戦場の味

感想返しができずに申し訳ありません、誤字はどこかで暇を見つけて訂正していこうと思いますが、就職による引っ越しでどうしても遅れそうです。

また、しつこいようですが今章の前半は基本的にギャグパートです。
箸休め的にほのぼのしつつ、気軽に楽しんでいただければ幸いです。
「ぜぇ、ぜぇ、ああぁぁ、まだ体のいろんなところが痒い気がする」

「はぁ、はぁ、ううぅぅ、目が、鼻が、シュリシュリするのじゃあ。まだ涙が止まらんのじゃ……」

 あれから少しして、赤頭が部屋の片隅にあった掛け流しの泉の中に飛び込んだのを見て、俺も後を追ってその中に飛び込んだ。

 しばらくバシャバシャと必死に全身を洗って、這いずるように出た先で俺は肘までビッタリと地面につけたまま四つん這いになっている。
 俺の隣で赤頭も同じような格好になっていた。

「て、てめぇ、この赤頭、なんてもの使いやがる」

「ふ、ふんっ、ざまぁ見るのじゃぁぁああ」

「涙目で何言ってやがんだっ、まだ鼻声じゃねぇか。ううっ、くそっ、ムズムズするぅ」

 肌を見てもカブれていたりする様子はないが未だピリピリするような微妙な違和感が抜けずにいる。
 魔法の威力や効果は魔耐の分だけ減衰率が上がる。つまり、こいつも最低限、俺並みには化け物級という話だ。

 基本以外の属性魔法を持ってるだけでも死ぬほどレアなのに、それを複数、現時点で判明しているだけでも火・風・水・土・闇・植物・煙と、7属性も操っている。
 属性魔法とは別の括りをされている転移魔法を合わせれば8属性。

 赤頭の方を見るとあっちもまだ効果が残っているようで座り込んだまま微妙に赤らむ目をシュパシュパとさせている。服に魔法をかけて乾燥させたようで水滴が滴り落ちていた服は既に乾いている。

 俺の方はというとあぐらをかきながら胸元のシャツをパタパタとさせて少しでも早く乾くようにする。
 装備自体に『速乾』の魔法が付与されているので、放っておいても少しすれば乾くだろう。それまでちょっと気持ち悪いが、まぁ、我慢できないほどでもない。

(それにしても、こんな小学生みたいに面と向かって誰かを罵倒したのとか、どれくらいぶりだろうな)

 腹の底に溜め込んできた物を吐き出すというのは正しい表現だと思い知った。いろいろぶちまけて、今は少しスッキリとしている自分がいる。

 考えてみれば今まで、ひとりの時はただがむしゃらに力を求める日々だった。

 不安などの感情は澱のように溜まっていくのに、ソレを愚痴としてすら吐き出す時間も余裕もなかった。

 なにか、久しぶりに息を吸った気がする。

「なんじゃ、こっちをジロジロ見るな変態め!!」

「誰が変態だっ、陰険赤頭っ!!」

「い、陰険じゃと!?」

「陰険に決まってるじゃねぇかっ!! 一つはお前に打ち返したからマシだったが俺が抵抗出来なきゃ痒みに追加でその催涙ガス弾まで喰らってたってことだろ!! 悪魔だろお前!!」

「うっさいのじゃハゲッ!! ハーゲハーゲハーゲッ!!」

「だからハゲじゃねぇつってんだろフサフサだろうがその目玉はゴミか!?」

「ならハゲろッ!!」

「それはひどくねっ!? やっぱり陰険じゃねぇかっ!!」

 まぁムカつくのに変わりはないので欠片も感謝してやる義理はないが。
 だが、今はそれよりも先に聞きたいことがある。

「……おい、ひとつだけ聞かせろ」

「いやじゃ」

 プイッ、とそっぽを向く赤頭。

「ガキかっ!!」

「誰がガキじゃ!!」

「うおっ!? ポンポン魔法使うんじゃねぇよあぶねぇだろうが!!」

 飛んできた火球を慌てて上体を逸らして避ける。相変わらずの速攻魔法に驚きながらも、俺を通り過ぎていった火球は本気で当てる気もなかったようで速度も威力もなく、反対側の壁にぶつかってボシュンと音を立てて消えた。

「ふぅ、仕方ねぇな」

 ガキにいうことを聞かせる手段はいくらでもある。
 言葉で言うことを聞かないのなら、体で言うことをきかせるまでだ。物理的に胃袋に。
 どうせ俺も腹が減ってたし、少なくともコイツよりはましなものが作れるはずだ。

「む、なんじゃ?」

 俺はその場で片膝立ちになると、丸袋の中から帝都の市場で見つけた携帯釜戸と燃料岩石を取り出し、火を入れた竈を用意してその上に鍋を置く。
 取り出したいくつかの野菜をナイフで処理し、水を入れて先に煮込み始める。

「肉は、あぁ、あれにするか」

 ちょうど『グレイトフル・ボア』の肉がある。あれは普通に調理するとクソ不味い肉にしかならないが、煮込む時に骨ごとぶつ切りにして、一緒に早摘みリコルの果実酒を投入すると柔らかく旨みのある肉に仕上がる。
 王都にいたとき、ドワーフの血を引いているという武器屋のオヤジから聞いた秘密の話だ。

 肉は皮を剥いで大きな塊にして放り込んである。骨からは大量の旨みが出るのでそれが出やすいように、魔力を少し流して強化したナイフで骨ごと裁断する。
 一通りの材料を鍋にぶち込むとさっさと火にかけ始める。

 赤頭は料理を始めた俺が気になるようで食材やら鍋の中やら肉を切ってすぐに消した心剣やら、興味はあるのだろうが自分から声を掛けるのには、気後れしているのか意地を張っているのかチラチラとこっちを見るだけで実際に話しかけてくることはなかった。

 その姿が警戒している小動物っぽくて笑えたので、鍋をかき回している間にそれとなく観察しておく。

 そのまま20分ぐらい煮込み続け、あたりにいい匂いが立ち込めてくる頃になると赤頭のチラリ頻度が高くなり、ジリジリと距離を詰めてくる。
 見える顔が物欲しげな感情を丸出しにしているくせに、意地かプライドか、それでも体育座りでそっぽを向いた姿勢を崩さない。

 と、くぅ~、とやけにかわいらしい音がその場に響いた。

「ぬにゃっ!? ち、違うっ、違うぞっ!! 違うのじゃっ!!」

「ぶッ!! くくくっ」

 腹を空かせた体の方は本人のプライドなどそっちのけで白旗を振ったようだった。
 涙目で顔を真っ赤にしながら、自分の腹を抑えて泡を喰う姿が面白すぎる。

「何を笑っておるのじゃっ、違うと言っておるじゃろう!! 別に腹が空いてたりするわけじゃないのじゃっ!!」

「はいはい」 

 俺は木製の食器を取り出してスープを注ぎ、赤頭の前へと突き出した。

「な、なんじゃ、妾がそんなモノに釣られると思っておるのか?」

「いや、俺は別に何も言っていないんだが」

「じゃ、じゃが、お前がその、どうしても食べて欲しいというのなら食べてやるのもやぶさかでは……」

「おーい、目が節穴で耳は飾りか? 人にモノを頼む時には『お願いします』だろうが」

 ゴクリと喉を流しながら手を伸ばしてきたので食器をひょいと高く持ち上げる。

「なっ!? ぬ、ぐぐぐ、お前のほうがよほど陰険ではないかっ!!」

「交換条件だ、ひとつだけでいいから俺の質問に答えろ」

 俺はそう言ってニヤリと笑う。

「む、むぅ」

 どうやら自分の中でプライドと食欲が激しく戦っているようだが、敗北宣言のように腹がクウウウウとなったことで観念したようだった。
 なんとも分かりやすくていい。生意気盛りの親戚の子供相手にアイスをチラつかせてる気分だった。

「わかったわかった、なんでも聞くがよい。その代わり、このダンジョンの中にいる間はお前は妾の飯炊き係じゃ。異論は受け付けぬ」

「……まぁいいか、さすがにあれは哀れだし」

 チラリと見た先には積み上げてきた歴史とも呼べる料理らしきものの残骸が残っている。
 普段からアレを食って生活していたとは思えないし、俺と同じように何らかのトラブルで一人でここに来てまともに飯を作れずにいたのかはしれないが、アレ以外に食の選択肢がないのではあまりにも哀れだ。

「ど、同情するでないっ!! わ、妾だって必死に頑張ったのじゃっ! 頑張ったのじゃっ!!」

「どうどう、ガナるなガナるな。ほら食え、俺も食う」

 食事を用意ということはダンジョンの中にいる間は一緒に行動するつもりのようだが、さっきの戦闘モドキで実力も証明されている。

 それに、コイツ自身は助けてとは言わないし、力も十分すぎるほどあるようだが、日本人的価値観で自分よりも年下っぽい少女を置き去りというのも精神衛生上に悪い。

 初対面がアレで、しかも勇者と明かす気はないのでいつものように気を使わなくてもいいというのもある。

 どうせいつもの厄介事と変わりがない。問題といえば、見知らぬ相手に手の内を晒すつもりはないので、戦闘で使えるのは既に見せてしまっている【ハリセンの重羽剣】だけということぐらいだろう。
 まぁ、武器っぽくなくて目立つのであんまり使ったことはないのは心配だったが、普段はただのハリセンだが能力的には汎用性の高い心剣なので戦闘に関してはそう心配する必要もない。

「ぬぐぐ、何故じゃ、なぜ妾のような超絶美少女が丹精込めて作った料理が不味くて、こんなウダツの上がらなそうな顔をした黒頭が作った料理がこんなに旨いのじゃっ、理不尽なのじゃ……」

「おい、さりげなく俺のことをディスるんじゃねぇよこの赤頭。誰がうだつの上がらなそうな顔だ!」

 それから自分でも不味いって自覚してたんじゃねぇかっ、というツッコミは俺の基準で上の下のウマさで涙をポロポロと流す、赤頭が過ごしたであろう惨めな食生活に敬意を評して不問とした。

「おかわりじゃっ」

「はやっ!?」

 赤頭はあっという間に皿の中身を空にすると、俺の許可を取ることもなくさっさと鍋から二杯目をすくい取っていた。いかん、このままだと俺がおかわりする分が先になくなってしまう。

「おまっ、ちょっと遠慮とかするつもりはねぇのかよっ!!」

「馬鹿を、言うでないわっ!! んぐんぐ、これは交換条件で妾のモノになったものじゃろうが!!」

「全部やるとは誰も言ってねぇだろうがッ!!」

「だから、んぐっ、一杯目は譲ってやったじゃろ? うむ、やはりこの肉は上手いのぉ」

「なんて傲慢理論っ!? っていうか食べながら喋るなよっ」

 唖然とする俺を馬鹿にするように堂々と赤頭は笑う。

「何を寝ぼけたことを、んぐっ、言っておるのじゃ。食は全て基本じゃぞ? ゴグッ、ぷはぁ。食を優先するのが生命の本能。そしてどこでも適応されるのは弱肉強食じゃ。気を抜いたものからドンドンと糧を奪われて行く」

「どこの国の戦場の話だそれは」

「食卓の戦争の話じゃ。ようするに早い話が早いもの勝ちという話で、お前が話に没頭しておる間にもう一回お代わりを喰えるという話じゃ」

「あっ、おいっ!! 待てこらっその肉は俺の分だっ!!」

「ぬぁっ!? ずるいのじゃっ!! 食べきる前によそい取るのは反則じゃろ!!」

「食卓は戦場なんだろ? 戦場に反則もくそもあるかっ!!」

 飯を食いながら着物についての話を聞こうと思っていたが、そんな暇はなさそうなので、俺は急いで自分の分を確保するためにも釣られるようにして早足に飯を掻き込むのだった。

 
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